HOME > MEGLOG【編集日記】 > <観劇レポート!>坂東玉三郎が御園座にて特別公演を開幕。同時代に生きる者、みな必見!

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歌舞伎俳優の坂東玉三郎が、昨秋に続いて名古屋・御園座にお目見え。
10月1日、特別公演の幕を開けた。今年は歌舞伎「三姫」の一人である大役、八重垣姫にふんして観客を魅了。恋して、泣いて、奮起して、走って……と、表情豊かな八重垣姫から目が離せない!

歌舞伎の世界で「三姫」に挙げられる八重垣姫は、「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」という全五段の浄瑠璃作品において四段目に当たる「十種香」「狐火」に登場する。時は戦国時代、武田信玄と長尾(上杉)謙信の対立が背景にあり、両家の和睦を図ろうとした将軍・足利義晴は、武田家の嫡男・勝頼と長尾家の娘・八重垣姫を許嫁とする。その後、将軍が暗殺されると両家は犯人探しを命じられ、期限までに究明できなかった償いとして勝頼は切腹。ここまでが上演される場面の前段で、「十種香」「狐火」では勝頼死後の物語が展開していく。


定式幕が引かれるとまず、舞台美術の美しさ、中央に立つ青年の麗しさに見惚れてしまう。「これぞ歌舞伎」と言いたくなるような絢爛豪華な装置と衣装は実に鮮やかだが、黙って階段に身を乗り出す青年の存在感もハンパなく、せりふがなくても「ずっと見ていられる」といった感覚を覚える。やがて左手の障子があくと、黒を基調とした衣装の腰元・濡衣が、右手の障子があくと、輝く髪飾りと真っ赤な振袖がまぶしい八重垣姫が姿を現す。青年をはさんだ左右のコントラストがまた素晴らしく、計算し尽くされた演出に心臓の高鳴りが止まらない。


ただし、圧巻はやはり稀代の女方、玉三郎だ。前述の青年・簑作は長尾家に仕えたばかりなのだが、その姿は勝頼の錦絵とそっくりで、八重垣姫は瞬く間に恋に落ちる。ついには、濡衣に仲を取り持ってほしいと懇願するが……。この恋する乙女の一喜一憂が、とんでもなくカワイイ!! 勝頼に会えたと思って大喜びしたかと思えば、勝頼ではないと言われて泣いたり命を絶とうとしたり、もう大騒ぎ。結局、濡衣が根負けし、簑作が本物の勝頼であるという真相を告白。八重垣姫は安堵する。ところが、「狐火」で可憐さは一転、自身の父が仕掛けた罠から勝頼を救おうと奔走。凛とした表情で窮地に立ち向かう。


八重垣姫は、めまぐるしく変わる心模様の表現力に加え、重い衣装をつけながら軽やかに振る舞う体力・体幹が必要とされる。玉三郎は、長年にわたって積み上げてきた至芸を存分に味わわせてくれた。歌舞伎を観たことがない人、歌舞伎を難しいと思っている人もいるだろうが、一生に一度でもいいから玉三郎の舞台に触れてほしい。同時代に生きていて、これほどのアーティストを見逃すなんて本当にもったいない。


なお、勝頼を演じた中村橋之助をはじめ、中村福之助、中村歌之助と、成駒屋の三兄弟が昨秋同様そろって登場。福之助、歌之助は、“ご注進”と呼ばれる役柄のデフォルメされた演技で客席を沸かせた。また、三代目市川猿之助(現・猿翁)のもとで修行を積み、現在は新派で活躍する喜多村緑郎と河合雪之丞も共演。上背のある緑郎が迫力を増した謙信をつとめる一方、雪之丞は持ち前の繊細な演技で濡衣の複雑な心理を巧みに表していた。

◎Interview&Text/小島祐未子

10/23 SUNDAY まで開催中
「坂東玉三郎 特別公演」
■会場/御園座
■開演/14:00
※10/7(金)・10/17(月)は休演。
■料金(税込)/A席 ¥18,000 B席 ¥10,000 C席 ¥7,000
■お問合せ/御園座 TEL052-222-8222