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世界的アーティスト、勅使川原三郎の芸術監督就任記念シリーズが愛知県芸術劇場でついに開幕!

勅使川原三郎が愛知県芸術劇場初の芸術監督に就任。その発表以来初めて同劇場のステージに登場した。就任記念事業シリーズの第1弾はドストエフスキーの小説を原作とするデュオ・ダンス「白痴」。2016年に東京で初演以降、フランスやイギリス、イタリア、さらにドストエフスキーの母国ロシアでも絶賛されてきた近年の代表作だ。勅使川原は絶大な信頼を寄せるダンサー・佐東利穂子をパートナーに、主人公のムイシュキン公爵と彼が恋する美女ナスターシャの姿を浮かび上がらせる。それは同時に、人類普遍の営みにも見えてきて……。今回はそんな「白痴」の公演レポートをお届けする。それは東海地方の舞台芸術がコロナ禍と向き合い、再び歩み始めたことを象徴する大きな一歩ともなった。


まず序盤、今まで観てきた、あるいはイメージとして持っていた勅使川原作品と異なる印象に驚かされる。そこにはシャープ、スタイリッシュ、無機質といった感触はなく、ムイシュキン役に当たる勅使川原は、激しく踊るより繊細なマイムで目を引く。音楽はクラシカルで、優雅だったり劇的だったり。徐々に展開されるステップや手の動きも、どこか古典的に映る。決して原作の筋をなぞっているわけではないのに、物語性やドラマ性が強くうかがわれ、勅使川原作品で感じたことのない生々しい人間臭さが新鮮だった。
そこに高揚感たっぷりのワルツ=円舞曲が流れると、付かず離れずのムイシュキンとナスターシャの愛の葛藤も高まりを見せるが、複数の音楽が重なったり、人間の笑い声やセリフがかぶさっていくにつれ、動きも変化。やがて現代的なビートや旋律、ノイジーな音があふれるに至って、キレキレの振付が飛び出し、観客を圧倒する。しかし、それも束の間。音楽は再び古典的な調子に戻っていく。そこで、この作品はムイシュキンとナスターシャの愛の顛末を体現しながら、私たち人類が何度も何度も繰り返してきた営み、人間の〈生〉の哀しみを表しているのではないかと思い知らされる。


音楽の趣向が冴える一方、照明が示唆することも様々に考えさせられた。ムイシュキンは冒頭、暗闇の中に浮かび上がる狭い光の世界に現れ、悶絶していた。原作の彼は精神療養所にいた人物だが、ナスターシャは誰よりも早く彼の純粋さに気づく。では、ムイシュキンの精神の病みとは何なのだろう。そう考えていくと、彼が身に着けていたジャケットを脱ぐシーン、そのジャケットを踏みつけるシーンが意味深長だ。ジャケットは社会性の象徴で、そこに人間性というものもあるとして、それに囚われないムイシュキンの純粋性は、この世界では病と判断されるのかもしれない。ナスターシャを追いかけようとしても、照明の外の暗闇に踏み出せないムイシュキン。無垢で真っ白ゆえの苦悩が切ない。
終幕間近、ムイシュキンがもう一度ジャケットを着てみようとすると、ネズミがそれを奪い、走り去る。ネズミは、何か悪いものを運んでくる存在か? コロナ禍に見るといっそう不気味に感じてしまうが、それほどに勅使川原の「白痴」は時代時代で観客の心を揺さぶる作品として上演が繰り返されていくに違いない。なお、勅使川原が3月から5月までに描いた貴重なドローイングの展示も同時開催。東海地方の舞台芸術が息を吹き返しつつあるおり、全国トップクラスの文化施設である愛知県芸術劇場から真に国際水準の作品を発信できたことで、当地の活動に弾みがつくことを祈りたい。

◎Text/小島祐未子 ◎Photo/羽鳥直志

<公演情報>
7/17 FRIDAY~7/19 SUNDAY
勅使川原三郎芸術監督就任記念事業シリーズ「白痴」
構成・照明・衣装・選曲:勅使川原三郎
出演:勅使川原三郎、佐東利穂子
■会場/愛知県芸術劇場小ホール


映画「his」が1/24(金)に公開になりました。
今回は、主演の宮沢氷魚と藤原季節が登壇した名古屋舞台挨拶をレポートします。

映画「his」は、1/17(金)に公開された田中圭主演の映画「mellow」に続き、今泉力哉監督の2週連続の公開作。“恋愛映画の旗手”とも呼ばれ、「パンとバスと2度目のハツコイ」「愛がなんだ」「アイネクライネナハトムジーク」など、きめ細やかな恋愛描写で定評のある今泉監督が今回描くのは、男性同士の恋愛。

メ~テレで2019年4月から放送された連続ドラマ「his~恋するつもりなんてなかった~」を前日譚に、大人になった主人公・井川迅を宮沢氷魚が、日比野渚を藤原季節が演じる。入り口はLGBTQをテーマにした恋愛映画だが、観終わった時の印象はかなり違う。
宮沢:違いますね。僕たちの人生に関わってくれている人間すべての物語です。やはり人間一人では生きていけない。どんなに自分をよく見せて、一人でも生きていけるって信じ込んだとしても、他の人の力で自分の人生も進んでいくんだなと思ったし、今回は迅にとっては渚や空(渚の娘)であって、皆に支えられて生きているんだなと思いました。

迅は、ゲイであることを周りに知られないように、東京の会社を辞め、岐阜県白川町に移住し自給自足の生活をしている。そんな迅の前に、8年前に突然別れを告げ去っていった渚が6歳の娘・空を連れ現れるところから物語は始まる。この役を演じるのに二人は全く迷いはなかったという。
宮沢:プレッシャーはありましたし、映画初主演というのもあり、色んな意味で重圧を感じていたんですけど、それに勝る、この作品に参加できる喜びだったり、この時代に出来るという喜びがプレッシャーを全部打ち消してくれて、前向きに取り組むことができました。
藤原:自分が無知だったということもあると思う。今になってこの時の自分の価値観がいかに一方通行なものであったかと考えると心が痛いです。今でも葛藤しています。僕も氷魚くんも世間のニュースやテレビの色んな言葉に敏感になって、もしこの言葉を聞いたら迅は傷つくだろうなとか、センサーを自分の中で持つことができるようになった。そこは一歩成長したかな。100%理解できない自分を責めるのではなく、自分が26年間で培ってきた当たり前という価値観や自分のことも受け入れて、無理に自分の価値観を変えようとするのではなく、こういう考え方もあるんだなという風に発見できただけでも、今は良しとするか、と折り合いをつけています。


白川町の撮影では10日間二人でコテージに寝泊まりした。衣装合わせで会っただけで、会うのは2回目で共同生活をするのは「嫌だった」と話したが、精神的に追い詰められる撮影の中で、互いの存在に助けられた。
藤原:僕は氷魚くんと10日間暮らした後に、東京編で裁判のシーンの撮影があったんです。今泉監督からも、“東京の渚の顔は全然違う”と言われました。やはり、迅という存在がいないと、ここまで渚は変わってきちゃうんだなと思いました。

また、宮沢はLGBTQの友人がいるということで映画「his」に込めた思いを語った。
宮沢:この映画に参加させてもらって、この映画が答えではないと思うし、この映画が世に出ることによって現状が大きく変わるかって聞かれたら、たぶん変わらない。でも考えるきっかけになってくれたらいいなと。こういう人間が居て、当たり前というか、普通って何なんだろうって、普通なんてものが存在するんだろうかって、自分に問う時間が10分でも、それ以上だと嬉しいですけど、あると嬉しいなと思います。

キャストは、渚と離婚調停中の妻に松本若菜、迅の移住をサポートする町役場の職員を松本穂香、迅と渚を見守る白川町の住民を、ミュージシャンの鈴木慶一、根岸季衣が演じている。ラストシーンの余韻の中流れる、書下ろしの主題歌「マリアロード」が、映画「his」の心に残るセリフや温かさをより深めてくれます。

◎取材・文/神取恭子

1/24 FRIDAY〜 名古屋・伏見ミリオン座、他全国ロードショー
映画「his」
◎監督:今泉力哉 ◎主演:宮沢氷魚、藤原季節
◎配給・宣伝:ファントム・フィルム
◎製作:2020映画「his」製作委員会


日英共同制作の家族劇に、現代社会の孤独がじわじわと……。
可児市文化創造センターとリーズ・プレイハウスが日英の精鋭を集め、新しい家族劇を共同制作。

「アーラ」の愛称で親しまれる可児市文化創造センターとイングランド北部、ウェスト・ヨークシャー州にあるリーズ・プレイハウスは大都会とは異なる「地域の劇場」として理念を共にし、2015年には提携を実現。さらに友好関係を築き、この2020年、念願とも言える共同制作を行います。
 タイトルは「野兎たち MISSING PEOPLE」。同作は、アーラが常に見つめ続けてきた「家族」「絆」を題材とする物語です。そこで2月の開幕に先駆け、主要スタッフやキャストがそろって記者発表を実施。作品の魅力や稽古の様子、国際共同制作ならではの苦労などを語りました。

ーご出席者から、ひと言ずつお願いします。

・可児市文化創造センター館長兼劇場総監督 衛 紀生:アーラという劇場はリーズ・プレイハウスをベンチマークに、とにかく追いつこうという想いでやってきましたので、共同制作には非常に感慨深いものがあります。大変なことは多いですが、きっと新しい家族劇に出会っていただけると思っています。

・演出家 西川信廣:この事業はリーズ・プレイハウスとアーラがやってきた仕事のひとつの集大成であり、同時に新しい関係のスタートでもあると思っています。マーク・ローゼンブラットと共同演出する上で、あるものを出し合い、ないものを補い合ってきましたが、現在はほとんどバトルと言うか、産みの苦しみの時期。でも、とても良いカンパニーになっています。


左:プロデューサー 衛紀生 右:演出 西川信廣

・演出家 マーク・ローゼンブラット:衛さんとジェイムズ・ブライニング芸術監督の最初のアイデアは、社会の片隅に追いやられた人たち、社会から疎外されている人たちの芝居を作るということでした。それで日本の文化や社会をリサーチするうち、興味深かったのは、失踪したり行方不明になったり、突然いなくなる人たちがたくさんいるということでした。そしていちばん重要なのは、人が失踪した後、残された家族は一体どうやってそれに向き合っていくのかということ。難しい問題ですが、劇作家のブラッドがうまく戯曲にしています。

・劇作家 ブラッド・バーチ:行方不明者、失踪者を探求していくというテーマですが、誰もが知っているような家庭の、どこでも起こりうる話ではあります。なお、先ほど2カ国の共同制作という説明がありましたが、イギリスと言ってもそれはイングランドのこと。私はウェールズ出身で、ウェールズも大英帝国の中のひとつの国なので、3カ国の共同制作と考えてください(笑)。

・ダン・ヒューズ役 サイモン・ダーウェン:演劇を作る際、稽古のやり方はどこでも同じかなと思っていたんですけど、いろいろと違うことがありますね。でも、アーラのホスピタリティには本当に感動しています。この芝居ではコミュニケーションの重要性を語っていて、そこには言葉の違いも関係しますが、同じ言語をしゃべっていても通じないことはあります。コミュニケーションの問題は、この芝居の中で非常に大事です。

・リンダ・ヒューズ役 アイシャ・ベニソン:日本人の役者さんと一緒に芝居を作るのは初めてで、稽古でやり方の違いを感じる時はありますが、それでもみんなでまとまらなければいけません。芝居を作るということは、みんなが家族であるということなので、本当に今、家族を作っていっている感覚。今回の作品づくりは私にとって、すばらしいアドベンチャーです。

・中村早紀子役 スーザン・もも子・ヒングリー:私はずっとイギリスに住んでいるんですけど、東京生まれで、母が日本人。イギリスで活動してきましたが、日本でやりたい、日本語で演技をしたいという気持ちはあって、このオーディションの話が来た時はすごく燃えました。私の演じる早紀子は可児生まれ・可児育ち。でも外の世界が見たくてロンドンに行ってしまい、ダンという男性と出会う。そして婚約したダンを親に紹介するため、しぶしぶ故郷に帰ってくる役どころです。

・中村勝役 小田豊:「野兎たち」はただの翻訳劇ではなく、劇作家と共同作業みたいな形で作っていて、イギリスのすばらしい俳優さんたちとも一緒に頑張っています。ただ、芝居の作り方はイギリスの人たちと本当に違っていますね。日本とは作り方の流れが違うので、そういう意味で非常に苦労していますし、産みの苦しみを経験しています。

・中村千代役 七瀬なつみ:この芝居は一見、幸せな風景で始まり、それぞれの家族の問題が浮かび上がってきます。家族はとても近い存在なのに、近いからこそコミュニケーションが難しいということも書かれている。家族って何なのかなとか、人の幸せって何なのかとか、たくさん感じていただける作品になると思います。

・斎藤浩司役 田中宏樹:この作品はブラッドさんが日本文化を尊重し、理解しようとして書いたものです。しかも日本が舞台なので、僕たちは戯曲に負けないようにしないといけない。物語上は登場人物おのおのが物凄く苦しんでいて、その苦しみがどういう結末を迎えるのかは別々ですけど、どんな場所、どんな国の人でも感じていただけるところがあると思います。

・中村康子役 永川友里(以下、永川):家族や夫婦のあり方、本当の幸せとは何だろうと自問自答の毎日で、正解はないと思いますが、稽古を通じて自分なりの答えを見つけ出したいです。また、可児川沿いを歩きながら物思いにふけっていると、作品の舞台に滞在しているからこそできる役作りがあることを実感します。そういう環境を作っていただけたことは、すごく幸せですね。


中央:演出 マーク・ローゼンブラット

ーイギリスと日本、芝居の作り方はどのように違いますか。

・西川:日本人の作り方は作品を全体で捉え、だんだんディテールに入っていくことが多いと思うんですけど、マークと一緒に作っていると、一つ一つのディテールを俳優と共有し、積み上げていく。そういうところが大きな違いでしょうね。どちらが良いとは言えないので、両面を取りながら作っています。

・マーク:似ている点もあるんですよ。ただ、社会の相違が稽古の過程にも反映されていると思います。概論的ですが、イギリスは個人社会で、日本は集合体の社会。イギリスでは、登場人物が何を欲しているのか、その欲しているものを止めるものは何なのか、細かく詰めていきます。一方、日本人の役者さんは直感的に場面のムードを感じ取って、集合体的に芝居を作っていくように見えます。二つの違うアプローチを一緒に行うのは、とてもエキサイティングですよ。


中央:作家 ブラッド・バーチ

ー日本各地を取材したそうですが、具体的に教えてください。

・ブラッド:日本には3回来ているんですけど、東京、大阪、可児……、名古屋も少し行きました。いろいろな分野の専門家と会って話を聞きましたよ。貧困について詳しい方とか、子ども食堂や学校で苦労している子たちの面倒をみる機関の方にも会いましたし、自殺したい人の電話駆け込み所なども取材しました。その中で心に残ったのは、大阪の釜ヶ崎を訪れた時のことです。釜ヶ崎は行方不明になった方や失踪した方が結構住んでいて、自分の国とは違うなと。そして注意深くその人々の経験を受け止め、ドラマにするうち、イギリスと日本、直面している課題は同じだと感じたんです。貧困やメンタルヘルス、社会の構造の問題などは日英で共通していますね。

ー英題、邦題それぞれが決まった経緯は?

・衛:「野兎」という言葉が、かなり早い段階でブラッドから出てきたんですよ。それから「MISSING PEOPLE」という題名になっていたんですけど、邦題には「野兎」を残したほうがいいんじゃないかと。野兎というのは穴に潜っていて臆病者で、ときどき穴から出てきて餌を食べては、すぐ穴に戻る。いわば孤立していて孤独です。「野兎たち」のほうがお客様のイメージを喚起できると思い、邦題に決めました。

・マーク:英題には物語のエッセンスを示す上で「MISSING PEOPLE」と付いていますが、そこにはダブルの意味があります。この「MISSING」には「いなくなった」「失踪した」という意味だけではなく、いなくなった人を恋い焦がれる、懐かしく思うというような意味もある。その二重の意味がイギリス人にはわかるようになっているんですよ。

Interview&Text/小島祐未子

<公演情報>
2/22 SATURDAY~2/29 SATURDAY【チケット発売中】
可児市文化創造センター+リーズ・プレイハウス
日英共同制作公演
「野兎たち MISSING PEOPLE」

■会場/可児市文化創造センター・小劇場
■開演/2月22日(土)・23日(日)・26日(水)・27日(木)・29日(土)14:00、24日(月)・28日(金)18:30 ※2月25日(火)は休演。
■料金(税込)/全席指定 一般¥4,000 18歳以下¥2,000
■お問合せ/可児市文化創造センター TEL0574-60-3311
※未就学児入場不可


11/2(土)に愛知県芸術劇場 コンサートホールで開催する 第23回 スーパークラシックコンサート ケント・ナガノ指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団(ピアノ:辻井伸行)に先駆けて、現地ハンブルクで行われた定期演奏会のレポートが届きました。名古屋公演と同プログラムです。


Photo:Claudia Höhne / Philharmonisches Staatsorchester Hamburg


<ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団 エルプフィルハーモニー公演 10月27日、28日>

10月31日より全国7箇所で行われるハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団の日本ツアーに先立ち、辻井伸行が、現地ハンブルクのエルプフィルハーモニーで行われた同団の定期演奏会に出演した。公演曲目は日本公演の東京(10月31日)、名古屋(11月2日)、大阪(11月4日)でも演奏される、ベートーヴェン:「エグモント」序曲、リスト:ピアノ協奏曲第1番、マーラー:交響曲第5番。

公演に先立って行われたリハーサルで辻井とナガノは初顔合わせ。リハーサルを終えたナガノは辻井を、「見事なまでにクリアな方向性を感じさせる演奏で、大変感動した。ともに演奏できることを大変光栄に思う」と称賛した。実は辻井にとってリストの協奏曲第1番は初めて披露する曲。この日の為に入念な準備を重ねリハーサルに臨んだだけに、マエストロからの想像以上の賛辞に辻井も大変感激していた。

エグモント序曲で始まる今回のプログラム。ベートーヴェンの作風にある「苦悩からの歓喜」を、僅か10分程度のこの曲でナガノは丹念に想いを込めて表現してゆく。華々しく終わる序曲から、この後に控えるリストの協奏曲への期待を一層膨らませていく。

序曲を終え、舞台上にピアノが運ばれ辻井の出番となる。冒頭からリストならではの華やかでピアニスティックな演奏が展開されていく。辻井の得意とする繊細で柔らかな音色でオーケストラと掛け合う場面もあれば、互いに丁々発止のスピード感あふれるスリリングな展開を繰り広げる場面もあり、この協奏曲とオーケストラ、そして辻井の相性の良さを存分に楽しめる時間である。熱演を終えた辻井は現地ハンブルクの聴衆に熱狂的に受け入れられ、度々ステージに呼び戻されていた。


Photo:Claudia Höhne / Philharmonisches Staatsorchester Hamburg

後半のマーラー交響曲第5番は、マーラーの作品の中でもマスターピースと言える大曲。オーケストラの醍醐味を存分に体感できるこの作品で、ナガノは丁寧に旋律を描いてゆく。こちらも入念なリハーサルを経て迎えた演奏とあって、アンサンブルは考えぬかれ、旋律の掛け合いも見事に描かれ、マーラーの意図するところをナガノは余すことなく汲み上げ音楽を創ってゆく。怒涛のクライマックスを経てこの大曲を聞き終えた後の充実感はなかなか得難い経験と言えるだろう。

ハンブルク州立歌劇場の現総監督を務めるナガノの遥か昔の前任者は、他でもないこの曲を創ったマーラー、彼自身である。「長い伝統によって培われてきたオーケストラの独特の響きと音色を日本の皆さんにもぜひ楽しんでもらいたい」。ナガノの想いを日本の聴衆に余すことなく伝える準備は整ったようである。この貴重な経験を日本で味わえる瞬間が間もなく訪れようとしている。

<公演情報>
11/2 SATURDAY 【チケット発売中】
第23回 スーパークラシックコンサート 
ケント・ナガノ指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ:辻井伸行

◼️会場/愛知県芸術劇場 コンサートホール
◼️開演/17:00
◼️料金(税込)/
S ¥22,000 A ¥18,000(完売) B ¥14,000(完売)
C ¥10,000(完売) D¥7,000(完売) U25 ¥3,000(完売)
◼️お問合せ/東海テレビ放送 事業部 TEL.052-954-1107(平日10:00〜18:00)



映画「108 海馬五郎の復讐と冒険」が10/25(金)から全国公開されます。
今回は監督・脚本・主演を務めた松尾スズキの会見レポートをお届けします。

松尾スズキが大人計画を旗揚げしたのは1988年で昨年30周年を迎えた。宮藤官九郎や阿部サダヲをはじめ才能豊かなメンバー達は、松尾と同様にそれぞれ多岐に渡って活躍しています。そしてこの映画は松尾にとって4本目の長編映画で、今回初めて監督・脚本・主演の全てに挑みました。

松尾:本番に入る前に1ヶ月くらいリハーサル期間を作りました。監督を務めながら主演をするわけなので、主に僕の場面の練習です。あとはローションのシーンを実験してみたり。監督・脚本・主演と兼ねましたが、本番中はゾーンに入っているというか、すごく忙しい定食屋の店員さんのオペレーションみたいな感じでしたね。ギュッと集中していて、何かをしながら次の段取りが頭に入っていて自然と手が動いているような。大人計画では演出をしながら出演するのがよくあることなので、その辺は結構身についているんです。あと、あまり時間がない中での進行だったんですが、キャストやスタッフのみんなが僕のシナリオが面白いって褒めてくれて、そのことがこの映画を作るに当たって精神的支柱になっていたと思います。


                                   スタイリスト:安野ともこ(コラソン)

そのストーリーとは、SNSで妻の浮気を知った中年の男が、その妻の投稿についた108の「いいね」の数だけ女をを抱いて復讐するというもの。R18指定のコメディである。

松尾:このプロットを書いたのが50才になる頃で、ちょうど再婚も決まっていました。この歳で結婚する意味ってあるのかな?と思ったり、妻も若かったから将来のことも考えたりもするし。そういうこと色々が重なって、この話が出来ていったんだと思います。R18指定だから激しいシーンがどうしても取り沙汰されるし話題にもなるんだけど、大人の恋愛事情の悲喜交々といったところも読み取って欲しいと思いますね。ラストではそれを感じてもらえると思います。

またこの映画には松尾スズキの喜劇人としてのこだわりも沢山盛り込まれています。ミュージカルシーンもあり、主人公である松尾がスクリーンの中で焦り、縦横無尽にのたうち回るドタバタコメディに仕上がっている。体力的にも限界に挑んだ内容になったようです。

松尾:撮影が朝から深夜まで続くのがほとんどで、後半は走るシーンでも足が上がらなかったり。もう少しカッコよく走るはずが「ワザとですか?」ってスタッフに言われて情けなくなったけど、それもある種のリアリティを与えているんだと思います。僕も中年クライシスというのを感じてはいるけれど、どうしてもこの映画は実現したかった。往年の喜劇人たち、チャップリンやキートン、メル・ブルックスがそうしたように、自分で考えて自分が一番面白くなるように書く、それを自分が演じる。それを映画でやっておきたかったんです。

キャストは妻役に中山美穂。そして脇を固めるのは劇団「ハイバイ」主宰で第57回岸田國士戯曲賞を受賞している岩井秀人、第36回紀伊國屋演劇賞ほか多数受賞の秋山菜津子の好演が目を引きます。演劇人・松尾スズキならではの目線で個性的な俳優陣を配し、映画でなければ実現できないスペクタクルなシーンもトラウマになるくらい心に残ります。


10/25 FRIDAY〜 全国ロードショー
映画「108 〜海馬五郎の復讐と冒険〜」
◎監督・脚本・主演:松尾スズキ
◎配給・宣伝:ファントム・フィルム
◎製作:「108 海馬吾郎の復讐と冒険」製作委員会