HOME > MEGLOG【編集日記】 > <公開直前レポート> 笑顔の指名手配犯・桐島は「時代おくれ」だったのか。 「取り残されていく孤独感を感じた」毎熊克哉インタビュー

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2024年1月、神奈川県の病院で本名を名乗り、4日後に死亡した「東アジア反日武装戦線」メンバーで指名手配犯の桐島 聡(きりしまさとし)。素性を隠し、偽名で49年間も逃げ続けたこの男の日々を描いた映画『「桐島です」』が7月4日(金)、全国で公開となる。監督は高橋伴明。「桐島聡役のオファーを受けた時、うれしい反面、自分に務まるのかという怖さもあった」と言う主演・毎熊克哉に、どんな思いでこの役を演じ、桐島の逃亡生活をどう紡いでいったのか話を聞いてみた。


■当時の空気感を知るところから始めた役作り
桐島は「東アジア反日武装戦線」メンバーで、1970年代に起こった一連の連続企業爆破事件に関与した容疑者として指名手配されていた。1987年生まれの毎熊にとって桐島 聡の存在は記憶の中にあったのか?連続企業爆破事件が起こった1974年当時の時代感をどうやってつかんでいったのだろう。

「そもそも連続企業爆破事件の知識がなかったので、高橋監督をはじめ当時を知る人たちの話を聞いたり、本を読んだり。でも、本のなかに桐島の情報がほとんど出てこないんです。だから、桐島の〝かけら″を集めていきました」と振り返る。

■桐島 聡の印象は、笑顔の指名手配写真
では、桐島聡という人物そのものについて、認識はあった?

「僕は、38歳なんですが、子供のころからずっと指名手配のポスターが貼ってありました。だからもう勝手に刷り込まれていて。知っているけど知らない、でも知っているみたいな感じっていうんですかね。そのなかで、なんでこんなに覚えているのかと考えると、やっぱり笑顔ですよね。こんな風な笑顔を見せる人なんだと。爆破事件の指名手配犯なのに、すごくさわやかで、どう見ても普通の大学生。そこが違和感として残っていたのだと思う」と話す。動画も参考にしたそうで「ミュージック・バーで『イエーイ』とはしゃいでいる動画が残っていて、人の良さというか、それも役作りの参考になりましたね。でも難しかったです。あまりに謎すぎてなぞることができないので、想像力と台本の力で演じていきました。最後どうやって『桐島です』と名乗ったのかな?と想像しながら、約50年分のシーンを生きていくという感じです」と話す。

■彼が聞いていたブルースや、愛した女性の存在も桐島像の肉付けに
桐島という人物を肉付けしていくときに、役に立ったのは、劇中に登場する曲や愛した女性の存在だったそう。どんなところに注目を?

「彼がよく聞いていたのは、ブルースなんです。もともと僕もファンク、ソウルなどのブラックミュージックが好きなんですが、桐島はブルースが好きだったというところに興味を持ちました。元をたどれば、奴隷としてアフリカから連れてこられた黒人たちが奏でたメロディ。そんな音楽を聞いて、抒情的なものを受け取る力がある人なんだなと思うと、大きなヒントになりましたね。女性との関わりもそう。桐島は女性から愛される魅力もあったんだと。劇中では桐島自身もドキドキしちゃって、つまらない冗談を言う場面もありますが、そういうところも自分にとってはすごく助けになりました」と役作りのポイントを教えてくれた。


■出身地が同じ広島。共通する思いはある。もし、出会った人が違ったら…
桐島聡と毎熊は出身地が同じ広島県の福山市出身。桐島を演じることになった毎熊は「これも何かの縁なのかなと思った。それに、田舎から東京へと出て行った人の気持もわかる」と話す。「田舎者ですよね、簡単に言ったら。カルチャーショックはあったと思うんです。東京では桐島のちょっと上の世代が学生運動をやっていたけれど尾道では無縁といってもおかしくない。カルチャーショックが凄かったと思うんです。だから、東京に行って、出会った人が違えば、ぜんぜん違う道へ進んだんじゃないか。違う戦い方もあったのかも」と桐島に思いを馳せる。

「ただ、演じるにあたり、弱者に寄り添う優しさを意識しすぎるのもちょっと違うかなとも思っていました。例えば、おばあちゃんがミカンを落とした時、拾ってあげることぐらいはするでしょう。優しさというよりは普通の思いやり。この人は本当に我々に近い感覚だったのではと。そのくらいの気持ちでいましたね」。

■被害者がいる事件。桐島をいい人に仕立てることはしないよう気を配った
連続企業爆破事件は、犯人側が想定しない犠牲者を出してしまった。本来はけが人さえ出さないよう計画が練られたが、結果的に犠牲者が出てしまう。犯人側の桐島 聡を演じるにあたり、被害者への思いは?

「あります。本を読むと、遺族のお話も出てくるんです。桐島は、死者が出た三菱重工爆破事件には直接関わってはいないとしても、世間は同じだと思うだろう、というのはありますよね。そんな奴らの映画を観てられるかという声も出るだろうとは思いました。映画としては桐島のいろいろな部分が垣間見えるんですけど、事件を起こした犯人と普段の暮らしぶり、そのギャップがあるからいい人に見えるだけであって。なので、極力、善人として仕立てないようにはしようと。そういう感覚で挑もうと思ってましたね」。

■タイトルにもなった「桐島です」という言葉。どんな思いで名乗った?
最初に仲間への挨拶として登場する「桐島です」、そして自分の本名を告白するドラマティックな場面での「桐島です」。このセリフについてどんな思いを持っているのか聞いてみると…。

「最初は、ただの青年・桐島として、ごく普通の挨拶。後半の〝桐島です″は、本当に撮影の最後に撮った場面なのですが、どういうトーンで、あり方でこのセリフを言うかずっと悩んでいましたね。考え抜いた結果、茫然と死を目の前にして何も考えることなく、ただ自分の名を名乗ることにしました。最後は本名で死にたかったんじゃないか、あるいは大好きだった女の子に本名を言えたらよかったんじゃ?そういう思いもありました。ただ、勝利宣言のように自分は逃げ切ったんだ!という方向でいくと、他のシーンが薄まってしまうとも思って。もし、あの場面が序盤や中盤にきていたら、もっといろんなことを考えて演技しちゃってた気がする。たくさんのシーンが蓄積されて、最後の最後にただ自分の名を名乗るという事。それがいちばん自分にはまりました」。


■逃亡を続ける桐島は、もはや〝時代おくれ″だったのか?
逃亡生活の中で、桐島に愛する女性ができてしまう。彼女はシンガー。河島英五の名曲『時代おくれ』を歌う彼女に心を寄せていく。逃亡を続ける桐島は、果たしてもはや時代遅れの指名手配犯だったのだろうか?

「この曲、ぎりぎりに決まったんですよ。でも、ぴったりだなと。時代おくれ、という言葉からくる〝取り残されていく孤独感″というのはめちゃくちゃ感じましたね」と桐島への思いを語る。

「桐島が若いころは、正義感や理想があったと思うし、劇中でいうと〝もっと優しさのある国″になればいいのに、という気持ちがあったんだと思うんです。現代のSNSで人を叩く姿勢を見ていると、それこそ〝優しさを組織せよ!″と言いたくなるくらいです。当時の若者は理想に向かって戦った、でも約50年近く経ったのに、まだこんな状況で、もう自分たちがやったことはあまり意味がなかったんじゃないか、望む優しさは感じられないというさみしさ。僕は勝手にそれを感じましたよね」。

■映画を観たお客さんにも考えてほしい。どういう思いがあったのか
でも「まだまだ疑問や思いは僕の中でも残っている」という毎熊。「例えば、僕のじいちゃんにしても、なんであの形見を自分にくれたのかな、最後になんで笑ったのかなとか、結局、本人じゃないからわからないじゃないですか。だからこそ、映画を観終わったあとに、みんなで『なんだったんだろうね』『僕はこう思う』と話ができるようなものになったらいいなと思っています。

■映画は一つの武器。当時の、熱い時代の若者たちへの想いも
「映画の存在って、ひとつの武器のような気がしている」と毎熊は話を続ける。

「当時の若者は、現状に対して〝もっとより良い世界にならないのか″という怒りがあったんだと思う。現代は正しいかどうかもわからない情報が多く集まるし、それを見て良しあしを語るくらいで〝なぜそうなったのか″までは知らないことも多い。どうしてそれが起こっているのか、戦いをすることになったのかなど、知ろうという気持ちが大事な気がしていて。劇中で、なぜ桐島は怒っているのか、それを気に掛けるだけでもいいと思うんです。例えば、自分のことしか考えられなかった若者が、将来親になって自分の子供のことを考え始める。すると、いずれ社会は無関係じゃない現状になってくる。映画はエンタメのひとつですが、この作品を観たことがきっかけで、当時のことや今の世の中を考えるきっかけになればいいなと思います」。

◎Interview&Text/田村のりこ


■映画『「桐島です」』公式サイト 
https://kirishimadesu.com/
2025年7月4日(金)全国公開
監督:高橋伴明
音楽:内田勘太郎
キャスト:毎熊克哉、奥野瑛太、北香那、原田喧太、山中聡、
影山祐子、白川和子、甲本雅裕、高橋惠子
2025年/日本/105分
配給:渋谷プロダクション