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「大西順子」Web 限定インタビュー
取材日:2015.08.07


人気実力ともに日本ジャズ界のトップを走り続け、シーンを牽引してきた大西順子。
2012年、突然の引退宣言で世間を驚かせたのも記憶に新しいところです。
そんな彼女が、今年の「名古屋JAZZ」に登場!
日米のトッププレイヤーが一堂に会するジャズの一大フェスで
どんな音を聴かせてくれるのか…。
ジャズファンならずとも必聴のステージは目前です。

今年も「名古屋JAZZ」には錚々たる顔ぶれが揃います。それぞれのアーティストとは、これまでにも共演なさっていると思いますが。

カリーム・リギンスは若いときから知っていますね。ジョン・パティトゥッチとはヨーロッパのジャズフェスティバルでセッションしたことがありますが、ちゃんとガッツリやるのは今回が初めて。ラリー・カールトンには、まだお会いしたことがないんです。日野さんは、私がまだニューヨークでいろんなバンドでやっていたときに知り合いまして、その頃からいろいろアシストしてくださって、頭が上がらない存在です。何年か前にプロモーション用か何かでちょっとご一緒したことはあるんですけど、ちゃんと仕事として共演するのは20年ぶりですね。


日野さんと大西さんは、師弟関係のような間柄ですか?

日野さんは偉そうにしたり、若い人に説教したりするようなところは全くありません。知り合った当時のニューヨークには、仕事としてジャズにきちんと取り組んでいる人はほとんどいなかったんですよ。そんな中で、同じフィールドをしっかり味わっている数少ない日本人同士という感覚がありました。私の方が年齢もキャリアもずっと下ですが、同じシーンの中で久しぶりに会った日本人という感覚がお互いにあって…私よりもずっと長くそのシーンで苦労されてきた方なので、ちょっと言えばすぐ通じるみたいな感覚が嬉しかった。それ以来、私にとっては頭が上がらない存在です。

深いところでつながっている感覚をお互いに持っていらっしゃる。

そうですね。アート・ブレイキーとか、ああいう本当のレジェンドと実際に演奏するという経験を運良くできたのは、私が最後の世代じゃないかと思うんです。日野さんは、もっと長く一緒にいる時間があったと思います。ジャズのレジェンドをリアルに知っているという皮膚感覚は、今の若い世代のプレイヤーにはありませんから、彼らと同じことをやろうとしていてもなんとなくズレが出てくる…日野さんとは、同じ感覚で話ができるんです。


大西さんから見た日野さんの音の魅力はどのようなものでしょうか?

日野さんはトランペッターとしても素晴らしいんですけど、実は作曲者として名曲をたくさん作っていらっしゃるんですよね。今回のライヴでそれがフィーチャーされるということで、私はとても楽しみにしています。小さい頃に流行っていた曲、よく聴いた曲を本物と一緒に自分が演奏できるというのは、それこそアート・ブレイキーの「モーニング」を本人と一緒に演奏するようなもの。すごく光栄ですね。

今回、初共演のラリー・カールトンについてはいかがですか?

やはり有名な曲があるので、それを本人と一緒にできるというのが本当に光栄です。ジャズミュージシャンはへそ曲がりなところがあって、自分のヒット曲こそなかなかステージで演奏しなかったりするんです(笑)。今回は、何十年もの封印を解いて演奏するということですから、初めて聴く方にも、昔よく聴いたという方にも、喜んでいただけると思います。

昔から聴いていたミュージシャンの曲を本人と一緒に演奏するにあたって、どんな気持ちでプレイにのぞみますか?

日野さんの場合は特に、テレビをつけると日野皓正の曲が流れているという時期が本当にありましたよね。だから、譜面を見なくても覚えているような曲もあります。今からいろいろ考えてはいますが、当日どう変わるのかも楽しみです。私のキャリアのスタートは、サイドマンとしてサポートを始めたことでした。だから、サポートをするのがすごく楽しいんですよ。リーダーを映えさせてその曲を忠実に再現するんですが、その上で特にピアニストというのは味付けがいろいろできるので、それによってどんどん変わっていったりする。相手もちゃんと聴いているわけですから、リーダーとかフロントの人たちも私のピアノをきっかけにどんどん変わっていくことがすごく楽しいんですよね。たまたまデビューしちゃったので、その後は自分のバンドばかりやっていたんですけど、本当はスタジオマンになりたかった(笑)。


今回はエスペランサ・スポルディングも登場します。若い世代ですし、彼女のほかにもロバート・グラスパーなどが活躍し、ジャズシーンに新たな流れができているように思います。そうしたシーンの状況について、思われることはありますか

ロバート・グラスパーなんかは大したものだと思います。最初、普通にピアノトリオとかで出てきたときはピンと来なかったんですけど、今はしっかりとした作品を作っていますよね。私たちが30代前半のときにも、いわゆるスタンダードだけじゃなくもっと別のものを聴いて育ってきた自分たちのジェネレーションの音楽をやろうとしていました。でも賛同するミュージシャンも少ないし、いろんな意味で中途半端に終わってしまったんです。ロバート・グラスパーは、それをきちんとひとつの形にしたなという感じ。けっこう好きで聴いていますよ。エスペランサはまだあまり聴いていないので、楽しみにしています。

大西さんは2012年に引退宣言をなさいました。その後、一昨年には小澤征爾さん率いるサイトウ・キネン・オーケストラとの共演で表舞台にも立たれましたが、今、オーディエンスの前で演奏することについて、どのような心境をお持ちですか?

引退したときは、音楽を作る上で自分があまりにエンプティだなと感じてしまっていたんです。空っぽになってしまって。何かしら弾けと言われたら弾けるんですけど、何を弾くかというところが未だにわからない。弾けないんです。ただ、小澤さんは「ラプソディ・イン・ブルー」というお題を出してくださった。今回も日野さんが「ちょっと一緒にやろうよ」と声をかけてくださって、しかも日野さんの当時のあの曲というお題もあります。それに応えたいという音楽的欲求はあるから、こうやってまた出てきちゃっているんですけど…。今、菊地成孔さんからも声をかけていただいているんですね。「自分にいろいろアイデアがあるから、こういうことをやって欲しい」と。そういうありがたいオファーをいただくと、ぜひやってみたいなと思うんです。もしかしたら、こういうことを続けているうちに本当に自分から発信できる何かが出てくるかもしれないし、出てこないかもしれない。そこはわからないですね。これまで、あまりに長く自分の楽曲をやり過ぎたから…。

アーティストとして非常にレベルの高いところでご自身の音楽やジャズという音楽について考えていらっしゃる…。

言い当てようとすると、自己表現とかオリジナリティとか…そんな言葉になってしまいますし、そんなの当たり前じゃないという話なんですけどね。やればやるほど「これ、前にもあったじゃん」という感じを覚えてしまう。ジャズは1920年代から1970年代初頭ぐらいまでにアメリカで出来上がった音楽なので、ちょっと太刀打ち出来ないんですよね。どの方向を見ても、すでに全部ありますからね。あまりに分厚い壁なんです。そこに対してどれだけ妥協…というか「ま、いいか」と思えるようになるのか、もっと反抗するのかはわかりません。ただ、やっぱりピアノを弾くことは好きだし、こういう面白い題目を提供されると喜んでやりたいと思うので、それを繰り返しているうちにうやむやになって、またやるんじゃないかな。

引退宣言の前には、名古屋のジャズクラブ「jazz inn LOVELY」でもライヴをなさいました。名古屋のジャズファンの印象や思い出をお聞かせください。

まだデビューして間もない頃、ラブリーに7日間連続で出演したんですよ。しかも7日間、私以外のメンバーが毎日違う。毎日午後3時からリハーサルをして夜中の3時ぐらいまでああだこうだ言ってやった覚えがありますね。疲れました(笑)。当時はやりたいことだらけだったから、それを全部やって。毎晩、青臭い音楽を聴かされるお店の人たちも大変だったと思いますよ(笑)。だから、名古屋にはすごく愛着があります。いつも慌ただしくて、ゆっくり街を歩いたりはできないんですけど、アメリカから帰ってきて味噌煮込みうどんを初めて食べたときは感動しましたね。東京に帰って赤味噌を買って作ってみたんだけど、全然違うんですよ。




9/10 THURSDAY
名古屋JAZZ
チケット発売中
◎出演/日野皓正&ラリー・カールトンSUPER BAND
featuring 大西順子、ジョン・パティトゥッチ、カリーム・リギンス
エスペランサ・スポルディング Presents Emily's D+Evolution
■会場/愛知県芸術劇場大ホール
■開演/19:00
■料金/S¥11,000 A¥9,000 B¥7,000 学生¥3,000 
■お問合せ/中京テレビ事業 TEL.052-957-3333(平日10:00~17:00)
※未就学児入場不可