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日英共同制作の家族劇に、現代社会の孤独がじわじわと……。
可児市文化創造センターとリーズ・プレイハウスが日英の精鋭を集め、新しい家族劇を共同制作。

「アーラ」の愛称で親しまれる可児市文化創造センターとイングランド北部、ウェスト・ヨークシャー州にあるリーズ・プレイハウスは大都会とは異なる「地域の劇場」として理念を共にし、2015年には提携を実現。さらに友好関係を築き、この2020年、念願とも言える共同制作を行います。
 タイトルは「野兎たち MISSING PEOPLE」。同作は、アーラが常に見つめ続けてきた「家族」「絆」を題材とする物語です。そこで2月の開幕に先駆け、主要スタッフやキャストがそろって記者発表を実施。作品の魅力や稽古の様子、国際共同制作ならではの苦労などを語りました。

ーご出席者から、ひと言ずつお願いします。

・可児市文化創造センター館長兼劇場総監督 衛 紀生:アーラという劇場はリーズ・プレイハウスをベンチマークに、とにかく追いつこうという想いでやってきましたので、共同制作には非常に感慨深いものがあります。大変なことは多いですが、きっと新しい家族劇に出会っていただけると思っています。

・演出家 西川信廣:この事業はリーズ・プレイハウスとアーラがやってきた仕事のひとつの集大成であり、同時に新しい関係のスタートでもあると思っています。マーク・ローゼンブラットと共同演出する上で、あるものを出し合い、ないものを補い合ってきましたが、現在はほとんどバトルと言うか、産みの苦しみの時期。でも、とても良いカンパニーになっています。


左:プロデューサー 衛紀生 右:演出 西川信廣

・演出家 マーク・ローゼンブラット:衛さんとジェイムズ・ブライニング芸術監督の最初のアイデアは、社会の片隅に追いやられた人たち、社会から疎外されている人たちの芝居を作るということでした。それで日本の文化や社会をリサーチするうち、興味深かったのは、失踪したり行方不明になったり、突然いなくなる人たちがたくさんいるということでした。そしていちばん重要なのは、人が失踪した後、残された家族は一体どうやってそれに向き合っていくのかということ。難しい問題ですが、劇作家のブラッドがうまく戯曲にしています。

・劇作家 ブラッド・バーチ:行方不明者、失踪者を探求していくというテーマですが、誰もが知っているような家庭の、どこでも起こりうる話ではあります。なお、先ほど2カ国の共同制作という説明がありましたが、イギリスと言ってもそれはイングランドのこと。私はウェールズ出身で、ウェールズも大英帝国の中のひとつの国なので、3カ国の共同制作と考えてください(笑)。

・ダン・ヒューズ役 サイモン・ダーウェン:演劇を作る際、稽古のやり方はどこでも同じかなと思っていたんですけど、いろいろと違うことがありますね。でも、アーラのホスピタリティには本当に感動しています。この芝居ではコミュニケーションの重要性を語っていて、そこには言葉の違いも関係しますが、同じ言語をしゃべっていても通じないことはあります。コミュニケーションの問題は、この芝居の中で非常に大事です。

・リンダ・ヒューズ役 アイシャ・ベニソン:日本人の役者さんと一緒に芝居を作るのは初めてで、稽古でやり方の違いを感じる時はありますが、それでもみんなでまとまらなければいけません。芝居を作るということは、みんなが家族であるということなので、本当に今、家族を作っていっている感覚。今回の作品づくりは私にとって、すばらしいアドベンチャーです。

・中村早紀子役 スーザン・もも子・ヒングリー:私はずっとイギリスに住んでいるんですけど、東京生まれで、母が日本人。イギリスで活動してきましたが、日本でやりたい、日本語で演技をしたいという気持ちはあって、このオーディションの話が来た時はすごく燃えました。私の演じる早紀子は可児生まれ・可児育ち。でも外の世界が見たくてロンドンに行ってしまい、ダンという男性と出会う。そして婚約したダンを親に紹介するため、しぶしぶ故郷に帰ってくる役どころです。

・中村勝役 小田豊:「野兎たち」はただの翻訳劇ではなく、劇作家と共同作業みたいな形で作っていて、イギリスのすばらしい俳優さんたちとも一緒に頑張っています。ただ、芝居の作り方はイギリスの人たちと本当に違っていますね。日本とは作り方の流れが違うので、そういう意味で非常に苦労していますし、産みの苦しみを経験しています。

・中村千代役 七瀬なつみ:この芝居は一見、幸せな風景で始まり、それぞれの家族の問題が浮かび上がってきます。家族はとても近い存在なのに、近いからこそコミュニケーションが難しいということも書かれている。家族って何なのかなとか、人の幸せって何なのかとか、たくさん感じていただける作品になると思います。

・斎藤浩司役 田中宏樹:この作品はブラッドさんが日本文化を尊重し、理解しようとして書いたものです。しかも日本が舞台なので、僕たちは戯曲に負けないようにしないといけない。物語上は登場人物おのおのが物凄く苦しんでいて、その苦しみがどういう結末を迎えるのかは別々ですけど、どんな場所、どんな国の人でも感じていただけるところがあると思います。

・中村康子役 永川友里(以下、永川):家族や夫婦のあり方、本当の幸せとは何だろうと自問自答の毎日で、正解はないと思いますが、稽古を通じて自分なりの答えを見つけ出したいです。また、可児川沿いを歩きながら物思いにふけっていると、作品の舞台に滞在しているからこそできる役作りがあることを実感します。そういう環境を作っていただけたことは、すごく幸せですね。


中央:演出 マーク・ローゼンブラット

ーイギリスと日本、芝居の作り方はどのように違いますか。

・西川:日本人の作り方は作品を全体で捉え、だんだんディテールに入っていくことが多いと思うんですけど、マークと一緒に作っていると、一つ一つのディテールを俳優と共有し、積み上げていく。そういうところが大きな違いでしょうね。どちらが良いとは言えないので、両面を取りながら作っています。

・マーク:似ている点もあるんですよ。ただ、社会の相違が稽古の過程にも反映されていると思います。概論的ですが、イギリスは個人社会で、日本は集合体の社会。イギリスでは、登場人物が何を欲しているのか、その欲しているものを止めるものは何なのか、細かく詰めていきます。一方、日本人の役者さんは直感的に場面のムードを感じ取って、集合体的に芝居を作っていくように見えます。二つの違うアプローチを一緒に行うのは、とてもエキサイティングですよ。


中央:作家 ブラッド・バーチ

ー日本各地を取材したそうですが、具体的に教えてください。

・ブラッド:日本には3回来ているんですけど、東京、大阪、可児……、名古屋も少し行きました。いろいろな分野の専門家と会って話を聞きましたよ。貧困について詳しい方とか、子ども食堂や学校で苦労している子たちの面倒をみる機関の方にも会いましたし、自殺したい人の電話駆け込み所なども取材しました。その中で心に残ったのは、大阪の釜ヶ崎を訪れた時のことです。釜ヶ崎は行方不明になった方や失踪した方が結構住んでいて、自分の国とは違うなと。そして注意深くその人々の経験を受け止め、ドラマにするうち、イギリスと日本、直面している課題は同じだと感じたんです。貧困やメンタルヘルス、社会の構造の問題などは日英で共通していますね。

ー英題、邦題それぞれが決まった経緯は?

・衛:「野兎」という言葉が、かなり早い段階でブラッドから出てきたんですよ。それから「MISSING PEOPLE」という題名になっていたんですけど、邦題には「野兎」を残したほうがいいんじゃないかと。野兎というのは穴に潜っていて臆病者で、ときどき穴から出てきて餌を食べては、すぐ穴に戻る。いわば孤立していて孤独です。「野兎たち」のほうがお客様のイメージを喚起できると思い、邦題に決めました。

・マーク:英題には物語のエッセンスを示す上で「MISSING PEOPLE」と付いていますが、そこにはダブルの意味があります。この「MISSING」には「いなくなった」「失踪した」という意味だけではなく、いなくなった人を恋い焦がれる、懐かしく思うというような意味もある。その二重の意味がイギリス人にはわかるようになっているんですよ。

Interview&Text/小島祐未子

<公演情報>
2/22 SATURDAY~2/29 SATURDAY【チケット発売中】
可児市文化創造センター+リーズ・プレイハウス
日英共同制作公演
「野兎たち MISSING PEOPLE」

■会場/可児市文化創造センター・小劇場
■開演/2月22日(土)・23日(日)・26日(水)・27日(木)・29日(土)14:00、24日(月)・28日(金)18:30 ※2月25日(火)は休演。
■料金(税込)/全席指定 一般¥4,000 18歳以下¥2,000
■お問合せ/可児市文化創造センター TEL0574-60-3311
※未就学児入場不可


11/2(土)に愛知県芸術劇場 コンサートホールで開催する 第23回 スーパークラシックコンサート ケント・ナガノ指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団(ピアノ:辻井伸行)に先駆けて、現地ハンブルクで行われた定期演奏会のレポートが届きました。名古屋公演と同プログラムです。


Photo:Claudia Höhne / Philharmonisches Staatsorchester Hamburg


<ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団 エルプフィルハーモニー公演 10月27日、28日>

10月31日より全国7箇所で行われるハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団の日本ツアーに先立ち、辻井伸行が、現地ハンブルクのエルプフィルハーモニーで行われた同団の定期演奏会に出演した。公演曲目は日本公演の東京(10月31日)、名古屋(11月2日)、大阪(11月4日)でも演奏される、ベートーヴェン:「エグモント」序曲、リスト:ピアノ協奏曲第1番、マーラー:交響曲第5番。

公演に先立って行われたリハーサルで辻井とナガノは初顔合わせ。リハーサルを終えたナガノは辻井を、「見事なまでにクリアな方向性を感じさせる演奏で、大変感動した。ともに演奏できることを大変光栄に思う」と称賛した。実は辻井にとってリストの協奏曲第1番は初めて披露する曲。この日の為に入念な準備を重ねリハーサルに臨んだだけに、マエストロからの想像以上の賛辞に辻井も大変感激していた。

エグモント序曲で始まる今回のプログラム。ベートーヴェンの作風にある「苦悩からの歓喜」を、僅か10分程度のこの曲でナガノは丹念に想いを込めて表現してゆく。華々しく終わる序曲から、この後に控えるリストの協奏曲への期待を一層膨らませていく。

序曲を終え、舞台上にピアノが運ばれ辻井の出番となる。冒頭からリストならではの華やかでピアニスティックな演奏が展開されていく。辻井の得意とする繊細で柔らかな音色でオーケストラと掛け合う場面もあれば、互いに丁々発止のスピード感あふれるスリリングな展開を繰り広げる場面もあり、この協奏曲とオーケストラ、そして辻井の相性の良さを存分に楽しめる時間である。熱演を終えた辻井は現地ハンブルクの聴衆に熱狂的に受け入れられ、度々ステージに呼び戻されていた。


Photo:Claudia Höhne / Philharmonisches Staatsorchester Hamburg

後半のマーラー交響曲第5番は、マーラーの作品の中でもマスターピースと言える大曲。オーケストラの醍醐味を存分に体感できるこの作品で、ナガノは丁寧に旋律を描いてゆく。こちらも入念なリハーサルを経て迎えた演奏とあって、アンサンブルは考えぬかれ、旋律の掛け合いも見事に描かれ、マーラーの意図するところをナガノは余すことなく汲み上げ音楽を創ってゆく。怒涛のクライマックスを経てこの大曲を聞き終えた後の充実感はなかなか得難い経験と言えるだろう。

ハンブルク州立歌劇場の現総監督を務めるナガノの遥か昔の前任者は、他でもないこの曲を創ったマーラー、彼自身である。「長い伝統によって培われてきたオーケストラの独特の響きと音色を日本の皆さんにもぜひ楽しんでもらいたい」。ナガノの想いを日本の聴衆に余すことなく伝える準備は整ったようである。この貴重な経験を日本で味わえる瞬間が間もなく訪れようとしている。

<公演情報>
11/2 SATURDAY 【チケット発売中】
第23回 スーパークラシックコンサート 
ケント・ナガノ指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ:辻井伸行

◼️会場/愛知県芸術劇場 コンサートホール
◼️開演/17:00
◼️料金(税込)/
S ¥22,000 A ¥18,000(完売) B ¥14,000(完売)
C ¥10,000(完売) D¥7,000(完売) U25 ¥3,000(完売)
◼️お問合せ/東海テレビ放送 事業部 TEL.052-954-1107(平日10:00〜18:00)



映画「108 海馬五郎の復讐と冒険」が10/25(金)から全国公開されます。
今回は監督・脚本・主演を務めた松尾スズキの会見レポートをお届けします。

松尾スズキが大人計画を旗揚げしたのは1988年で昨年30周年を迎えた。宮藤官九郎や阿部サダヲをはじめ才能豊かなメンバー達は、松尾と同様にそれぞれ多岐に渡って活躍しています。そしてこの映画は松尾にとって4本目の長編映画で、今回初めて監督・脚本・主演の全てに挑みました。

松尾:本番に入る前に1ヶ月くらいリハーサル期間を作りました。監督を務めながら主演をするわけなので、主に僕の場面の練習です。あとはローションのシーンを実験してみたり。監督・脚本・主演と兼ねましたが、本番中はゾーンに入っているというか、すごく忙しい定食屋の店員さんのオペレーションみたいな感じでしたね。ギュッと集中していて、何かをしながら次の段取りが頭に入っていて自然と手が動いているような。大人計画では演出をしながら出演するのがよくあることなので、その辺は結構身についているんです。あと、あまり時間がない中での進行だったんですが、キャストやスタッフのみんなが僕のシナリオが面白いって褒めてくれて、そのことがこの映画を作るに当たって精神的支柱になっていたと思います。


                                   スタイリスト:安野ともこ(コラソン)

そのストーリーとは、SNSで妻の浮気を知った中年の男が、その妻の投稿についた108の「いいね」の数だけ女をを抱いて復讐するというもの。R18指定のコメディである。

松尾:このプロットを書いたのが50才になる頃で、ちょうど再婚も決まっていました。この歳で結婚する意味ってあるのかな?と思ったり、妻も若かったから将来のことも考えたりもするし。そういうこと色々が重なって、この話が出来ていったんだと思います。R18指定だから激しいシーンがどうしても取り沙汰されるし話題にもなるんだけど、大人の恋愛事情の悲喜交々といったところも読み取って欲しいと思いますね。ラストではそれを感じてもらえると思います。

またこの映画には松尾スズキの喜劇人としてのこだわりも沢山盛り込まれています。ミュージカルシーンもあり、主人公である松尾がスクリーンの中で焦り、縦横無尽にのたうち回るドタバタコメディに仕上がっている。体力的にも限界に挑んだ内容になったようです。

松尾:撮影が朝から深夜まで続くのがほとんどで、後半は走るシーンでも足が上がらなかったり。もう少しカッコよく走るはずが「ワザとですか?」ってスタッフに言われて情けなくなったけど、それもある種のリアリティを与えているんだと思います。僕も中年クライシスというのを感じてはいるけれど、どうしてもこの映画は実現したかった。往年の喜劇人たち、チャップリンやキートン、メル・ブルックスがそうしたように、自分で考えて自分が一番面白くなるように書く、それを自分が演じる。それを映画でやっておきたかったんです。

キャストは妻役に中山美穂。そして脇を固めるのは劇団「ハイバイ」主宰で第57回岸田國士戯曲賞を受賞している岩井秀人、第36回紀伊國屋演劇賞ほか多数受賞の秋山菜津子の好演が目を引きます。演劇人・松尾スズキならではの目線で個性的な俳優陣を配し、映画でなければ実現できないスペクタクルなシーンもトラウマになるくらい心に残ります。


10/25 FRIDAY〜 全国ロードショー
映画「108 〜海馬五郎の復讐と冒険〜」
◎監督・脚本・主演:松尾スズキ
◎配給・宣伝:ファントム・フィルム
◎製作:「108 海馬吾郎の復讐と冒険」製作委員会



映画「ダウトー嘘つきオトコは誰?―」が10/4(金)から全国公開されます。原作は、ボルテージ『恋愛ドラマアプリ』シリーズとして2015年から配信がスタートした「ダウトー嘘つきオトコは誰?―」。従来にない“謎解き”と“恋愛ストーリー”の要素をミックスしたコンテンツで、女性向け恋愛アプリゲームとしては異例の400万DLを超える大ヒットを記録しました。婚活パーティーに参加したヒロインが、会場でさまざまなタイプのハイスペックな10人のオトコからアプローチをされるが、その中の9人は嘘をついている。オトコたちの嘘を見破りながら、ヒロインが真実の愛を見つける。


主演はCanCamの専属モデルとして活躍しながら、人気バラエティ番組「世界の果てまでイッテQ」の出川ガールズとして人気を獲得した堀田茜。ドラマ「トドメのキス」、「3年A組 ―今から皆さんは人質ですー」などにも出演し、女優としても注目を集めています。本作は映画初主演。

堀田:自分に務まるのか不安で、現場に入るまでにセリフを絶対に間違えないように覚えようとしました。でも現場に入ってみると、そこまでセリフもガチガチに固めないほうがよかったのかなと思ったりもして。あと、主演ですから周りの人たちに「ちゃんとやることやってるな」って思ってもらいたくて、皆さんを引っ張っていくくらいの気持ちで臨んだんですが、やはり経験豊富な方々に助けて頂くことだらけでしたが、楽しく3週間の撮影期間を過ごしました。

また、自身が演じる主人公の桜井香菜(さくらい かな)については、

堀田:台本を読んで、素の私に近いキャラクターだなと思いました。読んでいて共感する部分も多かったですし、明るいところや素直なところ、芯の強さを感じさせるところなど、共通点がたくさんありました。年齢が近いこともあって、結婚に対する考え方や恋愛に臆病なところも良く似ています。永江監督からも、ありのままで演じてくれればいいと言われて、自分が思い描くヒロイン・香菜を作っていこうと思いました。10人のオトコの嘘を見抜いていくという、説得力も必要かなと思い、衣装やメイクもスタッフさんと相談して進めていきました。


そして原作でも人気キャラクターでもあるヒロインと同い年の好青年、唯川至(ゆいかわ いたる)を演じるのは稲葉友。2018年に映画「N.Y.マックスマン」、「私の人生なのに」、「春待つ僕ら」に出演、ドラマ「平成ばしる」(テレビ朝日)で民放ドラマ初主演。2019年も話題作に立て続けに出演しながら、6月には鄭義信演出の舞台「エダニク」で堂々の主演を務めた。稲葉が演じる唯川は、10人のオトコの中では真面目で地味だが、気さくな性格でヒロインとすぐ打ち解ける。

稲葉:唯川至は原作ですごく人気のあるキャラクターだということで、まいったなぁと(笑)。ファンの方が持っている唯川像にあまり寄り添ってしまっても、僕はアプリの唯川に勝てないなと思ったんです。でも、唯川って結構クレイジーなオトコなんですよ。小学校の頃の感情を心に抱き続けて、香菜に見合ったオトコになろうと様々な努力をし続けるんです。その努力って報われる保証なんて何もないんですよね。現実にもそういう人ってたくさんいると思う。唯川は、見た目と違って全然冷静じゃないというか、内実の回転数がすごく早い熱いオトコなんです。映画では、普段はその熱さを感じさせないように気をつけて、要所で意外性を発揮できるように工夫しました。

稲葉のほか、9人のオトコもそれぞれに活躍する人気キャストが揃った。「仮面ライダーゴースト」の西銘駿、「JAPAN MENSA」会員でクイズバラエティでも活躍する岩永徹也、「仮面ライダー鎧武」の久保田悠来のほか、佐伯大地、三津谷亮、藤田富、水石亜飛夢、牧田哲也、永山たかしと話題のキャストが集結。そして謎の占い師役で出演する鶴見辰吾が、貫禄の演技で場を引き締めます。

10/4 FRIDAY〜 全国ロードショー
映画「ダウト ―嘘つきオトコは誰?―」
◎原作:ボルテージ「ダウト〜嘘つきオトコは誰?〜」
◎脚本:鹿目けい子
◎監督:永江二朗
◎配給:キャンター/スターキャット


神奈川県民ホール大ホール、愛知県芸術劇場大ホール、札幌文化劇場 hitaruの三つの劇場で上演される、神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ2019『カルメン』の記者懇談会が、9月末、東京都内で開催された。


演出:田尾下哲

今回演出を担当するのは、オペラのみならずミュージカル作品なども手がける田尾下哲。『カルメン』は、演出アシスタントやホール・オペラ、ハイライトなどを上演してきたが、本格的に作品を演出するのはこれが初めてだとのこと。その彼は、21世紀の今日、この名作オペラを上演するにあたっての二つの問題点を指摘した。まず一点は、この作品における「ロマ」の人々の描き方。ヒロインのカルメンは性的に奔放なジプシーの女性として描かれているが、「ロマの人々は自らをジプシーとは呼んでおらず、他の人々による呼称に過ぎない。また、実際には、(カップルは)一生涯添い遂げると聞いた」とのこと。二点目は、エスカミーリョの闘牛士という職業について。「今日においても闘牛士が存在することは事実だが、動物をいじめ、殺す、野蛮なショーを楽しむということは、21世紀においては看過できない」。この二点を解消すべく、「私の師匠である演出家ミヒャエル・ハンペとも相談した上で、21世紀のアメリカのショービジネスの世界に置き換えて上演することにしました」。すなわち、バーレスクのクラブに出演していた無名のカルメンが、オーディションを受けてブロードウェイの舞台に進出するも、業界の大物に干されてサーカスでドサ回り、しかしながらハリウッドの大スター、エスカミーリョに見出されて銀幕のスターになるというのが今回の演出コンセプト。終幕はアカデミー賞のレッド・カーペットのイメージになるというから興味津々だ。
 もう一点、田尾下が指摘したのは、作品における指輪の扱いについて。終幕、エスカミーリョと共にやって来たカルメンは、もらった指輪をホセに投げ返すが、「元カレの指輪を持っていたりするのかどうか。今回、指輪の行方もていねいに描いているので、注目してほしい」そうだ。


カルメン:加藤のぞみ(メゾソプラノ)

続いて挨拶したカルメン役の加藤のぞみ(アグンダ・クラエワとダブルキャスト)は、今回がロール・デビュー。「夢の夢のまた夢だった役で、藝大生だったときからいつか歌いたいと思っていました。イタリアで勉強した後、移り住んだスペインでは、ロマが海辺で歌い踊る姿に遭遇することも多い。今回やっとカルメンができる! と思ったのですが、ショービズで行きますと言われ、あれ? と。稽古初日はまずダンスから始まり、正直とまどいがあったのですが、『カルメンは絶対あきらめない』との田尾下さんの言葉を聞いたとき、腑に落ちるものがあった。イタリア、スペインで悔しい思いをしてきた、その闘争心は役柄に活かせると思うので、新しいカルメンを作っていけたら」と抱負を述べた。


ドン・ホセ:城宏憲(テノール)

ドン・ホセ役を務める城宏憲(福井敬とダブルキャスト)は、「一幕から四幕まで詳しく稽古がつき、全貌が見えてきた。(田尾下)哲さんとの仕事は二、三回目になるが、僕が新国立劇場でイギリス人の講師に教わったこと、すなわち、歌を感情から、動きからと多角的に解釈するということをまさに求める演出家だと思う。今回も、ダンスをはじめ、のけぞる、這いつくばるといった動きも入っていて、身体表現としてもとても魅力にあふれている。ドン・ホセは、話の渦の中心にはいないが、カルメンの生き様を見せる影。話的にはカルメンの足を引っ張るけれども、どこまでもカルメンを支えたいと思っている。ダンスのシーンはないが、ピエロの姿になったりする場面があるので、新しい要素を加えて作っていきたい」と、新演出への意気込みも高い。

“ショービズ”『カルメン』のアイディアはどこから? との問いに、田尾下は、作中の歌についての分析を披露。ドン・ホセの「花の歌」、ミカエラのアリアなどは登場人物が心情を吐露する曲として歌われるものだが、カルメンが酒場で披露する「ハバネラ」はあくまで歌手として歌っているものであり、最終的には皆と大合唱になるエスカミーリョの「闘牛士の歌」も、「初めてこの作品を観た人にとっては歌手が歌っているように見えると思う。そこで、エスカミーリョが大スターとして歌を歌っているということがおかしくない設定を考えた。映像、舞台、ミュージカルに出演し、プロデュースも行なう、ヒュー・ジャックマン的なイメージ」と、斬新なコンセプトの源を明かす。作中登場する「闘牛士」や「兵士」といった言葉については、あだ名として扱うとのこと。
 各場面のヴィジュアル・イメージ、イメージ・ソースについてだが、バーレスクの場面については『NINE』や『シカゴ』の雰囲気で、黒の下着のコスチュームも登場するとか。ブロードウェイの場面は『ムーラン・ルージュ』の雰囲気で、チャールストン・スタイルも登場。サーカスの場面は、「世界ツアーに出始める前のシルク・ドゥ・ソレイユ」というから設定が細かい。終幕のレッド・カーペットの場面には、メット・ガラのイメージも重ね、レディー・ガガの衣装も参考にしているという。
 カルメンは21世紀の女性にとって感情移入しやすいキャラクターと思われるが、ドン・ホセについてはどう考えるか? との質問に対しては、田尾下は「一途でプライドの高い男だけれども、カルメンにとっては何者でもない。カルメンはビッグ・スターと結婚すべき。ドン・ホセは足を引っ張るタイプの男で、カルメンにとってはよくないタイプ」とバッサリ。「さきほど、カルメンを支えたいと言ったけれども」と城が反応すると、「迷惑」とまたまたバッサリの田尾下、そんな二人のやりとりに笑いが起きる。
 カルメンが発する「自由!」の一言について尋ねられた加藤は、「カルメンは高みに行きたい人。ドン・ホセが自分を愛する姿がすごく邪魔になる。その彼の『花の歌』を聞いていてふっと女性に戻る弱さ、ある種の決意をする様を見せたい」と語る。田尾下によれば、この場面は、スターダムにのし上がった自分の姿をカルメンが夢想するが、ドン・ホセには見えないという演出になるとのことで、『シカゴ』の「ロキシー」のナンバーをも思わせるシーンとなりそう。オペラ・ファンのみならず、ミュージカル・ファン、映画ファンにも大いにアピールしそうなこのプロダクション。初日の幕が上がるのを心待ちにしたい。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

◎指揮/ジャン・レイサム=ケーニック◎演出/田尾下哲
◎出演/
カルメン:加藤のぞみ(11/2)/アグンダ・クラエワ(11/3)
ドン・ホセ:福井敬(11/2)/城宏憲(11/3)
エスカミーリョ:今井俊輔(11/2)/与那城敬(11/3)
ミカエラ:髙橋絵理(11/2)/嘉目真木子(11/3)ほか
合唱:二期会合唱団、愛知県芸術劇場合唱団
児童合唱:名古屋少年少女合唱団
管弦楽:名古屋フィルハーモニー交響楽団

<公演情報>
11/2 SATURDAY・3 SUNDAY 【チケット発売中】
グランドオペラ共同制作
ビゼー作曲『カルメン』
(全4幕/フランス語上演・日本語及び英語字幕付き/新制作)
◼️会場/愛知県芸術劇場大ホール
◼️開演/各日 14:00
◼️料金(税込)/全席指定 S¥15,000 A¥12,000 B¥9,000 C¥6,000円(U25 ¥3,000) D¥4,000円(U25 ¥2,000)プレミアムシート¥20,000
※未就学児入場不可。託児有(有料・要予約)
※U25は公演日に25歳以下対象(要証明書)