2025年07月07日 <記者発表レポート> 桂かい枝 英語落語会 今年の夏は英語でRAKUGO
フェニーチェ堺での独演会でお馴染みの桂かい枝が、満を持しての英語落語会。英語ならではの笑いを凝縮して披露。
NHKワールドテレビ「RAKUGO NIPPON」の出演や世界最大の芸術賞「エジンバラ・フェスティバル・フリンジ」での英語落語で5つ星を獲得するなど、英語落語の第一人者となった桂かい枝が、万博Yearのこの夏、英語落語会を開催。桂かい枝のもうひとつの芸を堪能いただけるチャンスだ。
堺といえば、もともと世界に開かれた国際都市だった歴史があります。その地で初めての英語落語会をやらせて頂くので気合いが入っております。
初めて落語に触れるお客さんや、お子さまにも楽しんでいただけるような趣向で臨みます。教科書にも載っている「動物園」「いらち俥」という有名な演目を、日本人のどの世代の方にも笑って頂ける内容で考えています。共演ではスウェーデン人の三遊亭好青年さんによる「寿限無」「時そば」を演じて頂き、また海外公演でご一緒してきたラッキー舞さんの太神楽とバラエティ豊かに楽しんで頂きます。
---フェニーチェ堺さんでは多くの方が落語会をされていますが、会場が良いのですか?
お客様との目線がちょうど良くて、客席との一体感の生まれる良いホールなんです。お客様も落語家の表情や仕草をしっかり楽しんで頂けるんだと思います。それと、日々、クラシックコンサートやオペラを楽しんでおられるお客様の文化度も高いのでやり甲斐もありますね。
----97年からライフワークとして実践されてきた英語落語は、時代が変わってきている感覚はありますか?
英語落語を演じ始めて、もう30年近くになりますが、ずっと一緒に英語で落語をやって来た桂三輝(サンシャイン)という仲間は、米国のブロードウェイや英国のウェストエンドでのロングランで公演を成功させていたりして、ようやく世界的にRAKUGO SHOWが認知されてきたなという時代の変化は感じます。和食や日本酒と同じく世界の人にRAKUGOという芸能を知って頂けるようになったなと思いますね。
---日本語で演じられる落語と、英語でのRAKUGOは、どのあたりに違いがあるんでしょうか?
日本の芸能は”間の芸”とよくいわれます。落語も一緒で”間”を大切にしますが、英語での話芸となると“押しの強い芸”となります。とにかく前に前に出るような演出になりますね。ですから落語とRAKUGOには違いがあります。今回はそのどちらも行ったり来たりしながら楽しんで頂けるようにと工夫しています。
---共演されるおふたりのことを教えてください。
三遊亭好青年さんは、スウェーデン人ですから、日本語、英語、スウェーデン語という三カ国語で落語をされるんですが、とにかく日本の落語という話芸に惚れ込んだ面白い方です。今回はすべて英語で、有名な「寿限無」と「時そば」を演じていただきます。
ラッキー舞さんは、ご一緒に海外公演も多い方で、やはり曲芸というわかりやすい芸ですからお客様にはウケますね。最高に楽しんでいただけると思いますよ。
----かい枝さんが演じられる「動物園」「いらち俥」という噺はどんなものですか?
どちらも落語の素晴らしい古典ですが、今では英語で演じることが多くなった、私にとって定番の噺です。やはり英語なので、細かい部分の演出は、細かくアレンジをしています。毎回英語ネイティブの方の意見を取り入れて完成した二席です。そのあたりは旧くからの落語ファンにも楽しんでいただけるんじゃないかと思います。
---いろんな楽しみ方が出来そうな落語会になりそうですね。
落語が初めての方、ゴリゴリの落語ファンの方、あるいは英語が苦手な人も英語好きな人も、みなさんに楽しんでいただける一日にしたいと思っております。若い方のためのUNDER25でのチケットもありますので、どうぞご家族みなさんで楽しんでください。お待ちしております。
◎Interview & Text/石原卓
8/2 SATURDAY【チケット発売中】
桂かい枝 英語落語会
■会場/フェニーチェ堺 小ホール
■開演/15:00
■料金(税込)/全席指定¥3.000 U-25 ¥2,000
■お問い合わせ/フェニーチェ堺 072-223-1000 (9:00~20:00)
~主な演目~
■桂かい枝
1. 落語の解説(What’s Rakugo?)
2. 小噺10連発(Short Stories)
3. 動物園(The Zoo)
4. いらち俥(A Man In A Hurry)
■ 三遊亭好青年
1. 寿限無(Jyu Ge Mu)
2. 時そば(Time Noodle)
■ ラッキー舞
1. 太神楽(Daikagura)
2025年07月05日 <内覧会レポート>大カプコン展―世界を魅了するゲームクリエイション
「ストリートファイター」「バイオハザード」「モンスターハンター」などの人気シリーズを開発してきたゲームメーカー「カプコン」の優れたクリエイションをひもとく展覧会が名古屋市美術館で開幕した。ここでは初日前日に行われた内覧会の様子をレポートします!
全体は3つの主要パート+ボーナスステージ&ファイナルラウンドで構成されている。会場に入るとまず人気キャラクターたちのアニメーションが来場者をお出迎え。気分もアガる! ラウンド1「カプコンゲームクロニクル」ではゲーム業界の雄カプコンという企業の歴史、主要タイトルのキャラクターに関する開発資料、歴代タイトルのパッケージに採用されたイラストの原画や発売当時のポスターなどが展示され、この企画が美術館で開催されていることにも理解が深まる。

ポスター、パッケージ展示©️CAPCOM
ラウンド2「テクノロジーとアイデアの進化」に移ると、「新旧 波動拳の作り方」と題して「ストリートファイターⅡ」と「ストリートファイター6」を比較するなど、さらにファン垂涎のコーナーが目白押し。また本展は鑑賞するだけでなく体験型の展示も多いのが魅力で、「フェイシャルトラッキングミラー」のコーナーでは鏡のようなモニターの前に座ると、そこに映るキャラクターが来場者に合わせて表情を変化させる。これがリアルタイムで連動するから面白い。

フェイシャルトラッキングミラー©️CAPCOM
後半に進むと他にも、ゲーム開発に欠かせない技術を気軽に疑似体験できる「モーションキャプチャーミラー」があり、全身で楽しめるだけに子どもも大人もハマりそう。さらにドット絵を制作体験できる「カプコンピクセルラボ」にも思わず熱くなる!

モーションキャプチャーミラー©️CAPCOM
ラウンド3「ファンタジーとリアリティ」でもプロジェクションマッピングなどの技術が間近で見られ、ゲーム開発の発展はテクノロジーの進化とともにあることが実感できる。株式会社カプコンのプロデューサ・牧野泰之さんも会見で述べていたとおり、最新のデジタル技術を駆使したゲーム開発の裏側を知ることは、ゲームファンやその道を志す人に限らず、さまざまな分野のクリエイターにも大きな刺激や学びとなるはず。開発者たちのインタビュー映像などもあるので、何かを生み出すことへの情熱や喜びを感じてほしい。

プロジェクションマッピング©️CAPCOM
なお、展覧会グッズも充実。名古屋会場から追加された新作もあるので要チェック!
◎Interview&Text/小島祐未子
7/5 SATURDAY~9/7 SUNDAY【チケット発売中】
大カプコン展―世界を魅了するゲームクリエイション
■会場/名古屋市美術館
■開館時間/9:30~17:00
※金曜日は20時まで。入場は閉館30分前まで。
■休館日/毎週月曜日、7月22日(火)
※7月21日(月)、8月11日(月)は開館。
■料金(税込)/当日 一般¥2,500 当日高大生¥1,800 当日小中生¥500
■お問合せ/事務局 TEL.052-955-6791(開館日9:30~17:00 ※金曜日~20:00)
*チケット購入はこちら
2025年07月01日 <公演直前レポート> デルヤナ・ラザロワ インタビュー
日本センチュリー交響楽団 第291回 定期演奏会にて指揮をつとめるデルヤナ・ラザロワ。日本初来日の彼女に今の心境や、今回の演目について話を聞いた。

©Marco Borggreve
―― 今回が初来日とお聞きしました。まずは自己紹介をお願いします。
デルヤナ・ラザロワと申します。指揮者であり、ヴァイオリニストでもあります。ブルガリア生まれですが、現在はスイスのチューリッヒに住んでいます。
―― 日本について、あるいは日本のクラシックマーケットについてどんなイメージを持たれていますか。
物心ついた頃からずっと日本を訪れることを夢見てきました。訪日が決まり、夢が叶いました。この美しい国を訪れ、日本センチュリー交響楽団と読売日本交響楽団という2つの素晴らしいオーケストラと共演する機会をいただけたことは、この上なく光栄なことです。音楽という共通の言語を通して演奏家の方々と出会い、心を通わせることを心待ちにしています。日本について考えるとき、いつも思い浮かべるイメージは、息を呑むほど美しい満開の桜です。象徴的で、穏やかで、深い洞察を与えてくれます。
―― 今シーズン、日本センチュリー交響楽団の定期演奏会では、音楽監督の久石譲の意向で、プログラムにベートーヴェンの交響曲と、1950年以降の現代音楽を取り上げることがルールとなっています。その事について感想を聞かせてください。
クラシック音楽の伝統と現代世界をつなぐという発想は、深淵な意味を持ち、深く美しいものであると感じます。私はあらゆるコンサートで現代音楽が演奏されるべきだと心から信じています。現代音楽こそが、私たちの時代を語り、現代の世界を映し出す音楽なのですから。
―― ベートーヴェンについて、ラザロワさんの思いを聞かせてください。交響曲の中で、第4番についての聴き所を教えてください。
この交響曲を愛する理由はたくさんあります!私にとってかけがえのない作品であり、まさに傑作です。大阪の聴衆の皆様と分かち合えることを大変嬉しく思っています。ベートーヴェンの交響曲の中でも「古典派」とされることが多いこの曲は、その構成は伝統にしっかりと根ざしており、交響曲第3番「英雄」や交響曲第5番「運命」で聴かれるような大胆な革新とは異なります。しかし、こうした古典的な枠内でも、ベートーヴェンはこの形式を完璧に掌握し、最もむだのない手段を用いて鮮やかな音楽的情景を描き、心を揺さぶる物語を語る並外れた才能を発揮しています。この交響曲は、後世の作曲家たちにインスピレーションを与え、不朽の遺産として残されています。例えば、冒頭部分を例に挙げてみましょう。マーラーの交響曲第1番の冒頭に、この曲の響きを感じずにはいられないでしょう。
―― キャロライン・ショウのことも、今回取り上げられる作品のことも、日本ではあまり知られていません。この曲をとりあげられた理由と、聴き所を教えてください。
この作品は色彩豊かで個性豊かな作品です。弦楽器のみで作曲されたにもかかわらず、作曲家によるテクスチャーと古典的な形式を巧みに用いた想像力豊かな演奏が、真に卓越した作品となっています。構成とコンセプトはハイドンの弦楽四重奏曲作品77-2のメヌエットに着想を得ていますが、結果的に全く新しい作品となっています。独創的な技法と繊細な効果によって、この音楽は私たちを全く新しい、美しく独特な音の世界へと誘います。
―― 1曲目でラヴェルの組曲「クープランの墓」を取り上げられます。この曲の聴き所と、今回のプログラムをこの曲から始められた思いをお聞かせください。
形式とスタイルの両面で過去を反映した、もう一つの作品をご紹介します。プログラムに予定されている3つの作品には、繊細な繋がりがあります。それぞれが当時の音楽史のトレンドを背景にしながらも、同時に新鮮な何かを提示し、聴き手に新たな感情と音楽の平面を解き放ちます。多くの点で、この曲は木管楽器のための協奏曲のように感じられ、豊かな美しいソロが木管楽器の音色を際立たせています。組曲の各楽章がそれぞれ独特の個性を持っているため、私のお気に入りの1つです。新古典主義の伝統に根ざしながらも、ラヴェル特有の音がはっきりと響き渡ります。特に絶妙な不協和音の瞬間は、彼の作曲の才能だけでなく、オーケストレーションにおける並外れた才能も際立たせています。
―― 日本でコンサートの指揮以外で、やりたいことや、行きたいところを教えてください。
日本で過ごす時間を最大限に使って、できる限り多くの場所を探索したり美術館を訪れたり景色の良いハイキングに出かけたりするつもりです。そしてもちろん、噂に聞いていた素晴らしい料理を堪能します。
―― 最後に、ファンのみなさんへメッセージをお願いします。
皆さんにお会いして、この美しい音楽を分かち合えることを心から楽しみにしています。今回がこの素晴らしい日本を、これからも何度も訪れるための始まりとなることを願っています。これこそが、まさに夢見てきたこと。これから何が起こるのか今から待ちきれません!
◎Interview&Text/磯島浩彰

■公演情報
第291回 定期演奏会
2025年07月25日(金) 19:00開演(18:00開場)
ザ・シンフォニーホール
S 10,000円(特典付)A 7,000円 B 5,500円 C 4,000円 D 3,000円
指揮:デルヤナ・ラザロワ
ラヴェル:組曲「クープランの墓」 (管弦楽版)
C. ショウ:アントラクト
ベートーヴェン:交響曲 第4番 変ロ長調 作品60
■チケット予約
センチュリー・チケットサービス
TEL 06-6848-3311(平日10:00-18:00)
ネット予約(24時間)
https://yyk1.ka-ruku.com/jcso-s/showList
6/20(金)に愛知・メニコンシアター Aoiで開催される加藤訓子プロデュース「STEVE REICH PROJECT 2025 愛知公演『QUARTET』」は、ミニマル・ミュージックの巨匠 スティーブ・ライヒの名作を加藤と4人の打楽器奏者による演奏で甦らせます。躍動感溢れる圧巻のパフォーマンスは、皆さんを新たな音楽体験へと誘うに違いありません。
今回はこの公演に抽選で最大10名様をご招待いたします。おひとり様でも同伴でのご応募でも可能です。ご希望の方はご希望の方は住所・氏名・年齢・ご連絡先、希望枚数(1枚または2枚)と共に、加藤訓子公演希望と明記の上、当ホームページの「CONTACT」よりメールにてご応募ください。
応募〆切は6/16(月)深夜24:00メール到着分までです。当選者の方には別途ご連絡申しあげます。
<公演情報>
6/20 FRIDAY 【チケット発売中】
加藤訓子プロデュース
STEVE REICH PROJECT 2025 愛知公演『QUARTET』
◼️会場/愛知・メニコンシアター Aoi(愛知県名古屋市中区葵3丁目21−19)
◼️開演/19:00(開場/18:30 終演/20:30)
◼️料金(税込)/一般¥5,000 U25¥3,000 ほか
◼️お問合せ/芸術文化ワークス事務局 tel. 080.5075.5038 | info@npo-artsworks.org
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2024年1月、神奈川県の病院で本名を名乗り、4日後に死亡した「東アジア反日武装戦線」メンバーで指名手配犯の桐島 聡(きりしまさとし)。素性を隠し、偽名で49年間も逃げ続けたこの男の日々を描いた映画『「桐島です」』が7月4日(金)、全国で公開となる。監督は高橋伴明。「桐島聡役のオファーを受けた時、うれしい反面、自分に務まるのかという怖さもあった」と言う主演・毎熊克哉に、どんな思いでこの役を演じ、桐島の逃亡生活をどう紡いでいったのか話を聞いてみた。

■当時の空気感を知るところから始めた役作り
桐島は「東アジア反日武装戦線」メンバーで、1970年代に起こった一連の連続企業爆破事件に関与した容疑者として指名手配されていた。1987年生まれの毎熊にとって桐島 聡の存在は記憶の中にあったのか?連続企業爆破事件が起こった1974年当時の時代感をどうやってつかんでいったのだろう。
「そもそも連続企業爆破事件の知識がなかったので、高橋監督をはじめ当時を知る人たちの話を聞いたり、本を読んだり。でも、本のなかに桐島の情報がほとんど出てこないんです。だから、桐島の〝かけら″を集めていきました」と振り返る。
■桐島 聡の印象は、笑顔の指名手配写真
では、桐島聡という人物そのものについて、認識はあった?
「僕は、38歳なんですが、子供のころからずっと指名手配のポスターが貼ってありました。だからもう勝手に刷り込まれていて。知っているけど知らない、でも知っているみたいな感じっていうんですかね。そのなかで、なんでこんなに覚えているのかと考えると、やっぱり笑顔ですよね。こんな風な笑顔を見せる人なんだと。爆破事件の指名手配犯なのに、すごくさわやかで、どう見ても普通の大学生。そこが違和感として残っていたのだと思う」と話す。動画も参考にしたそうで「ミュージック・バーで『イエーイ』とはしゃいでいる動画が残っていて、人の良さというか、それも役作りの参考になりましたね。でも難しかったです。あまりに謎すぎてなぞることができないので、想像力と台本の力で演じていきました。最後どうやって『桐島です』と名乗ったのかな?と想像しながら、約50年分のシーンを生きていくという感じです」と話す。
■彼が聞いていたブルースや、愛した女性の存在も桐島像の肉付けに
桐島という人物を肉付けしていくときに、役に立ったのは、劇中に登場する曲や愛した女性の存在だったそう。どんなところに注目を?
「彼がよく聞いていたのは、ブルースなんです。もともと僕もファンク、ソウルなどのブラックミュージックが好きなんですが、桐島はブルースが好きだったというところに興味を持ちました。元をたどれば、奴隷としてアフリカから連れてこられた黒人たちが奏でたメロディ。そんな音楽を聞いて、抒情的なものを受け取る力がある人なんだなと思うと、大きなヒントになりましたね。女性との関わりもそう。桐島は女性から愛される魅力もあったんだと。劇中では桐島自身もドキドキしちゃって、つまらない冗談を言う場面もありますが、そういうところも自分にとってはすごく助けになりました」と役作りのポイントを教えてくれた。

■出身地が同じ広島。共通する思いはある。もし、出会った人が違ったら…
桐島聡と毎熊は出身地が同じ広島県の福山市出身。桐島を演じることになった毎熊は「これも何かの縁なのかなと思った。それに、田舎から東京へと出て行った人の気持もわかる」と話す。「田舎者ですよね、簡単に言ったら。カルチャーショックはあったと思うんです。東京では桐島のちょっと上の世代が学生運動をやっていたけれど地元では無縁といってもおかしくない。カルチャーショックが凄かったと思うんです。だから、東京に行って、出会った人が違えば、ぜんぜん違う道へ進んだんじゃないか。違う戦い方もあったのかも」と桐島に思いを馳せる。
「ただ、演じるにあたり、弱者に寄り添う優しさを意識しすぎるのもちょっと違うかなとも思っていました。例えば、おばあちゃんがミカンを落とした時、拾ってあげることぐらいはするでしょう。優しさというよりは普通の思いやり。この人は本当に我々に近い感覚だったのではと。そのくらいの気持ちでいましたね」。
■被害者がいる事件。桐島をいい人に仕立てることはしないよう気を配った
連続企業爆破事件は、犯人側が想定しない犠牲者を出してしまった。本来はけが人さえ出さないよう計画が練られたが、結果的に犠牲者が出てしまう。犯人側の桐島 聡を演じるにあたり、被害者への思いは?
「あります。本を読むと、遺族のお話も出てくるんです。桐島は、死者が出た三菱重工爆破事件には直接関わってはいないとしても、世間は同じだと思うだろう、というのはありますよね。そんな奴らの映画を観てられるかという声も出るだろうとは思いました。映画としては桐島のいろいろな部分が垣間見えるんですけど、事件を起こした犯人と普段の暮らしぶり、そのギャップがあるからいい人に見えるだけであって。なので、極力、善人として仕立てないようにはしようと。そういう感覚で挑もうと思ってましたね」。
■タイトルにもなった「桐島です」という言葉。どんな思いで名乗った?
最初に仲間への挨拶として登場する「桐島です」、そして自分の本名を告白するドラマティックな場面での「桐島です」。このセリフについてどんな思いを持っているのか聞いてみると…。
「最初は、ただの青年・桐島として、ごく普通の挨拶。後半の〝桐島です″は、本当に撮影の最後に撮った場面なのですが、どういうトーンで、あり方でこのセリフを言うかずっと悩んでいましたね。考え抜いた結果、茫然と死を目の前にして何も考えることなく、ただ自分の名を名乗ることにしました。最後は本名で死にたかったんじゃないか、あるいは大好きだった女の子に本名を言えたらよかったんじゃ?そういう思いもありました。ただ、勝利宣言のように自分は逃げ切ったんだ!という方向でいくと、他のシーンが薄まってしまうとも思って。もし、あの場面が序盤や中盤にきていたら、もっといろんなことを考えて演技しちゃってた気がする。たくさんのシーンが蓄積されて、最後の最後にただ自分の名を名乗るという事。それがいちばん自分にはまりました」。

■逃亡を続ける桐島は、もはや〝時代おくれ″だったのか?
逃亡生活の中で、桐島に愛する女性ができてしまう。彼女はシンガー。河島英五の名曲『時代おくれ』を歌う彼女に心を寄せていく。逃亡を続ける桐島は、果たしてもはや時代遅れの指名手配犯だったのだろうか?
「この曲、ぎりぎりに決まったんですよ。でも、ぴったりだなと。時代おくれ、という言葉からくる〝取り残されていく孤独感″というのはめちゃくちゃ感じましたね」と桐島への思いを語る。
「桐島が若いころは、正義感や理想があったと思うし、劇中でいうと〝もっと優しさのある国″になればいいのに、という気持ちがあったんだと思うんです。現代のSNSで人を叩く姿勢を見ていると、それこそ〝優しさを組織せよ!″と言いたくなるくらいです。当時の若者は理想に向かって戦った、でも約50年近く経ったのに、まだこんな状況で、もう自分たちがやったことはあまり意味がなかったんじゃないか、望む優しさは感じられないというさみしさ。僕は勝手にそれを感じましたよね」。
■映画を観たお客さんにも考えてほしい。どういう思いがあったのか
でも「まだまだ疑問や思いは僕の中でも残っている」という毎熊。「例えば、僕のじいちゃんにしても、なんであの形見を自分にくれたのかな、最後になんで笑ったのかなとか、結局、本人じゃないからわからないじゃないですか。だからこそ、映画を観終わったあとに、みんなで『なんだったんだろうね』『僕はこう思う』と話ができるようなものになったらいいなと思っています。
■映画は一つの武器。当時の、熱い時代の若者たちへの想いも
「映画の存在って、ひとつの武器のような気がしている」と毎熊は話を続ける。
「当時の若者は、現状に対して〝もっとより良い世界にならないのか″という怒りがあったんだと思う。現代は正しいかどうかもわからない情報が多く集まるし、それを見て良しあしを語るくらいで〝なぜそうなったのか″までは知らないことも多い。どうしてそれが起こっているのか、戦いをすることになったのかなど、知ろうという気持ちが大事な気がしていて。劇中で、なぜ桐島は怒っているのか、それを気に掛けるだけでもいいと思うんです。例えば、自分のことしか考えられなかった若者が、将来親になって自分の子供のことを考え始める。すると、いずれ社会は無関係じゃない現状になってくる。映画はエンタメのひとつですが、この作品を観たことがきっかけで、当時のことや今の世の中を考えるきっかけになればいいなと思います」。
◎Interview&Text/田村のりこ

■映画『「桐島です」』公式サイト
https://kirishimadesu.com/
2025年7月4日(金)全国公開
監督:高橋伴明
音楽:内田勘太郎
キャスト:毎熊克哉、奥野瑛太、北香那、原田喧太、山中聡、
影山祐子、白川和子、甲本雅裕、高橋惠子
2025年/日本/105分
配給:渋谷プロダクション
