HOME > MEGLOG【編集日記】 > <観劇レポート!>村上春樹原作の舞台「神の子どもたちはみな踊る after the quake」

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『神の子どもたちはみな踊る』は、1995年の阪神・淡路大震災の後に出版された村上春樹の連作同名短編集より、「かえるくん、東京を救う」と「蜂蜜パイ」の二作品を基にして構成された舞台作品。戯曲を担当したフランク・ギャラティはアメリカ出身の演出家・俳優・脚色家で、同じ村上の『海辺のカフカ』の脚色も担当している。『海辺のカフカ』は故蜷川幸雄により演出され、今年上演されたラスト・ステージに至るまで、国内外で高い評価を得てきた。『神の子どもたちはみな踊る』も蜷川による演出が予定されていたが、その死により、劇作家・脚本家・演出家の倉持裕に演出がバトンタッチされた。ちなみに、ノーベル賞作家カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を蜷川が演出した際、倉持が脚色を手がけたという縁がある。


撮影:宮川舞子

舞台は、段ボール箱とおぼしき物体が三方に天井高く隙間なく積み重ねられた空間で展開。「蜂蜜パイ」の主人公である作家の淳平(古川雄輝)が執筆しているのが「かえるくん、東京を救う」という構造になっており、キャストはときに複数の役柄を演じ分ける。倉持の演出は、二つの世界を行き来する複雑な構造の戯曲をよく整理し、わかりやすくスピーディに展開。中根聡子の美術も深い印象を残す。


木場勝己 撮影:宮川舞子

そして、何と言っても、「かえるくん」と「語り手」を演じる木場勝己がすばらしい。木場は蜷川演出の『海辺のカフカ』において、知的障害があるものの猫と会話ができる「ナカタさん」に扮して名演を見せており、演出家が亡くなった後の上演でもその魂を伝える上で重要な役割を果たしていた。「かえるくん、東京を救う」では、冴えないサラリーマン片桐(川口覚)の前に、2メートルはあろうかという蛙の「かえるくん」が現れる。「かえるくん」は片桐に、地底で眠っていた「みみずくん」が神戸の地震で目を覚まし、東京に大震災を起こそうとしていることを告げ、それを止めるための自分の戦いに手を貸してほしいと頼む。困惑しながらも片桐は承諾する。「かえるくん」を演じる木場は、蛙のかぶりものと手は装着しているものの、着ぐるみを着用しているというわけではない。その上で、自分は蛙であると告げる、ある種幻想的なセリフに説得力をまずは持たせなければ、今回の作品自体、成立しないところがある。そして、木場が語る「かえるくん」の真摯な言葉に耳を傾けていると、…不思議なことに、次第に、彼が巨大な蛙に見えてくる。「語り手」との二役を担当する木場の身体を通じて、村上春樹の言葉が心の奥底に届けられ、しみ渡ってゆく感触が心地よい。


左:木場勝己 中央:松井玲奈 右:川口覚 撮影:宮川舞子

『海辺のカフカ』を観ての感覚にも通じるが、『神の子どもたちはみな踊る』においても、この世に生まれた人間、その一人一人に与えられた生におけるそれぞれの使命について考えずにはいられない。「ナカタさん」にも「かえるくん」にも使命があり、一見冴えないサラリーマンである片桐にもまた、「みみずくん」との戦いにおいて「かえるくん」を助けるという使命があることがわかる。人の生は、あるときには明らかな、そしてあるときには一見わかりにくい輪によって、つながっている。それぞれの使命もまた然り。壮絶な戦いの果て、「かえるくん」は「みみずくん」との戦いをイーブンに持ち込み、東京の大地震は阻止される。そのとき、「かえるくん」と片桐が果たした役割は、二人以外に知るものはない。そのようにして、この世界は回っている。自分の人生について、いま一度振り返ってみたくなる作品である。
(8月1日14時、よみうり大手町ホールにて観劇)

文=藤本真由(舞台評論家)

<公演情報>
8/21(水)・22(木)【チケット発売中】
舞台「神の子どもたちはみな踊る after the quake」
◼️会場/東海市芸術劇場 大ホール
◼️料金(税込)/全席指定 ¥10,000
◼️開演/8月21日(水)19:00 8月22日(木)13:00
◼️お問合せ/CBCテレビ事業部 TEL.052-241-8118
※未就学児入場不可