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2017年に宮崎で制作・上演された「板子乗降臨」を四日市バージョンにリクリエーションする「でたらめな神話」。8月の上演に向け、原作者で劇団MONO主宰の土田英生が四日市に滞在し、東海や関西の俳優たちと作品づくりに取り組んでいます。

四日市での公演は2年ぶりですね。劇団MONOの本公演として「その鉄塔に男たちはいるという」が四日市市文化会館で上演されたのが2020年3月1日、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し始めた頃でした。

四日市でもキャンセルがずいぶんあって、客席はガラガラでした。でも、来てくれた人たちがその分、余計に拍手してくれて。僕、カーテンコールで感極まって喋れなくなったんです。30年やってきて初めての経験でした。エンターテインメントをやってるわけですから、どんなに出来が悪い時も、お客さんが入らなくても、カーテンコールだけは笑顔で頭を下げるのが信条だったのですが。あの時は、観客一人ひとりに支えられて活動しているという、当たり前のことを非常に強く思いましたね。

今回の「でたらめな神話」は三重を舞台にした群像喜劇。この作品で描こうとするのはどんなことですか?

僕がもともと興味を持っているのは、人と人の間には線があるということです。誰もが自分の中にたくさん線を持っていて、そのことに感情的に従っているだけでは対立はなくならないと思うんですね。人が知性と理性でその線を消し去る努力をしなければ平和は訪れない、というのが基本的な考え方で、劇作ではずっと同じことを書いてきた気がします。賛成派と反対派とか、外からやって来た人とその土地の人とか。今回は、ひとりの男が四日市近郊のある町に移住してきたのをきっかけに、地元の人間関係に変化が起こって…という話で、線引きのバカバカしさみたいなものをあぶり出したいと思っています。四日市近郊を舞台にしたストレートプレイって、そんなにたくさんありませんよね。この作品が、普段は意識することない地元に対する自分の視点みたいなものに気づくきっかけになるんじゃないかとも思います。

四日市市から車で30分ほどの場所にある「樅ノ町」という架空の町で展開されるドラマ。シナリオハンティングなどはなさいましたか?

もともとは宮崎が舞台でしたから、自分なりにいろいろ調べて三重に当てはまるものを見つけていったという感じです。イメージしているのは菰野町みたいな場所。シナリオハンティングというほどではありませんが、以前、打ち合わせで四日市に来た時に菰野町に連れていっていただいて、ハマるなと思いながら町の様子を見ていました。樅ノ町は、無農薬野菜を売りにしている町という設定で、自然豊かなイメージなので。

7月初旬から四日市に滞在し、作品づくりに取り組んでいらっしゃいます。こうしたアーティスト・イン・レジデンス事業が各地の劇場で増えていますね。

僕たち作り手にとっては、地方で落ち着いて作品をつくるという経験はとても幸せなことです。一番、理想的なのは、各地域の劇場が劇団を持つことだと思います。アメリカではリージョナルシアターといって、地域の劇場が自主制作に取り組んでいます。面白い作品はアメリカ中を回り、ブロードウェイに行って大ヒットすることもある。「あの人気作は、あの劇場から生まれた」というようなことが起こるんです。今回は四日市公演だけですが、「四日市で制作した作品」として全国を回れると、もっといいなと思います。

四日市市文化会館も、2015年に演劇プロジェクト「Yonbun Drama Collection(よんドラ)」をスタートさせ、さまざまな劇団とタッグを組んで作品づくりやワークショップなどをおこなっています。

東京の演劇人たちも四日市のことは知っていますよ。いろんな劇団が呼ばれるようになると、若い劇団が「四日市に行きたい」と思うようになるんです。憧れの先輩がやってる劇場だったら、自分たちも出てみたいじゃないですか。そういうことで演劇界での認知度が高まってくると、地域の演劇ファンからもさらに注目されるようになると思います。

◎Interview&TEXT/稲葉敦子


8/6 SATURDAY,8/7 SUNDAY
Yonbun-Mihama演劇コレクション 三浜文化会館演劇制作公演
「でたらめな神話」(原題:板子乗降臨)

チケット発売中
■会場/四日市市文化会館 第2ホール
■開演/14:00
■料金(税込)/全席指定 一般 ¥2,750 U22席 ¥1,100
■お問合せ/四日市市文化会館 TEL.059-354-4501
※未就学児入場不可
※U22席は当日引き換えとなります。座席の指定はできません。
※車いす席、おもいやり席(階段の昇降が困難なお客様に設定した席)は、文化会館窓口のみで取り扱い。席数に限りがあります。