HOME > MEGLOG【編集日記】 > <公演直前レポート!>フロリアン・ゼレールの家族三部作『La Mère 母』『Le Fils 息子』記者会見

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岡本圭人&岡本健一が親子で再演!若村麻由美は〝母〟の孤独を熱演

現代フランス演劇界を牽引する劇作家フロリアン・ゼレールの家族三部作から『La Mère(ラ・メール) 母』『Le Fils(ル・フィス) 息子』の同時上演が決定。3月15日に行われた記者会見で、息子役の岡本圭人と母役の若村麻由美が登壇。自身が演じる役柄や作品への思いを語った。


三部作で母と息子を演じる若村麻由美(左)、岡本圭人(右)

日本では2019年に『Le Père(ル・ペール) 父』、2021年に『Le Fils 息子』が上演され、岡本圭人と岡本健一親子が息子と父役を演じて話題に。その作品で母親役を務めたのが若村麻由美だった。

同じ役者が異なる作品を同じ役名で共演する家族三部作。ゼレールが最初に手掛けた『La Mère 母』は、2010年にパリで初演されたのち様々な国で上演、女優イザベル・ユペールの主演でブロードウエイでも発表された。『Le Fils 息子』は、モリエール賞を獲得するなど演劇界から高く評価され、ゼレール自らが監督としてハリウッドで映画化。ヒュー・ジャックマン、ローラ・ダーンが出演し、日本でも公開された。また、『Le Père 父』も映画化され、父を演じたアンソニー・ホプキンスが主演男優賞、ほか、脚色賞も受賞するほど、それぞれが注目を集める作品となっている。

■母の役割をすることで「自分」という存在を見失った主人公
今回、演出家のラディスラス・ショラーから熱烈なオファーを受けて『La Mère 母』の主演を務める若村は「いよいよ三部作の完結です。ゼレール作品は本当に多面的で、家族の有り様みたいなものを問題定義してくれる。私の役名は3作品ともアンヌで、父を持つ娘の苦悩、息子を持つ母の孤独を経て、今回は息子が旅立っていく『母』を演じます。娘だった人が母になり、年頃の息子を持つ難しさを体験し、息子が旅立っていく混乱や喪失感を演じることは、年齢を重ねてきた今の自分にふさわしいなと感じています。夫婦や家族間でおこる出来事はフランスも日本も同じ。シリアスな物語のようでもクスッと笑える場面もあって、観終わったあとご自身のお母さんや息子、家族について語り合いたくなると思いますよ」。



「『La Mère 母』は、家族三部作の最初に出来上がった作品で、これはゼレールの母への思いなんです。愛する人と結ばれて2人の子供を育てた母親は、自分の人生をすべて家族のため捧げてきた。子供が年ごろになり家から離れていく時が来て、気が付くと、子供はもちろん夫に対してさえ母の役割をしてきてしまった。アンヌという個人は自分のなかにはもういないのだと初めて理解するわけです。その喪失感の中で混乱していくんですね。この世界観は、子供を持つ同世代の女性が共感してくださる作品だと思っていましたが、実は、男性からの支持も多い。でも、ゼレール自身が母を思って書いたと思えば、それも納得できる。母から生まれたすべての人が、母の思いを想像させる作品になっています」。

■本当の父子が親子役をすることで、生まれる奇跡がある
岡本圭人は「今回は2作品同時上演です。『Le Fils 息子』では18歳の少年ニコラを演じますが、父ピエール役は実の父が演じます。『La Mère 母』では25歳の青年ニコラ役。若村さん演じる母の頭の中をのぞいているような作品で、演出家ラディスラス・ショラーさんが生み出す若村さんのアンヌが本当に魅力的なんです。自然でありながら急に怒ったり泣いたり。次は何をするのだろうと予測できない。本当に魅了されますね。」と話した。

「ゼレールさんが書く物語は、すごくシンプルな言葉でありながら、リアリティのあるセリフが出てくるんです。しかも、父に強い言葉を放ったら、それと同じセリフを『La Mère 母』で母に対して使ったりと、まるで同時上演をするために書いたんじゃないかと思うくらいセリフがリンクしているんですね。さらに言うと、最終的な答えを出さないのも特徴的。答えはお客様自身が作るもの、という書き方なんです。謎があるんです。だから『La Mère 母』『Le Fils 息子』の両方を観ると、それぞれの理解が深まったり、どちらを先に観るかによっても解釈が変わったり。本当におもしろいです」。



親子共演について聞かれると「初演では僕自身が初舞台で尊敬する俳優としての父・岡本健一と仕事をすることが不安でした。稽古が進む段階で演出家のショラーさんに相談したら『僕は親子ではなく1人の役者として互いを見ているから、プロの役者としてニコラを演じることに集中してほしい』と言われたんです。そこから父が演じるピエールに向き合い一緒にお芝居が出来ました。なぜそのセリフを言うのか、どうしていうのか、それらをしっかり考えて舞台に立った時に、ニコラとして父ピエールに向き合ってお芝居が出来たという感覚です。闇を抱えてさまよう息子を愛をもって救おうとする父ピエールは、父にとっても演じるのが辛い作品だと思いますし、自分自身もニコラの気持ちに入り込むと彼の闇を感じ取れますから、お互い稽古は辛いんです。でも、それが俳優としてのおもしろさじゃないかなと思う。僕は、本当の親子が親子役をすることで生まれる奇跡があると思っていて、お互いがしっかり演じることで、よりリアルに物語を届けられるのではないかと。父の存在は大きいし、父の舞台を見て育ってきたので、大先輩と一緒に舞台に立てたのは特別なことです」と答えた。

それを聞いた若村は、ある取材現場で、父の岡本健一が息子を役者として認めているというコメントを聞き、感動して泣いてしまったと裏話を披露。「岡本圭人という役者さんが初演から2年半の間、懸命に経験を積んできた証だなと思うんです。今回も、作品への理解が深まっているのを感じます。初舞台で役者が誕生した瞬間に立ち会ったので、私の中に岡本圭人という役者を観る楽しみがある。溺愛しないように気を付けながら、舞台では一役者として戦えるようがんばりたいですね」と言うと岡本は「若村さんは演劇界の母。たくさんのことを教えてもらいました」と語り、2作品への期待がさらに高まる会見となった。

取材・文・写真:田村のりこ

『La Mère 母』5/10(金)18:00・11(土)12:00 
◎出演/若村麻由美、岡本圭人、伊勢佳世、岡本健一
『Le Fils 息子』5/11(土)17:00・12(日)13:00 
◎出演/岡本圭人、若村麻由美、伊勢佳世、浜田信也、木山廉彬、岡本健一
◎作/フロリアン・ゼレール ◎翻訳/齋藤敦子 
◎演出/ラディスラス・ショラー
■会場/兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 
■料金(税込)/全席指定 8500円 

詳細・お問い合わせ:兵庫県立芸術文化センターチケットオフィス
TEL:0798‐68-0255(10:00~17:00、月曜休※祝日の場合は翌日)
公演の詳細はコチラ→ https://www1.gcenter-hyogo.jp/news/2024/01/lefils-lamere.html