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「森山威男×山下洋輔」Web 限定インタビュー
取材日:2017.07.01


ジャズドラマー森山威男がプロデュースする「森山威男ジャズナイト
彼のホームグラウンドである可児市文化創造センターalaで
開館以来続いている毎年恒例のジャズライヴです。
今年は、かつて山下洋輔トリオで共に活躍した盟友・山下洋輔、坂田明も参加。
どんなセッションになるのか、期待が高まります。

名古屋のジャズクラブでおふたりの「ボレロ」を聴いて感激しました。

山下:「ボレロ」をこのふたりでやったのは、今回が初めてです。リハ中に、何を思ったか急に彼が「ボレロ」を叩き出して、それに誘われて合わせたら完璧でした。ふたりのデュオはとても自然なことで、いつでもどこでも、すぐに一番いい演奏ができます。

森山:山下さんの動きは常に注目しているんですよ。「ボレロ」もそうだし、最近はドヴォルザークの「新世界より」とかムソルグスキーをやっているとか聞くと、映像を観たり。料理の仕方にすごく関心があるんです。僕だったらまず取り込めないだろうなと思うけど、山下さんの演奏を聴くと「これならできるじゃないか」と思うんですよね。

かつて山下洋輔トリオで一緒に演奏していらした頃の感覚が呼び覚まされる感じなのでしょうか?

森山:そういう専門的な考えはないですね。とっさに、「あ、いいじゃないか」と思うだけで。それで「自分がやったらどうなるかな?」と考えると、「やりたい!」と思うんですよ。

おふたりの出会いについて教えてください。

森山:大学生の時に「渡辺貞夫を聴きに行こう」と誘われて銀座のジャズクラブに行ったら、そこで弾いていたピアニストが素晴らしくて感動したんですよ。それが山下さんなの。僕は音楽のスタイルじゃなくて人を見ていたんです。伝統的なジャズでも、フリースタイルでも、フュージョンでも構わない。食いつくのは、演奏に一生懸命なものを感じられる人でした。それで、「あの人はすごい。将来、一緒にやりたい」と思いました。

山下:僕が貞夫さんのところを辞めて自分のバンドを作って、しばらくして彼を引っ張ったのか…とにかく会うべくして会って、彼のドラム、僕のピアノ、あとベースとサックスいうカルテットで活動を始めました。彼は芸大出身だから何もかも知っているんですよ。こんな音楽がある、あんなのもある、現代音楽にはこんなとんでもないものがある、とかね。そういうことを全て知った上で、自分たちが表現するものをちゃんと選択できたんです。だから、それぞれ誰のマネでもないことをやっている楽しさがあって。「これならやれるよね」というのを一瞬にしてカタチにできたね。

森山:山下さんは、ジャズに対する自分の思想やスタイルを僕らに押し付けないんですよ。それだと山下洋輔の言う通りにただやるだけになっちゃうからね。だから、こういうものをやろうとか、彼が影響を受けたセシル・テイラー(フリージャズの先駆者として知られるピアニスト)みたいにやろうとか、一切言わなかった。

山下:だって、いきなりできちゃったもんね。芸大で鍛えた打楽器の技術を持っているから、それを自分で好きなように出しちゃえば、もうすごい演奏になるわけですよ。

森山:ジャズとはほど遠かったかもしれないですね。「伝統的なジャズらしく」とか、そういう基準が最初からなかったから。

山下洋輔トリオとしておふたりが活動していらした1960〜1970年代の時代の空気はどのようなものでしたか?

山下:あの頃は学生運動全盛期で、フォークシンガーなんかがなよなよっとした歌を歌うと「やめろ!」とヤジが飛んだり、ステージに向かって花火を水平に打ち込んできたり(笑)…すごい時代だった。そういう中で僕らもやっていたんです。いろんな学校に呼ばれましたよ。狭くて薄暗い教室にドラムを組み立てて「10人でも聴きにくればいいや」という感じでうわーっとやって帰ってくる。そういうことがずっと続いたね。今でも時々、ライヴの楽屋に来ますよ、「大学で聴きました」という人が。

森山:あの頃は危険な状態の中でやっていましたよね。演奏の最中にも内ゲバとか事件が起きるかもしれないから、「その時は皆さん、ここから逃げてください」と、秘密の通路を事前に教えてもらったりね。

山下:大学に呼ばれるようになったのは、田原総一朗さんがディレクターだった「ドキュメンタリー青春」というテレビ番組に出たのがきっかけです。早稲田大学のバリケードの中で演奏したんです。それは実験だった。田原さんは、火炎瓶が飛んできて僕らが逃げるところまで映そうと思ってたんだけれども、みんなシーンとして聴いちゃった。革マルの奴らがヘルメットを脱いで「今日はちょっと聴かせてくれ」って言ったんだって。音楽が続いている間は、彼らの戦争は止まったんですよ。

森山:僕なんかも血の気が多かったから、何か起きたら…というか、逆に何か起こさせないぐらいこっちが暴れてやるぞというつもりで演奏していましたよ。

山下:一瞬の隙も見せたらいけないという考えが我々にはあったね。

当時の世相にご自身たちの音楽が影響を受けたという部分もありますか?

山下:それは確かですね。過激で既存のものをぶっ壊すような、今まで聴いたことがないものを喜んでくれたし。

森山:僕らの演奏は、あっという間に有名になりました。非常にユニークで挑戦的な音楽だったというのもあるんだけど、そのバックには山下さんの確固たる音楽的思想があった。そこが大きかったと思いますね。

山下:手本はあったんですよ、アメリカに。セシル・テイラーとオーネット・コールマン(サックス奏者)。僕は、最初はオーソドックスなものがやりたかった。だから、肘打ちだ、拳打ちだ、なんてやってたセシル・テイラーとか、コードを無視して吹きまくるオーネット・コールマンを最初に聴いた時は「近づいてはいけない、悪い人たちだ」って思った(笑)。ところが後にそれになっちゃうんです、自分がね。病気して1年半ジリジリしていて、ようやく森山たちと演奏できるようになった時に、リハで「思い切ってみんなめちゃくちゃやってみようか」って、やったんです。その時、頭の中にはやはりセシル・テイラーがありました。



ヨーロッパツアーを成功させるなど、山下洋輔トリオは海外でも高く評価されました。

山下:初めてヨーロッパに行ったのは1974年のことでしたね。レコード会社を始めたばかりのホルスト・ウェーバーが、新宿のピットイン(ジャズクラブ)で我々の演奏を聴いて面白いと思ったらしくて、方々に売り込んでくれたんです。それで、ドイツのジャズフェスティバルやドナウエッシンゲン現代音楽祭などに出ると、あっという間に評判になりました。向こうの全国紙にもライブ評が出ましたし、フェスティバルが開催された町の地方紙には大きな記事が組まれ、森山威男の写真が大きく載りました。みんなこの人をバンマスだと思って(笑)。

森山:間違えられてね、顔がでかいから(笑)。

山下:それは僕が望むところでもありましたけどね。彼の合図で音楽が動いていくようなところがあるから。

森山:町を歩いていると、「タケオ」と声をかけられるんですよ。日本でもまだあまりない頃でしたから驚きました。

山下:みんな自信がついたよね、おかげさまで。

当時のドイツでもフリージャズは盛んだったのですか?

山下:フリージャズをやる人たちはドイツにもいましたよ。ただ、彼らが考えるフリーと僕たちのフリーは違いました。ドイツ人は「フリーなんだからいつ始めてもいい」と。ビールなんか飲んで、誰かが始めたらやりたい奴がやる、いつ終わるかわからなくてもいいんだと…そういうスタイルをフリーとして規定するんですね。一方、すごくコントロールされているのに中はフリー、終わる時はピシャッと終わるのが僕らの美意識なんですよね。

森山:あくまでもジャズでいたいんです。グルーヴがないと嫌なの。

決められた枠があるからこそ、そこに向けて自由に演奏を構築していけるというのが、おふたりのフリージャズのスタイルなのですね。

森山:そうです。だから、終わり方もその場のやり合いの中で決めていくんです。

山下:最小限の決まりがあって、そのほかは何をやってもいいというやり方をずっとしてきましたね。

森山:僕らは時間で計っていることが多かったですよね。ここだというところで完結すれば終わる。豆電球を合図にしたなんてこともありましたよ。それがポッポッポとついたら…

山下:そしたらそろそろ戻ろうかとかね。プロレスだな、今考えると(笑)。合図があると急に逆襲が始まったり。

森山:ジャズ的には譜面をもらうよりもずっといいんですよ。譜面を見て、このフレーズでやってこれをやったら一緒にこうやって終わろうねっていうと、最初から想像しちゃうから、自分の自由な音楽じゃなくなっちゃうんです。それだったら時間だけ決めてもらって、豆電球がパッとついたら終わりという方がいい。勢いがそのまま続いていきますからね。

可児市文化創造センターala恒例の「森山威男ジャズナイト」に、今年は山下さんと坂田明さんが参加され、トリオが復活します。

山下:あくまで森山威男のコンサートですからね。ほかのメンバーも、一人で観客を呼べる力のある人たちばかりですから。ただ、この3人になってからヨーロッパに行き始めたり、思い出深いトリオであることは確かです。坂田も普通のジャズは端っからやらなかった。フリージャズをやり続けてきた。

森山:今でもそれを貫いているからね、立派ですよ。50年やり続けていれば、それは何か意味があるわけで、すごいですよね。

山下:音はすごく惹き付けるし馬力がある。やめろといってもやめないもんね。「後ろで森山さんと山下さんがビシビシに決めて見得を切っているから、それに負けないように俺もやると長くなるんだ」って、坂田は言うんだけど(笑)。

森山:なかなか終わらない時は、僕が声を出して言ってましたよ、「やめろ!」って(笑)。


9/16 SATURDAY
森山威男ジャズナイト2017
チケット発売中
◎出演/森山威男(ds)、山下洋輔(p)、坂田明(as)、川嶋哲郎(ts)、
類家心平(tp)、中路英明(tb)、高岡大祐(tub)、水谷浩章(b)
■会場/可児市総合文化センターala 主劇場
■開演/18:30
■料金(税込)/全席指定 一般¥5,000 18歳以下¥2,500 【残席僅少】
■お問合せ/可児市文化創造センターala TEL.0574-60-3311
※未就学児入場不可