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KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」の製作発表会見が、7月20日に神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで行われました。会見には演出で同劇場の新芸術監督である長塚圭史をはじめ、出演の田中哲司、松田龍平、笹本玲奈、石橋静河が登壇。この会見の様子をレポートします。

「近松心中物語」は、神奈川県横浜市出身で戦後を代表する劇作家・秋元松代の戯曲で、近松門左衛門の「冥土の飛脚」をベースとし、いくつかの近松作品の要素が加えられています。1979年、蜷川幸雄の演出により東京・帝国劇場で初演されて以来、その上演は1,000回を超えるという日本演劇界の金字塔とも称される作品です。今回は長塚圭史が演出を担うということで、田中哲司、松田龍平、笹本玲奈、石橋静河をはじめとした出演者19名と新たな「近松心中物語」をどう作り上げるのか楽しみなところです。劇中では元禄時代の大阪・新町を舞台に、飛脚宿亀屋の養子・忠兵衛と新町の遊女・梅川、忠兵衛の幼なじみで古道具商傘屋の婿養子・与兵衛と、その女房・お亀の男女2組の物語が展開する。
会見で長塚は秋元作品の魅力について「簡潔でありながら非常に意味深く味わい深いセリフの魅力に惹かれました」とし、以前演出した秋元作品「常陸坊海尊」を経て「近松心中物語」を読み、その魅力を再確認したと言います。物語については「身分制度も厳しい時代の中で行き場がなくなり死を選ぶ梅川と忠兵衛、裕福ながらも心中という物語に恋してしまうお亀と生への執着を捨てられない与兵衛、この2つのカップルの様は格差の広がる現代においても非常に雄弁なのではないか」と、この物語の普遍性を語りました。さらに「一目惚れというのは大変なこと。電気みたいなものが走って惹かれ合うという、この肉体性の高さに僕は色気を感じます。そして心中。永遠を手にするために大好きな夫と死のうとするというのにも肉体的なエネルギーを感じます。」と語りました。


左から演出の長塚圭史、出演の笹本玲奈、田中哲司、松田龍平、石橋静河

そして本作の音楽を手がけるのは、ラップグループのスチャダラパー。長塚は「スチャダラさんが『近松心中物語』ってビックリしませんか?でも、この戯曲を読んでいると江戸時代の元禄から現代に通じるトンネルがグッと開くのを感じました。そのトンネルをどうつなごうかと考えたとき、スチャダラさんが浮かんだんです」と起用の理由を明かしました。


出演者の田中は「忠兵衛は僕にとってハードルが高く、心して挑まなくてはならない役。出演者の皆さんがどんな世界観や価値観を持ち込んで挑むのかとても楽しみ」と抱負を述べました。松田は「長塚さんの作品出演は3作目。そのうち1作は田中さんとご一緒していますので、心強いなと思いながら楽しみにしています」とし、笹本は「私にとって試練になるだろうと思っています。長塚さん作品も和物の舞台も初めて。共演の皆さんとも初めましてですが、心強い方ばかりなのでついていけば大丈夫だなと思いました」と初めて尽くしの心境を語りました。石橋は「とてもボリュームのあるこの脚本を読み終えた時、『なんて儚いんだ』という刹那を感じました。最初に抱いたこの印象を大事にしながら、お亀という役をそのまま真っ直ぐ演じられたらと思いました」と今の心境を語りました。愛知・豊橋公演は10/1(金)〜3(日)、大阪・枚方公演は10/13(水)で予定されています。その他の公演については公式サイトからご確認ください。

「近松心中物語」
<豊橋公演>
10/1 FRIDAY〜3 SUNDAY【8/14(土)〜チケット発売】
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
■開演/10月1日(金)18:00、10月2日・3日(日)13:00
■料金(税込)/全席指定 S¥10,000 A¥8,000 B¥6,000 ほか
■お問合せ/メ~テレ事業 052-331-9966
プラットチケットセンター 0532-39-3090
*未就学児入場不可
<枚方公演>
10/13WEDNESDAY【8/18(水)〜チケット発売】
■会場/枚方市総合文化藝術センター 関西医大 大ホール
■開演/14:00
■料金(税込)/全席指定 A¥7,000 B¥5,000
■お問合せ/枚方市総合文化芸術センター別館 TEL.072-843-5551
*未就学児入場不可


『22年目の告白~私が殺人犯です~』『AI崩壊』など、近年はメジャー映画で知られる入江悠監督による自主制作映画『シュシュシュの娘』。『SRサイタマノラッパー』シリーズ以来10年ぶりとなる自主映画だ。2020年、「コロナ禍で苦境に追い込まれた全国のミニシアターを応援したい」との思いで、クラウドファンディングと自己資金で制作を開始。「全国のミニシアターで一斉公開」という、過去に例を見ない形での上映に漕ぎ着けた。差別や移民などシリアスな題材の中にもユーモアを盛り込んだ本作。公開を控えた入江悠監督のインタビュー会見をレポート!



―今回は女性が主人公。どのように生まれたキャラクターですか?
コロナ禍で先が見えず、どうなるんだろうと2020年を過ごしました。過去に映画を上映してもらったミニシアターも苦しんでいる。一緒に映画の興行をやっていきたいと思ったんです。
女性を主人公にしようと最初に決めました。男を主人公にすると、どんどん暗い話になっていくんですよね(笑)。女性の方がポップさを出せるんじゃないかと。「ミニシアターに行ったことない」という人も気軽に来てほしいとの思いで、ちょっとユルい女性キャラクターにしました。

―脚本が生まれた経緯は?
コロナ禍で仕事の予定が2つくらいなくなり、カッとなって書きました(笑)。ずっと家にいたので、集中して書いた感じです。ただ、この映画で描かれているような外国人差別の問題などは自分の中にずっとあるテーマでした。『ビジランテ』でも描きましたが、深めていきたい気持ちはずっとありました。2020年、「不要不急」という言葉がありましたが、僕にとって映画館で映画を見ることは、かなり「要」です。救われたり、笑ったり泣いたり、普段の生活から解放され身軽になれること。そういう意味で少し笑えるものをやりたいと思いました。せめて88分を気持ちよく痛快に。目標はそれくらいでいいのかなと思ったんです。暗くて重い映画も好きでミニシアターへ見に行きますが、笑い飛ばすことも映画のひとつの力。僕の好きな岡本喜八監督の『独立愚連隊』も、苦しい中で皆やけに明るくて笑っている映画です。

―久しぶりの自主映画ですね。
役者もSNSで募集しました。2500人以上来てメールサーバーがパンクした(笑)。当時まだ対面も厳しかったので、一次選考後リモート面接、その後対面オーディションをしました。主演の福田沙紀さんは芝居もダンスも面白かった。ダンスが映画に出てきますが、振り付けも自分で考えてもらっています。ダンスはすごく人柄が出やすい。本人が生きてきた足跡を記録する感じが面白かったです。


―撮影には学生スタッフも多く参加したそうですね。
学生たちも学校が休校になり、上京して一人暮らししている子たちが友達も作れず孤立していました。「やる気のある人は、来れる日は現場に来なさい」と話し、本気で映像業界を目指す人は全て休業して来ていましたね。学生には演出部や美術部、制作部などでプロと同じ仕事をしてもらいました。自主映画だからこそできることで面白かったです。商業映画とは違うペースでゆったりやりました。コロナの影響も不明で、とりあえずいっぱい寝て食べる時間を作ろうと。

―商業映画と自主映画、心持ちは違いましたか?
心持ちは同じですが、やっぱり自主映画は大変だなと。プロなら分業することを自主映画は自分でやらなくてはいけない。10年ぶりで大変でしたね。自主映画は人間力を問われるんです。撮影地を借りるのも自分で交渉する。人間対人間で信頼してもらう必要がある。しかも今はコロナでリスクが多い。「本当に映画を作りたいんだな、何か面白そう」と思ってもらうしかないんですよ。一つずつ交渉していくところに、自主ならではを感じました。

ー撮影はご出身の埼玉県深谷市ですね。
愛知の春日井市に似てると思います。郊外で起伏がなくフラットな感じ。日本全国へ行きましたが、春日井が一番近いと思いました。


入江悠監督:名古屋シネマスコーレにて

ーミニシアターで全国上映が決まるまでの経緯は?
上映のことは作品が完成するまで、基本的には決まっていませんでした。完成後に「いかがですか」と声をかけ、手を挙げていただいたところが現在上映が決まっている映画館です。

ーミニシアターにはどんな思いがあるのでしょう?
人生を救われたところがありますね。大学受験に失敗して引きこもりみたいな生活をしていた時期に、唯一行っていたのがミニシアター。そこへ行くことで、かろうじて社会の一員という感じでした。もちろんシネコンも映画を見る環境として素晴らしいですが、ミニシアターは一人で孤独を抱えていくような場所。そういう場所はだんだん減っている気がします。ミニシアターは独りぼっちを受け入れてくれる場所。

ー名古屋シネマスコーレは、入江監督にとってどんな映画館ですか?
『SRサイタマノラッパー』を一番多く上映してくれ、一番アツかった映画館です。スタッフの熱量が直接伝わってくる。メジャー映画はお互いの対話や熱が伝わり合うことが少ないですが、シネマスコーレの熱量は映画館の人と一緒に作り、お客さんに見てもらっている感じでした。

ー自主映画制作は、今後も続けたいですか?
はい。「そろそろやらなきゃ」という気持ちは、この数年むくむくと湧いてきていました。メジャー映画をやっていますが、担がれた神輿みたいな部分があり、細分化したスタッフに支えられて監督が成り立つ。誰もいなくなった時に一人で映画を作れるか、人間力が衰えてきているかもという不安がありました。やってみたら毎年作りたいくらい楽しかったです。やっぱり自主映画は自由。一人の人間に戻った気がしますね。

◎Interview&Text/山口雅

8/11 WED 19:00~
先行上映(全国一斉プレミアム試写会・チケット代は各上映ミニシアターへ全額寄付)
8/21 SAT~
[名古屋・シネマスコーレ、大阪・第七藝術劇場他、全国ミニシアターでロードショー]
映画「シュシュシュの娘」
■製作・脚本・監督・編集/入江悠
■出演/福田沙紀 吉岡睦雄 根谷涼香 宇野祥平 井浦新 他
■制作プロダクション・配給/コギトワークス


『舟を編む』(13)で日本アカデミー賞監督賞を最年少で受賞、『生きちゃった』(20)『茜色に焼かれる』(21)では社会や理不尽な出来事に葛藤しながら向き合っていくエモーショナルな人間物語を描いてきた石井監督が、オール韓国ロケで生み出した新境地が『アジアの天使』。日本と韓国、言葉も違えば文化も違う2組の家族の気持ちのすれ違いやふれあいをコミカルに描きながら、強い絆を育んでいくロードムービーとなっています。第16回大阪アジアン映画祭のクロージング作品にも選ばれた今作、監督の来阪にあわせて行われた会見をレポートします。

妻を病気で亡くした小説家の青木剛(池松壮亮)は、8歳になるひとり息子の学を連れて、兄(オダギリジョー)の住むソウルへとやって来た。「韓国で仕事がある」という兄の言葉を頼っての渡韓だったが、いざ到着してみると、兄がいるはずの住所には、知らない韓国人が出入りしていて中にすら入れない。言葉も通じず途方に暮れるしかない剛は、自分自身と学に「必要なのは相互理解だ」と言い聞かせながら、意地でも笑顔を作ろうとする。
やがて帰宅した兄と再会できたはいいものの、あてにしていた仕事は最初からなかったことが判明。代わりに韓国コスメの怪しげな輸入販売を持ちかけられ、商品の仕入れに出向いたショッピングセンターの一角で、剛は観客のいないステージに立つチェ・ソル(チェ・ヒソ)を目撃する。元・人気アイドルで歌手のソルは、自分の歌いたい歌を歌えずに悩んでいたが、若くして亡くなった父母の代わりに、兄・ジョンウ(キム・ミンジェ)と喘息持ちの妹・ポム(キム・イェウン)を養うため、細々と芸能活動を続けていた。
そんな矢先、韓国コスメの事業で手を組んでいた韓国人の相棒が商品を持ち逃げしてしまう。全財産を失った兄弟に残された最後の切り札はワカメのビジネス。どうにも胡散臭い話だったが、ほかに打つ手のない剛たちは、藁をも掴む思いでソウルから北東部にある海沿いの江陵(カンヌン)を目指す。同じ頃、ソルは事務所から一方的に契約を切られ、兄と妹と3人で両親の墓参りへと向かうことに。運命的に同じ電車に乗り合わせた剛とソルたちは、思いがけず旅を共にすることになる。


―韓国で映画を撮るきっかけとなったのは、『ムサン日記〜白い犬』(10)のパク・ジョンボム監督が今作のプロデューサーを引き受けたことから始まったそうですが、パク監督との出会いは?

2014年の釜山国際映画祭で出会い意気投合したのですが、まさか30歳をすぎて親友ができるとは思ってもみませんでしたね。彼とは心に抱えている傷や痛みの話をよくしたんですよ、お互いにつたない英語で。言葉が不完全なので言語的に完璧に理解出来ていないはずなのに、なぜか彼の心が手に取るようにわかったんです。パク・ジョンボムも「なんで二人は仲がいいんだ?」と誰かに聞かれたら「前世で友達だったとしかいいようがない」と言っているそうで、まさにそんな印象なんです。元々この企画は別のプロデューサーと動かしていたのですが頓挫し、パク・ジョンボムが「あきらめるな」と言い続けてくれ、最終的に彼がプロデューサーを買って出てくれました。彼こそ最後の最後に僕の前に降りてきた天使みたいでした(笑) 実は今作にも役者として登場しています。


―タイトルに「天使」という言葉を使ったのはなぜでしょう。

「天使」という存在は、人それぞれに捉え方も違うし、信じる人もいれば信じない人もいる。そういう扱いきれないもの、つまり言葉にならないものとしての存在が、偶然のように、奇跡的に人間同士を結びつけるのは面白いなと思いました。


―日本人キャストとして、自由な兄にふりまわされる青木剛役に池松壮亮さん、マイペースでオープンマインドな兄の透役にオダギリジョーさんを起用されました。

池松君とは、以前韓国に遊びに行ったことがあります。パク・ジョンボムと一緒になって、みんなでキャッチボールをして、ビールを飲みまくるような旅ですが(笑)、たぶん韓国で映画をやることになるんだろうなと、彼はどこかでわかっていたと思うんですよ。撮影中も、オダギリジョーさんと池松君という天才役者二人が、韓国という異国の地でかみ合うことのない兄弟の会話を繰り広げる姿を見ているのは、とても面白い経験でした(笑)。韓国スタッフも日本語がわからないのにクスクスと笑っていて。それに、キャストも仲が良くて。後半に登場する海辺の町での撮影は合宿だったので、よくみんなでビールを飲んだり、浜辺で遊んだりしてましたよ。


―映画『金子文子と朴烈』(17)で日本人の主人公・金子文子役を鮮烈に演じたチェ・ヒソさんをソル役にキャスティングした決め手は?

この年代の女優さんを探していた頃、すでに日韓問題は最悪の状態で、日本と共に行うプロジェクトには「出られません」という返答も多かったんです。そんな状況でも、彼女には色眼鏡みたいなものがまったくなかった。〝面白いことをやりたいんだ″という意思の強い人で、日本語も話せますから、それじゃあチャレンジしましょう、ということになりました。とても志が高く聡明で、全身全霊で映画に向き合う人です。


―都会・ソウルでの重い現実を背負った二組の家族の物語は、後半、トラックを使って海辺の田舎町へと旅をするロードムービーへと変化していきます。トラックでの撮影は大変だったのでは?

6人が一つのトラックで旅をするシーンは、役者以外にもカメラマンなどのスタッフが乗り込んでの撮影でした。現場は韓国スタッフが95%以上でしたが〝わからないことを楽しんで良いものを作ろう!″という人たちが集まっていたので、現場の雰囲気は最高に良かったです。


―韓国と日本で撮影システムの違いなどはありましたか?

例えば夜のシーン。日本では暗幕で窓を塞いで昼間でも撮ってしまうのですが、韓国では夜のシーンは夜に撮りたい!と。確かにそうですよね。夜のシーンは夜に撮る。そういう違いも面白いじゃないですか。食事の場面でも「飲んでいるシーンは本当にビールを飲みたい」と韓国の俳優陣は言っていましたしね。ノンアルコールでやるといったら「そんな現場は初めてだ」と兄役のキム・ミンジェはちょっと不満顔でした(笑)が、撮影が終わったら、やっぱり酒を酌み交わす。ビールに関しては四六時中、飲んでました。


―劇中でも「この国で必要な言葉は、メクチュ・チュセヨ(ビールを下さい)とサランヘヨ(愛しています)だ」とオダギリさん演じる兄が言っています。これまでの話を聞いていると、監督の実体験から生まれたセリフなのでは?と思えました。

韓国ではシックと言うそうなんですが、ご飯を一緒に食べる人、一緒に食べたら友達だ、家族だという文化があるみたいですね。それが今作の「家族のようになる」テーマにもつながっています。韓国で誰かとビールを飲んでいると、知らない間にどんどん人が増えていくし、何軒もはしごするんですよ。次はタッカルビ、その次はカルビタン(カルビのスープ)と店を変えながら食べては飲む。僕はこれまでそういう経験を繰り返し、韓国の人たちと心を通わせてきました。それに、韓国の俳優さんは、みんなよく食べるんです。女優さんであろうとバクバクと。それが本当にすがすがしい!素敵だなぁと思って見ていました。


―共にご飯を食べて交流を深めるけれど、追いつかないのが言葉の壁。言いたいことがダイレクトに伝わらないもどかしさをどう乗り越えていくのか。それも物語の重要なエッセンスになっていますね。

本心みたいなものに言葉ではたどりつけなくて。だけど、たどり着けないその先にある本当の感情を表現すること、それを今作で描ければと思いました。最初は空回りをするけれど、少しずつつたない英語を使いだすという点でも、僕とパク・ジョンボムとの関係に近いですね。今は、コロナ禍によってどの国の人も辛い状況を強いられています。他者の痛みに思いを馳せるのは、どうしたって必要なことだと思います。世界平和なんて言葉を使うのは照れ臭いのですが、国籍も人種も関係なく同じ気持ち、痛みを共有すること。みんなでビールを飲みながらご飯を食べること以上に重要なことなんてないんじゃないか、と思います。この作品は、二つの国を結ぶ小さな架け橋になりそうな気がしています。


(取材・文=田村のりこ)



7/2 FRIDAY〜
[テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、なんばパークスシネマ他、全国ロードショー]
映画「アジアの天使」
■脚本・監督/石井裕也
■エグゼクティブプロデューサー/飯田雅裕
■プロデューサー/永井拓郎、パク・ジョンボム、オ・ジユン
■撮影監督/キム・ジョンソン、 音楽/パク・イニョン
■出演/池松壮亮、チェ・ヒソ、オダギリジョー、キム・ミンジェ、キム・イェウン、 
佐藤凌 他
■製作/『アジアの天使』フィルムパートナーズ
■制作プロダクション/RIKI プロジェクト、 SECONDWIND FILM
■配給・宣伝/クロックワークス


革新的な作品で話題を呼んできたフラメンコ・ダンサー&振付家のイスラエル・ガルバン。このコロナ禍においてスペインから来日し、『春の祭典』を愛知と横浜で上演することになり、その記者会見が行なわれた。



海外からの招聘公演が次々と中止される中、今回の来日公演実施にあたってはバブル方式を採用、ガルバンも隔離期間中は一人でリハーサルに励んだ。迎え入れる側のDance Base Yokohamaも、最寄りのスーパーにある商品すべてを撮影し、その中から必要なものをオーダーできるようにしたり、ホテルの客室にエアロバイクを運び入れたりとさまざまな工夫を。アメリカからピアニスト2名が来日することができなかったため、日本人ピアニストの増田達斗と片山柊が起用され、それぞれから提案のあった曲(増田からは自作曲の「バラード」、片山からは武満徹の「ピアノディスタンス」)のパフォーマンスを「春の祭典」と組み合わせて上演することとなった。


(C)羽鳥直志

「実際に舞台に立って踊るために、14日間の隔離やPCR検査、スペインから日本に来るまでの長い行程等、本当に踊れるのか信じられないような思いをしなくてはいけない」と心境を吐露したガルバン。ヨーロッパの他の国からのオファーもある中、日本を選んだ理由については「想像もしなかったようなパンデミックにおかれ、一足飛びに飛ぶ大きな一歩が必要だと考えた。芸術が生き続けているということを伝えるためにもやって来た」とのこと。子供のころから何度も来日しており、舞踏の文化があり、フラメンコに造詣の深い観客の多い日本人の前で踊ることを「心地いい」と語った。2019年にスイスのローザンヌで初演した「春の祭典」については、若いころ、独自の踊りのスタイルを目指していたとき、たまたまニジンスキーの写真を目にし、それ以来、自身の踊りのスタイルも変わったと感じられるようになったこと、その後この曲を知ってフラメンコとも共通するリズムを感じ、「(ダンサーが)作品を構成する打楽器の一つとなってリズムを刻む」というこれまでの振付と異なる方法で表現できると思い上演を思い立ったとのこと。踊るにつれ、ニジンスキーの自由も発見できるようになったという。「このたびは『春の祭典』を通じて二人の日本人ピアニストと出会い、彼らとも家族となれる」と、今回ならではのコラボレーションについて語った。


(C)羽鳥直志

4月の終わりから急に実現に向けて動き出したコラボレーションについて、増田は、「KAAT神奈川芸術劇場ホールと愛知県芸術劇場コンサートホールという、なかなか立てない舞台に素敵な公演で立てることがうれしい。共演できる幸せをすべてのステージでかみしめつつ全力でお届けしたい」と抱負を。「オファーに驚いた」という片山は、「『春の祭典』はいつか取り組んでみたいと思っていた曲。今回、世界的なダンサーの方々と共演するという奇跡のようなチャンスをいただき、大きなステップとして取り組んでいきたい」と意気込みを語った。「『春の祭典』がもつ野性的、人間の本性がむき出しになったようなエネルギーは、自分が『バラード』を書いたときにもこめたもの」(増田)、「コンサートのプログラムを組む際、音楽史的な文脈を考えることが多いが、『ピアノディスタンス』は若い時代のエネルギーや実験的な要素が『春の祭典』との共通項として見出せる」(片山)とは、それぞれの選曲の理由。リハーサルについては、「ガルバンさんのダンスが打楽器的に床からダンダンと身体に伝わってきた」(増田)、「違う分野のものが高い次元で合わさる感じ」(片山)と感想を述べた。「リズムを通してストラヴィンスキーと対話し、音楽と一体化する。クラシック音楽とフラメンコが出会い、フラメンコと二人のピアニストのもつ日本の文化が出会う」とは、今回のコラボレーションについてのガルバンの解説。「『春の祭典』は儀式的、魔術的な作品であり、演奏され、踊っていく中で、自分自身が変容する。フラメンコも、舞台に上がって踊ることで自分が変容していくという共通点がある」と語るガルバン。「劇場が閉まっている中、開いているバル(飲食店)で踊ったこともあるが、なぜバルが開いていて劇場は閉まっているのか、おかしいと思った」と率直な思いを吐露する場面も。「観客の前で踊るということは一つの儀式であって、観客との一体感を感じることがアーティストにとって必要。踊れないことで家族を失ったかのような喪失感を失った。今回、再び家族に会える思い」と、公演への期待を語っていた。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

6/23WEDNESDAY・24THURSDAY
イスラエル・ガルバン「春の祭典」
■会場/愛知県芸術劇場 コンサートホール
■開演/(23日)18:30 (24日)14:00
■料金(税込)/【一般】S¥7,000 A¥5,000 B¥3,000
【U25】一般の半額(公演日に25歳以下対象 *要証明書)
■お問合せ/愛知県芸術劇場 TEL.052-971-5609


第二回ホラーサスペンス大賞を受賞した五十嵐貴久原作の「リカ」シリーズ。2019年に東海テレビ制作・フジテレビ系全国ネットで放送され好評を博したTVドラマ「リカ」、リカの子供時代を描いた「リカ 〜リバース〜」(2021年O.A)を経て、ついに映画となってスクリーンに登場します。今回は先日名古屋で行われた主演の高岡早紀さんのコメントを交えながらリポートします。


今回のストーリーは2019年のドラマの続編という形で展開します。警察から逃亡し、愛する人の元へ向かうリカのその後の物語。山中でスーツケースに入って発見されたのは、3年前に雨宮リカ(高岡早紀)に拉致された本間隆雄。その遺体は生きているうちに様々な部位が切り刻まれたという猟奇的な手口。警察は再び潜伏中のリカを捜査する。刑事の奥山(市原隼人)はマッチングアプリを利用しリカを誘き出します。「魂の片割れを探している」という奥山の言葉に運命を感じたリカだが、奥山もまた次第にリカにのめり込んでいってしまう。


主人公・雨宮リカを演じるのはドラマと同じく高岡早紀。強烈なセリフ、見るものを震え上がらせるような独特の表情、ドラマではお馴染みの高速で走るシーンももちろん、今回はスパイダーマンのように空を飛び壁を登るなどパワーアップを遂げている。自身も”美しき魔性”と呼ばれながら、初エッセイ集では「魔性ですか?」というタイトル通り、そのイメージを大らかに楽しんでもいるよう。
リカの猟奇的な部分と純愛の2面性について尋ねると、
「一歩踏み入れるか、踏み入れないかというのが大きな違いになります。手前で踏み止まっていればみんな”可愛い”ままでいられる。ほとんどの人が踏み越えることなく普通でいられているんだけれど、リカは踏み越えているというか踏み外してしまってサイコとなってしまった。でも、そうなる手前のリカはピュアで可愛らしい、そこが皆さんの共感を生んでいるような気もします。でも一線踏み越えてしまいそうな瞬間って、誰にでもありますよね?あと1回追いかけたらストーカーになりそう、怖がられる、でもそうしちゃいそうな時って誰にでもあると思うんです。」


共演は、リカにのめり込んでいく刑事・奥山に市原隼人、奥山の同僚で婚約者でもある青木孝子には内田理央、青木の先輩・梅本尚美に佐々木希、そして尾美としのり、マギーと豪華キャストとなっている。映画「リカ ~自称28歳の純愛モンスター~」は6月18日より名古屋・センチュリーシネマほか、全国公開です。

6/18 FRIDAY〜
[名古屋センチュリーシネマ他、全国ロードショー]
映画「リカ 〜自称28歳の純愛モンスター〜」
■監督/松木創
■原作/五十嵐貴久「リカ」「リターン」(幻冬舎文庫)
■出演/高岡早紀 市原隼人 内田理央 尾美としのり マギー 佐々木希 他
■配給/ハピネットファントム・スタジオ