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濱口竜介監督の商業長編映画第2作目となる映画「ドライブ・マイ・カー」が明日から全国ロードショーで公開される。今作は第74回カンヌ国際映画祭で、日本映画としては初受賞となるコンペティション部門の脚本賞のほか、独立賞に当たる国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞を受賞した。濱口竜介監督の合同取材をレポートします。


映画「ドライブ・マイ・カー」は、村上春樹による短編小説を原作とする物語。舞台俳優で演出家の主人公・家福(かふく)は妻の音(おと)と満ち足りた生活を送っていたが、音がある秘密を残して突然この世からいなくなってしまう。その2年後、広島での演劇祭に愛車のサーブ900で向かった家福は寡黙な専属ドライバーのみさきと出会う。喪失感と残された秘密に苛まれながら、みさきと過ごす中でそれらに向き合っていくさまが描かれる。映画には、村上による短編集「女のいない男たち」所収の「ドライブ・マイ・カー」に加え、同短編集に収録された「シェエラザード」「木野」の内容も投影されているが、それに加え「ゴドーを待ちながら」「ワーニャ伯父さん」という2つの演劇作品の要素も取り入れている。特に「ワーニャ伯父さん」は原作と同レベルと言っていいほどに映画の中で重要な役割を担っている。

濱口:原作の短編小説「ドライブ・マイ・カー」は起承転結の転で終わっているようなところがあるので、長編の映画ではどういった結末を迎えるのかと考えた時に、村上さんの長編作品に多く描かれるようなある種の希望まで辿り着きたいと思ったんです。その導き手をチェーホフの「ワーニャ伯父さん」が担いました。原作にも「ワーニャ伯父さん」は登場し、ワーニャを家福が演じ、みさきが自分の境遇をソーニャに重ね合わせるという記述があります。原作での扱いは決して大きくはないのですが、村上さんは明らかに家福とみさきの関係性をワーニャとソーニャの関係性に類似させています。それであるならこの映画は、家福がワーニャを演じられるようになるまでの物語としようと思ったんです。


映画では、広島の演劇祭で「ワーニャ伯父さん」を上演するためのオーディションから本読み、稽古、本番までの様子が描かれている。随所にそのセリフは発せられ、映画の本編と「ワーニャ伯父さん」の物語が交錯し溶け合っていくような感覚さえ覚える。

濱口:特にチェーホフの言葉の力というのは非常に強い。人が心の底のほうで思っていることを言葉にしていると思うんです。それは舞台上だからリアリティを得ることが可能になるのですが、そういう言葉を口にした時、または耳にした時に役者の体に起きる変化というのは非常に強いものだと感じました。

そして物語はまるで対話劇を見ているように進んでゆく。対話によって物語が進められ、人物の心理を描き、お互いの気持ちの邂逅がもたらされる。この対話がもたらす作用について濱口監督は、

濱口:2つあります。物語は、主人公の家福が終始自分の感情をしまい込んでいる状態で進んでゆくわけですが、そのしまい込む過程であったり、一方で感情を隠せなくなって表に出てゆく様子を対話によって表現しています。この様子は彼一人がいる状態では、少なくとも映像には定着することはできない。対話においては、誰かに何かを言うことを躊躇うにせよ、その「躊躇う」という行為が映像には映り、観客の皆さんにも伝わるわけです。もうひとつは演出に関わることです。私の今までの経験上、演技の中で対話をすることで、その現場で役者さん同士の相互反応というのが起きやすくなると感じています。役柄としても役者自身としても言葉を通じてお互いに触発し合うわけで、その両面の現象が映画の中に生きているんだと思います。


その対話を織りなすキャストは主人公・家福に西島秀俊、家福の妻・音に霧島れいか、ドライバーのみさきに三浦透子、キーパーソンとなる高槻に岡田将生という実力と人気を備えた俳優陣。そして海外からのキャストが劇中の多言語劇「ワーニャ伯父さん」を展開する。大部分の撮影を行なった広島、みさきの実家の跡地として登場する北海道などの印象的な風景や、映画を彩る石橋英子の音楽にも注目したい。


そして濱口監督といえばその学歴も注目される。東京大学文学部を卒業後、映画の助監督やT V番組のADを務めた後、東京藝術大学大学院で当時新設された映像研究科の2期生として入学している。

濱口:助監督とA Dの仕事についていうと、自分に本当に能力がなかった。当時の先輩方には申し訳ない気持ちが多々ありますが、全く気が利かなかったんです笑。でも、(映画を)作るということを諦められなかったので、東京藝大の大学院が国立で初めて映画製作の教育機関を設けるということで、「これが最後の蜘蛛の糸」と思って受験し、1浪しましたが入学できました。

と、この時ばかりはほころんだ表情を見せてくれた。映画「ドライブ・マイ・カー」は8/20(金)より名古屋・伏見ミリオン座をはじめ、全国ロードショー公開。

◎Interview&Text/福村明弘

8/20 FRIDAY〜【名古屋・伏見ミリオン座 他、全国ロードショー】
映画「ドライブ・マイ・カー」
■監督/濱口竜介
■脚本/濱口竜介、大江崇允
■出演/西島秀俊 三浦透子 霧島れいか 岡田将生
■原作/村上春樹 「ドライブ・マイ・カー」 (短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)
■配給/ビターズ・エンド (C)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会


2016年「ありがとう“旅立ちの声”」でメジャーデビュー。彼ら独特のパワーソングといわれる応援歌の楽曲は、各アスリートからも熱い支持を得ている。8/4には第103回全国高等学校野球選手権大会のTOKYO MX中継テーマに選ばれたSingle「ナツノオモイデ」をリリース。昨年大好評を得たドライビングパーティー、「ベリーグッドマン 超好感祭2021〜“ナツノオモイデ”リリースパーティ編〜を9/23大阪・舞洲“空の広場”で開催する。波に乗るベリーグッドマンのRoverさん、MOCAさんに意気込みを聞きました。


―ベリーグッドマンの3人はどのように出会われて結成に至ったのですか?―
Rover「高校の吹奏楽で出会ったHiDEXとバンドっぽいことやろうとなって始めたのがきっかけです。途中、喧嘩別れしちゃって、自分の中で音楽を続けていこうと模索していた時にMOCAの独創的なライブに出会ったんです。はちゃめちゃなMOCAの頭の中を具現化したいと思って声をかけたんです」
MOCA「たしかに地元の天下茶屋で、めちゃくちゃなライブをいろんなところでやってましたからね」
Rover「その後、一度は喧嘩別れしていたHiDEXも加わってくれて、3人でやっていけば、どこにもないオリジナルなスタイルでやっていけるという確信が湧きました。やるからにはビジネス的に成功しないとダメだと思って現在に至ってます」

―3人の中に化学反応が起こって今のベリーグッドマンが完成したわけですが、これからの戦略などはありますか?
MOCA「ひとりでライブしていた頃も、ずっと根拠のない自信はありました。最初は3人の関係性とかチームとして音楽を創っていくことに違和感がありました。それも時間と共に自分たちの立場も変わってきて、今はプロであることを意識できるようになってきたところです」
Rover「今後も新しい感覚のパワーソングというものを突きつめていきたいし、今回リリースした“ナツノオモイデ”は、今の僕たちからの手紙であることは確かです。どこを切り取ってもベリーグッドマンだし、じわじわと時間をかけて、いろんな人に伝わってほしいと思っています」


―昨年11月に行われたドライビングパーティー形式で、今回のリリースライブを行われるわけですが、どういう経緯であのスタイルのライブになったのですか?
MOCA「メンバーの中では僕だけがライブの企画に入ってまして、海外でスティーブ・アオキさんたちが、ドライブインスタイルのライブをやっているのを知って、アイデアとしてはずっと温めていました。このコロナ禍の中で、どうやってライブすれば良いのかを考えた時にこれだと思いました。最初はどれだけの経費が必要なのか?果たしてライブとして成立するのか、まったくの未知数でしたが、音響や映像、舞台装置のプロのスタッフさんたちのおかげでどうにか実現できて高評価もいただけました。僕自信も楽なスタイルで気ままに聴けるライブっていいなと思ってたんで、実現出来て良かったです。ライブに来てくれたファンの方からもすごい好意的なコメントをたくさんもらいました。」
Rover「昨年は“祭り”というコンセプトでしたが、今年は“キャンプ”をイメージしたものになってます。こんな時期ですから、みんな外に遊びに行けていない。だからまさに“ナツノオモイデ”の一日にしてもらえるようなアウトドアな感じのライブにしようと思っています。

―関西のアーティストというレッテルをどうとらえていますか?
Rover「関西でやっていくには感度が高くないとダメだと思っています。関西って“熱いけどヌルい”っていう部分はどうしてもあると思います。関西だから、地元に内向きになるのではなく、単にホームタウンだ!くらいの位置づけで、東京や海外といった外向けにどんどん発信していかないといけないと思うんです」
MOCA「どこという場所よりも、誰と出会えるかが大事。出身地云々よりも、どれだけピュアな気持ちを持って音楽を続けていけるかだと思います」
Rover「変に関西臭を出さないようにしよう、ということは常に頭の中にあります。地域性を超えたアニメやコンビニみたいなユニバーサルなイメージの唯一無二のベリーグッドマンが理想像です」

取材・文=石原卓


■ベリーグッドマン 超高感祭2021~“ナツノオモイデ”リリースパーティー編~
開催日 2021年9月23日(木祝)
    開場/14:00 開演/18:00
会場  大阪・舞洲スポーツアイランド 空の広場
料金  ドライブインチケット【車枠指定】 
    ¥20,000(1台)
    スタンディングチケット【立ち位置指定】
    ¥6,800(1人)
お問合せ キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日・土曜11:00~16:00)

■ベリーグッドマン「ナツノオモイデ」
CRCP-10471 定価¥1.200(税抜き価格¥1,091)
【収録曲】(全4曲)
1.ナツノオモイデ
2.baby you
3.Hope
4.ダイヤモンド(2021 Ver.)


KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」の製作発表会見が、7月20日に神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで行われました。会見には演出で同劇場の新芸術監督である長塚圭史をはじめ、出演の田中哲司、松田龍平、笹本玲奈、石橋静河が登壇。この会見の様子をレポートします。

「近松心中物語」は、神奈川県横浜市出身で戦後を代表する劇作家・秋元松代の戯曲で、近松門左衛門の「冥土の飛脚」をベースとし、いくつかの近松作品の要素が加えられています。1979年、蜷川幸雄の演出により東京・帝国劇場で初演されて以来、その上演は1,000回を超えるという日本演劇界の金字塔とも称される作品です。今回は長塚圭史が演出を担うということで、田中哲司、松田龍平、笹本玲奈、石橋静河をはじめとした出演者19名と新たな「近松心中物語」をどう作り上げるのか楽しみなところです。劇中では元禄時代の大阪・新町を舞台に、飛脚宿亀屋の養子・忠兵衛と新町の遊女・梅川、忠兵衛の幼なじみで古道具商傘屋の婿養子・与兵衛と、その女房・お亀の男女2組の物語が展開する。
会見で長塚は秋元作品の魅力について「簡潔でありながら非常に意味深く味わい深いセリフの魅力に惹かれました」とし、以前演出した秋元作品「常陸坊海尊」を経て「近松心中物語」を読み、その魅力を再確認したと言います。物語については「身分制度も厳しい時代の中で行き場がなくなり死を選ぶ梅川と忠兵衛、裕福ながらも心中という物語に恋してしまうお亀と生への執着を捨てられない与兵衛、この2つのカップルの様は格差の広がる現代においても非常に雄弁なのではないか」と、この物語の普遍性を語りました。さらに「一目惚れというのは大変なこと。電気みたいなものが走って惹かれ合うという、この肉体性の高さに僕は色気を感じます。そして心中。永遠を手にするために大好きな夫と死のうとするというのにも肉体的なエネルギーを感じます。」と語りました。


左から演出の長塚圭史、出演の笹本玲奈、田中哲司、松田龍平、石橋静河

そして本作の音楽を手がけるのは、ラップグループのスチャダラパー。長塚は「スチャダラさんが『近松心中物語』ってビックリしませんか?でも、この戯曲を読んでいると江戸時代の元禄から現代に通じるトンネルがグッと開くのを感じました。そのトンネルをどうつなごうかと考えたとき、スチャダラさんが浮かんだんです」と起用の理由を明かしました。


出演者の田中は「忠兵衛は僕にとってハードルが高く、心して挑まなくてはならない役。出演者の皆さんがどんな世界観や価値観を持ち込んで挑むのかとても楽しみ」と抱負を述べました。松田は「長塚さんの作品出演は3作目。そのうち1作は田中さんとご一緒していますので、心強いなと思いながら楽しみにしています」とし、笹本は「私にとって試練になるだろうと思っています。長塚さん作品も和物の舞台も初めて。共演の皆さんとも初めましてですが、心強い方ばかりなのでついていけば大丈夫だなと思いました」と初めて尽くしの心境を語りました。石橋は「とてもボリュームのあるこの脚本を読み終えた時、『なんて儚いんだ』という刹那を感じました。最初に抱いたこの印象を大事にしながら、お亀という役をそのまま真っ直ぐ演じられたらと思いました」と今の心境を語りました。愛知・豊橋公演は10/1(金)〜3(日)、大阪・枚方公演は10/13(水)で予定されています。その他の公演については公式サイトからご確認ください。

「近松心中物語」
<豊橋公演>
10/1 FRIDAY〜3 SUNDAY【8/14(土)〜チケット発売】
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
■開演/10月1日(金)18:00、10月2日・3日(日)13:00
■料金(税込)/全席指定 S¥10,000 A¥8,000 B¥6,000 ほか
■お問合せ/メ~テレ事業 052-331-9966
プラットチケットセンター 0532-39-3090
*未就学児入場不可
<枚方公演>
10/13WEDNESDAY【8/18(水)〜チケット発売】
■会場/枚方市総合文化藝術センター 関西医大 大ホール
■開演/14:00
■料金(税込)/全席指定 A¥7,000 B¥5,000
■お問合せ/枚方市総合文化芸術センター別館 TEL.072-843-5551
*未就学児入場不可


『22年目の告白~私が殺人犯です~』『AI崩壊』など、近年はメジャー映画で知られる入江悠監督による自主制作映画『シュシュシュの娘』。『SRサイタマノラッパー』シリーズ以来10年ぶりとなる自主映画だ。2020年、「コロナ禍で苦境に追い込まれた全国のミニシアターを応援したい」との思いで、クラウドファンディングと自己資金で制作を開始。「全国のミニシアターで一斉公開」という、過去に例を見ない形での上映に漕ぎ着けた。差別や移民などシリアスな題材の中にもユーモアを盛り込んだ本作。公開を控えた入江悠監督のインタビュー会見をレポート!



―今回は女性が主人公。どのように生まれたキャラクターですか?
コロナ禍で先が見えず、どうなるんだろうと2020年を過ごしました。過去に映画を上映してもらったミニシアターも苦しんでいる。一緒に映画の興行をやっていきたいと思ったんです。
女性を主人公にしようと最初に決めました。男を主人公にすると、どんどん暗い話になっていくんですよね(笑)。女性の方がポップさを出せるんじゃないかと。「ミニシアターに行ったことない」という人も気軽に来てほしいとの思いで、ちょっとユルい女性キャラクターにしました。

―脚本が生まれた経緯は?
コロナ禍で仕事の予定が2つくらいなくなり、カッとなって書きました(笑)。ずっと家にいたので、集中して書いた感じです。ただ、この映画で描かれているような外国人差別の問題などは自分の中にずっとあるテーマでした。『ビジランテ』でも描きましたが、深めていきたい気持ちはずっとありました。2020年、「不要不急」という言葉がありましたが、僕にとって映画館で映画を見ることは、かなり「要」です。救われたり、笑ったり泣いたり、普段の生活から解放され身軽になれること。そういう意味で少し笑えるものをやりたいと思いました。せめて88分を気持ちよく痛快に。目標はそれくらいでいいのかなと思ったんです。暗くて重い映画も好きでミニシアターへ見に行きますが、笑い飛ばすことも映画のひとつの力。僕の好きな岡本喜八監督の『独立愚連隊』も、苦しい中で皆やけに明るくて笑っている映画です。

―久しぶりの自主映画ですね。
役者もSNSで募集しました。2500人以上来てメールサーバーがパンクした(笑)。当時まだ対面も厳しかったので、一次選考後リモート面接、その後対面オーディションをしました。主演の福田沙紀さんは芝居もダンスも面白かった。ダンスが映画に出てきますが、振り付けも自分で考えてもらっています。ダンスはすごく人柄が出やすい。本人が生きてきた足跡を記録する感じが面白かったです。


―撮影には学生スタッフも多く参加したそうですね。
学生たちも学校が休校になり、上京して一人暮らししている子たちが友達も作れず孤立していました。「やる気のある人は、来れる日は現場に来なさい」と話し、本気で映像業界を目指す人は全て休業して来ていましたね。学生には演出部や美術部、制作部などでプロと同じ仕事をしてもらいました。自主映画だからこそできることで面白かったです。商業映画とは違うペースでゆったりやりました。コロナの影響も不明で、とりあえずいっぱい寝て食べる時間を作ろうと。

―商業映画と自主映画、心持ちは違いましたか?
心持ちは同じですが、やっぱり自主映画は大変だなと。プロなら分業することを自主映画は自分でやらなくてはいけない。10年ぶりで大変でしたね。自主映画は人間力を問われるんです。撮影地を借りるのも自分で交渉する。人間対人間で信頼してもらう必要がある。しかも今はコロナでリスクが多い。「本当に映画を作りたいんだな、何か面白そう」と思ってもらうしかないんですよ。一つずつ交渉していくところに、自主ならではを感じました。

ー撮影はご出身の埼玉県深谷市ですね。
愛知の春日井市に似てると思います。郊外で起伏がなくフラットな感じ。日本全国へ行きましたが、春日井が一番近いと思いました。


入江悠監督:名古屋シネマスコーレにて

ーミニシアターで全国上映が決まるまでの経緯は?
上映のことは作品が完成するまで、基本的には決まっていませんでした。完成後に「いかがですか」と声をかけ、手を挙げていただいたところが現在上映が決まっている映画館です。

ーミニシアターにはどんな思いがあるのでしょう?
人生を救われたところがありますね。大学受験に失敗して引きこもりみたいな生活をしていた時期に、唯一行っていたのがミニシアター。そこへ行くことで、かろうじて社会の一員という感じでした。もちろんシネコンも映画を見る環境として素晴らしいですが、ミニシアターは一人で孤独を抱えていくような場所。そういう場所はだんだん減っている気がします。ミニシアターは独りぼっちを受け入れてくれる場所。

ー名古屋シネマスコーレは、入江監督にとってどんな映画館ですか?
『SRサイタマノラッパー』を一番多く上映してくれ、一番アツかった映画館です。スタッフの熱量が直接伝わってくる。メジャー映画はお互いの対話や熱が伝わり合うことが少ないですが、シネマスコーレの熱量は映画館の人と一緒に作り、お客さんに見てもらっている感じでした。

ー自主映画制作は、今後も続けたいですか?
はい。「そろそろやらなきゃ」という気持ちは、この数年むくむくと湧いてきていました。メジャー映画をやっていますが、担がれた神輿みたいな部分があり、細分化したスタッフに支えられて監督が成り立つ。誰もいなくなった時に一人で映画を作れるか、人間力が衰えてきているかもという不安がありました。やってみたら毎年作りたいくらい楽しかったです。やっぱり自主映画は自由。一人の人間に戻った気がしますね。

◎Interview&Text/山口雅

8/11 WED 19:00~
先行上映(全国一斉プレミアム試写会・チケット代は各上映ミニシアターへ全額寄付)
8/21 SAT~
[名古屋・シネマスコーレ、大阪・第七藝術劇場他、全国ミニシアターでロードショー]
映画「シュシュシュの娘」
■製作・脚本・監督・編集/入江悠
■出演/福田沙紀 吉岡睦雄 根谷涼香 宇野祥平 井浦新 他
■制作プロダクション・配給/コギトワークス


『舟を編む』(13)で日本アカデミー賞監督賞を最年少で受賞、『生きちゃった』(20)『茜色に焼かれる』(21)では社会や理不尽な出来事に葛藤しながら向き合っていくエモーショナルな人間物語を描いてきた石井監督が、オール韓国ロケで生み出した新境地が『アジアの天使』。日本と韓国、言葉も違えば文化も違う2組の家族の気持ちのすれ違いやふれあいをコミカルに描きながら、強い絆を育んでいくロードムービーとなっています。第16回大阪アジアン映画祭のクロージング作品にも選ばれた今作、監督の来阪にあわせて行われた会見をレポートします。

妻を病気で亡くした小説家の青木剛(池松壮亮)は、8歳になるひとり息子の学を連れて、兄(オダギリジョー)の住むソウルへとやって来た。「韓国で仕事がある」という兄の言葉を頼っての渡韓だったが、いざ到着してみると、兄がいるはずの住所には、知らない韓国人が出入りしていて中にすら入れない。言葉も通じず途方に暮れるしかない剛は、自分自身と学に「必要なのは相互理解だ」と言い聞かせながら、意地でも笑顔を作ろうとする。
やがて帰宅した兄と再会できたはいいものの、あてにしていた仕事は最初からなかったことが判明。代わりに韓国コスメの怪しげな輸入販売を持ちかけられ、商品の仕入れに出向いたショッピングセンターの一角で、剛は観客のいないステージに立つチェ・ソル(チェ・ヒソ)を目撃する。元・人気アイドルで歌手のソルは、自分の歌いたい歌を歌えずに悩んでいたが、若くして亡くなった父母の代わりに、兄・ジョンウ(キム・ミンジェ)と喘息持ちの妹・ポム(キム・イェウン)を養うため、細々と芸能活動を続けていた。
そんな矢先、韓国コスメの事業で手を組んでいた韓国人の相棒が商品を持ち逃げしてしまう。全財産を失った兄弟に残された最後の切り札はワカメのビジネス。どうにも胡散臭い話だったが、ほかに打つ手のない剛たちは、藁をも掴む思いでソウルから北東部にある海沿いの江陵(カンヌン)を目指す。同じ頃、ソルは事務所から一方的に契約を切られ、兄と妹と3人で両親の墓参りへと向かうことに。運命的に同じ電車に乗り合わせた剛とソルたちは、思いがけず旅を共にすることになる。


―韓国で映画を撮るきっかけとなったのは、『ムサン日記〜白い犬』(10)のパク・ジョンボム監督が今作のプロデューサーを引き受けたことから始まったそうですが、パク監督との出会いは?

2014年の釜山国際映画祭で出会い意気投合したのですが、まさか30歳をすぎて親友ができるとは思ってもみませんでしたね。彼とは心に抱えている傷や痛みの話をよくしたんですよ、お互いにつたない英語で。言葉が不完全なので言語的に完璧に理解出来ていないはずなのに、なぜか彼の心が手に取るようにわかったんです。パク・ジョンボムも「なんで二人は仲がいいんだ?」と誰かに聞かれたら「前世で友達だったとしかいいようがない」と言っているそうで、まさにそんな印象なんです。元々この企画は別のプロデューサーと動かしていたのですが頓挫し、パク・ジョンボムが「あきらめるな」と言い続けてくれ、最終的に彼がプロデューサーを買って出てくれました。彼こそ最後の最後に僕の前に降りてきた天使みたいでした(笑) 実は今作にも役者として登場しています。


―タイトルに「天使」という言葉を使ったのはなぜでしょう。

「天使」という存在は、人それぞれに捉え方も違うし、信じる人もいれば信じない人もいる。そういう扱いきれないもの、つまり言葉にならないものとしての存在が、偶然のように、奇跡的に人間同士を結びつけるのは面白いなと思いました。


―日本人キャストとして、自由な兄にふりまわされる青木剛役に池松壮亮さん、マイペースでオープンマインドな兄の透役にオダギリジョーさんを起用されました。

池松君とは、以前韓国に遊びに行ったことがあります。パク・ジョンボムと一緒になって、みんなでキャッチボールをして、ビールを飲みまくるような旅ですが(笑)、たぶん韓国で映画をやることになるんだろうなと、彼はどこかでわかっていたと思うんですよ。撮影中も、オダギリジョーさんと池松君という天才役者二人が、韓国という異国の地でかみ合うことのない兄弟の会話を繰り広げる姿を見ているのは、とても面白い経験でした(笑)。韓国スタッフも日本語がわからないのにクスクスと笑っていて。それに、キャストも仲が良くて。後半に登場する海辺の町での撮影は合宿だったので、よくみんなでビールを飲んだり、浜辺で遊んだりしてましたよ。


―映画『金子文子と朴烈』(17)で日本人の主人公・金子文子役を鮮烈に演じたチェ・ヒソさんをソル役にキャスティングした決め手は?

この年代の女優さんを探していた頃、すでに日韓問題は最悪の状態で、日本と共に行うプロジェクトには「出られません」という返答も多かったんです。そんな状況でも、彼女には色眼鏡みたいなものがまったくなかった。〝面白いことをやりたいんだ″という意思の強い人で、日本語も話せますから、それじゃあチャレンジしましょう、ということになりました。とても志が高く聡明で、全身全霊で映画に向き合う人です。


―都会・ソウルでの重い現実を背負った二組の家族の物語は、後半、トラックを使って海辺の田舎町へと旅をするロードムービーへと変化していきます。トラックでの撮影は大変だったのでは?

6人が一つのトラックで旅をするシーンは、役者以外にもカメラマンなどのスタッフが乗り込んでの撮影でした。現場は韓国スタッフが95%以上でしたが〝わからないことを楽しんで良いものを作ろう!″という人たちが集まっていたので、現場の雰囲気は最高に良かったです。


―韓国と日本で撮影システムの違いなどはありましたか?

例えば夜のシーン。日本では暗幕で窓を塞いで昼間でも撮ってしまうのですが、韓国では夜のシーンは夜に撮りたい!と。確かにそうですよね。夜のシーンは夜に撮る。そういう違いも面白いじゃないですか。食事の場面でも「飲んでいるシーンは本当にビールを飲みたい」と韓国の俳優陣は言っていましたしね。ノンアルコールでやるといったら「そんな現場は初めてだ」と兄役のキム・ミンジェはちょっと不満顔でした(笑)が、撮影が終わったら、やっぱり酒を酌み交わす。ビールに関しては四六時中、飲んでました。


―劇中でも「この国で必要な言葉は、メクチュ・チュセヨ(ビールを下さい)とサランヘヨ(愛しています)だ」とオダギリさん演じる兄が言っています。これまでの話を聞いていると、監督の実体験から生まれたセリフなのでは?と思えました。

韓国ではシックと言うそうなんですが、ご飯を一緒に食べる人、一緒に食べたら友達だ、家族だという文化があるみたいですね。それが今作の「家族のようになる」テーマにもつながっています。韓国で誰かとビールを飲んでいると、知らない間にどんどん人が増えていくし、何軒もはしごするんですよ。次はタッカルビ、その次はカルビタン(カルビのスープ)と店を変えながら食べては飲む。僕はこれまでそういう経験を繰り返し、韓国の人たちと心を通わせてきました。それに、韓国の俳優さんは、みんなよく食べるんです。女優さんであろうとバクバクと。それが本当にすがすがしい!素敵だなぁと思って見ていました。


―共にご飯を食べて交流を深めるけれど、追いつかないのが言葉の壁。言いたいことがダイレクトに伝わらないもどかしさをどう乗り越えていくのか。それも物語の重要なエッセンスになっていますね。

本心みたいなものに言葉ではたどりつけなくて。だけど、たどり着けないその先にある本当の感情を表現すること、それを今作で描ければと思いました。最初は空回りをするけれど、少しずつつたない英語を使いだすという点でも、僕とパク・ジョンボムとの関係に近いですね。今は、コロナ禍によってどの国の人も辛い状況を強いられています。他者の痛みに思いを馳せるのは、どうしたって必要なことだと思います。世界平和なんて言葉を使うのは照れ臭いのですが、国籍も人種も関係なく同じ気持ち、痛みを共有すること。みんなでビールを飲みながらご飯を食べること以上に重要なことなんてないんじゃないか、と思います。この作品は、二つの国を結ぶ小さな架け橋になりそうな気がしています。


(取材・文=田村のりこ)



7/2 FRIDAY〜
[テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、なんばパークスシネマ他、全国ロードショー]
映画「アジアの天使」
■脚本・監督/石井裕也
■エグゼクティブプロデューサー/飯田雅裕
■プロデューサー/永井拓郎、パク・ジョンボム、オ・ジユン
■撮影監督/キム・ジョンソン、 音楽/パク・イニョン
■出演/池松壮亮、チェ・ヒソ、オダギリジョー、キム・ミンジェ、キム・イェウン、 
佐藤凌 他
■製作/『アジアの天使』フィルムパートナーズ
■制作プロダクション/RIKI プロジェクト、 SECONDWIND FILM
■配給・宣伝/クロックワークス