HOME > Web 限定インタビュー > 「宇野由樹子」インタビュー

宇野由樹子は2019年5月のエリザベート王妃国際コンクール・ヴァイオリン部門でファイナリストに選ばれた、岐阜市出身の俊英。9月に多治見市・バロー文化ホールで同市出身の古田友哉(ピアノ)とのデュオ・リサイタルが決定した。ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学で共に学んだ、注目の二人です。

コロナ禍という未曾有の事態に欧州の地で遭遇されました。

入試と卒業試験をちょうど控えていたため、ヨーロッパで過ごしました。当時は日に日に情勢が変わり、国境閉鎖が次々と決まっていく中、早くも2〜3月頃からアジア人やマスクをつけている人が理不尽に差別的な言動を受けることが増えるなど、非常事態だからこそ浮かび上がる人間の弱さも目の当たりにしました。街が全て警察の監視下におかれ、国境が閉鎖されたりして、今まで感じたことのないホームシックや不安を感じましたが、ネットで家族や友人と繋がれることの有難さを身にしみて感じました。
結局、入試は録音審査に早々に切り替わり、オーストリアで予定のコンサートも延期となってしまいましたが、自粛中は幸いにも教授の計らいで毎週2回ほどオンラインのクラス会合があったため、楽曲分析をしたり、クラス内で共有されていた記事や本を読んだりして忙しく過ごしました。息抜きで散歩をしたりケーキを焼いたりしつつ、普段の個人レッスンとはまた違う指導を受けられ、多岐にわたって学べた有意義な時間だったと思います。


ザルツブルクの音楽シーンの現状はいかがですか?

オーストリアは5月から制限緩和が始まり、6月中旬には国境も再開されました。いまだに行動制限は段階的解除の最中ではありますが、すでに従来の生活と変わらない日常が戻りつつあります。今年100周年を迎えるザルツブルク音楽祭もプログラムを再編して、感染対策を伴った上で8月に開催されることになりました。芸術が非常時には不必要なものと捉えられかねない中で、緊急事態下のドイツの文化相による「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」という発言は、先行きが見えず不安な当事者達に多くの勇気を与えてくれましたね。また個人的には、コロナ禍のような特殊な事態にこそ、音楽をはじめ芸術が最終的に常に拠り所になってくれる力強さも感じていました。演奏者として、今まで培ってきた知識や経験、発見をどう社会に還元できるのかを模索しながら、作品のもつ素晴らしさを多くの必要とする人に伝えていきたいです。

モーツァルテウム芸術大学を6月に卒業されたとか?

モーツァルテウム芸術大学も今年の6月に無事に卒業し、今秋からは、引き続きライナー・シュミット教授の下で場所を移り、スイスのバーゼル音楽院にてソリスト・マスターとして勉強を続ける予定です。留学を始めた5年前は物事全般を白か黒かで捉えがちでしたが、多様性に溢れる環境で、どんなところにもグレーの可能性や“あそび”があることを受け入れられるようになり、音楽自体へのアプローチも変わりましたね。そして、素晴らしい室内楽奏者でもあるライナー先生のおかげで、ドイツ系作曲家の作品に多く触れることができ、ドイツ語の韻やアクセントと音楽との関係性の深さに毎回気づかされました。アカデミックな側面からも技術面からも、また細かな表現上のニュアンスまで、作品を理解する過程で色々と自由に試させてもらい、視野が広がりました。まだ道のりの半ばですが、多くのアイデアや方向性を見出せたので、時間をかけてこれからもより深く追求していきたいと思っています。

今一番興味を持って取り組んでいる作曲家や作品について教えて下さい。

今は特に前述したように、ベートーベンやシューベルト、シューマンなどのドイツ系作曲家の作品について、掘り下げて取り組んでいます。最近は主にヴァイオリン・ソナタが多いのですが、作品を分析するにつれて、和声や形式面を初めとして細かいところに独自の革新的なアイデアが散りばめられていることに改めて気づかされ、様々な要因が類稀なる作品を生み出していることにいちいち感動させられます。

9月の多治見市文化会館でのコンサートで演奏予定のシューマン: ヴァイオリン・ソナタ 第1番とラヴェル: ツィガーヌについて、それぞれ聴き所を教えて下さい。

シューマンのソナタは、ドレスデンからデュッセルドルフに移り住み、作品の制作でも多忙を極めていた1851年にわずか16日の短期間で作曲されました。シューマンは結婚後しばらくして、過労や経済上の苦労、妻であり優れたピアニストであるクララへの劣等感など様々な要因から精神を崩し、長年にわたって精神障害による幻聴や妄想に悩まされていました。この作品を作曲した前後からその症状が酷くなり、その影響がこの作品にも見られ、全体を通して悲劇的で苦痛に満ち、常に何かに追われているかのような強迫観念に苛まれている印象を受けます。その中で、もの懐かしさを彷彿とさせる第2楽章は、前後楽章の焦燥感から対照的に、繰り返し現れるテーマは不完全なメロディーながらその純真さに聴くものの心を打ちます。
一方、フランスの印象派を代表するラヴェルは、民族性に憧れを抱き、ハンガリー系ロマの音楽としてツィガーヌを構想しました。チャルダッシュの形式をもち、前半のテンポの緩やかな「ラッサン」と後半の速く情熱的な「フリスカ」から構成されます。ジプシーの情感のこもった独白のようなカデンツァ、そしてピアノのアルペジオと共に展開される情熱的で早い舞曲のヴァリエーションは息つく間もつかせず、華々しくクライマックスを迎えます。作曲にあたり、パガニーニのカプリスに触発されたというラヴェルのヴァイオリン技巧への純粋な探究心が随所で見られ、ピアノとの響きと相まって魅力的な音響効果を発揮しているところも聴きどころの一つだと思います。

共演の古田友哉さんも同じモーツァルテウム芸術大学で学ばれています。

古田さんは多くのことに造詣が深く、音楽も多様で繊細な音色を持ちあわせたピアニストだという印象がありました。在学中からソロでも各地をまわって忙しくされていたのに加え、様々な演奏家と室内楽も多く意欲的に活動されているのを見て、いつも刺激をいただいておりました。地元の大先輩で、同じ出身の縁でいつか岐阜で共演できればと願っていたものが早くも実現することになりとても嬉しく思っています。
今年は、直接ホールで演奏を聴く機会が減った方も多いかと思いますが、久しぶりの音楽は、日々に活力を与えてくれ、生活に彩りを添えてくれることと確信しています。今回プログラムに組んだ素晴らしい作品たちの魅力をお届けできるよう全力で準備しております。バロー文化ホールで皆さんをお迎えできるのが、今からとても楽しみです!

取材・文:東端哲也


9/4 FRIDAY 【チケット発売中】
岐阜の若きヴィルトゥオーゼン
宇野由樹子・古田友哉 デュオリサイタル

◼︎会場/バロー文化ホール(多治見市文化会館)小ホール
◼︎開演/19:00
◼︎料金/全席自由 一般¥2,000 高校生以下¥1,000
◼︎お問合せ/バロー文化ホール(多治見市文化会館)TEL.0572-23-2600
※未就学児入場不可(託児有・要申込)

8/21 FRIDAY 【受付終了 ライブ配信あり】
100人de名演(全6回)
第4回 宇野由樹子(ヴァイオリン)

◼︎会場/サラマンカホール
◼︎開演/12:00
◼︎料金/お申込み先着100名様無料ご招待(受付終了)
◼︎お問合せ/サラマンカホールチケットセンター 058-277-1110
※同日同時刻にYouTubeよりライブ配信いたします。以下のリンクよりご覧ください。
https://www.youtube.com/channel/UCOTVt9wDpBfz7tXlDe9jhPA