HOME > MEGLOG【編集日記】 > <公演直前レポート!>1年越しの夢 ― 小林愛実が魅せるラフマニノフ

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日本センチュリー交響楽団「第281回定期演奏会」(2024年4月12日 ザ・シンフォニーホール)に、ピアニストの小林愛実がソリストとして出演する。

2023年の元旦、小林はピアニスト反田恭平との結婚&妊娠をSNSで報告し、その後、産休・育休のためコンサート活動の休止期間に入った。昨年4月に予定されていた日本センチュリー交響楽団の定期演奏会の出演は取り止めとなったが、出産を終え、コンサート活動の再開を受けて、同定期演奏会への出演が改めて決まった。リサイタルツアーで多忙を極める小林愛実に話を聞いた。


©HOSOO CO., LTD

――日本センチュリー交響楽団の「第281回定期演奏会」が目前に迫って来ました。

改めて声を掛けて頂いた日本センチュリー交響楽団の皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。今回、私からラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」をリクエストさせて頂きました。出産を経験したこともあって、何か新しい曲に取り組みたいと思い、かねてより弾いてみたいと願っていたこの曲を選びました。指揮の秋山和慶先生は、これまでに何度もご一緒しているので、安心してセンチュリーの皆さまとの共演を楽しみたいと思っています。

――子供の頃からご活躍ですが、人知れず大変な事も多かったのではないでしょうか。

7歳の時にはオーケストラと共演し、CDデビューが14歳。20歳の時には初めてショパンコンクールに挑戦しました。早くからピアノひと筋でやって来たこともあり、私は本当にピアノが好きなのか。このままピアノを弾いていて良いのかと考え、悩んだこともありました。17歳から20歳くらいの時です。

――その状況を、どうやって乗り越えられたのですか。

ある時、母親から「ピアノが全てではないし、貴方がやりたいことをやればいいのよ」と言われました。よほど辛そうに見えたのかもしれません。その一言で気持ちが楽になりました。そして20歳の時に出場した1度目のショパンコンクールで、気持ちが吹っ切れました。当初、やめる為のケジメを付けるくらいの気持ちでコンクールに臨んだのですが、ファイナルまで進み、念願のコンチェルトを弾く事が出来ました。嬉しかったですね。「やっぱりピアノが好きなんだ。これからもピアノを続けていこう!」と決意できたことが最大の収穫でした。入賞出来なかったことは、意外にもそれほど悔しさは無かったですね。それよりもピアノを続けて行く決意が固まったことに満足していました。

――2度目のチャレンジとなる2021年のショパン国際コンクールは、見事4位入賞されました。そして反田恭平さんが2位という結果で、大変話題となりました。結果には満足されているのでしょうか。

あまり満足はしていませんでしたが、すぐに結婚して子供も生まれ、もうコンクールに出ることはないし、まあいいかなという感じでしたね。「ピアノが好きかどうか」なんて言っていられる状況ではありません。少し前に起こった事も覚えていないほど忙しい毎日に追われています。


Photographer Makoto Nakagawa


――出産によって自分の中でのピアノの位置づけは変わりましたか。

変わりましたね。ずっと私にはピアノしかないと思っていましたし、ピアノを弾かない私って生きている意味があるのかなぁっていう感じだったのが、出産でピアノを弾かない時間を経験したことで、ピアノが全てでは無いことを実感しました。今は、ピアノも大事ですが、子供や夫、家族がいる事で、心に余裕が出来た気がします。昔の私は孤独だったのだと思いました。これまでは自分の為に頑張って来たけれど、自分を犠牲にしても子供の為に頑張れるという、こんな気持ちは初めてです。

――ピアノの音も変わったんじゃないですか。

昔は音が張り詰めていたのに、出産後は随分優しくなったねって言われます。気持ちがこれだけ変わったのだから、当然音楽も変わりますよね。子育ては大変ですが楽しいですよ。確かにピアノを弾く時間は減りましたが、ずっとこの状況が続く訳ではありません。いずれは子供が大きくなり、手を離れると思うので、今は目の前のことを楽しもうと思っています。

――現在、コンサートツアー中ですが、お子様はどうされているのでしょうか。

有難いことに私の両親が見てくれています。現在、夫もツアー中なので、全員で私の実家を拠点にしています。それが彼も子供との時間を取れて、移動も少なくピアノの練習も出来て、効率が良いと言ってくれます。私は泊りで地方に行っていても、家にベビーカメラを付けているので、どこからでも子供の様子を見ることが出来ます。子供に話しかけることも出来、集中してピアノの練習も出来ます。この形が理想的で、恵まれていると思います。

――ショパン国際コンクールの2位と4位のお二人の結婚は、皆が驚きました。

そうでしょうね。幼馴染で時にはライバルということもありましたが、二人にとっては自然な形でした。同業者だからこそ理解できる事が多く、私は良かったと思っています。本番前の精神状態や、音楽的な事でも分かり合えます。たまに演奏会を聴きに来られると、緊張します。良かったよ!と言って貰ったとしても、全部見抜かれています。どうだったと聞かない限り、細かな話はお互いにすることはありません。専門的な話や、プログラムの曲順なども相談できるのは同業者ならでは。私は楽しいですよ。彼は色々と新しい発想を持っていて、人を引き付ける魅力もある人なので、良い音楽家になって、自分の夢を実現して欲しいと願っています。

――小林さんが描く、ご自身のピアニストとしての将来像は。

やはり世界で演奏できるようなピアニストになりたいです。その為に、今出来ることを順番にやって行こうと思っています。50年後といえば80歳前ですが、その時に夢が叶っていたらいいなぁと思います。

――好きなピアニストや、目標にしているピアニストはいますか?

ラドゥ・ルプーがいちばん好きで、彼の音源ばかり聴いています。他にはラローチャやホロヴィッツは、一度実演を聴いてみたかったです。シフやアルゲリッチも好きですが、事務所が私と同じカジモトということもあって、お会いしたことがあります。

――ピアニストは自分の楽器を持たず、行った先のピアノを使用して演奏します。

最近はどこのホールにも素晴らしい楽器が置いてあるので、特に問題はありません。ずっとお世話になっている調律師の倉田尚彦さんに、スケジュールが合えば来ていただいていたのですが、先ごろお亡くなりになりました。あまりにショックで、これからどうしようかと私同様不安に感じているピアニストが多いと思います。



――ザ・シンフォニーホールについては、どんな印象をお持ちですか。

何度も弾いていますが豊かな残響で、とても弾きやすいホールです。コンチェルトを弾くには、ちょうどいい大きさだと思います。楽屋にはピアノもあって快適です。

――最後に、日本センチュリー交響楽団の4月定期演奏会についてメッセージをお願いします。

秋山先生と日本センチュリー交響楽団の皆さまと、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」を演奏致します。ラフマニノフの協奏曲とは違ったこの曲の素晴らしさを、お客様と共有出来たら嬉しいです。ザ・シンフォニーホールでお待ちしています。

華やかな公演でスタートを切る日本センチュリー交響楽団の2024年度シーズン。人気の若手ソリストから、レジェンド級の巨匠マエストロまで、新シーズンも日本センチュリーの定期演奏会には豪華アーチストがずらりと並ぶ。そして2025年度シーズンからは、いよいよ首席客演指揮者の久石譲が音楽監督に就任する。話題の多い日本センチュリーの定期会員は、現在好評募集中。ザ・シンフォニーホールの決まった自分の席で、1年を通して日本センチュリーの活動を応援してみてはいかが⁈

取材・文 = 磯島浩彰

公演情報
第281回定期演奏会【チケット発売中】
2024年04月12日(金) 19:00開演(18:00)
ザ・シンフォニーホール

指揮:秋山 和慶/ピアノ:小林 愛実 

レズニチェク:歌劇「ドンナ・ディアナ」序曲
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
デュティユー:交響曲 第1番

※未就学児のご入場はご遠慮ください。
※やむを得ない事情により、出演者、曲目等に変更が生じる場合がございます。
予めご了承くださいませ。

チケット
S席/8,000円 サイン入りプログラム付き ※電話のみで取扱い
A席/6,500円 B席/5,000円 C席/3,500円 D席/2,000円
※税込・全席指定・未就学児童⼊場不可

主催 公益財団法人日本センチュリー交響楽団

公演情報ホームページ コチラ