HOME > MEGLOG【編集日記】 > <会見レポート!>日英共同制作 舞台「野兎たち MISSING PEOPLE」

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日英共同制作の家族劇に、現代社会の孤独がじわじわと……。
可児市文化創造センターとリーズ・プレイハウスが日英の精鋭を集め、新しい家族劇を共同制作。

「アーラ」の愛称で親しまれる可児市文化創造センターとイングランド北部、ウェスト・ヨークシャー州にあるリーズ・プレイハウスは大都会とは異なる「地域の劇場」として理念を共にし、2015年には提携を実現。さらに友好関係を築き、この2020年、念願とも言える共同制作を行います。
 タイトルは「野兎たち MISSING PEOPLE」。同作は、アーラが常に見つめ続けてきた「家族」「絆」を題材とする物語です。そこで2月の開幕に先駆け、主要スタッフやキャストがそろって記者発表を実施。作品の魅力や稽古の様子、国際共同制作ならではの苦労などを語りました。

ーご出席者から、ひと言ずつお願いします。

・可児市文化創造センター館長兼劇場総監督 衛 紀生:アーラという劇場はリーズ・プレイハウスをベンチマークに、とにかく追いつこうという想いでやってきましたので、共同制作には非常に感慨深いものがあります。大変なことは多いですが、きっと新しい家族劇に出会っていただけると思っています。

・演出家 西川信廣:この事業はリーズ・プレイハウスとアーラがやってきた仕事のひとつの集大成であり、同時に新しい関係のスタートでもあると思っています。マーク・ローゼンブラットと共同演出する上で、あるものを出し合い、ないものを補い合ってきましたが、現在はほとんどバトルと言うか、産みの苦しみの時期。でも、とても良いカンパニーになっています。


左:プロデューサー 衛紀生 右:演出 西川信廣

・演出家 マーク・ローゼンブラット:衛さんとジェイムズ・ブライニング芸術監督の最初のアイデアは、社会の片隅に追いやられた人たち、社会から疎外されている人たちの芝居を作るということでした。それで日本の文化や社会をリサーチするうち、興味深かったのは、失踪したり行方不明になったり、突然いなくなる人たちがたくさんいるということでした。そしていちばん重要なのは、人が失踪した後、残された家族は一体どうやってそれに向き合っていくのかということ。難しい問題ですが、劇作家のブラッドがうまく戯曲にしています。

・劇作家 ブラッド・バーチ:行方不明者、失踪者を探求していくというテーマですが、誰もが知っているような家庭の、どこでも起こりうる話ではあります。なお、先ほど2カ国の共同制作という説明がありましたが、イギリスと言ってもそれはイングランドのこと。私はウェールズ出身で、ウェールズも大英帝国の中のひとつの国なので、3カ国の共同制作と考えてください(笑)。

・ダン・ヒューズ役 サイモン・ダーウェン:演劇を作る際、稽古のやり方はどこでも同じかなと思っていたんですけど、いろいろと違うことがありますね。でも、アーラのホスピタリティには本当に感動しています。この芝居ではコミュニケーションの重要性を語っていて、そこには言葉の違いも関係しますが、同じ言語をしゃべっていても通じないことはあります。コミュニケーションの問題は、この芝居の中で非常に大事です。

・リンダ・ヒューズ役 アイシャ・ベニソン:日本人の役者さんと一緒に芝居を作るのは初めてで、稽古でやり方の違いを感じる時はありますが、それでもみんなでまとまらなければいけません。芝居を作るということは、みんなが家族であるということなので、本当に今、家族を作っていっている感覚。今回の作品づくりは私にとって、すばらしいアドベンチャーです。

・中村早紀子役 スーザン・もも子・ヒングリー:私はずっとイギリスに住んでいるんですけど、東京生まれで、母が日本人。イギリスで活動してきましたが、日本でやりたい、日本語で演技をしたいという気持ちはあって、このオーディションの話が来た時はすごく燃えました。私の演じる早紀子は可児生まれ・可児育ち。でも外の世界が見たくてロンドンに行ってしまい、ダンという男性と出会う。そして婚約したダンを親に紹介するため、しぶしぶ故郷に帰ってくる役どころです。

・中村勝役 小田豊:「野兎たち」はただの翻訳劇ではなく、劇作家と共同作業みたいな形で作っていて、イギリスのすばらしい俳優さんたちとも一緒に頑張っています。ただ、芝居の作り方はイギリスの人たちと本当に違っていますね。日本とは作り方の流れが違うので、そういう意味で非常に苦労していますし、産みの苦しみを経験しています。

・中村千代役 七瀬なつみ:この芝居は一見、幸せな風景で始まり、それぞれの家族の問題が浮かび上がってきます。家族はとても近い存在なのに、近いからこそコミュニケーションが難しいということも書かれている。家族って何なのかなとか、人の幸せって何なのかとか、たくさん感じていただける作品になると思います。

・斎藤浩司役 田中宏樹:この作品はブラッドさんが日本文化を尊重し、理解しようとして書いたものです。しかも日本が舞台なので、僕たちは戯曲に負けないようにしないといけない。物語上は登場人物おのおのが物凄く苦しんでいて、その苦しみがどういう結末を迎えるのかは別々ですけど、どんな場所、どんな国の人でも感じていただけるところがあると思います。

・中村康子役 永川友里(以下、永川):家族や夫婦のあり方、本当の幸せとは何だろうと自問自答の毎日で、正解はないと思いますが、稽古を通じて自分なりの答えを見つけ出したいです。また、可児川沿いを歩きながら物思いにふけっていると、作品の舞台に滞在しているからこそできる役作りがあることを実感します。そういう環境を作っていただけたことは、すごく幸せですね。


中央:演出 マーク・ローゼンブラット

ーイギリスと日本、芝居の作り方はどのように違いますか。

・西川:日本人の作り方は作品を全体で捉え、だんだんディテールに入っていくことが多いと思うんですけど、マークと一緒に作っていると、一つ一つのディテールを俳優と共有し、積み上げていく。そういうところが大きな違いでしょうね。どちらが良いとは言えないので、両面を取りながら作っています。

・マーク:似ている点もあるんですよ。ただ、社会の相違が稽古の過程にも反映されていると思います。概論的ですが、イギリスは個人社会で、日本は集合体の社会。イギリスでは、登場人物が何を欲しているのか、その欲しているものを止めるものは何なのか、細かく詰めていきます。一方、日本人の役者さんは直感的に場面のムードを感じ取って、集合体的に芝居を作っていくように見えます。二つの違うアプローチを一緒に行うのは、とてもエキサイティングですよ。


中央:作家 ブラッド・バーチ

ー日本各地を取材したそうですが、具体的に教えてください。

・ブラッド:日本には3回来ているんですけど、東京、大阪、可児……、名古屋も少し行きました。いろいろな分野の専門家と会って話を聞きましたよ。貧困について詳しい方とか、子ども食堂や学校で苦労している子たちの面倒をみる機関の方にも会いましたし、自殺したい人の電話駆け込み所なども取材しました。その中で心に残ったのは、大阪の釜ヶ崎を訪れた時のことです。釜ヶ崎は行方不明になった方や失踪した方が結構住んでいて、自分の国とは違うなと。そして注意深くその人々の経験を受け止め、ドラマにするうち、イギリスと日本、直面している課題は同じだと感じたんです。貧困やメンタルヘルス、社会の構造の問題などは日英で共通していますね。

ー英題、邦題それぞれが決まった経緯は?

・衛:「野兎」という言葉が、かなり早い段階でブラッドから出てきたんですよ。それから「MISSING PEOPLE」という題名になっていたんですけど、邦題には「野兎」を残したほうがいいんじゃないかと。野兎というのは穴に潜っていて臆病者で、ときどき穴から出てきて餌を食べては、すぐ穴に戻る。いわば孤立していて孤独です。「野兎たち」のほうがお客様のイメージを喚起できると思い、邦題に決めました。

・マーク:英題には物語のエッセンスを示す上で「MISSING PEOPLE」と付いていますが、そこにはダブルの意味があります。この「MISSING」には「いなくなった」「失踪した」という意味だけではなく、いなくなった人を恋い焦がれる、懐かしく思うというような意味もある。その二重の意味がイギリス人にはわかるようになっているんですよ。

Interview&Text/小島祐未子

<公演情報>
2/22 SATURDAY~2/29 SATURDAY【チケット発売中】
可児市文化創造センター+リーズ・プレイハウス
日英共同制作公演
「野兎たち MISSING PEOPLE」

■会場/可児市文化創造センター・小劇場
■開演/2月22日(土)・23日(日)・26日(水)・27日(木)・29日(土)14:00、24日(月)・28日(金)18:30 ※2月25日(火)は休演。
■料金(税込)/全席指定 一般¥4,000 18歳以下¥2,000
■お問合せ/可児市文化創造センター TEL0574-60-3311
※未就学児入場不可