HOME > Web 限定インタビュー > 勅使川原三郎版「羅生門」インタビュー

芥川龍之介の小説を題材に、愛知県芸術劇場芸術監督であり
国際的アーティストである勅使川原三郎が新作ダンスを発表する。
勅使川原三郎版「羅生門」には、彼の信頼あつい佐東利穂子に加えて
ハンブルク・バレエ団のスター、アレクサンドル・リアブコが参加。
将来的には海外公演も視野に入れるビッグ・プロジェクトだ。
公演に先駆ける7月にはリアブコが愛知入りし、3人そろって記者会見。
今回は、その様子をレポートします!

まずは、お一人ずつお言葉をいただけますか。

勅使川原三郎:リアブコさんが東京での滞在期間を経て合流し、今はリハーサルも順調。佐東を含め強力なダンサー3人を活かしたいですね。原作はほんの数ページの短編小説ですが、今の実感を生き生きと舞台上で表せる題材だと考えています。私は「羅生門」の中に、ある神話性を読み取りました。それは日本古来の神話、あるいは北欧やケルトの神話にも通じると感じています。神話というのは古い話というものではなく、時代時代で生き生きとした何かを捉えているもの。今こそ、逆説的にではなく本質的に、神話を捉えたい。

アレクサンドル・リアブコ:去年お話をいただいた時は「羅生門」について何も知らない状況で驚きました。また、これまでに勅使川原さんの作品を拝見する機会がなく、新しいことをやらなければいけない、困難を乗り越えていかなければいけないわけですが、この特別な経験をうれしく思っています。リハーサルでは「どう感じるか」を常に問われ、身体を強く意識する経験をしています。皮膚を感じ、皮膚の内側から外側へと意識が向かうような……。スカイプを利用したリハーサルから空間を共有したリハーサルへと移り、勅使川原さんの探求が興味深く、この先も楽しみです。

佐東利穂子:勅使川原さん、リアブコさん、お二人の言葉から、さらなる喜びを感じています。リアブコさんが私たちと面識がないにも関わらずオファーを引き受けてくださったことを、うれしいと同時に不思議にも思っていました。しかし、言葉を交わすうちに納得したんです。彼は本当に真摯な方で、話すことも聞くことも優れている。自然と私たちの中に信頼関係が生まれていきました。同じ空間にいて、彼の身体から感じられること、また彼が感じていること、感じようとしていることを、同じように感じ、交換できています。

勅使川原:リアブコさんは理解力が高く、私の意図を正しく受け止めています。自己表現ではなく、いま何が起きているかに反応できる。音もただ耳で聴くのではなく、感じて、身体がどう反応しているのかに意識を向けている。リアブコさんと佐東には共通するものを感じます。謙虚なのに、内面には強いものがある。また必要以上に自分を見せず、だからこそ見えてくるものがあることを知っている。そういった知性も同様ですね。



「羅生門」を題材に選んだ経緯は?

勅使川原:「羅生門」は平安時代の京都を舞台に、飢饉や殺りくなど、人間が生きていく上で困難な問題があふれている物語。神話として見れば、鬼が棲んでいます。死体が転がり、生きた人間と区別なく存在する悲惨な状況に足を踏み入れた下人ですが、自分まで身を落としたくはない。死と生の狭間のような非日常的な世界は、ある意味、今の私たちが共有できる状況と言えないでしょうか。時代を批判する意図ではなく、人間の本質がそこにあるのではないかと。だから、必ずしも醜いとは思えないんです。もしかしたら美しいことすら反映できるような、見えない何か大事なことが表されているのかもしれない。私には今、実感している危機があって、それを実感する強さがあれば、創作もできると考えます。誰かの陰に隠れることなく、一歩前に出て物申す。難しい状況は私にとっては面白いことですし、困難にこそ映し出せる現実があるのではないかとも思います。私にとってダンスとは希望。ダンスは動くことで視点を変え、一歩踏み出せるのです。

そういったお考えにコロナ禍の影響はありますか。

勅使川原:この着想はコロナ前のもの。鬼はそもそも、そこにいると思っていました。鬼とは人間を超えたものの象徴で、人間の心の中にある。ただ、人間は鬼を、人間を模した者として表しがちですね。この舞台では、鬼・下人・老婆を3人それぞれが表すかもしれません。私は「羅生門」をダンスで翻訳したいわけではありません。また、この物語の前と後の時間も強烈に感じます。そこに創作のヒントがあると思うので、多人称的に創りたいと考えています。創作には明確な素材や技術が必要ではあるものの、不確かなものを明らかにしていく行為にこそ力がある。私たちの身体は不確かな命だからこそ、名づけられなかったことに向き合う力もあると思うのです。

◎Photo/Naoshi Hatori
◎Interview&Text/小島祐未子


8/11 WEDNESDAY
勅使川原三郎版
「羅生門」

チケット発売中
■会場/愛知県芸術劇場大ホール
■開演/19:00
■料金(税込)/全席指定 S席¥7,000 A席¥5,000 B席¥3,000
※U25(25歳以下対象・要証明書)は各半額
■お問合せ/愛知県芸術劇場 TEL052-971-5609
※未就学児入場不可