HOME > MEGLOG【編集日記】 > 別役実の名作「移動」を文学座が岐阜県可児市滞在で制作!

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可児市という地方都市でありながら、第一線の舞台俳優とともに舞台を創りあげる。しかもその間、俳優・スタッフは可児市に滞在しながらという、同様の環境に身を置く会館ではあまり例のない企画が、可児市文化創造センターが続けているala Collectionだ。
 11回目を迎える今回は、不条理劇の巨匠・別役実による『移動』。文学座の西川信廣を演出に、竹下恵子を主演に迎えて上演される。上述したように、別役実=不条理劇、というイメージがあるが、今回の舞台ではイメージする不条理劇とはまた違う、新たな“別役実”像を作り上げると意欲を語る。そんな言葉が飛び出した記者会見で、スタッフ・出演者が語ったコメントから、本作の完成像をイメージしてほしい。


■衛 紀生(可児市文化創造センター 館長 兼 劇場総監督)
ala Collectionは今回で11回目を迎えます。始めはスタッフに対して相当な無茶ぶりでした。みんな舞台なんて作ったことがなく、技術スタッフも稽古場でスムースに動けないという者ばかりでした。それでも何とか始めて、昨年の10回目までで5回賞を頂いています。そして11回目にして別役実さんの作品をやらせて頂くことになったのは、私にとっても感慨深いです。
 私の私見ですが、別役さんは不条理劇の代表選手と言われていますが、ある時期から不条理劇から逃走しようとしたのではないかと思います。不条理の中には笑いの要素もあると思います。別役さんは、会話のズレであるとか、人間がどうしようもなく持っているものを、不条理という形で表現しながら、笑いというものを考えていったのではないかと思っています。しかし、私たちの世代を中心に“不条理劇だ”という言葉が頭にあってなかなか笑いにならない。ある舞台で、全く笑わないエリアと大笑いしているエリアとにはっきり分かれたのです。若い人たちはゲラゲラ笑っているのですが、私たちは腕を組んで観ている。そのときに、別役さんはこういう若い人たちに不条理という笑いを届けようとしているのだと、ほぼ確信のように思いました。
 今回、西川さんは初めて別役さんの演出を行います。西川さんとは長い付き合いがありますので、おまかせして大丈夫だと確信しておりますし、これまでの別役実劇とは違った切り口が出てくるのではないかと思っております。キャストにも恵まれましたし、文学座との共同制作という形になるのですが、ここでひとつの別役実の見方というのを演出できれば、演劇界のエポックを作り上げられるのではないかと思います。西川さんにプレッシャーをかけるわけではないのですが(笑)、期待しております。

■西川信廣(演出)
竹下さんが出て頂けるというのは最初に決まっていたんですが、当初、別役さんという考えはありませんでした。そんなとき新国立劇場で別役さんの本で竹下さんが演じているのを観たのです。それを観たとき、竹下景子と別役はあるなと思い、戯曲を読み返してみました。これまでなぜ僕が別役さんにいかなかったかというと、僕がその世界を超えられるか自信がなかったのです。別役さんは、観るのは好きだけど恐ろしいと思っていて、ずっと距離を取ってきました。
この舞台のキャッチフレーズで“とどまることを、選べない”というのがありますが、それがこの作品のテーマだと思います。この芝居には4つの“移動”があります。夫婦の移動、それから若い男の移動、貼り屋は移動しているかはわからないですけどぐるぐる回っている。そして戻ってくる移動。じゃあどこに向かっているかというと、みんなそれぞれに不安を抱えて移動しているのですよね。この作品は71年の戯曲で、約50年前に書かれているのですが、すごく今の不安と近いなと思ったのです。国はどんどん借金をするし、老後も高齢化社会も心配、だけど前に進むしかないという、今の時代にぴったりはまっているなと思ったのです。お芝居というのは、新作であれば時代の鏡として今の時代が抱えている問題を演劇的に投影するのが役目だと思うのですが、古典も含めた古い作品を上演するときは、時代が演劇を呼ぶというのがあると思うのです。今回の『移動』は時代に呼ばれた気がしているのです。2018年のala発の別役劇を、キャストの皆さん、スタッフの皆さんと作っていこうかなと思っています。

■竹下景子(女 役) 西川さんが仰ったように、別役作品とは新国立劇場で初めて出会いがありました。とても手ごわかったです。別役さんは、人間はどういうものなのだというのを、いろんな語り口で表現しているように思います。最初にこの戯曲を読んだときは膨大な台詞で、長くて長くてよくわからなかったのですけど(笑)、台本として渡されたものはとてもメリハリがきいていて、不条理というよりは読んでいてクスっと笑えるようなところがたくさんありました。私が演じるのは、女。男と旅をする小さい子を持つ母親なのですが、とにかく前に行くことしか考えてないです。家族のやり取りもおかしなところがあります。その中で女はいつもみんなを引っ張っていくのですが、その元気さから、これはサザエさんだなと思ったのです。サザエさんも時代を超えて愛されていますが、その中には生きていくなかでみんなが変わらず持っている、ちょっとしたおかしいこと、悲しいことが入っていると思うのです。それが演劇になったときに、もっとビビッドで、あるいは奥深いところで人の気持ちを動かすものになると思います。皆さんに笑って頂いて、その後に思いもよらない結末が待っているという、これ以上ドラマチックな展開はないように思います。


“とどまることを、選べない”。
 それはある意味、生きている人すべてに通じることではないだろうか。自らの生き方を考える人、また新たな別役実像を目撃したい人は、完成した本作を観に、可児市に足を運ぼう。
                               
                               (interview&text/小坂井友美)

<公演概要>
10/15MONDAY~21SUNDAY【チケット発売中】
ala Collection シリーズ vol.11 『移動』
◎作:別役実
◎演出:西川信廣(文学座)
◎出演:竹下景子、たかお鷹(文学座)、嵐圭史、本山可久子(文学座)、山本道子(文学座)、田村勝彦(文学座)、横山祥二(文学座)、鬼頭典子(文学座)、星智也(文学座)
■会場/可児市文化創造センター・小劇場
■料金(税込)/全席指定\4,000 18歳以下\2,000
■お問合せ/可児市文化創造センターTEL:0574-60-3311