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岡本圭人&岡本健一が親子で再演!若村麻由美は〝母〟の孤独を熱演

現代フランス演劇界を牽引する劇作家フロリアン・ゼレールの家族三部作から『La Mère(ラ・メール) 母』『Le Fils(ル・フィス) 息子』の同時上演が決定。3月15日に行われた記者会見で、息子役の岡本圭人と母役の若村麻由美が登壇。自身が演じる役柄や作品への思いを語った。


三部作で母と息子を演じる若村麻由美(左)、岡本圭人(右)

日本では2019年に『Le Père(ル・ペール) 父』、2021年に『Le Fils 息子』が上演され、岡本圭人と岡本健一親子が息子と父役を演じて話題に。その作品で母親役を務めたのが若村麻由美だった。

同じ役者が異なる作品を同じ役名で共演する家族三部作。ゼレールが最初に手掛けた『La Mère 母』は、2010年にパリで初演されたのち様々な国で上演、女優イザベル・ユペールの主演でブロードウエイでも発表された。『Le Fils 息子』は、モリエール賞を獲得するなど演劇界から高く評価され、ゼレール自らが監督としてハリウッドで映画化。ヒュー・ジャックマン、ローラ・ダーンが出演し、日本でも公開された。また、『Le Père 父』も映画化され、父を演じたアンソニー・ホプキンスが主演男優賞、ほか、脚色賞も受賞するほど、それぞれが注目を集める作品となっている。

■母の役割をすることで「自分」という存在を見失った主人公
今回、演出家のラディスラス・ショラーから熱烈なオファーを受けて『La Mère 母』の主演を務める若村は「いよいよ三部作の完結です。ゼレール作品は本当に多面的で、家族の有り様みたいなものを問題定義してくれる。私の役名は3作品ともアンヌで、父を持つ娘の苦悩、息子を持つ母の孤独を経て、今回は息子が旅立っていく『母』を演じます。娘だった人が母になり、年頃の息子を持つ難しさを体験し、息子が旅立っていく混乱や喪失感を演じることは、年齢を重ねてきた今の自分にふさわしいなと感じています。夫婦や家族間でおこる出来事はフランスも日本も同じ。シリアスな物語のようでもクスッと笑える場面もあって、観終わったあとご自身のお母さんや息子、家族について語り合いたくなると思いますよ」。



「『La Mère 母』は、家族三部作の最初に出来上がった作品で、これはゼレールの母への思いなんです。愛する人と結ばれて2人の子供を育てた母親は、自分の人生をすべて家族のため捧げてきた。子供が年ごろになり家から離れていく時が来て、気が付くと、子供はもちろん夫に対してさえ母の役割をしてきてしまった。アンヌという個人は自分のなかにはもういないのだと初めて理解するわけです。その喪失感の中で混乱していくんですね。この世界観は、子供を持つ同世代の女性が共感してくださる作品だと思っていましたが、実は、男性からの支持も多い。でも、ゼレール自身が母を思って書いたと思えば、それも納得できる。母から生まれたすべての人が、母の思いを想像させる作品になっています」。

■本当の父子が親子役をすることで、生まれる奇跡がある
岡本圭人は「今回は2作品同時上演です。『Le Fils 息子』では18歳の少年ニコラを演じますが、父ピエール役は実の父が演じます。『La Mère 母』では25歳の青年ニコラ役。若村さん演じる母の頭の中をのぞいているような作品で、演出家ラディスラス・ショラーさんが生み出す若村さんのアンヌが本当に魅力的なんです。自然でありながら急に怒ったり泣いたり。次は何をするのだろうと予測できない。本当に魅了されますね。」と話した。

「ゼレールさんが書く物語は、すごくシンプルな言葉でありながら、リアリティのあるセリフが出てくるんです。しかも、父に強い言葉を放ったら、それと同じセリフを『La Mère 母』で母に対して使ったりと、まるで同時上演をするために書いたんじゃないかと思うくらいセリフがリンクしているんですね。さらに言うと、最終的な答えを出さないのも特徴的。答えはお客様自身が作るもの、という書き方なんです。謎があるんです。だから『La Mère 母』『Le Fils 息子』の両方を観ると、それぞれの理解が深まったり、どちらを先に観るかによっても解釈が変わったり。本当におもしろいです」。



親子共演について聞かれると「初演では僕自身が初舞台で尊敬する俳優としての父・岡本健一と仕事をすることが不安でした。稽古が進む段階で演出家のショラーさんに相談したら『僕は親子ではなく1人の役者として互いを見ているから、プロの役者としてニコラを演じることに集中してほしい』と言われたんです。そこから父が演じるピエールに向き合い一緒にお芝居が出来ました。なぜそのセリフを言うのか、どうしていうのか、それらをしっかり考えて舞台に立った時に、ニコラとして父ピエールに向き合ってお芝居が出来たという感覚です。闇を抱えてさまよう息子を愛をもって救おうとする父ピエールは、父にとっても演じるのが辛い作品だと思いますし、自分自身もニコラの気持ちに入り込むと彼の闇を感じ取れますから、お互い稽古は辛いんです。でも、それが俳優としてのおもしろさじゃないかなと思う。僕は、本当の親子が親子役をすることで生まれる奇跡があると思っていて、お互いがしっかり演じることで、よりリアルに物語を届けられるのではないかと。父の存在は大きいし、父の舞台を見て育ってきたので、大先輩と一緒に舞台に立てたのは特別なことです」と答えた。

それを聞いた若村は、ある取材現場で、父の岡本健一が息子を役者として認めているというコメントを聞き、感動して泣いてしまったと裏話を披露。「岡本圭人という役者さんが初演から2年半の間、懸命に経験を積んできた証だなと思うんです。今回も、作品への理解が深まっているのを感じます。初舞台で役者が誕生した瞬間に立ち会ったので、私の中に岡本圭人という役者を観る楽しみがある。溺愛しないように気を付けながら、舞台では一役者として戦えるようがんばりたいですね」と言うと岡本は「若村さんは演劇界の母。たくさんのことを教えてもらいました」と語り、2作品への期待がさらに高まる会見となった。

取材・文・写真:田村のりこ

『La Mère 母』5/10(金)18:00・11(土)12:00 
◎出演/若村麻由美、岡本圭人、伊勢佳世、岡本健一
『Le Fils 息子』5/11(土)17:00・12(日)13:00 
◎出演/岡本圭人、若村麻由美、伊勢佳世、浜田信也、木山廉彬、岡本健一
◎作/フロリアン・ゼレール ◎翻訳/齋藤敦子 
◎演出/ラディスラス・ショラー
■会場/兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 
■料金(税込)/全席指定 8500円 

詳細・お問い合わせ:兵庫県立芸術文化センターチケットオフィス
TEL:0798‐68-0255(10:00~17:00、月曜休※祝日の場合は翌日)
公演の詳細はコチラ→ https://www1.gcenter-hyogo.jp/news/2024/01/lefils-lamere.html


日本センチュリー交響楽団「第281回定期演奏会」(2024年4月12日 ザ・シンフォニーホール)に、ピアニストの小林愛実がソリストとして出演する。

2023年の元旦、小林はピアニスト反田恭平との結婚&妊娠をSNSで報告し、その後、産休・育休のためコンサート活動の休止期間に入った。昨年4月に予定されていた日本センチュリー交響楽団の定期演奏会の出演は取り止めとなったが、出産を終え、コンサート活動の再開を受けて、同定期演奏会への出演が改めて決まった。リサイタルツアーで多忙を極める小林愛実に話を聞いた。


©HOSOO CO., LTD

――日本センチュリー交響楽団の「第281回定期演奏会」が目前に迫って来ました。

改めて声を掛けて頂いた日本センチュリー交響楽団の皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。今回、私からラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」をリクエストさせて頂きました。出産を経験したこともあって、何か新しい曲に取り組みたいと思い、かねてより弾いてみたいと願っていたこの曲を選びました。指揮の秋山和慶先生は、これまでに何度もご一緒しているので、安心してセンチュリーの皆さまとの共演を楽しみたいと思っています。

――子供の頃からご活躍ですが、人知れず大変な事も多かったのではないでしょうか。

7歳の時にはオーケストラと共演し、CDデビューが14歳。20歳の時には初めてショパンコンクールに挑戦しました。早くからピアノひと筋でやって来たこともあり、私は本当にピアノが好きなのか。このままピアノを弾いていて良いのかと考え、悩んだこともありました。17歳から20歳くらいの時です。

――その状況を、どうやって乗り越えられたのですか。

ある時、母親から「ピアノが全てではないし、貴方がやりたいことをやればいいのよ」と言われました。よほど辛そうに見えたのかもしれません。その一言で気持ちが楽になりました。そして20歳の時に出場した1度目のショパンコンクールで、気持ちが吹っ切れました。当初、やめる為のケジメを付けるくらいの気持ちでコンクールに臨んだのですが、ファイナルまで進み、念願のコンチェルトを弾く事が出来ました。嬉しかったですね。「やっぱりピアノが好きなんだ。これからもピアノを続けていこう!」と決意できたことが最大の収穫でした。入賞出来なかったことは、意外にもそれほど悔しさは無かったですね。それよりもピアノを続けて行く決意が固まったことに満足していました。

――2度目のチャレンジとなる2021年のショパン国際コンクールは、見事4位入賞されました。そして反田恭平さんが2位という結果で、大変話題となりました。結果には満足されているのでしょうか。

あまり満足はしていませんでしたが、すぐに結婚して子供も生まれ、もうコンクールに出ることはないし、まあいいかなという感じでしたね。「ピアノが好きかどうか」なんて言っていられる状況ではありません。少し前に起こった事も覚えていないほど忙しい毎日に追われています。


Photographer Makoto Nakagawa


――出産によって自分の中でのピアノの位置づけは変わりましたか。

変わりましたね。ずっと私にはピアノしかないと思っていましたし、ピアノを弾かない私って生きている意味があるのかなぁっていう感じだったのが、出産でピアノを弾かない時間を経験したことで、ピアノが全てでは無いことを実感しました。今は、ピアノも大事ですが、子供や夫、家族がいる事で、心に余裕が出来た気がします。昔の私は孤独だったのだと思いました。これまでは自分の為に頑張って来たけれど、自分を犠牲にしても子供の為に頑張れるという、こんな気持ちは初めてです。

――ピアノの音も変わったんじゃないですか。

昔は音が張り詰めていたのに、出産後は随分優しくなったねって言われます。気持ちがこれだけ変わったのだから、当然音楽も変わりますよね。子育ては大変ですが楽しいですよ。確かにピアノを弾く時間は減りましたが、ずっとこの状況が続く訳ではありません。いずれは子供が大きくなり、手を離れると思うので、今は目の前のことを楽しもうと思っています。

――現在、コンサートツアー中ですが、お子様はどうされているのでしょうか。

有難いことに私の両親が見てくれています。現在、夫もツアー中なので、全員で私の実家を拠点にしています。それが彼も子供との時間を取れて、移動も少なくピアノの練習も出来て、効率が良いと言ってくれます。私は泊りで地方に行っていても、家にベビーカメラを付けているので、どこからでも子供の様子を見ることが出来ます。子供に話しかけることも出来、集中してピアノの練習も出来ます。この形が理想的で、恵まれていると思います。

――ショパン国際コンクールの2位と4位のお二人の結婚は、皆が驚きました。

そうでしょうね。幼馴染で時にはライバルということもありましたが、二人にとっては自然な形でした。同業者だからこそ理解できる事が多く、私は良かったと思っています。本番前の精神状態や、音楽的な事でも分かり合えます。たまに演奏会を聴きに来られると、緊張します。良かったよ!と言って貰ったとしても、全部見抜かれています。どうだったと聞かない限り、細かな話はお互いにすることはありません。専門的な話や、プログラムの曲順なども相談できるのは同業者ならでは。私は楽しいですよ。彼は色々と新しい発想を持っていて、人を引き付ける魅力もある人なので、良い音楽家になって、自分の夢を実現して欲しいと願っています。

――小林さんが描く、ご自身のピアニストとしての将来像は。

やはり世界で演奏できるようなピアニストになりたいです。その為に、今出来ることを順番にやって行こうと思っています。50年後といえば80歳前ですが、その時に夢が叶っていたらいいなぁと思います。

――好きなピアニストや、目標にしているピアニストはいますか?

ラドゥ・ルプーがいちばん好きで、彼の音源ばかり聴いています。他にはラローチャやホロヴィッツは、一度実演を聴いてみたかったです。シフやアルゲリッチも好きですが、事務所が私と同じカジモトということもあって、お会いしたことがあります。

――ピアニストは自分の楽器を持たず、行った先のピアノを使用して演奏します。

最近はどこのホールにも素晴らしい楽器が置いてあるので、特に問題はありません。ずっとお世話になっている調律師の倉田尚彦さんに、スケジュールが合えば来ていただいていたのですが、先ごろお亡くなりになりました。あまりにショックで、これからどうしようかと私同様不安に感じているピアニストが多いと思います。



――ザ・シンフォニーホールについては、どんな印象をお持ちですか。

何度も弾いていますが豊かな残響で、とても弾きやすいホールです。コンチェルトを弾くには、ちょうどいい大きさだと思います。楽屋にはピアノもあって快適です。

――最後に、日本センチュリー交響楽団の4月定期演奏会についてメッセージをお願いします。

秋山先生と日本センチュリー交響楽団の皆さまと、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」を演奏致します。ラフマニノフの協奏曲とは違ったこの曲の素晴らしさを、お客様と共有出来たら嬉しいです。ザ・シンフォニーホールでお待ちしています。

華やかな公演でスタートを切る日本センチュリー交響楽団の2024年度シーズン。人気の若手ソリストから、レジェンド級の巨匠マエストロまで、新シーズンも日本センチュリーの定期演奏会には豪華アーチストがずらりと並ぶ。そして2025年度シーズンからは、いよいよ首席客演指揮者の久石譲が音楽監督に就任する。話題の多い日本センチュリーの定期会員は、現在好評募集中。ザ・シンフォニーホールの決まった自分の席で、1年を通して日本センチュリーの活動を応援してみてはいかが⁈

取材・文 = 磯島浩彰

公演情報
第281回定期演奏会【チケット発売中】
2024年04月12日(金) 19:00開演(18:00)
ザ・シンフォニーホール

指揮:秋山 和慶/ピアノ:小林 愛実 

レズニチェク:歌劇「ドンナ・ディアナ」序曲
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
デュティユー:交響曲 第1番

※未就学児のご入場はご遠慮ください。
※やむを得ない事情により、出演者、曲目等に変更が生じる場合がございます。
予めご了承くださいませ。

チケット
S席/8,000円 サイン入りプログラム付き ※電話のみで取扱い
A席/6,500円 B席/5,000円 C席/3,500円 D席/2,000円
※税込・全席指定・未就学児童⼊場不可

主催 公益財団法人日本センチュリー交響楽団

公演情報ホームページ コチラ


市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿の襲名披露興行が名古屋にも上陸。御園座で2月に幕を開ける。この機に歌舞伎の初舞台を踏んだ長男、八代目市川新之助も当地初お目見え。夜の部では、親子そろって口上を行う。1月10日(水)のチケット発売に先駆ける12月25日に行われた、製作会見の模様をレポートします。


『吉野山』 佐藤忠信実は源九郎狐©️松竹

團十郎は「みなさま、メリークリスマス! 紋付でクリスマスっぽいところは全くないんですけど、わざわざお集まりいただきありがとうございます」と第一声。新之助も「お寒い中ありがとうございます。今日はよろしくお願いいたします」と挨拶し、大人びてきた様子を見せる。続けて團十郎は、市川宗家のお家芸であり歌舞伎十八番の中でも代表格と言える「勧進帳」をはじめ昼夜の構成について語った。

「昼の部は初めての方にも観やすく、夜は歌舞伎好きの方々にも納得いただける構成にしたので、名古屋の皆様にも楽しんでいただけたらうれしく思います。昼の部の『吉野山』は菊之助さんや雀右衛門のお兄さん、玉三郎のお兄さんなど様々な方とやってきて思い入れのある演目。『勧進帳』は家の芸でございますから、京屋のお兄さん(中村雀右衛門)、菊之助さんと一緒に、きちんと古典を観ていただきます」と團十郎。なお、同級生の菊之助には「幼い頃から共に時を過ごしてきましたので、他の歌舞伎俳優にはない“あ・うん”の呼吸ような、察することができる関係性がある」と語り、幼なじみならではの世界が生まれることに團十郎自身も期待を寄せていた。


『勧進帳』 武蔵坊弁慶=市川團十郎(撮影:操上和美)

一方の新之助は出演する『外郎売』について「襲名した時からやらせていただいて、すごく好きな演目。名古屋で歌舞伎をやるのは初めてなので緊張しますが、楽しんでほしい」と素直に話す。そんな息子に團十郎は「『外郎売』を極めてもらいたいので、名古屋で一区切りとなるよう徹底的にやらす」と言い、父であり師である顔をのぞかせた。同時に團十郎は新之助のこの一年を「目覚ましく進歩した」と振り返り、「積み重ねてきた日々がちゃんと実となり、お客様にも通ずる芸風に少しずつなってきている。本人もやる気があるので、御園座でまた一つ階段を上ってもらえたら」と冷静に評した。

2022年11~12月の歌舞伎座に始まり、博多座、旅巡業、京都・南座での顔見世と続いてきた襲名披露興行。しかし團十郎も新之助もいまだに実感がないようで、両人ともサインを書く時やっと「團十郎なんだ」「新之助なんだ」と思うと笑わせた。半面「まだ海老の殻の付いている團十郎ですが、実感する機会は増えた。だから荷が重い」と本音を漏らす場面もあった。


『外郎売』 外郎売実は曽我五郎=市川新之助©️松竹

途中、名古屋の思い出に話が及び、貴重なエピソードも……。「いちばん思い出深いのは19歳の頃、中日劇場で玉三郎のお兄さんと『天守物語』をやりまして」と切り出し、当時91歳だった大俳優・島田正吾の冗談話や、新人ゆえ宿舎と劇場の間を歩いて通勤したことなど回顧。おかげで向上心に火が着いた團十郎は「僕にとっていい経験だった」と懐かしむ。また新之助時代は御園座にも頻繁に出演。「音羽屋のおじさん(尾上菊五郎)や播磨屋のおじさん(中村吉右衛門)、うちの父、もっと上の天王寺屋のおじさん(中村富十郎)や宗十郎さん、京屋のおじさん(四代目中村雀右衛門)、ああいう方々がギシギシ、ガツガツ、バリバリ芝居しているのを後輩として横で見ていた」という証言には生々しさがある。

対して新之助は「御園座に出演したことがなく、新しくなった劇場を見たこともない」ので、あまり話ができないと苦笑い。それでも「京都には京都の伝統があるように、名古屋には名古屋の伝統があると思うので、その伝統を楽しみたいです」と笑顔。古典芸能の次代を担う存在から頼もしい言葉が聞けて、明るい希望を感じる会見となった。

◎Text/小島祐未子

2/1 THURSDAY~2/17 SATURDAY【1月10日(水)〜チケット発売】
二月御園座大歌舞伎
■会場/御園座
■開演/11:00/16:00
※2/5(月)・2/13(火)は休演。
■料金(税込)/S席¥24,000 A席¥20,000 B席¥15,000 C席¥9,000 D席¥4,000
※学生割引あり。詳細は劇場ホームページ参照。


『コーンフレーク』『凪の憂鬱』と、普段着の大阪を舞台に映画を撮り続けている磯部鉄平の新作映画『夜のまにまに』が完成した。主演は、数々のドラマに出演し現在『仮面ライダーガッチャード』に加治木涼役で出演中の加部亜門(かべあもん)と『猫は逃げた』の山本奈衣瑠(やまもとないる)だ。書き下ろし主題歌「朝までのブルース」を歌うのは奇妙礼太郎。映画の世界観が歌に溶け込んでいる。
そんな最新作が、12月16日(土)から2週間、ロケ地のひとつとなった第七藝術劇場(十三)で大阪先行上映を実施。約1か月大阪に滞在して撮影に参加した加部さんと磯部監督が当時の思い出をプレイバック。果たしてどんな日々だったのだろう。


磯部鉄平監督(左)、 加部亜門(右)

新平役に加部さんを選んだ理由は?
物語は、映画館で始まるボーイミーツガールストーリー。
映画館で出会って意気投合、夜の街で一緒に過ごした新平(加部亜門)と佳純(山本奈衣瑠)。その後、新平のアルバイト先に佳純が現れ働くことに。驚く新平をよそに「彼氏の浮気調査を手伝ってほしい」と頼む佳純。とまどいながらも佳純と2人で探偵のまねごとをすることになった。強引で真っすぐな佳純に翻弄される新平だったが、少しずつ魅かれ始めていった。

――子役から俳優人生をスタートし、数々のドラマや映画に出演してきた加部さんですが、今作は主演です。どんな気持ちでのぞみましたか?
加部「撮影中は自分のことだけ考えているわけにもいかないので、どうやったらいい雰囲気ですすめられるかなと考えていました。僕がこれまで参加してきた現場の座長さんたちはすごいなと思ったし、そういうことができるようにならなきゃいけないなとも思う。撮影が終わった後には、出演者と別れるのが名残惜しくて」と話す。
――加部さんの魅力とは?
監督「オーディションでの演技が、とにかくいい塩梅で。新平は、“あ~”“うっ”とか、言葉にならないセリフも多く、押しの強い女性に巻き込まれていく人物なので、それが絶妙に演じられる人だとわかったんです」
加部「僕は普段から、相手の演技から逆算して、どうセリフを言うか考えてるので。自分が佳純だったらこう言うな、じゃあそれを引き出すにはどうしたら?と。実際、新平という人は、いつも受け身で、自分から話しだすことってあまりないんです。だから、相手がどう出てくるか次第で演じようと思いました」。
監督「主人公は圧倒的に〝受け〟なんですよ。前作の『凪の憂鬱』でも主人公は〝受け〟なので、僕はそういう主人公が好きなのかもしれないですね」
加部「あ、僕、ナナゲイ(第七藝術劇場)で由紀恵(岬ミレホ)さんと新平が話すシーン、すごく好きですよ。珍しく新平が自分の気持ちをまじめにしゃべってるし、あのセリフを言葉にすることで、新平の輪郭がわかりやすくなるから、撮影当日まで、どうやろうかと悩んでたんです。でも、言葉を咀嚼していくと、自分でも腑に落ちた。いいですよね、あの場面」

オール大阪ロケ。主人公の出会いのシーンは監督の実体験
――今回も天満橋や中之島、十三などを巡って撮影が行われた。物語の始まりは今回先行上映が行われる第七藝術劇場。実はあの場面、監督の実体験がもとになっている。3人しかいないガラガラの映画館で、新平と佳純、そして夫に先立たれた由紀恵が出会う場面だ。


2人が出会うのは、第七藝術劇場

監督「あれは僕が20歳のころに、ナナゲイ(第七藝術劇場)で本当に起きたこと。映画を観に行ったらほぼ貸し切り状態で、どうせなら一緒に観ましょうと。そのあとみんなで飲みに行きました」
加部「そういう経験って、一生に一度あるかないかですよね」
監督「映画館にはいっぱい行ってますけど、あんなことがあったのは1回だけ。だから、強烈に覚えてるんじゃないかな」
加部「あの撮影では、たこ焼きを食べるシーンがあって、もうおなかいっぱいでした (笑)」

――1972年にオープンしたチャイカフェの老舗「カンテグランデ 中津本店」もロケ地として選出。こちらも監督がよく足を運んだ店なのだそう。
監督「カンテグランデは僕の好きな場所。若いころにずっと通ってたんです。新平のバイト先として選びましたが、ほんといいですよね」
加部「カンテは雰囲気がよくて。でも劇中、新平は一番長く働いているにもかかわらず、まかないカレーを一度も食べていない(笑)。佳純ちゃんは食べていたのに」

台本はどんどん進化。「新しい漫画の新刊が出る気分で読んでます」
――「そういえば」と加部さんが思い出したのは、急な台本の変更。何があった?
監督「台本を仕上げて、本読みをするために東京へ。でも何か足りないなと新幹線の中で考えていたら、急にあることを思いついたんです。それで台本を大きく変えました」
あることとは、黒住尚生さん演じる親友の役どころ。劇中でも新平の人生に深くかかわっていく。その存在がわかるシーンでは入り乱れる感情を表現する演技が必要で「あれは、何度も撮らないと完成しない場面だったので、自分でも混乱してきて大変でした」と振り返る。
加部「台本は、撮影に入っても変わるんです。今からロケハン行ってくるわ、みたいな時もあって(笑)」
監督「そうですね。例えば、役者さんがこんな風に演じてくれたから、じゃあ、こっちをこうしよう、という。なるほど、そうやってくれたんなら、いいね、じゃあこっちをこう変えてみようか、と。演じてもらうと、役者さんがどんどん新平や佳純になっていくので、自分一人で考えた台本より、それならこちらのほうがいいよね、と変わっていきます」
加部「そこまで毎日台本を考えなおす監督はあまりいないと思う。でも、僕、漫画の新刊が出た!みたいに、毎回楽しみに読んでたんですよ。新鮮だし、よりよい作品にしよう、とみんな思うから、すごくいいやり方だと思います」

新平をとりまく女性たち。磯部作品のキーパーソン、辻凪子の存在
――新平を取り巻く女性たちは、佳純や咲などのほか、お姉さんなど、押しの強いキャラが多い。今作には、磯部監督作品に欠かせない女優・辻凪子さんも登場した。

加部「佳純役の山本奈衣瑠さんとは、芝居がしやすかったです。劇中では、走ったり、自転車に乗ったり、団地を走り回ったり、中之島公園で過ごしたり。佳純の行動に巻き込まれていくので、中には体力勝負な場面もありましたよ。最初に佳純と出会って別れる二股の路地も記憶に残ってますね。多分、僕が思うように、新平もなにげない場面を覚えているんだろうな。永瀬未留さん演じる咲とは、距離感が近い。新平は咲に対して〝受け〟じゃないんですよね。幼なじみだから一緒に居た時間の分も、言いたいことは割と言えている。それでも押され気味なんですけど」


出会って追いかけて、心を寄せ合いつつも...いろんな感情を演じた2人

――辻凪子さんとの共演は?
加部「なぜか、本当におねえちゃんに見えるんですよね。太極拳のシーンでは、凪ちゃん
に足を蹴られる場面もあったり」
監督「僕の作品によく出てもらいますが、毎回必ず〝辻凪子劇場〟みたいなシーンがあるんです。コミカルな演技も脇でまじめなことも諭せる存在。新平の姉にはめっちゃいいんじゃないかと思ったんですよね。普通の大阪の暮らしのなかで進む物語、そこで主演2人に辻さんを絡ませてみたくなって出てもらいました」


太極拳をしながら、弟にあれこれ注文を付ける姉(辻凪子)

日々の暮らしの延長にある場所で撮影
――「ロケ地は、僕が自転車で行ける場所なので、大阪といっても、コテコテの大阪じゃない場所が多いんです」と言う監督。それを受けた加部さんは…
加部「そう、すごくリアル、日常の中のリアルがあるからやりやすいんですよね。日々の暮らしの延長に入り込んでいく感じでした。あ、でも撮影中、原付で10数キロを走ったのは辛かった。ちょうどクリスマスシーズンで風も冷たくて。そういえば、撮影後、僕が別の仕事で大阪に行ったとき、中之島公園に監督を呼び出して、楽しい時間を過ごしたこともありました」
監督「夜中に仕事をしていたら、加部さんから電話があって。よし、5分で行くわ!と(笑)」
加部「2時間くらいしゃべりましたよ」
と、加部さんと監督の物語は、まだまだ続いているようだ。


佳純にネイルをしてもらう新平。ロケ地は中之島公園

普通の日常にも物語がある。だから人生は面白い
――今回は、大阪先行上映になります。観に来られるみなさんへひとこと。
加部「普段、何もない日常だと思いながら生きている、その場所にだって、何かしら物語がある。人は影響を与えあっているんだなと気付く。みなさんにとっても、人生って面白いなと思える映画になればいいなと思います」
監督「ロケ地となった第七藝術劇場で完成した映画を観ることは、とても贅沢なことだと思います。スクリーンに映る同じ場所にいながら映画を観る体験って、なかなかおもしろいんじゃないでしょうか。新平や佳純たちが座った席もぜひ探してください」

映画『夜のまにまに』は、12月16日(土)~29日(金)、第七藝術劇場(大阪)にて先行上映。

取材・文:田村のりこ

■『夜のまにまに』公式サイト
http://bellyrollfilm.com/mani/


30-DELUX NAGOYAが文楽や歌舞伎で知られた名作「義経千本桜」を大胆にアレンジして上演する。主人公の源九郎判官義経にはBOYS AND MENの吉原雅斗、その愛妾・静御前にはSKE48の北川愛乃。さらにBMKの佐藤匠、ナゴヤ座の名古屋山三郎、SKE48の岡本彩夏、ミュージシャンのSEAMOほか多数客演。脚本・演出は演劇組織KIMYOの宮谷達也が務め、いわば東海地方の総力をあげて時代絵巻を繰り広げる。ここでは開幕直前に行われたゲネプロとキャストによる質疑応答の様子をレポートします!


源氏と平家の戦乱を題材とする「義経千本桜」は、義経によって討伐されたはずの平知盛、維盛、教経が生きていたことから巻き起こる人間ドラマだ。兄・頼朝から裏切られた義経は、鎌倉方からも平家の残党からも追われる身となってしまう。大筋は歌舞伎と同じだが、セリフがほとんど現代語なのでストーリーが非常にわかりやすい。

また、登場人物たちは俳優の個性ともあいまって既存のイメージにとどまらないキャラクターを見せている。特に静御前は義経への愛情をストレート過ぎるほど伝える女性になっていて、コミカルでありつつカワイイ。栗原樹が演じる武蔵坊弁慶も直情的なところは原作同様だが、義経との関係には友情に似た身近さを感じて面白い。何より、武家に生まれた宿命に苦悶し、孤独の色を深めていく義経が新鮮に映った。

合戦物なので殺陣やアクションの見せ場も多く、それらの動きを計算した衣装も効果的に舞台を彩る。吉野山の頭・河連法眼を演じるSEAMOがラップを聴かせてくれるのもうれしい。放浪の三味線弾きを演じる山口晃司もそうだが、ミュージシャンの生演奏が入るとまた違った緩急がついて芝居が躍動。適材適所のキャスティングとスタッフワークで、約2時間半の大作はあっという間に幕を閉じた。

ゲネプロ終了後の質疑応答には、義経を熱演した吉原をはじめ北川、栗原、佐藤、山三郎、岡本彩夏、村瀬文宣、髙澤了輔、山口、SEAMO、そして原作には登場しない頼朝役であり本作のプロデューサーでもある清水が登壇。 田中精が司会を務めた。

吉原は「地元を盛り上げることを目指すグループBOYS AND MENで活動してきましたが、SEAMOさんと共演できる日がくるなんて思いもしなかった」と喜ぶ一方、ゲネプロの手応えを問われると「よりブラッシュアップできる」と答え、さらなる向上心をのそかせた。北川や栗原も「もっと熱くならなければ」と口々に本番への意欲を燃やす。演劇初出演だというSEAMOは「ステージ経験はあるのでなんとかなると思っていたら、免許取りたてでF1のレースに出てしまったような感覚(苦笑)。あらためて身が引き締まる想いです」と語った。プロデューサーの清水は半年ほどかけてキャスティング交渉を行い、「名古屋で今いちばん勢いのある演劇人」と称える宮谷とも議論を重ね、脚本を詰めていった。そうして結実した30-DELUX版「義経千本桜」は、彼らの苦労と情熱の分だけエネルギーにあふれている。

◎Interview&Text/小島祐未子

12/8 FRIDAY~12/10 SUNDAY 【チケット発売中】
30-DELUX NAGOYA「義経千本桜 ~源平天外絵巻~」
■会場/名古屋市芸術創造センター
■開演/12月8日(金)18:30、9日(土)12:30/17:30、10日(日)13:30
■料金(税込)/プレミアム席(グッズ付・前方席) ¥9,800 一般席 ¥7,800 当日券 ¥8,000
■お問合せ/サンデーフォークプロモーション TEL 052-320-9100