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「笑福亭羽光」Web 限定インタビュー
取材日:2017.12.08

人気落語家の仲間入りを果たした真打・三遊亭兼好を中心に、
その背中を追う存在として話題を集める二ツ目の実力者たち、
さらには浪曲、講談の新鋭までそろう演芸イベント
「三遊亭兼好と次世代エース競演」が今週末に迫ってきました。
そこで、二ツ目を代表して笑福亭羽光に公演直前インタビューを敢行!
上方落語の笑福亭鶴光に入門して10年を迎えた羽光に
師弟関係のエピソードから、落語の未来までを聞きました。

“次世代エース”と指名される心境はいかがですか。

僕たちの前座時代に比べると東京は間違いなく落語ブームで、いろいろな公演がある中、特に若手に注目が集まっていることを実感しています。例えば、新宿末廣亭で行われている「深夜寄席」は、二つ目が4人出演するんですけど、演者の顔ぶれに関わらず長蛇の列ができるほど人気。そういう現象をマスメディアも煽ってくれて、BSやラジオで、若手や二ツ目が出られる番組も増えています。僕自身、落語芸術協会(芸協)の二ツ目11人で編成されたユニット「成金」の一員として火が着いてきたのは感じますし、おかげで次世代エースと言っていただけるのかなと。芸協の上の方々は新しい試みにも「やれ、やれ!」と応援してくださる師匠が多く、若手も活動しやすいですね。

この公演は、10周年を迎えた「大名古屋らくご祭2017」のプレ公演という位置づけでもあり、「大名古屋らくご祭」のこの先10年を占う場にもなりそうです。

いろんな芸人がいる中、そんな場に呼んでいただき光栄です。僕は二ツ目になってすぐ、大須演芸場に出始めたんですよ。まだ以前のお席亭がいる態勢だった時分で、月に10日ぐらいずつ、楽屋に寝泊まりしながら高座に上がっていました。その頃に生まれた出会いや人脈は大きいですね。大須演芸場は僕にとって“青春の場所”なんです。

名古屋とは縁が深いわけですね!

僕は大阪の系統の落語ではあるんですが、東京で修行をしたので、本当の大阪弁とは少し違っているんですよ。あまりコテコテじゃない分、伝わりやすく、名古屋の人にも受け入れてもらいやすかったんじゃないかと。師匠の鶴光にしても「オールナイトニッポン」のパーソナリティ時代には苦労があり、東京にいて大阪弁をどう話すか、徐々に変えていったようです。同じように、僕は大須での経験が役立ちました。名古屋のお客様は大阪より温かくて、東京の観客に近い感じ。新しい文化を素直に受け止めてくれます。また、今や多種多彩な公演を観られる環境なので、観客も成熟してきているんじゃないでしょうか。大須演芸場がこれほど長く続いたことにも象徴されるとおり、名古屋は東西文化の交わる場所として存在感を増していると思います。個人的には、大須演芸場で桂珍念師匠に習った噺や、快楽亭ブラック師匠から聞いた下ネタは思い出深いです(笑)。

今回は、どんな落語を?

僕は夜の部のトップなので、流れを作る役割になります。まずはマクラの間に観客の空気を瞬時で判断して根多を決めなければいけません。普段は新作もやりますが、他の演者との兼ね合いがなければ、今回はスタンダードな演目を見せることになると思います。寄席で学んだこととして、興行全体がひとつの演劇のようになることを意識しているんですよ。一人ひとりの高座も大事ですが、最後まで観ていただいた時に「また来よう」と思ってもらえるのが理想的じゃないかと。大学を出てお笑いをやっていた頃は自分がウケることがいちばんでしたけど、落語を志してからは考え方が変わりましたね。1~2分で結果を求められるお笑い番組に虚しさを覚えるようになっていた当時、もともと作家志向でもあったので、落語の物語の魅力や文学的側面に引かれていったんです。


鶴光師匠に入門して10年、振り返るとどんな時間でしたか。

この10年は楽しかったですね。鶴光の弟子は他と違い、内弟子や鞄持ちなどを経験しません。師匠が東京ではホテル住まいのため、僕たちは寄席に預けられるんです。そこで着物のたたみ方から先輩方に習うという……。僕は34歳で入門しましたけど、18歳ぐらいのアニさんもいたわけで、そういう方にご飯をおごってもらえたり、20代ぐらいのキレイなお姉さん方から太鼓を教わったりすると良い匂いがしたり……、楽しかったですよ(笑)。年とってから専門学校に入ったみたいな感覚(笑)。だから、前座から二ツ目になる時は淋しかったですね。楽屋に通う必要がなくなりますから。それで「前座を終えても集まりましょうよ」という話になり、二ツ目の会の発足にもつながっていったんです。

そうなると、鶴光師匠との関係は……?

まず、一度も怒られたことがないです。ただ、気に障ることがあると、それとなくブログに書かれる(苦笑)。最近では師匠がツイッターを始めたので、そちらにも書かれます。僕たちはそれをチェックして、反省したり、謝りに行ったりする。日頃の連絡もメールですね。鶴光の弟子として“ウケる”ということは最大の使命であり、プレッシャーでもある。常に観客のニーズを察知し、最大限にウケなければいけないんです。風情や感情の機微が大切な噺もありますが、それらはチョイスする場面、高座に掛けるタイミングが重要。師匠からすると、お客様が何を期待しているのか理解していなければダメなんです。半面、これは笑福亭の悪い伝統ですけど、他人がスベるところを喜ぶ気質がある(苦笑)。兄弟子の一人は、15年前の四国公演でスベった「代書屋」のことをいまだに言われるんですよ(笑)!

最後に、これからの羽光さん、これからの落語についてお聞かせください。

僕らはまず“見つけてもらえること”が大切。大勢の中で“輝ける”ということですよね。漫画制作に携わっていた頃から“青春”や“童貞感”をパンク的に表現してきて、新作落語でも青春時代を描き続けるスタイルは確立できてきた。また、新作では自分のカラーを出すと同時に、メッセージもこめてきたつもりです。今の社会で悩み、誤った道に走ろうとする人には「後になったら笑い話になるんやで」ということを伝えたいし、それに気づくお客様が出てきた手応えもある。落語はまだ無限の広がり、可能性を秘めています。漫才なんかに比べると、落語はまだまだ進化していない。落語を進化させることが、僕たち世代の使命だと思っています。

◎Interview&Text/小島祐未子


12/16 SATURDAY
〈大名古屋らくご祭2017 プレ公演〉
兼好と次世代エース競演

チケット発売中
■会場/東建ホール・丸の内
■開演/13:00=出演:三遊亭兼好、柳家わさび、三遊亭粋歌、玉川太福(浪曲)、神田松之丞(講談) 17:00=出演:三遊亭兼好、立川こはる、瀧川鯉八、笑福亭羽光、三遊亭とむ
■料金(税込)/全席指定¥3,240
■お問合せ/東海テレビ放送 事業部 TEL052-954-1107
※未就学児入場不可
※都合により出演者が変更になる場合あり。