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田川啓介×浅井浩介 Web 限定インタビュー
取材日:2018.07.09


「誰」で第15回劇作家協会新人戯曲賞を受賞。コアな演劇ファンの間で注目を集める劇作家・演出家 田川啓介のプロデュースユニット水素74%がこの夏、三重に初登場し新作「ロマン」を上演します。田川が厚い信頼を置く俳優・浅井浩介とともに、作品のテーマである“結婚”を軸に同世代の独身男性同士、本音で語り合いました。

水素74%は、作品ごとに俳優を集めるユニット形式をとっていらっしゃいます。そうしたスタイルの作品づくりには、どんな利点がありますか?

田川:おそらく、演出的な方法論を突き詰めていきたいという人は、劇団にしたほうが絶対にいいと思います。でも僕にはそういう思いはないし、やっぱり劇団を持つというのは大変なことですから。僕が所属している青年団の場合、以前からユニットでやっている人もたくさんいて参考になったし、実際にその形式でやってみて、これでいいなと。その都度、作品に合った俳優を集めるので世界が広がりやすいですし。キャスティングは大変ですけどね。ただ、自分のところの劇団員を絶対に使わなきゃいけないという縛りがないので気楽ではあります。


浅井さんを初めて起用なさった作品は?

田川:2015年の「誰」です。携帯で常に連絡を取り合ってお互いに見つめ合うことを活動内容とする「まなざしの会」という大学サークルが次第に崩壊していく…という作品で、サークルの会員の役で出てもらいました。浅井さんが面白いのは、行間というかセリフにはない部分でその人が抱いている気持ちや意識みたいなのがにじみ出るところ。自分がセリフを書いているからかもしれないですけど、何も喋っていないときの俳優がどういう状態でそこにいるかわかるというときに笑っちゃうんですよね。浅井さんはそういうのがすごく見えて、面白いなと思います。

浅井:田川さんの書くホンは、セリフだけ読むとちょっと飛躍しているような箇所があるというか…。


それは展開に無理があるとかそういうことでは決してなく、書かれていないところに、書きながら田川さんの頭の中でいろいろあったことが隠されているんだろうと。そこにどういう気持の流れを通したら次の方向に行けるんだろうというのは、けっこう考えますね。例えば、何か言いたいことがあるとして「でも、やめようかな。でも言いたいな。で、こういう言い方」みたいな。


田川:浅井さんは提案力がありますよね。台本を読んで、自分はこう思うからこうやるんだ、という感じで演じてくれるから演出もすごくやり易い。


新作「ロマン」は、結婚がテーマだそうですが、田川さんご自身が今、関心を持っていらっしゃるトピックなのですね。

田川:僕は今34歳で独身です。直接は言わないけど「孫が欲しい」という親の思いがビンビン伝わってきて(笑)。実家の近所の人たちは、子どもが全員結婚していて孫も何人もいるわけです。孫が生まれる度に写真を見せに来てくれたり…そういう話をして、暗に圧をかけてくる。女性と付き合っても、相手の「結婚したい」という気持ちが見えて恐ろしく圧がかかった状況に陥ったり。でも「なんでしないといけないんだろう」みたいな気もしたり(笑)。別にしなくていいじゃんって思うんですけど…。実家が田舎なので、友だちもみんな結婚して子どももいるんですよ。すると「結婚っていいものだよ」「家族を持つことで成長できるよね」みたいなことを言ってくる。「そんなことないよ」と思いながらも、


どこかでやっぱり「結婚して当たり前」みたいな価値観が自分の中に染み付いている部分があって、それがしんどいなと感じていました。新作では、そこからパッと解き放たれるようなことを書きたいと思っています。結婚という制度も、長い歴史の中ではごく最近のものだと思います。これからは結婚しないという生き方も増えると思うし、そこに縛られることはないと気づくような、気づいてほかの関係を探すというお話を作りたいなと思っているんです。


浅井:僕も独身で、姉と弟も結婚していません。うちは母親が三姉妹なんですけど、いとこたちはみんな結婚して子どももいるから、親戚揃って旅行に出かけたりすると肩身が狭そうな感じなんです。やっぱり孫の顔が見たいんだろうなと思うと、圧を感じますよね。演劇をやっているという点で、すでに親不孝している感じがあるんですよ。その罪悪感に孫をカポッとはめるといいんですけどね。田川さんは、そういう罪悪感を払拭したいというような気持ちはないんですか?

田川:それはあるけど、結婚するのは嫌だなって(笑)。この歳になって本当に恥ずかしいんですけど、女の人のことが全然わからないんです。「ロマン」でも、結婚しようと思うんだけど、最終的に友達と一緒に暮らすことを選ぶ男のことを書きます。僕自身、女性とずっと一緒にいるより外で友達と飲んでいた方がずっと楽しかったりするので…。

浅井:「ロマン」に出てくるのは、友人だったり親だったり、結婚相手以外の誰かしらと暮らすカタチを探す人たちですよね。田川さんも、ひとりで暮らすのではなくて、やっぱり老後は誰かと一緒にいたいという気持ちはあるの?

田川:いたいけど、女性じゃなくていいじゃんとか、結婚じゃなくていいじゃんっていう気持ちはある。だから孫のことは無視していますけど。

浅井:孫のことはもういいんですか(笑)。

田川:養子があるし…。本当は何でもいいんですよ。その人にフィットした生き方があるのに、とりあえず結婚というカタチがいいとされているからする、という感じになっているんだと思うんです。自分で考えるのって難しいから。それなら、とりあえず選択肢を示すみたいな感じのことができたらなと。伝統とか制度に頼らないで、「自分はこれがいい」という選択をみんなができるようになったらいいなと思います。


今、LGBTへの理解の深まりなど、多様な生き方が受け入れられるようになってきました。そうした社会的動向も、この作品を作ろうと思われたことに影響していますか。

田川:いろんな選択肢があった方がいいとは以前から思っていましたし、そういう志向はこれまでの作品にも表れていると思います。語弊があるかもしれませんが、うっかり結婚しちゃう人の気持ちはわかるんですよ。例えば、「なんでも自由だよ」と言われたら、まず僕は男が好きか、女が好きかというところから考えなきゃいけないじゃないですか。もっと自由になったら、人間は好きじゃないかもしれないし、無機物でもいいかもしれないところまで遡る。それを考えるのってすごくしんどいことだと思うんです。だから、すでにある制度に頼って、「俺は女が好きに決まっている」「私は子どもを産むに決まっている」という生き方ができたら楽だというのはわかります。決められた物語に頼ろうとする人もいて、「多様性だよ」みたいに単純には言えない。じゃあ、僕自身にもあるこの弱さをどうすればいいんだろう、どうにかしようということは、作品でも、自分が生きる上でも考えていることなんです。


8/25SATURDAY ~ 26SUNDAY
水素74% 「ロマン」
チケット発売中
◎ 作・演出/田川啓介
◎ 出演/浅井浩介、遠藤留奈(THE SHAMPOO HAT)、折原アキラ(青年団)、日高ボブ美(口字ック)、前原瑞樹(青年団)、用松 亮、安川まり、黒沢あすか
■会場/三重県文化会館 小ホール
■開演/各日14:00
■料金(税込)/整理番号付き自由席 
前売 一般¥2,000 25歳以下¥1,000 当日 一般¥2,500 25歳以下¥1,500
■ お問合せ/三重県文化会館 TEL.059-233-1122
※未就学児入場不可