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心を揺さぶる音楽体験、未来を変える力に。

「音楽は分かち合うことにより、更に価値あるものとなる」 ―――― ドイツの至宝と呼び声高いバリトン歌手ベンヤミン・アップル、ROLEXのアンバサダーでもあるメキシコ人ピアニストのジョルジュ・ヴィラドムスが、メキシコからスタートさせた音楽の旅。彼らと確かなる思いで繋がったアジアの若いアーティストも加わり、ブラームスをはじめ宝石のような美しい音楽を届けます。

このツアーは単なる音楽イベントではありません。困難な環境にある子供たちの未来を拓くという特別なプロジェクト。こども家庭庁を通じ、学習体験の機会に恵まれない子供たちの無料招待枠を設け、チケットを購入しコンサートに足を運ぶことで社会貢献ができる仕組みになっています。

プロジェクトに加わったアジアのアーティスト、ヴァイオリニストの石上真由子、クラリネッティストの兒嶋賀奈子、そして作曲家キム・ジェドクの三人に、「WANDERLUST」コンサートツアーについて話を聞くことができました。

―まず、ドイツ歌曲界のスター、ベンヤミン・アップルが歌うドイツリートを聴くことができるというだけでも注目ですが、さらに多方面で活躍するジョルジュ・ヴィラドムス、そして皆さんが加わり、一層華やかさを増していますね。
子どもたち参加型のコンサートプロジェクトというのは今までになかった試みではないでしょうか。

兒嶋賀奈子:もちろん先ずはベンヤミンの歌声を軸にピアノ、ヴァイオリン、クラリネットが紡ぎだす美しいプログラムを楽しんでいただきたいです。通常のコンサートとの違いは、お客様はチケットを購入することで体験が乏しい環境にある子どもたちへの支援を、合唱で参加する子ども、生徒たちはただ舞台で歌うだけでなく貧困について考える機会を、招待した子どもたちにとってはクラシックのコンサートとに行ってみた、という経験を。音楽を聴いた、というだけでなく目には見えないお土産付きのコンサートです。企画したきっかけは私がローザンヌ高等音楽院で出会ったピアノ教授のジョルジュが「音楽は人々と分かち合うことでより価値あるものとなる」という信念からスイスとメキシコに設立した財団「Crescendo Con La Musica」の活動です。それぞれ支援内容は違いますが、メキシコでは既に2校を設立、困難な環境にある子どもたち、4000人以上が今までに学んでいます。その活動をお手伝いしたことから私も日本で音楽を分かち合うという価値観を広めたいと思いました。

―皆さんがこのプロジェクトに参加した動機を教えてください。

兒嶋賀奈子:祖母が国際的に奉仕活動をしているゾンタクラブに所属をしているためチャリティーが身近にあったこともありますが、両親から「食事に困らず、お勉強ができる、それは当たり前ではなく、たまたま生まれたところがラッキーだっただけ」と言われて育ちました。でも、私はその幸運を自分の努力の結果だと勘違いしていた時期があり、ローザンヌ高等音楽院で才能溢れる仲間に刺激を受けつつも圧倒され、前向きな気持ちになれない時期がありました。その頃にジョルジュの財団の活動をお手伝いし、体験格差や貧困問題に対して取り組む責任を感じるようになりました。

石上真由子:そもそも国も両親も選べずに生まれるわけですから、人生のほとんどは運ですよね。色々な体験をしてこそ、自分は何が好きで、何が苦手なのかを把握できるはずが、その機会が乏しいと学びたいという意欲や好奇心を育むことも難しくなります。賀奈子ちゃんから、ジョルジュの単なる音楽人の育成ではなく、音楽を通した包括的教育の活動を聞き、そこから日本の体験格差、教育格差に目を向けて芸術体験をフックに支援活動をスタートさせようとしている彼女の気持ちに賛同し一緒にやろう、となりました。もちろんベンヤミン、ジョルジュというスター二人との共演、編曲を担当する若き俊英、キム・ジェドクさんの参加も楽しみです。

キム・ジェドク:現在はドイツに暮らしているのですが、ジュネーブ高等音楽院に在籍していた時に友人になった賀奈子から今回のプロジェクトに編曲で参加しないかと誘われました。コンサートの全体的なアイデアを彼女から聞き、企画書を読み、ビジョンと目的が自分の価値観と共鳴すること、実は私自身も貧困にある人々へのボランティア活動をしていたこともあり、今回も自分のスキルが貢献できることから参加を決めました。


バリトン ベンヤミン・アップル


―来日されるベンヤミン・アップルさんについても教えてください。

石上真由子:ベンヤミンはあのドイツ歌曲の大スター、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウの愛弟子です。彼自身もレーゲンスブルグ大聖堂少年合唱団からキャリアをスタートしています。

キム・ジェドク:ベンヤミン自身がクワイアの経験があるので、小学生、高校生たちが合唱で参加するモーツァルトの『アヴェ・ヴェルム・コルプス』は、編曲しながら本番を楽しく想像しています。

―ジョルジュさんについても詳しく教えてください。

兒嶋賀奈子:彼はローザンヌ高等音楽院の教授であり、Crescendo Con La Musica財団の創設者でもあります。ロレックスのアンバサダーとしても活躍し、なんとVOGUEの表紙を飾ったことも。スイスではこれまでに60以上の奨学金を音楽学生に授与しています。

―それは本当に素晴らしい活動ですね。ところで、今回は子どもたちを招待されていますが、プログラムそのものは王道という印象です。

キム・ジェドク:子どもたちを招待し、また合唱に参加もしてもらうのですが、内容を子ども向けにする必要はないと考えました。

石上真由子:ドイツリートの世界観がメインのプログラムになります。シューベルト、シューマンにブラームス、まさに王道が並びます。「あ、どこかで聴いたことあるな」という曲も多く、歌詞もあるので、普段クラシックのコンサートにあまり行かない方や子どもたちにも親しみやすいと思いますし、ハイネの詩が好き、という方にも足を運んでいただきたいですね。

兒嶋賀奈子:個人的には高校生のころから憧れていた真由子さんとの共演も楽しみです。合唱で参加してくれる小学生、高校生たちにはベンヤミンと共に歌ったという経験は一生の宝物になるでしょう。もしかしたら将来そこから日本を代表する声楽家が生まれることがあるなら、アーティスト冥利に尽きます。

キム・ジェドク:ユニークな編成ですが、バリトンとクラリネットは響きの相性が良く、弦楽器とクラリネットの相性の良さは言うまでもないので楽しみにしていただきたいです。

―キム・ジェドクさん、韓国でも子どもの教育格差や体験格差は社会問題として認識されているのでしょうか?

キム・ジェドク:はい、韓国でも子どもの教育格差、体験格差は大きな社会問題です。大学時代にホームレスや社会的弱者の人々のために音楽を提供する活動に参加していたときに痛感しました。数年間その支援活動を継続することでコミュニティとしての連帯感のようなものが生まれたことは、自分でも意外なほど大きな喜びとなりました。今回招待したアートにアクセスすることが難しい環境の子どもたちには、まず何よりも楽しんでもらいたい。そして、コンサートに参加してくれる学習環境に恵まれている側の子どもや学生さんたちには、ぜひ、自分たちがこれから担う社会における責任のようなものを感じ取ってもらえればと思います。


ピアノ ジョルジュ・ヴィラドムス


―参加される子どもたちについても教えていただけますか?

兒嶋賀奈子:アートにアクセスしてもらいたいと子ども達を招待するだけでなく、もう一歩進んだ取り組みにも挑んでみました。従来の演奏家と聴衆という構図から、子供たちや学生たちと一緒にコンサートを作り上げるという試みです。恵まれていると見過ごしてしまう格差に対し、自分たちは何ができるのかを考えてもらう機会にもなります。その私たちの取り組みに国立音楽大学附属高校が参加を快諾してくださったことにも感謝していますし、立命館小学校からはただ参加するだけでなく、子どもたちに深く見えない貧困について考える機会にしたいと色々ご提案いただいたことも嬉しかったです。慶応大学の有志の学生さんが裏方に入ってくださっているのも胸が熱くなります。

石上真由子:クラシック音楽の課題として客層の高齢化があります。自分たちの未来のお客様を自分たちで開拓していくという意味でも、子どもたちや学生たちに聴いてもらう、参加してもらうことに積極的でありたいです。このままクラシック音楽がオワコンになってしまったら、子どもたちに支援をするどころか、音楽家は自分たちが職を失っていくことになりかねないので。

キム・ジェドク:スイスの筆記具ブランド カラン・ダッシュが音楽家の我々とはまた異なる視点からの協力をしてくださっているのもこのコンサートのユニークなところです。最近は自宅で楽しめるコンテンツが沢山あり、わざわざお金を払ってコンサートに出向くというハードルはますます高くなってきています。おそらくクラシックのコンサートは今回が初めてという子どもたちが多いでしょうから、今後も行きたい、聴きたいと思ってもらうためにも責任はなかなか重大です。

兒嶋賀奈子:クラシックコンサートの高齢化と言えば、母はコンサートから帰ってくる度に「いつもクラシックのコンサートに行くと自分が若いような錯覚をしてしまうのよね。もっと若いお客様が増えないと困るわね」と必ずのように口にします。音楽的な感想よりそっち?って(苦笑)。

キム・ジェドク:若い世代は出かけなくても十分に娯楽がある社会で育ってきているので音楽を提供する側の意識変革も求められていると感じています。一人では叶えられない何かを提供できるように私たちも知恵を絞っていくことが必要と考えています。

―皆さん、ありがとうございました。コンサートの成功をお祈りしています。

取材:松井陽子


ヴァイオリン 石上真由子


クラリネット 兒嶋賀奈子


編曲 キム・ジェドク


WANDERLUST 公演情報
【出演者】
•バリトン: ベンヤミン・アップル
ドイツ歌曲史上に燦然と輝くディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウの愛弟子。低音から高音までを印象的な柔らかい響きで歌い上げ、今最も聴くべきアーティストとして高く評価されている。昨年11月にも来日し、そのリサイタルはNHKに収録され放送された。

•ピアノ: ジョルジュ・ヴィラドムス
ローザンヌ高等音楽院教授。クレッシェンド・コン・ラ・ムジカの創設者。ロレックスのアンバサダーとしても活躍。

•ヴァイオリン: 石上真由子
日本音楽コンクール等、内外で多数受賞。国内外でオーケストラとの共演を重ね、メディア出演も多数。ソリストとしてだけでなく、室内楽にも力を入れている。ENSEMBLE AMOIBE主宰

•クラリネット: 兒嶋賀奈子
14歳からクラリネットを吉田誠に手ほどきを受け、東京音楽大学付属高校で松本健司に師事。ローザンヌ高等音楽院でフローラン・エオーとパスカル・モラゲスのもとで研鑽を積む。数々のコンクールで入賞。

•編曲: キム・ジェドク
ヨーロッパで活躍する現代音楽作曲家。今年(2024年)、パリのイルカム・マニフェストやビエンナーレ・ヴェネツィアにて世界初演を予定。彼の作品はヨーロッパの名門アンサンブルやオーケストラによって演奏されている。

賛助出演: 国立音楽大学附属高等学校 立命館小学校合唱部 立命館小学校コールリッツ
後援: 在日スイス大使館  在日メキシコ大使館  しがぎん経済文化センター

<主催者からのコメント>
コンサートツアー「WANDERLUST」は音楽を通じて社会貢献に興味のある方には、ぜひご参加いただきたいイベントです。チケットは公式ウェブサイトから購入可能で、皆様のチケット代には、こども家庭庁を通じて無料招待した子ども達の分のチケット代が含まれています。
一流のアーティストと一緒に音楽の力を体験し、多くの子供たちに希望を届ける手助けをしませんか?このコンサートは、音楽の美しさとその社会的な力を感じる絶好の機会です。皆様のご来場を心よりお待ちしております。

【東京公演】
■7月30日(火)開演/19:00
■会場/浜離宮朝日ホール
【京都公演】
■8月3日(土)開演/16:00
■会場/ロームシアター京都サウスホール
■料金(税込)/全席指定 各 8,800円 

チケットおよび公演の詳細はコチラ→https://kotetto.com/


オペラにリサイタル、歌唱付き管弦楽作品のソリストとして引く手数多、聴衆を魅了し続けているカウンターテナー藤木大地が、住友生命いずみホールで初のソロリサイタルを行う。「いずみホールは憧れのコンサートホール。ここでリサイタルを行うのが夢だったんです!」と熱く語る藤木大地。元々はテノールとして歌手人生のスタートを切ったが、行き詰まりを感じ、歌手を辞めて制作の現場に回る事も考えて、ウィーンで文化経営学も修めたという。たまたま風邪をひいたことがきっかけで、裏声の歌唱に可能性を見出し2011年にカウンターテナーへ転向。翌年には日本音楽コンクールで史上初のカウンターテナーとして1位を獲得。2013年にはボローニャ歌劇場にてヨーロッパデビュー。2017年にはウィーン国立歌劇場デビューを果たし、現在の大活躍に至っている。多忙を極める藤木大地に、あんなコトやこんなコトを聞いてみた。



――藤木さんにとって、いずみホールは特別なコンサートホールだそうですね。

2014年にオーケストラアンサンブル金沢(OEK)のニューイヤーコンサートのソリストとして、初めていずみホールのステージに上がりました。2012年に日本音楽コンクールで優勝したことを受けて、OEKの音楽監督だった井上道義さんから「他のやつらとやる前に、まず俺とやろう!」と声を掛けて頂いたのです。舞台から見ると客席が丸く、包み込んでくれるような形をしていて、ちょうど良い大きさです。音響も素晴らしく、僕はホールの色も気に入っています。実は宮崎県の高校生の時に、毎日新聞主催の全日本学生音楽コンクール声楽部門を受けていて、地区大会を勝ち上がれば決勝はいずみホールで歌えたのですが、残念ながら決勝に勝ち上がることはありませんでした。それだけに初めてステージに立てた時は嬉しかったです。

――いずみホール主催のオペラでは2度ステージに立たれていますね。

はい、2015年にモーツァルト「魔笛」で、2019年にはモンテヴェルディ「ホッペアの戴冠」でキャストとして出演させて頂きました。嬉しかったのですが、やはりリサイタルをやりたい気持ちがより強くなりました。昨年(2023年)の「びわ湖の春 音楽祭」のリサイタルを、ホールの方に聴いていただいたのがきっかけになったのでしょうか、今回のリサイタルが決まりました。

――今回の「午後の特等席」は、どのようなコンサートでしょうか。

平日の午後に音楽を楽しむコンサートとして、住友生命いずみホールさんがとても大切にされているシリーズとお聞きしています。夜出かけるのは難しいというシニアの方が増えたようで、その中には昼間のライトなコンサートではちょっと物足りないという方もいらっしゃるそうです。そういう方に満足していただけるプログラムを作って欲しいと依頼されました。ただ、2、3曲は誰もが知っている曲も入れて欲しいという難易度の高いリクエスト。悩んだ末に、ご覧のプログラムに決まりました。通常、プログラムを考える場合、前半と後半に割って考えることが多いです。今回だと、後半は委嘱作品で固めようと思いました。昨年亡くなられた いずみシンフォニエッタ大阪 音楽監督の西村朗先生に書いていただいた曲を歌えるのが嬉しいです。

――西村さんに委嘱された『木立をめぐる不思議』という曲ですね。

歌手人生の中で初めて委嘱した作品です。東京オペラシティリサイタルホールで「B→C」のコンサートに出演させて頂いた時(2015年9月)に、西村先生にお願いしました。出版されていないので、これまで僕しか歌っていない12分ほどの曲です。大阪では2019年に、ザ・フェニックスホールで歌っています。その時のピアニストも今回と同じ松本和将さんです。初演のリハーサルには西村先生も立ち会って頂きました。
最後に歌う連作歌曲『名もなき祈り』は、2019年の「東京春祭」歌曲シリーズ のために加藤昌則さんに委嘱をした全6曲構成の作品で、詞は全て違う方が書いています。作者不詳の「Indian Prayer」から始まり、ラテン語の祈祷文「Sancta Maria」そして、たかはしけいすけさんの「空に」、サラ・オレインさんの「Pray Not, Amen」、宮本益光さんの「今、歌をうたうのは」という作品を経て、最後にエピローグという形で1曲目が戻って来ます。全体で20分ほどの祈りの曲ですが、1曲ずつでも演奏可能。関西では2020年にびわ湖ホールで全曲を歌いましたが、大阪で歌うのはこれが初めてとなります。



――前半のプログラムはバラエティに富んでいます。

後半に皆さんがあまりご存知の無い委嘱作品を演奏するので、前半は有名な作曲家の作品を1曲ずつ選びました。1曲目はモーツァルトの合唱曲から「アヴェ・ヴェルム・コルプス」。この曲だけがラテン語なので、最初に歌います。誰もが知っている曲をとのリクエストに応える形で、シューベルトの歌曲「魔王」とメンデルスゾーンの「歌の翼に」を選びました。前半最後のシューマンの「女の愛と生涯」は昨年、浜離宮朝日ホールと名古屋のHITOMIホールで全曲歌い、またやりたいと感じたので、大阪のお客さまにもお聴きいただこうと思い今回取り上げます。

――委嘱作品は、藤木さんの為に作曲家が当て書きされます。生きている作曲家との曲作りが、シューベルトやシューマンの作品を勉強する時に役立つことなどありますか。

僕は、生きている作曲家と一緒に曲作りをするのが好きです。例えば、譜面にフォルテと書いてあるところを「ここはピアノで歌ったらどうでしょうか? 」とご本人に言って歌ってみると、意外にそっちの方が良いね、ということがよくあります。となると、シューベルトやシューマンでも同じことが言え、必ずしも譜面に書いてあることが絶対だと思い過ぎないように心掛けています。そんなことを、生きている作曲家との作業は僕に教えてくれます。

――ピアニストの松本和将さんのことを教えてください。

松本さんはドイツで学ばれドイツ語を理解されます。彼とやるとなれば今回のようにドイツ語の作品が多くなりますが、松本さんはそれだけでなく、僕の節目となる公演では決まってピアノを弾いていただく信頼するピアニストです。西村先生の『木立をめぐる不思議』の初演もそうでした。ですのでいずみホールのコンサートは、やはり松本さんにお願いをしました。



――以前からカウンターテナーは喉の負担が多く、いつまでも歌えるとは思っていないと仰っています。もしもカウンターテナーとしての歌唱が厳しくなった時は、以前のようにテナーとして歌い続けられますか。

僕は今、思い通りに声をコントロールできるので歌うことが楽しいのですが、声が出なくなると、きっと歌いたくなくなると思います。元々テノールで思い通りの表現が出来なかったのでカウンターテナーへ転向した訳で、またテノールへ戻って歌い続けていくとは思えません。

――カウンターテナーとしては今がピークなのか、まだまだ進行形でピークは先なのか、藤木大地の現在地はどこでしょうか。

昔から知っているアメリカのコーチに最近の歌を聴いて貰った所、まだまだ上手くなっていると言われました。自分でも自由に声をコントロール出来ているように思うので、多くの皆様に現在の僕の歌をお届けしたいと思っています。

――ウィーン国立歌劇場での活躍は記憶に新しいところですが、メトロポリタン歌劇場や、ミラノスカラ座といった所へ挑戦する気持はお持ちでしょうか。

一度の人生なので、スカラ座やメトで行われていることを、ソリストとして身を持って体験したいとは思います。どんな時も実力を磨いて、いつか来るかもしれないチャンスを掴めるようにしようと心掛けています。

――最後にメッセージをお願いします。 
  
結構悩んで考えた結果、とても素敵なプログラムを、素晴らしい住友生命いずみホールでお届けできることになりました。ぜひ初夏の午後のひと時を、ご一緒しませんか。劇場でお会いしましょう。

取材・文 磯島浩彰


午後の特等席 vol.8 藤木大地
日時:7月2日(火) 開演:14:00
出演者:藤木大地(カウンターテナー)
    松本和将(ピアノ)
料金:一般 ¥5,000、U-30 ¥2,000

◆演奏曲目
W.A.モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス
F.シューベルト:魔王 D328
F.メンデルスゾーン:歌の翼に op.34-2
R.シューマン:連作歌曲《女の愛と生涯》
西村朗:木立をめぐる不思議 /藤木大地委嘱作品(2015)
加藤昌則:連作歌曲「名もなき祈り」/藤木大地委嘱作品(2019)

◆チケット料金+¥3,000で
〈アフタヌーンティープラン〉あり ※数量限定

お問合わせ:住友生命いずみホールチケットセンター 06-6944-1188
公演詳細ホールHP↓
https://www.izumihall.jp/schedule/20240702


2023年、多くの共感と笑いと涙であふれた本舞台。全公演ソールドアウトの中、大阪・兵庫3公演の再演が決定した。主人公の壮介を中井貴一が、妻と娘、愛人未満の女、カッコイイバーのマダムといった、壮介を取り巻く女たちをキムラ緑子が演じる。



内館牧子終活小説の第一弾、「終わった人」は、快調に突っ走った田代壮介の人生が50歳に差し掛かったところでいきなり窓際にとばされ、そのまま定年退職となる。退屈で死にそうな中、「定年って生前葬だな」と壮介、「恋をしたら」と娘、「そうよ、恋よ、リタイアした人こそ、恋が生きる活力」と妻。そこに最高の仕事と最高の恋の相手があらわれるも、それからの人生がジェットコースター、舞い上がったり、舞い降りたり。しかしジェットコースターは急停車。勝負をかけた女には手ひどく振られ、引き受けた会社が突然の倒産、牢獄のような人生が残された。これぞまさに内館牧子のエンターテイメント!この運命を真正面から受けて懸命に生きていく壮介を演じるのは中井貴一。そして内館牧子の手による女はどれもこれも手ごわい。愛人にしようとするがどこまで行ってもメシだけオヤジを卒業させてくれない久里。すべてを見通している娘道子。カッコイイバーのマダム美砂子。牢獄の番人となる妻の千草。その女たちをキムラ緑子が一手に引き受け、自在に壮介をひきまわす。見所いっぱいの小説が、二人の役者によって、見所いっぱいの舞台となった。
5月上旬、本舞台初の関西公演について、主演の中井貴一とキムラ緑子が大阪で意欲を語った。


一幕©山本倫子


はじめて小説を読んだ時の感想は、「普段、一気に読めるタイプでは無いけれど、一気に読みました。めくるめく展開にワクワクドキドキした」(キムラ)、「内容が同世代の話で、自分のまわりも定年をし始めたこともあり、身につまされる感覚でした。ぼくたちは定年がない商売だけど、能力としての定年を迎える時が来る、逆にそれが残酷かもしれないと原作を読んで感じた」(中井)と、小説の世界感にのめり込んだ思いを語った。
初演時に感じた事は、「お客様が頭の中で色んなことを想像してくださって、その世界を受け取って感動してくださることに驚きました」(キムラ)、「二人だけで動けるお芝居は、上演する場所はどこであれ、舞台を初めて観る方に気軽に足を運んでもらえる舞台だと思う。この舞台がそんな良いきっかけになれば嬉しい」(中井)。初演では無かった関西公演が決まって、「なぜ関西公演が無いの?とまわりに言われていたので、皆さん今回はかなり喜んでくれています」(キムラ)と、淡路島出身のキムラ緑子が関西で応援してくれているまわりの方々が待ちに待っていた様子を語った。また「原作を読んで相手役はキムラ緑子さんにして欲しい、彼女しかできない。声だけで瞬時に役を変えられるのはキムラ緑子さんしかいない」(中井)と、本舞台が決まった際に共演を熱望したことを中井貴一が告白。


二幕©山本倫子


アドリブは無かったか?の質問に、「微妙ですが今日はこんな風な変化があったな!とまるでジャズセッションのような感覚が楽しかったです」(キムラ)、「前回の公演で、突如セリフを入れ替えたり、思いついたことを稽古では無く本番でためしたりしました」(中井)と、息の合ったベテラン俳優のふたりならではのセッションを語り、「常に相手役はキムラ緑子さんを指名する、安心感そして色んな役に化ける事ができる女優」(中井)とベタ褒めの中井に対し、「一緒にお芝居をしている自分がこれだけ楽しいから、観ているお客さんも絶対たのしい!と思える人」と、お互いのリスペクトを示した。

最後に関西公演を待っていたオーディエンスに、「私自身がとても楽しみにしています。たくさんでいらっしゃってください」(キムラ)、「お客様に来て頂ける限り、僕たちもこのお芝居を続けていきたい!劇場でお待ちしています」(中井)時折、関西弁になる中井貴一と笑顔を絶やさなかったキムラ緑子、見ごたえたっぷりのベテラン二人のリーディングドラマは、2026年には再再演も決定した。

◎Text 紅粉チコ

リーディングドラマ『終わった人』
■出演/中井貴一 キムラ緑子
■台本・演出/笹部博司
■原作/内館牧子「終わった人」(講談社文庫)
■会場/森ノ宮ピロティホール
■日程/7/13(土)16:00、14(日)13:00 
■会場/兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■日程/7/15(月・祝)15:00 
※前売りチケット完売 当日券、立ち見券販売あり
■お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888 (11:00~18:00 ※日祝休) 

「終わった人」公式サイト https://ml-geki.com/owattahito2023/



岡本圭人&岡本健一が親子で再演!若村麻由美は〝母〟の孤独を熱演

現代フランス演劇界を牽引する劇作家フロリアン・ゼレールの家族三部作から『La Mère(ラ・メール) 母』『Le Fils(ル・フィス) 息子』の同時上演が決定。3月15日に行われた記者会見で、息子役の岡本圭人と母役の若村麻由美が登壇。自身が演じる役柄や作品への思いを語った。


三部作で母と息子を演じる若村麻由美(左)、岡本圭人(右)

日本では2019年に『Le Père(ル・ペール) 父』、2021年に『Le Fils 息子』が上演され、岡本圭人と岡本健一親子が息子と父役を演じて話題に。その作品で母親役を務めたのが若村麻由美だった。

同じ役者が異なる作品を同じ役名で共演する家族三部作。ゼレールが最初に手掛けた『La Mère 母』は、2010年にパリで初演されたのち様々な国で上演、女優イザベル・ユペールの主演でブロードウエイでも発表された。『Le Fils 息子』は、モリエール賞を獲得するなど演劇界から高く評価され、ゼレール自らが監督としてハリウッドで映画化。ヒュー・ジャックマン、ローラ・ダーンが出演し、日本でも公開された。また、『Le Père 父』も映画化され、父を演じたアンソニー・ホプキンスが主演男優賞、ほか、脚色賞も受賞するほど、それぞれが注目を集める作品となっている。

■母の役割をすることで「自分」という存在を見失った主人公
今回、演出家のラディスラス・ショラーから熱烈なオファーを受けて『La Mère 母』の主演を務める若村は「いよいよ三部作の完結です。ゼレール作品は本当に多面的で、家族の有り様みたいなものを問題定義してくれる。私の役名は3作品ともアンヌで、父を持つ娘の苦悩、息子を持つ母の孤独を経て、今回は息子が旅立っていく『母』を演じます。娘だった人が母になり、年頃の息子を持つ難しさを体験し、息子が旅立っていく混乱や喪失感を演じることは、年齢を重ねてきた今の自分にふさわしいなと感じています。夫婦や家族間でおこる出来事はフランスも日本も同じ。シリアスな物語のようでもクスッと笑える場面もあって、観終わったあとご自身のお母さんや息子、家族について語り合いたくなると思いますよ」。



「『La Mère 母』は、家族三部作の最初に出来上がった作品で、これはゼレールの母への思いなんです。愛する人と結ばれて2人の子供を育てた母親は、自分の人生をすべて家族のため捧げてきた。子供が年ごろになり家から離れていく時が来て、気が付くと、子供はもちろん夫に対してさえ母の役割をしてきてしまった。アンヌという個人は自分のなかにはもういないのだと初めて理解するわけです。その喪失感の中で混乱していくんですね。この世界観は、子供を持つ同世代の女性が共感してくださる作品だと思っていましたが、実は、男性からの支持も多い。でも、ゼレール自身が母を思って書いたと思えば、それも納得できる。母から生まれたすべての人が、母の思いを想像させる作品になっています」。

■本当の父子が親子役をすることで、生まれる奇跡がある
岡本圭人は「今回は2作品同時上演です。『Le Fils 息子』では18歳の少年ニコラを演じますが、父ピエール役は実の父が演じます。『La Mère 母』では25歳の青年ニコラ役。若村さん演じる母の頭の中をのぞいているような作品で、演出家ラディスラス・ショラーさんが生み出す若村さんのアンヌが本当に魅力的なんです。自然でありながら急に怒ったり泣いたり。次は何をするのだろうと予測できない。本当に魅了されますね。」と話した。

「ゼレールさんが書く物語は、すごくシンプルな言葉でありながら、リアリティのあるセリフが出てくるんです。しかも、父に強い言葉を放ったら、それと同じセリフを『La Mère 母』で母に対して使ったりと、まるで同時上演をするために書いたんじゃないかと思うくらいセリフがリンクしているんですね。さらに言うと、最終的な答えを出さないのも特徴的。答えはお客様自身が作るもの、という書き方なんです。謎があるんです。だから『La Mère 母』『Le Fils 息子』の両方を観ると、それぞれの理解が深まったり、どちらを先に観るかによっても解釈が変わったり。本当におもしろいです」。



親子共演について聞かれると「初演では僕自身が初舞台で尊敬する俳優としての父・岡本健一と仕事をすることが不安でした。稽古が進む段階で演出家のショラーさんに相談したら『僕は親子ではなく1人の役者として互いを見ているから、プロの役者としてニコラを演じることに集中してほしい』と言われたんです。そこから父が演じるピエールに向き合い一緒にお芝居が出来ました。なぜそのセリフを言うのか、どうしていうのか、それらをしっかり考えて舞台に立った時に、ニコラとして父ピエールに向き合ってお芝居が出来たという感覚です。闇を抱えてさまよう息子を愛をもって救おうとする父ピエールは、父にとっても演じるのが辛い作品だと思いますし、自分自身もニコラの気持ちに入り込むと彼の闇を感じ取れますから、お互い稽古は辛いんです。でも、それが俳優としてのおもしろさじゃないかなと思う。僕は、本当の親子が親子役をすることで生まれる奇跡があると思っていて、お互いがしっかり演じることで、よりリアルに物語を届けられるのではないかと。父の存在は大きいし、父の舞台を見て育ってきたので、大先輩と一緒に舞台に立てたのは特別なことです」と答えた。

それを聞いた若村は、ある取材現場で、父の岡本健一が息子を役者として認めているというコメントを聞き、感動して泣いてしまったと裏話を披露。「岡本圭人という役者さんが初演から2年半の間、懸命に経験を積んできた証だなと思うんです。今回も、作品への理解が深まっているのを感じます。初舞台で役者が誕生した瞬間に立ち会ったので、私の中に岡本圭人という役者を観る楽しみがある。溺愛しないように気を付けながら、舞台では一役者として戦えるようがんばりたいですね」と言うと岡本は「若村さんは演劇界の母。たくさんのことを教えてもらいました」と語り、2作品への期待がさらに高まる会見となった。

取材・文・写真:田村のりこ

『La Mère 母』5/10(金)18:00・11(土)12:00 
◎出演/若村麻由美、岡本圭人、伊勢佳世、岡本健一
『Le Fils 息子』5/11(土)17:00・12(日)13:00 
◎出演/岡本圭人、若村麻由美、伊勢佳世、浜田信也、木山廉彬、岡本健一
◎作/フロリアン・ゼレール ◎翻訳/齋藤敦子 
◎演出/ラディスラス・ショラー
■会場/兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 
■料金(税込)/全席指定 8500円 

詳細・お問い合わせ:兵庫県立芸術文化センターチケットオフィス
TEL:0798‐68-0255(10:00~17:00、月曜休※祝日の場合は翌日)
公演の詳細はコチラ→ https://www1.gcenter-hyogo.jp/news/2024/01/lefils-lamere.html


日本センチュリー交響楽団「第281回定期演奏会」(2024年4月12日 ザ・シンフォニーホール)に、ピアニストの小林愛実がソリストとして出演する。

2023年の元旦、小林はピアニスト反田恭平との結婚&妊娠をSNSで報告し、その後、産休・育休のためコンサート活動の休止期間に入った。昨年4月に予定されていた日本センチュリー交響楽団の定期演奏会の出演は取り止めとなったが、出産を終え、コンサート活動の再開を受けて、同定期演奏会への出演が改めて決まった。リサイタルツアーで多忙を極める小林愛実に話を聞いた。


©HOSOO CO., LTD

――日本センチュリー交響楽団の「第281回定期演奏会」が目前に迫って来ました。

改めて声を掛けて頂いた日本センチュリー交響楽団の皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。今回、私からラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」をリクエストさせて頂きました。出産を経験したこともあって、何か新しい曲に取り組みたいと思い、かねてより弾いてみたいと願っていたこの曲を選びました。指揮の秋山和慶先生は、これまでに何度もご一緒しているので、安心してセンチュリーの皆さまとの共演を楽しみたいと思っています。

――子供の頃からご活躍ですが、人知れず大変な事も多かったのではないでしょうか。

7歳の時にはオーケストラと共演し、CDデビューが14歳。20歳の時には初めてショパンコンクールに挑戦しました。早くからピアノひと筋でやって来たこともあり、私は本当にピアノが好きなのか。このままピアノを弾いていて良いのかと考え、悩んだこともありました。17歳から20歳くらいの時です。

――その状況を、どうやって乗り越えられたのですか。

ある時、母親から「ピアノが全てではないし、貴方がやりたいことをやればいいのよ」と言われました。よほど辛そうに見えたのかもしれません。その一言で気持ちが楽になりました。そして20歳の時に出場した1度目のショパンコンクールで、気持ちが吹っ切れました。当初、やめる為のケジメを付けるくらいの気持ちでコンクールに臨んだのですが、ファイナルまで進み、念願のコンチェルトを弾く事が出来ました。嬉しかったですね。「やっぱりピアノが好きなんだ。これからもピアノを続けていこう!」と決意できたことが最大の収穫でした。入賞出来なかったことは、意外にもそれほど悔しさは無かったですね。それよりもピアノを続けて行く決意が固まったことに満足していました。

――2度目のチャレンジとなる2021年のショパン国際コンクールは、見事4位入賞されました。そして反田恭平さんが2位という結果で、大変話題となりました。結果には満足されているのでしょうか。

あまり満足はしていませんでしたが、すぐに結婚して子供も生まれ、もうコンクールに出ることはないし、まあいいかなという感じでしたね。「ピアノが好きかどうか」なんて言っていられる状況ではありません。少し前に起こった事も覚えていないほど忙しい毎日に追われています。


Photographer Makoto Nakagawa


――出産によって自分の中でのピアノの位置づけは変わりましたか。

変わりましたね。ずっと私にはピアノしかないと思っていましたし、ピアノを弾かない私って生きている意味があるのかなぁっていう感じだったのが、出産でピアノを弾かない時間を経験したことで、ピアノが全てでは無いことを実感しました。今は、ピアノも大事ですが、子供や夫、家族がいる事で、心に余裕が出来た気がします。昔の私は孤独だったのだと思いました。これまでは自分の為に頑張って来たけれど、自分を犠牲にしても子供の為に頑張れるという、こんな気持ちは初めてです。

――ピアノの音も変わったんじゃないですか。

昔は音が張り詰めていたのに、出産後は随分優しくなったねって言われます。気持ちがこれだけ変わったのだから、当然音楽も変わりますよね。子育ては大変ですが楽しいですよ。確かにピアノを弾く時間は減りましたが、ずっとこの状況が続く訳ではありません。いずれは子供が大きくなり、手を離れると思うので、今は目の前のことを楽しもうと思っています。

――現在、コンサートツアー中ですが、お子様はどうされているのでしょうか。

有難いことに私の両親が見てくれています。現在、夫もツアー中なので、全員で私の実家を拠点にしています。それが彼も子供との時間を取れて、移動も少なくピアノの練習も出来て、効率が良いと言ってくれます。私は泊りで地方に行っていても、家にベビーカメラを付けているので、どこからでも子供の様子を見ることが出来ます。子供に話しかけることも出来、集中してピアノの練習も出来ます。この形が理想的で、恵まれていると思います。

――ショパン国際コンクールの2位と4位のお二人の結婚は、皆が驚きました。

そうでしょうね。幼馴染で時にはライバルということもありましたが、二人にとっては自然な形でした。同業者だからこそ理解できる事が多く、私は良かったと思っています。本番前の精神状態や、音楽的な事でも分かり合えます。たまに演奏会を聴きに来られると、緊張します。良かったよ!と言って貰ったとしても、全部見抜かれています。どうだったと聞かない限り、細かな話はお互いにすることはありません。専門的な話や、プログラムの曲順なども相談できるのは同業者ならでは。私は楽しいですよ。彼は色々と新しい発想を持っていて、人を引き付ける魅力もある人なので、良い音楽家になって、自分の夢を実現して欲しいと願っています。

――小林さんが描く、ご自身のピアニストとしての将来像は。

やはり世界で演奏できるようなピアニストになりたいです。その為に、今出来ることを順番にやって行こうと思っています。50年後といえば80歳前ですが、その時に夢が叶っていたらいいなぁと思います。

――好きなピアニストや、目標にしているピアニストはいますか?

ラドゥ・ルプーがいちばん好きで、彼の音源ばかり聴いています。他にはラローチャやホロヴィッツは、一度実演を聴いてみたかったです。シフやアルゲリッチも好きですが、事務所が私と同じカジモトということもあって、お会いしたことがあります。

――ピアニストは自分の楽器を持たず、行った先のピアノを使用して演奏します。

最近はどこのホールにも素晴らしい楽器が置いてあるので、特に問題はありません。ずっとお世話になっている調律師の倉田尚彦さんに、スケジュールが合えば来ていただいていたのですが、先ごろお亡くなりになりました。あまりにショックで、これからどうしようかと私同様不安に感じているピアニストが多いと思います。



――ザ・シンフォニーホールについては、どんな印象をお持ちですか。

何度も弾いていますが豊かな残響で、とても弾きやすいホールです。コンチェルトを弾くには、ちょうどいい大きさだと思います。楽屋にはピアノもあって快適です。

――最後に、日本センチュリー交響楽団の4月定期演奏会についてメッセージをお願いします。

秋山先生と日本センチュリー交響楽団の皆さまと、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」を演奏致します。ラフマニノフの協奏曲とは違ったこの曲の素晴らしさを、お客様と共有出来たら嬉しいです。ザ・シンフォニーホールでお待ちしています。

華やかな公演でスタートを切る日本センチュリー交響楽団の2024年度シーズン。人気の若手ソリストから、レジェンド級の巨匠マエストロまで、新シーズンも日本センチュリーの定期演奏会には豪華アーチストがずらりと並ぶ。そして2025年度シーズンからは、いよいよ首席客演指揮者の久石譲が音楽監督に就任する。話題の多い日本センチュリーの定期会員は、現在好評募集中。ザ・シンフォニーホールの決まった自分の席で、1年を通して日本センチュリーの活動を応援してみてはいかが⁈

取材・文 = 磯島浩彰

公演情報
第281回定期演奏会【チケット発売中】
2024年04月12日(金) 19:00開演(18:00)
ザ・シンフォニーホール

指揮:秋山 和慶/ピアノ:小林 愛実 

レズニチェク:歌劇「ドンナ・ディアナ」序曲
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
デュティユー:交響曲 第1番

※未就学児のご入場はご遠慮ください。
※やむを得ない事情により、出演者、曲目等に変更が生じる場合がございます。
予めご了承くださいませ。

チケット
S席/8,000円 サイン入りプログラム付き ※電話のみで取扱い
A席/6,500円 B席/5,000円 C席/3,500円 D席/2,000円
※税込・全席指定・未就学児童⼊場不可

主催 公益財団法人日本センチュリー交響楽団

公演情報ホームページ コチラ