HOME > Web 限定インタビュー > 田中彩子インタビュー

ソプラノの中でも最高音域を、楽器のような俊敏な動きと、透明感のある柔らかな音色で超絶技巧を操る日本が世界に誇るコロラトゥーラ・ソプラノ歌手 田中彩子。「Play Coloratura」と題し、“遊び心” と “祈り” をテーマにリリースした4年ぶりのニューアルバムを引っ提げ、リサイタルツアーで全国を廻る田中彩子に、あんなコトやこんなコトを聞いた。

ニューアルバム聴かせて頂きました。驚いたのはジャズへの取り組みです。チック・コリアの「リターン・トゥ・フォーエヴァー」時代の名曲『クリスタル・サイレンス』と『ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ』が入っていました。田中さんジャズお聴きになるのですか。

音楽的な感覚が凝り固まらないように、ジャンルを問わず聴くようにしています。ジャズは詳しくはありませんが、好きです。チック・コリアの『クリスタル・サイレンス』は、チック・コリアと仲が良かったクラリネット奏者のストルツマン夫妻から、あなたの声に合うんじゃないと言われて、ヴォーカルの楽譜を貰ったのがきっかけです。それはハイトーンのラの音から始まる、オリジナルキーの楽譜。ハイトーンから始まっていて、こんな高い音から始まるジャズの歌があるんだと、驚きました。

アルバムでは、そのメロディーをジョー・ファレルがソプラノサックスで吹いています。田中さんが同じキーで歌われていたので、正直驚いたのですが、そんな楽譜があるのですね。

ジャズヴォーカルの方は比較的低音の印象があったので、私にはジャズは合わないかなと思っていたのですが、あの楽譜を見て俄然やる気が出てきました(笑)。『ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ』は、フローラ・プリムという女性歌手が歌われていますが、低音が心地いいボサノバっぽい雰囲気で、今回私はそのラフなイメージをなるべく保ちつつキーを上げてアレンジして歌ってみました。

田中さんは先日、ジャズトランペットの松井秀太郎さんとコラボをされたとお聞きしました。松井さんは、小曽根真さんが今いちばん力を入れておられる、若手育成プロジェクト「FROM OZONE TILL DAWN」のメンバーで、ジャズファンも注目の方。いかがでしたか。

当日は、リハーサルに充てる時間が殆ど無くて、ほぼぶっつけ本番だったのですが、それがとても楽しかったです。松井さんのトランペットは創造力に溢れ、最高でした!私はその日の気分によってアレンジや雰囲気を変えたいタイプ。クラシックでは時に難しいですよね。楽譜通り歌う事ももちろんそれも大事ですが、ジャズの世界では即興的に気分のまま好きにやれるのが良いですね。

ジャズ以外のアルバム曲を紹介してください。

1曲目のモーツァルトの『コンサートアリアK.383』は、彼が初恋の女性のために書いた曲です。その女性はコロラトゥーラ・ソプラノだったそうで、彼女がリサイタルの最後に、お客さんやパトロンに感謝の思いを伝えるために歌っていた曲だと言われています。私も来年が10周年で、30代最後の年です。今までのご声援に対する感謝の気持ちとして、この曲をアルバムの1曲目に入れようと決めていました。そして、最後の曲はチック・コリアの『ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ』。アルバムリリースの話が決まる前から、その2曲の配置を決めて、全体のアルバムイメージを組み立てました。

5曲目までは、バロック、古典の王道作曲家の作品です。

ウィーンに所縁の有るバッハ、ヘンデル、モーツァルトの曲ですが、そこまで有名では無い曲も含まれています。どれも私の声の特徴、コロラトゥーラ・ソプラノが生きる曲ばかりです。モーツァルトの『コンサートアリア』はこれまで7曲くらい歌いましたが、今回採り上げる2曲はそれらと比べても難しい曲。大好きな曲だけに、歌うタイミングを計っていました。

6曲目からは、ガラッと現代に雰囲気が変わります。

今回のレコーディングに、信頼しているチェロの植木昭雄さんが入ると聞いたので、ずっと温めて来た曲、プレヴィンの『ソプラノとチェロのためのヴォカリーズ』を録音する事にしました。まず演奏されることが無いレア曲だと思いますが、名曲です。掴みどころの無い、複雑で難解な曲ですが、フワーッとした感じが、コロラトゥーラの個性に合うと思います。実は今回、収録が順調に進みました。1日3曲ペースでやれればいいねと話していたのですが、サクサク進んで、2日目のスケジュールに余裕が出来ました。世間話をしている時に植木さんが、「この曲すごく良い曲だよ。いつかやってみたら」と言って、楽譜をくださったのです。休憩時間に譜読みをしていたら、すごく良い曲で、「今回のアルバムに入れましょう!」と私が言い出して、急遽決まりました。それが6曲目に収録しているプライズマンの『アヴェ・マリア』。その場でピアノの佐藤卓史さんもチェロの植木さんもアレンジし直して、ジャズのような即興のセッションでした。

他にも、珍しい曲が並びますが、全曲美しい曲ばかりですね。

ありがとうございます。ニールセンの『幸せなのに』は、今年6月にデンマークに行った際、歌って欲しいと依頼されました。日本ではあまり知られてはいませんが、現地ではとても有名な曲でデンマークで愛されている曲です。ミヒャエル・プブリックの『アー・ユー・シリアス?』は私のコロラトゥーラの為に書き下ろしてもらった曲。また、渋谷慶一郎さんの『BLUE』はコンサートでは歌ったことはありましたが、皆さんに聴いて欲しいと思って今回のアルバムに収録しました。

すべて田中さんのハイソプラノにピッタリの曲ですね。そこまでコロラトゥーラの技術に拘られるのは何故でしょうか。

ヨーロッパに住んでいて実感するのですが、素晴らしい歌手は沢山おられます。そんな環境では、人と違った所や、人より優れている部分で勝負するしかないと思ったのです。それが、私の場合はハイソプラノで歌う、コロラトゥーラの技術です。数少ないチャンスをモノにしていくために人とは違うレパートリーを持ち、人には出来ない技術を磨くしかない。そう思って、この10年やって来ました。個人的にはリリカルに歌う曲も大好きですし、コンサートでは歌うことはありますが、そういった歌は私より上手く歌える人がいると思います。この曲は難しいけれど、田中さんなら歌えるんじゃないかな?と思って貰えるような、唯一無二のコロラトゥーラ・ソプラノのスペシャリストになりたいと思っています。

ヨーロッパデビューは『フィガロの結婚』のバルバリーナだったそうですね。4幕冒頭に素敵なカヴァティーナがありますが、声的に低くは無いですか?

当時の私からするとかなり低かったと思うので、良く歌っていたなと思います(笑)。その時以来、歌ったことはありませんが、今歌ったらどんな感じになるのか興味ありますね。私は、オペラファンの方が求めておられる、ソプラノ歌手が歌う王道のアリアなどはあまり積極的には歌いませんので、皆様からはニッチな歌手だと思われているのではないでしょうか(笑)。

近年、田中さんは社会貢献や青少年の教育、育成など、音楽以外にも色々と活動されています。将来的な方向性や夢は何ですか。

今、色々な仕事を頂いていますが、自分が成長する事で他の方にも良い影響が有るといいですね。もちろん歌は続けて行きます。私の存在理由でもありますし、子供や若い人たちが、音楽や芸術に触れる機会を増やしたいと願っています。そのためには、芸術文化と直接関係の無いと思われる経営者やビジネスマンの方々に対して、音楽や芸術がどれほど人格形成や、情操教育に影響があって大切なのかを話せる機会を頂けることは、ありがたいです。それによって、音楽界にもサポートを頂き、コンサートが増え、日常的に音楽に触れる環境が整備されて行く。そういう循環が出来て、その為の働きかけが出来るのなら、これほど嬉しい事はありません。

そういったフレーム作りをやれる人はなかなかいません。貴重な存在ですね。

自分の演奏だけに集中出来るなら、その方が楽だとは思います。ただ、何かそれだけじゃダメな気が20年ほど前からしています。私は本来、人の前に出てリーダーシップを発揮するタイプではありません。それが気付けば、人前で歌っていることが不思議です。色々な方のおかげで、今この場所に立てている。それなら、私も何か役に立ちたい。何かお返しがしたいという気持ちはいつも持っています。私に出来ることは何なのか。私が歌うことによって、何か良い変化が生まれるなら、それは素敵な事です。歌以外にも、今やっているような社会活動に興味を持って頂き、私の知名度が上がれば、もっと大きな影響力を持つ人が動いてくれるはず。そうなる為に頑張ろうと思います。私にとっても周囲にとっても、良い循環が生まれることを望んでいます。

コンサートに向けたメッセ―ジをお願いします。

ニューアルバム「Play Coloratura」を携えて、リサイタルを行います。遊び心を忘れずにという思いを込めた「Play」と、平和の祈りを込めた「Pray」の、2つの意味合いをテーマに考えて作った最新アルバムの曲を中心に、バラエティに富んだプログラムになっています。珍しい声といわれるコロラトゥーラ・ソプラノをこれだけたっぷりお聴き頂けるコンサートは、なかなかないと思いますので、ぜひ皆様にお聴き頂きたいです。クラシックがお好きな方も、初心者の方にも、楽しんで頂ける内容となっているかと思いますので、肩肘を張らず、気軽に来ていただけたら嬉しいです。しらかわホールは日本で最初に歌った大切なデビューの地。今回で最後になるのはとても寂しいですが、また今年も名古屋で歌えるのが嬉しいです。ぜひ皆さまのお越しをお待ちしております!

◎Interview&Text/磯島浩彰



11/12 SUNDAY 【チケット完売】
しらかわホールプレミアタイム 2023

田中彩子 ソプラノリサイタル 2023
〜Play Coloratura〜

ピアノ:川田健太郎
◼️会場/三井住友海上しらかわホール
◼️開演/15:00
◼️料金(税込)/全席指定 S¥6,600 A¥5,500 U 25¥2,000全席完売
◼️お問合せ/東海テレビ放送 事業部 052-954-1107(平日10:00~18:00)
*未就学児入場不可

<大阪公演>
11/19 SUNDAY 【チケット発売中】

◼️会場/住友生命いずみホール
◼️開演/14:00
◼️料金(税込)/全席指定 S¥6,500 A¥5,000(A席完売)
◼️お問合せ/ABCチケットインフォメーション:06-6453-6000
*未就学児入場不可

<浜松公演>
12/2 SATURDAY 【チケット発売中】

◼️会場/アクトシティ浜松(中ホール)
◼️開演/14:00
◼️料金(税込)/全席指定 S¥6,500 A¥5,000
◼️お問合せ/テレビ静岡事業部054-261-7011 (平日9:30~17:30)
*未就学児入場不可