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歌舞伎俳優の坂東玉三郎が、昨秋に続いて名古屋・御園座にお目見え。
10月1日、特別公演の幕を開けた。今年は歌舞伎「三姫」の一人である大役、八重垣姫にふんして観客を魅了。恋して、泣いて、奮起して、走って……と、表情豊かな八重垣姫から目が離せない!

歌舞伎の世界で「三姫」に挙げられる八重垣姫は、「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」という全五段の浄瑠璃作品において四段目に当たる「十種香」「狐火」に登場する。時は戦国時代、武田信玄と長尾(上杉)謙信の対立が背景にあり、両家の和睦を図ろうとした将軍・足利義晴は、武田家の嫡男・勝頼と長尾家の娘・八重垣姫を許嫁とする。その後、将軍が暗殺されると両家は犯人探しを命じられ、期限までに究明できなかった償いとして勝頼は切腹。ここまでが上演される場面の前段で、「十種香」「狐火」では勝頼死後の物語が展開していく。


定式幕が引かれるとまず、舞台美術の美しさ、中央に立つ青年の麗しさに見惚れてしまう。「これぞ歌舞伎」と言いたくなるような絢爛豪華な装置と衣装は実に鮮やかだが、黙って階段に身を乗り出す青年の存在感もハンパなく、せりふがなくても「ずっと見ていられる」といった感覚を覚える。やがて左手の障子があくと、黒を基調とした衣装の腰元・濡衣が、右手の障子があくと、輝く髪飾りと真っ赤な振袖がまぶしい八重垣姫が姿を現す。青年をはさんだ左右のコントラストがまた素晴らしく、計算し尽くされた演出に心臓の高鳴りが止まらない。


ただし、圧巻はやはり稀代の女方、玉三郎だ。前述の青年・簑作は長尾家に仕えたばかりなのだが、その姿は勝頼の錦絵とそっくりで、八重垣姫は瞬く間に恋に落ちる。ついには、濡衣に仲を取り持ってほしいと懇願するが……。この恋する乙女の一喜一憂が、とんでもなくカワイイ!! 勝頼に会えたと思って大喜びしたかと思えば、勝頼ではないと言われて泣いたり命を絶とうとしたり、もう大騒ぎ。結局、濡衣が根負けし、簑作が本物の勝頼であるという真相を告白。八重垣姫は安堵する。ところが、「狐火」で可憐さは一転、自身の父が仕掛けた罠から勝頼を救おうと奔走。凛とした表情で窮地に立ち向かう。


八重垣姫は、めまぐるしく変わる心模様の表現力に加え、重い衣装をつけながら軽やかに振る舞う体力・体幹が必要とされる。玉三郎は、長年にわたって積み上げてきた至芸を存分に味わわせてくれた。歌舞伎を観たことがない人、歌舞伎を難しいと思っている人もいるだろうが、一生に一度でもいいから玉三郎の舞台に触れてほしい。同時代に生きていて、これほどのアーティストを見逃すなんて本当にもったいない。


なお、勝頼を演じた中村橋之助をはじめ、中村福之助、中村歌之助と、成駒屋の三兄弟が昨秋同様そろって登場。福之助、歌之助は、“ご注進”と呼ばれる役柄のデフォルメされた演技で客席を沸かせた。また、三代目市川猿之助(現・猿翁)のもとで修行を積み、現在は新派で活躍する喜多村緑郎と河合雪之丞も共演。上背のある緑郎が迫力を増した謙信をつとめる一方、雪之丞は持ち前の繊細な演技で濡衣の複雑な心理を巧みに表していた。

◎Interview&Text/小島祐未子

10/23 SUNDAY まで開催中
「坂東玉三郎 特別公演」
■会場/御園座
■開演/14:00
※10/7(金)・10/17(月)は休演。
■料金(税込)/A席 ¥18,000 B席 ¥10,000 C席 ¥7,000
■お問合せ/御園座 TEL052-222-8222


この夏の野外フェス以降、海外アーティストの来日が本格的に始まっている。今までライヴの延期や中止が相次ぎ、ヤキモキした音楽ファンも多いことだろうが、その鬱憤を晴らすかのようにこの秋以降は注目の来日公演が目白押しだ。その中でも、名古屋クラブクアトロには大注目すべきラインナップが冬まで続く。今回はその選りすぐりのアーティストをまとめて紹介する。どれも見逃せない必見ライヴだ。


10/26WED
SQUAREPUSHER<スクエアプッシャー> JAPAN TOUR (振替公演)
SPECIAL GUESTS:HUDSON MOHAWKE (DJ SET)、DAITO MANABE

度重なる公演延期を経てついに新日程決定!初公開音源多数の最新セットに、真鍋大度 / ライゾマティクスがヴィジュアルを担当する今回限りのA/Vライブは、通常のコンサートの枠に収まらないスペシャルなイベントになることは間違いない。そしてゲストに、8月に最新アルバムをリリースしたハドソン・モホークがD Jセットで急遽参戦決定!見どころの多い楽しみなライヴだ。スクエアプッシャーとモホークが所属する〈WARP〉のポップアップも会場に登場し、グッズ販売も充実。
<LIVE INFO>
■開演/18:30
■料金/前売¥7,000

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11/01TUE
PALE WAVES<ペール・ウェーヴス>JAPAN TOUR 2022

2019年のジャパンツアーも記憶に新しいペール・ウェーヴスは、ヘザー・バロン・グレイシー率いる英インディーロック・バンド。ゴスなビジュアルとニューウェーブサウンドといった80年代のアティテュードを、彼ららしく現代にアップデートさせている。2018・19年とサマーソニックに連続出演。2021年2月にセカンド・アルバム『 Who Am I?』をリリースし UKアルバム ・ チャート初登場3位を獲得、今年8月にはサード・アルバム「Unwanted」をリリース。ツアーも確実に重ね、早くも成熟期を迎えつつある大注目のバンドだ。
<LIVE INFO>
■開演/19:00
■料金/前売 ¥7,500

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11/15TUE
BIG THIEF<ビッグ・シーフ> Japan Tour 2022

4人のメンバー全員がバークリー音楽大学出身。今、USインディーフォーク界を牽引している実力派バンドがビッグ・シーフ。2019年の2枚のアルバム『U.F.O.F.』、『Two Hands』が高評価を受け、『U.F.O.F.』はグラミー賞のオルタナティヴ・ミュージック・アルバム部門にノミネート。今年2月には2枚組の最新アルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』をリリース。コロナ禍でソールドアウト公演が延期~中止となり、まさにファン待望の初来日公演がやっと実現する。
<LIVE INFO>
■開演/19:00
■料金/前売 ¥7,000

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11/21MON
Elephant Gym "Dreams in Japan" Tour

7月のFUJI ROCK FESTIVAL ’22でのパフォーマンスも好評を博したElephant Gymは台湾・高雄出身のスリーピース・バンド。感情的でメロディアスなベースラインを中心に据えたアンサンブルで、洗練された楽曲構成のセンスや高いテクニックを見せつける。インストゥルメンタルを基調とした初期から、自ら歌を歌うことや様々な楽器を取り入れることで、幅広い音楽性を体現しつつある。
今や世界各国にてリリース&ツアーを実施。2020年の東名阪ワンマンツアーは全公演ソールドアウト。今年5月には3rd Full Album「Dreams」リリースしている。
<LIVE INFO>
■開演/19:00
■料金/前売 ¥4,800


12/02FRI
Stella Donnelly <ステラ・ドネリー>

オーストラリア・パース出身のS.S.W。2017年にリリースしたシングル「Boys Will Be Boys」でオーストラリアの音楽見本市、Bigsound 2017のリーバイス・ミュージック・アワードを受賞したことで世界的な注目を集めた。2019年にデビュー・アルバム『ビウェア・オブ・ザ・ドッグズ』をリリースし、フジロックで初来日。同年12月に行われたツアーは追加公演含め全て即日完売。待望の再来日公演、女性が生きやすい世界をというメッセージを歌にのせるステラに今回も注目したい。
<LIVE INFO>
■開演/20:00
■料金/前売 ¥6,000


12/05MON
LOUIS COLE BIG BAND
JAPAN TOUR 2022

今年5月のサンダーキャット来日公演に、ラマーとして急遽参加し、そのセンスとテクニックで歴史的ツアーを大いに盛り上げたルイス・コール。先日最新アルバム『Quality Over Opinion』がフライング・ロータスのレーベル〈BRAINFEEDER〉からリリースされることが発表され、先行シングル「Let it Happen」「I’m Tight」も型破りなセンスが光るミュージックビデオと共に話題沸騰中だ。そんな超人ルイス・コールが自身のバンドを率い、更に6名のホーンセクションを加えた「ルイス・コール・ビッグバンド」としてジャパンツアー開催決定!
<LIVE INFO>
■開演/19:00
■料金/前売 ¥7,150


’23 1/11WED
Ginger Root JAPAN TOUR 2023

Ginger Rootはカリフォルニアをベースに活動するキャメロン・ルーによる音楽プロジェクト。ヴルフペックやトロ・イ・モアなどUSインディー・アーティストに加え、日本のシティーポップからの影響も公言すし、”アグレッシヴ・エレベーター・ソウル”と自称するサウンドが早くから注目を集めた。昨年には80年代の日本の歌謡番組をオマージュしたMVを制作した「Loretta」や、「美少女戦士セーラームーン」から影響を受けた「Junban District(10番街)」をリリースするなど、次世代の旗手として大きく期待される。
<LIVE INFO>
■開演/19:00
■料金/前売 ¥7,000

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2/13MON
Wet Leg <ウェット・レッグ>

昨年6月に1stシングルをリリース以降、世界中の音楽ファンを魅了し、デイヴ・グロールやロード、ジャック・ホワイトらも彼女たちに注目している。デビューアルバム『Wet Leg』を4月にリリースするや、見事全英アルバムチャート第1位を獲得!2〜4位までの合計を上回る驚異的なセールスとなった。その中毒性の高いキャッチー且つクールな楽曲群は音楽ファン、音楽メディアのみならずファッション界隈からも高い評価と熱い支持を得ている。そんな大注目バンドの初来日ツアーが決定!
<LIVE INFO>
■開演/19:00
■料金/前売 ¥6,000

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【各公演共通情報】
■お問合せ/
名古屋クラブクアトロTEL.052-264-8211
※Elephant Gymのみ ジェイルハウス TEL.052-936-6041
■注意事項/
全公演オールスタンディング・整理番号付
未就学児入場不可
ドリンク代¥600別途必要
価格は全て税込
スケジュールは変更になる場合があります


愛知県芸術劇場の芸術監督である勅使川原三郎が、9月に控える再演と新作、ふたつのダンス公演の記者会見を行った。会見には、ダンサーとして、また近年は振付家やアーティスティック・コラボレーターとしても勅使川原を支える佐東利穂子も参加。昨年の夏に好評を博した「風の又三郎」については再演の経緯や狙いなどを、「ダンス・コンサート」シリーズの最新作にあたる「ライヴミュージック&ダンス 天上の庭」については着想点や、世界的チェロ奏者ヨナタン・ローゼマンとの初共演に向けた心境などを聞かせてくれた。


勅使川原三郎 Photo by Akihito Abe

ダンス「風の又三郎」は地元・愛知のバレエ関係者との連携を図り、東海圏ゆかりの若手ダンサーを対象にオーディション・ワークショップを実施。2021年の夏休み期間にファミリー・プログラムの一つとして初演された。宮沢賢治の同名文学を題材にしたそのステージは、身体、音、光、舞台美術などが巧みに絡んだ美しい画の連続で観客を魅了。子どもと大人が分かち合える稀有な時間を生み出した。今年は9月3日(土)・4日(日)に公演。



【勅使川原三郎】
「風の又三郎」はすぐに再演の話が出たくらい成果が素晴らしかった。他の都市や外国にも持っていける作品です。ファミリー・プログラムだからと言って子どもに合わせることはせず、大人も子どもも共有すべきは何かと考えました。原作に描かれた出会いや戸惑い、喜び、発見、あるいは季節の変化と人生の転換期……、それらは誰もが感じ得ることですよね。再演にあたって、前回からのメンバーは1年で大きく成長したでしょうし、新しいメンバーは新しい風を吹き込んでくれるでしょう。大事なのは、愛知県芸術劇場が成長の場となることであり、地元の人がいかに参加できて、芸術を活性化できるのかということ。ダンサーたちとは「愛知でつくる作品」という誇りを共有しています。


佐東利穂子 Photo by Akihito Abe

【佐東利穂子】
「風の又三郎」は、あらためて名作だと思います。(舞台上に流れるナレーションとして原作の一部を)朗読していると、読むのが面白くて、なおさら生き生きとしていくのを感じます。目に見えているものだけでなく、まさに風、リズムが運ばれてくる。そしてある瞬間、子どもの頃に感じた淋しさや不安が深く感じられるのです。ダンスとの構成も合っているので、踊り続けていくことで作品を大きく豊かにしていけたらいいなと考えています。


風の又三郎初演風景(C)Naoshi Hatori

続いて16日(金)・17日(土)に発表される新作「天上の庭」には、勅使川原も出演。佐東とともに、フィンランドの若き俊英ローゼマンのチェロとじっくり向き合う。曲目はCMでもよく耳にするJ.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲」、カサド「無伴奏チェロ組曲」という二つの組曲からの楽章に加え、コダーイ「無伴奏チェロ・ソナタ Op.8」。特にストーリーはなく、音楽とダンスから成る純度の高いパフォーミングアーツだ。


勅使川原三郎、佐東利穂子 Photo by Bengt Wanselius

【勅使川原】
「天上」とは地上に対する言葉として、浮世から離れた世界を指しています。現在の難しい社会情勢の中で、私自身、日常の煩わしい話に飽き飽きしていて、物事が純粋にそのままあったらいいなという想いがあります。文学的なメッセージは一切なく、純粋に音楽とダンスで何ができるか追求したい。庭で遊ぶような、戯れるような、遊戯性をもった作品になると思います。ローゼマンは若手のほうですが、その人間性が表れたような穏やかな演奏には高い音楽性を感じます。私と佐東とローゼンマン、三人三様のあり方や音楽性がどう調和するか。チェロの音色は楽器の中でも人間の声に近いと言われ、形も近いので、もうひとり人間がいるような気もするんですね。大地と密接で、身体の奥底から響いてきて空間に広がる感覚。人間の身体と、より近いのは確かです。
【佐東】
ローゼマンとは初めてのコラボレーションですが、プログラムを考えている最中にリハーサルの機会を設けられたのは良かったと思っています。好き嫌いではなく、この三人ならば何があり得るか、ニュートラルに話ができましたから。彼の音楽を身体で感じている、全身で聞いているという感覚を得られたのも面白かったですね。生のチェロの演奏、チェロの曲だけで踊るのは初めてなので、今とても楽しみです。


ヨナタン・ローゼマン(チェロ) Photo by Tuomas Tenkane

なお、会見当日の朝にはローゼマンから佐東にメールが届いたそうで、「ここ数カ月、お二人に会う光栄を授かり、とても多くのインスピレーションを受けています。勅使川原さんの芸術に対する考えは啓示的で、私自身の考えも活気づき、ユニークで特別なものを創りたいという気持ちが増しています。このような想いは初めて」とコメント。刺激的な現場を共にして意欲を燃やしている様子がうかがえ、ますます期待が膨らんだ。

◎Interview&Text/小島祐未子








9/3 SATURDAY・9/4 SUNDAY
ダンス「風の又三郎」
愛知県芸術劇場芸術監督 勅使川原三郎 演出・振付
【チケット発売中】
■会場/愛知県芸術劇場大ホール
■開演/9月3日(土)・4日(日)15:00
■料金(税込)/全席指定 S席 ¥4,000(U25 ¥2,000・中学生以下 ¥1,000) A席 ¥3,000(U25 ¥2,000・中学生以下 ¥1,000)
※3歳以下入場不可。

9/16 FRIDAY・9/17 SATURDAY
勅使川原三郎 ライヴミュージック&ダンス「天上の庭」
【チケット発売中】
■会場/愛知県芸術劇場コンサートホール
■開演/9月16日(金)19:00、17日(土)16:00
■料金(税込)/全席指定 S席 ¥7,000(U25 ¥3,500) A席 ¥5,000(U25 ¥2,500)
※未就学児入場不可。

■お問合せ/愛知県芸術劇場 TEL052-211-7552


 これまで、ドラマ版「ワンダーウォール」、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」、連続テレビ小説「なつぞら」などに出演し、俳優としてキャリアを積んできた須藤蓮。そんな彼が主演・初監督を務め、脚本家の渡辺あやとの共同企画で誕生した自主制作映画が『逆光』だ。1970年代の広島・尾道を舞台に、2人の青年の情愛を繊細な心模様で描く文学的かつ官能的な青春映画だ。


須藤蓮監督に映画化の経緯を尋ねると「脚本の渡辺あやさんと『ワンダーウォール』という作品で知り合いました。とても尊敬できる方で、彼女と仕事したいという気持ちが湧き上がってきたんです。そんな頃、コロナ禍になり、『ワンダーウォール 劇場版』のイベントプロモーションも出来なくなり、撮影現場もストップしと、自分自身が八方塞がりになってしまいました。これから、どうしたらいいか考えている時に『そうだ!渡辺あやさんと仕事したい!』と再び思い始めました。それで、彼女に企画というか脚本みたいなモノを提示し、それをコテンパンにダメ出しされ、というやりとりを何回かしてみたんです。それで気づいたのが、自分の脚本は良くないということ。いい脚本をかける人は、渡辺あやさんしか知らないし、一緒に仕事をするには、自分が出る作品を渡辺あやさんに書いてもらって、それを誰かに撮ってもらうということでした。そこから、企画がスタートして脚本が出来たのですが、撮ってくれる人がいない。自分自身としては、監督やるなんて今までの人生で1度も思ったことなんてなかったし、そんな自分が『撮る!』っていい出せるわけはなく、企画がストップ。そしたら渡辺あやさんが『君が撮れば?』って言ってくれたんです。そこから主演・監督という形で『逆光』がスタートしていきました」と、見た目のクールさとは裏腹に、思い立ったら猪突猛進な性格を披露する。


須藤蓮

 この作品は、コロナ禍の尾道で、脚本の渡辺あやと監督・主演の須藤蓮が互いの持続化給付金を持ち寄って作った完全自主制作映画。尾道でのロケのエピソードを須藤監督に尋ねると「初めて尾道に行ったのは、『ワンダーウォール 劇場版』で尾道映画祭に参加した時です。まさか自分がここで映画を撮るとは思っていませんでした。いざ映画を撮ることになった時には、とにかく自分の足で全て見て回ろうと思ってカメラマンと2人で、2週間1日14時間くらい毎日とにかく歩きました。ずっと歩き回ってたら、『映画を撮るために歩いている須藤という男がいる!』って噂が尾道で流れたようで、そうしているうちに、『手伝いますよ!』って言ってくれる人が1人ずつ現れて、協力してくれそうな方々のコネクションを持つことができたんです。ただ、歩いていても室内のロケーションって見つからないじゃないですか?その致命的なミスに途中で気づき、室内のロケ場所探しに苦労しました。自分の足だけでは解決できないこともあるし、人の力を借りるってことの偉大さに気づきました。ロケハンでは、絶対ここだと思ったら絶対に口説く!『こういう映画をやるんです、とにかく面白い脚本があって、若い人たちがとにかく面白いこと仕掛けてるんです!僕本気なんです、良かったら貸してください!お金は無いです』と、本当にこの説得作業をひたすら繰り返して、尾道の方に力貸してもらって、街と一緒に切り開いていくっていう感じでした。コツとかではなく、本気かどうかでした」と、ここでも熱い一面を披露。


渡辺あや

 映画『逆光』は、広島県尾道市で撮影し、まずは尾道市から上映をスタートさせた。通常の「東京から地方へ」と逆行する「地方から東京へ」という、従来とは全く逆の配給展開を実践し、須藤監督が上映期間、その地方に住み込み、現地でプロモーションをするといいう新たな映画配給の可能性に挑戦している。なぜこのスタイルを選んだのかを須藤監督に尋ねてみた。「尾道では、ポスターを担いで商店街の端から端まで全部挨拶して回りました。全部貼っていったら、予定していた全国分のポスターを尾道で使い切ってしまって(笑)。尾道では草の根戦略を自分自身が実践しました。お金も別にないし、尾道から公開を始める監督なんてまずいない。じゃあ自分でやってみよう!人と人が繋がっていく光景は、撮影の現場で体験できていたし、今度は上映のタイミングでも人と人を繋げてみたいと思ったんです。ひたすら挨拶してポスターを貼る、チラシを配る、イベントで人を集めるを繰り返しました。トライ&エラーの繰りかえしでしたが、尾道ではかなりの動員を記録できました。京都ではドラマ版「ワンダーウォール」、『ワンダーウォール 劇場版』でのコネクションもあったので、ここでも人と人をうまく結びつけることに成功しました。今度は名古屋で、どんな展開を見せることができるのか?とても楽しみです」と、6月25日(土)から名古屋シネマテークでの公開に期待を寄せた。

◎Interview&Text/川本朗(リバブック)


◎『逆光』初日舞台挨拶
日時:6/25(土) 20:15〜の回上映終了後
会場:名古屋シネマテーク
ゲスト:須藤蓮(主演・監督)、渡辺あや(脚本)

◎関連イベント
監督・主演 須藤蓮×脚本 渡辺あや トークショー
「自主製作・配給・宣伝でめざしたもの、そして見えた世界」
日時:6/24(金) 18:00〜19:00
会場:TSUTAYA BOOKSTORE 則武新町
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渡辺あや 企画構成・岩崎太整 音楽プロデュース
「一日限りの昭和歌謡ショー in ぎふ柳ヶ瀬夏まつり」
日時:7/23(土) 15:00〜16:30
会場:岐阜・ロイヤル劇場(岐阜市日ノ出町1-20)
料金(税込):¥1,500(予定)
*ぎふ柳ヶ瀬夏まつりは7/23(土)・24(日)で開催
 昭和シネマをテーマに様々なイベントを予定
 映画『逆光』の上映会がメイン上映作品です

6/25 SATURDAY〜名古屋・シネマテーク ほかにて上映
映画『逆光』
(2021年製作/62分/日本)
監督:須藤蓮
出演:須藤蓮、中崎敏、富山えり子、木越明、SO-RI、三村和敬、河本清順、松寺千恵美、吉田寮有志
企画:渡辺あや、須藤蓮 脚本:渡辺あや 音楽:大友良英 
プロデューサー:上野遼平 エグゼクティブプロデューサー:小川真司
制作・配給:FOL 制作協力:Ride Pictures 配給協力:ブリッジヘッド
公式サイト http:/gyakkofilm.com


6月30日から全国で24公演が行われる「松竹歌舞伎舞踊公演」の取材会が都内で開かれ、出演する中村芝翫を始め、中村橋之助(長男)、中村福之助(次男)、中村歌之助(三男)の親子4人が揃って登壇した。2019年8月、9月に行われた「松竹大歌舞伎」西コース以来、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため公演中止が相次ぎ、3年振りとなる今回の巡業公演では「松竹歌舞伎舞踊公演」と題し『操り三番叟』と『連獅子』の舞踊2題を上演する。



『操り三番叟』は、糸操りの人形が三番叟を踊るという趣向による作品で、嘉永6(1853)年2月の江戸河原崎座で初演。糸操りの人形が踊っているように見せるのが演じ手のしどころであり、人形を操る後見との息のあった振り事が大きな見どころとなっている。今回は中村橋之助と中村福之助によるダブルキャストで、7月14日の四日市市文化会館・公演では橋之助が「三番叟」を福之助が「後見」を演じる。『連獅子』は能の『石橋』をもとに、獅子が我が子を千尋(せんじん)の谷に落としてこの試練を乗り越えた子のみを育てるという伝説をふまえてつくられた人気舞踊。作者は河竹黙阿弥で、明治5(1872)年7月に東京村山座で初演されたもの。親子の獅子の試練と情愛を描いた前半の狂言師の踊り、それぞれの宗派の尊さを論じる間狂言の「宗論」、後半の勇壮な獅子の精の狂いと、見どころが多い作品となっている。今回は狂言師右近 後に親獅子の精 を中村芝翫、狂言師左近 後に仔獅子の精 を中村歌之助と親子で演じ、僧蓮念が中村橋之助と中村福之助によるダブルキャスト(四日市市文化会館・公演では福之助)で僧遍念を中村松江が務める。


中村芝翫

――それぞれの意気込み
【中村芝翫】「3年振りの巡業。息子たちと舞台の上で一緒に過ごす時間もずっとなかったが、今回は襲名披露公演以来、親子4人揃っての共演となる。襲名当初4人で『連獅子』を演じた時、歌之助はまだ中学3年生で、お兄ちゃんたちについてくるのも手を振るのもやっとだった。自分自身この6年間、芝翫を襲名してどれほど成長したかはわからないが、息子の肉体的、精神的成長、また芸の上での成長を見て、振り返ってみたい。今回は松羽目物(まつばめもの)と呼ばれる舞踊公演で、今は昔に比べて若手の興行がなかなか思うようにできてないので、うちの子どもたちにとっては力を発揮できるよい機会になる。また『操り三番叟』は五穀豊穣を願う演目なので、今回は疫病退散ということで、これを皮切りにもっと巡業ができるようになればと思う。待ち望んでくださっている皆様に少しでも元気を与えて、熱い歌舞伎をご覧に入れたい」


中村橋之助

――父親から見た子どもたちは?
【芝翫】「それぞれ性格が全く違う。橋之助は長男らしい兄弟のまとめ役で、福之助はムードメーカーみたいにみんなを和ませる存在、そして歌之助は兄たちの悪いところまでよく見ている。3人とも凄く仲が良く、芸の話ひとつでもみんなで一緒に考えられて、お互いにいろいろと指摘し合えるのがいい」
――ここを見て欲しい、というところ
【橋之助】「操り三番叟』は(いとこにあたる)勘九郎の兄が演じたものが大好きで、よくその真似をして覚えた。弟とダブルキャストだが、この1、2年で福之助もさまざまお役をやってきて成長してきている。今までは芸の上でのことも自分が言うばかりだったが、お互いに話し合う機会も増えてきた。今回もぶつかり合ったり助け合ったりしながら兄弟の絆を更に深めて行けたらと、楽しみにしている」


中村福之助

【福之助】「『操り三番叟』は小さい頃から何度も見てきた舞踊。昨年の御園座で『阿古屋』に出演した際に、「(岩永左衛門の)人形振りがなかなかうまくいかず、玉三郎のおじさまに、“あり得る動きをすると人形っぽく見えない。不自然な動きをするから人形に見える”というアドバイズをいただいたのが、『操り三番叟』にも応用できると思う。また「宗論」は猿之助のお兄さんとの『連獅子』でもやらせていただいたが、今回は自分なりに工夫してお客さんにも喜んで貰えるように頑張りたい」
【歌之助】「襲名で『連獅子』を披露した際は自分でもいっぱいいっぱいで、みんなに必死にしがみついていたが、今ではもう少し余裕をもって踊れるはず。前半では子どもらしい獅子の可愛らしさを見てもらい、後半は打って変わって荒々しくなる勇壮な獅子の姿を最後の「毛振り」で表現できれば。親子で観に来て頂き、歌舞伎を好きになるきっかけになれば嬉しい」


中村歌之助

【中村橋之助】「久しぶりに家族揃って巡業ができて嬉しい。「WITHコロナの時代」の歌舞伎巡業の先陣を切るという責任を感じつつ一生懸命務めたい。父の戦力になるということが僕の一番の目標だった。こうして父が座頭の公演で、弟2人と兄弟でそうなれる第一歩の公演として心して勤めたい」
【中村福之助】「父や兄弟と一緒に舞台に立つことが少なかったのでとても楽しみ。4年前の襲名披露の巡業以来、猿之助のお兄さんだったり、玉三郎のおじさまだったり、沢山の先輩のところで様々なお役をさせていただいたので、どれだけ僕が成長しているのか、ぜひ期待して観に来ていただけたらと思う」
【中村歌之助】「今回が巡業初参加となる。2020年の3月に高校を卒業してやっと歌舞伎の世界に踏み出して行こうとした時にコロナ禍となり、楽しみにしていた公演が中止となっていろいろと悔しい思いがあったが、この2年間でできる限り学んできたことを、皆さまに今回お見せできればと思う」

◎TEXT/東端哲也

7/14THURSDAY 【チケット発売中】
松竹歌舞伎舞踊公演 四日市公演
■会場/四日市市文化会館 大ホール
■開演/14:00
■料金(税込)/全席指定 S¥7,700(高校生以下¥1,100)A¥6,600
■お問合せ/四日市市文化会館 TEL.059-354-4501
*未就学児入場不可

*その他の公演地情報< https://www.kabuki-bito.jp/theaters/jyungyou/play/747>