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シンガーとしてだけでなく、ファッションやヘルス&ビューティーのプロデュース、エッセイストとしても活動する野宮真貴。それら多岐にわたる活動のなかでも、“渋谷系”アーティストの代表格として主に90年代にポピュラリティあふれる活動を展開した、ピチカート・ファイヴの3代目ボーカリストとしてご記憶の方も多いのではないだろうか。ここ数年は“渋谷系”をテーマに歌い続けてきた彼女だが、それらを総括したベストアルバムを発売。そしてツアーも決定している。シンガーとしての使命を見つけたかのような印象もある彼女に、近年の活動、そしてツアーについて聞いた。

今回のアルバムは、これまでの渋谷系シリーズのベスト盤です。取り組み始めて5年になりましたが、どんな実感でしょうか?

90年代に渋谷系って言われた私が、5年前にあえて自分で渋谷系を歌うって宣言しちゃったわけです。初めて渋谷系に触れる方もいらっしゃるかもしれないし、ずっと好きだった人たちが懐かしく聞くのかもしれない。渋谷系の良さを再認識したことでやろうと思ったので、シンガーとして歌い継いでいくことで本当にいい曲を伝えていきたいなって、そういう思いでやってきました。

当時は自分から渋谷系と言っていたわけではなかったと思いますが。明言して歌う今は全く違う心境なのではないですか?

当時は「渋谷系って言われてるらしいよ」というぐらいの認識で、本人たちは特に意識してなかったんですけど。渋谷系のカテゴライズのなかに入ってるアーティストの中には、渋谷系と言われることを否定する人もいましたよね。ピチカート・ファイヴは否定も肯定もしていないという感じでしたね(笑)。私が、また新たに渋谷系を歌うと宣言した理由のひとつは、デビュー30周年のときにセルフカバーのアルバム『30〜The Greatest Self Covers & More!!!』 を出しまして。そのときにデビュー当時の曲も収録したんですけど、やはりピチカート・ファイヴの10年間が1番たくさんの曲を歌ってきので、必然的にピチカートの楽曲が多くなりました。そのセルフカバーのアルバムでは、様々なアーティストの方にアレンジ、プロデュースしてもらいましたが、久しぶりにピチカートの曲を新たなアレンジで歌ってみたら、逆に曲の良さがはっきりとわかったというか。本当に良い曲が多かったなぁと再認識しました。プロデューサーは高橋幸宏さんやコーネリアス、若手だとヒャダインやMIYAVIなど。楽しいレコーディングでした。
私はシンガーとして歌うべき良い楽曲というのを常に探してるわけなんですけど、名曲揃いの渋谷系をスタンダード・ナンバーとして歌い継いでいくのが私の使命だと思ったんです。
同時期にもうひとつきっかけがあって、ファッションデザイナーのケイタ マルヤマさんから、その年のコレクション・テーマの小沢健二くんの「僕らが旅に出る理由」を歌ってほしいとオファーされて。ショートムービーを制作してコレクションを発表という新しい試みで、私も歌姫役で出演もしています。この時にリアレンジして歌って、小沢くんの楽曲の良さにあらためて気づかされました。
さらに同じ頃、渋谷系のアーティストが大リスペクトする作曲家のバート・バカラックが来日して、コンサートを観にいって感動して、バート・バカラックのカバーアルバムも作ってみたいと思ったり。
渋谷系のアーティストの多くは、バート・バカラックやロジャー・ニコルス、ミッシェル・ル・グラン、ゲンズブールなど、60年代や70年代の音楽家を愛し、リスペクトの気持ちを込めて再構築して自分たちの音楽を作っていたと思うんですね。なので私は、90年代の渋谷系のヒット曲も歌うけれど、そのルーツも全部渋谷系という風に解釈してカバーをして、スタンダードナンバーとして歌い継いでいこうと考えました。渋谷系の名曲は掘り起こすとまだまだ無尽蔵にあるわけで、この先もずっと歌っていけるわけです。そんなことからはじまって5年たって、今まで出したアルバムから究極の選曲をしてベストアルバムというかたちにしました。
「渋谷系って何ですか?」という質問をすごくされるので、今までカバーしてきた曲の中でもより渋谷系としてわかりやすい楽曲を選んでいるので、このアルバムを聴けば“渋谷系”がわかります(笑)

ちなみに渋谷系を歌っていこうプロジェクトは、これだけ長くやる予定だったのですか?

長くやる予定でした、ライフワークとしてずっと続けていこうと思っています。

シンガーだからできたことですよね。それこそジャズシンガーのようなスタンスですよね。

そうなんです。スタンダードナンバーと言われる楽曲というのは、オリジナルは誰が歌っているのかわからなくなってしまうぐらい、いろんな歌手が歌い継いで残っていくもの。渋谷系の名曲の数々もそういう風に残っていったら嬉しいですね。

渋谷系は比較的定義が曖昧だけに、選曲の自由度は逆に高くなりましたよね。

そうですね。意外な曲もじっくり調べてみると渋谷系に繋がっていたりしますからね。

あとこれはいろんな方に聞かれてると思いますが、今回はピチカート・ファイヴを解散して以来、久々にメンバーの小西康陽さんとご一緒にレコーディングされていますね。

そう!これは今回の1番ニュースかもしれないです。ピチカート・ファイヴが解散して以来、初めてのレコーディングでしたから。今までは“渋谷系を歌う”シリーズのなかで、バート・バカラックの「世界は愛を求めてる」や、「男と女」の日本語詞を書いてもらったり、そういう形での共演はあったんですけど、一緒にレコーディングというのは解散後初めてでした。一緒にスタジオに入るのも17年ぶり。そして、マニュピレーターやエンジニアも当時一緒にお仕事していた方達だったので、なんだか時間を超えて昔に戻ったような感覚もありましたよ。

曲についてはどんな話をしましたか?

「東京は夜の七時」は93年リリースの作品なんですが、今年で25周年ということもあって、オリジナル作詞作曲家である小西康陽さんにリミックスをお願いしたんです。そうしたら、もっといいアイディアがあるって言われて。最近、彼が気に入ってる少林兄弟というバンドと私のコラボレーションをしてみたいと。小西さんはその少林兄弟のライブではいつもDJをやっているんですけど、なかなか面白いロックバンドなんですね。小西さんがすごく気に入っていて、『ぼくが21世紀になって最初に好きになったバンドです。』なんて彼らのCDの帯にコメントを書いているくらいですから。
アレンジは小西さんですけど、少林兄弟の演奏も素晴らしくて、ご機嫌な「東京は夜の七時」のロカビリー・バージョンが出来上がりました!


かなり攻めたアレンジだなと、何も知らずに聴いた最初は思いました(笑)。

ですよね(笑)。小西さんはいろんな方のプロデュースをしたり作曲したりしてますが、それと同時にDJとしても活躍しているので、「東京は夜の七時」の7インチのアナログ・シングルがほしいわけです(笑)。DJでかけたら盛り上がるというのも計算済みのアレンジですよね。オリジナルは6分ぐらいある楽曲なんですけど、DJ仕様で3分代にもこだわっていたし(笑)。アナログはA面があればB面もあるわけですから、「東京は夜の七時」をお願いしたら、B面も新録でいこうということになりまして。ロカビリーでやるんだったら、「ハッピー・サッド」もできるなって言い出して(笑)。瓢箪から駒じゃないけど、そんなわけで2曲新録になりました。


そろそろライブの話と思いますが、今回は3カ所を回るわけですが、当然、渋谷系リアルタイムの頃とはだいぶ雰囲気は違いますよね。

そうですね、当時聞いてくれていた方々から、今は若い20代の方も来てくださるし、年齢層は広がりましたね。ライブ後のサイン会で、ファンの方と言葉を交わすのですが、「両親が渋谷系がが好きで子どもの頃から聴いてました」とか、実際に親子で来てくれたり、すごく嬉しいです。渋谷系のルーツとしてトワ・エ・モワやユーミン、フランシス・レイの「男と女」など、60年代70年代の楽曲も歌うので、渋谷系を知らなくても様々な世代に楽しんでいただけると思います。

楽曲の解説なんかもされるんですか?

楽曲の解説文を各テーブルに置いていたこともあります。なぜこの曲が渋谷系なのかが、それを読むとわかるんです。開場してから開演までの時間に目を通すと、より深く曲が理解できます。でもセットリストも書いてあるので、本番をサプライズで楽しみたい方はあえて見ないで、家に帰ってからじっくり読んだり、それはそれぞれの楽しみ方。でも解説は渋谷系の研究みたいで結構面白いと思います。

いろんな音楽をたどっていける広がりも渋谷系の面白さですよね。ネタバレになったらどうしよう、という葛藤はありませんでしたか?

ネタバレは全然OKなんですよ。逆にネタを積極的にお伝えしたいというか(笑)。渋谷系のアーティストは、過去の隠れた名盤を発掘しても、いいものはみんなと分かち合いたいと思うから、ひとりじめできないんです。だから当時は過去の名盤がたくさん再発されましたよね。それにも、渋谷系のアーティストが一役買っていると思いますね。

今回のライブに関してはベスト盤からの選曲になりますか?

そうですね、ベスト盤を中心に組み立てようと思っています。でも、ライヴならではのちょっと面白いコーナーも考えています。まだお楽しみです(笑)。

今回のアルバムはライブ盤も入っているので、まだライブを見たことがない人も雰囲気はなんとなく伝わりますね。

ディスク2は、今年2月のバレンタインライブの模様がMCごと丸ごと入っています。バレンタインライブなので、渋谷系のラヴソングを中心に選曲しています。あとはバレンタインデーにちなんで、チョコレートのCMソングと、会場が横浜だったので横浜のご当地CMを歌ってみたり。そしてゲストも豪華で、クレイジー・ケン・バンドの横山剣さんが1日目出てくれて、2日目は高野寛くんが出てくれて、一緒にデュエットをして盛り上がりました。ライブの臨場感が伝わってくるので、ライブに来てくれた方はもちろん、まだ観たことがない方にも楽しんで頂けると思います。

5年間渋谷系をテーマに歌ってきたわけですが、ご自身で渋谷系っていうものに対してのイメージは変化ありましたか?

90年代当時は、渋谷系=おしゃれとかカッコいいというイメージだったと思うんですけど、この5年間、渋谷系とそのルーツを探っていくうちに、初めて出会う曲もたくさんありましたし、新しい発見もあって、渋谷系の奥深さをあらためて感じています。今では、「渋谷系を歌う」とは、「世界の名曲を歌う」と自負しています。歌ってみたいと思う隠れた名曲もまだまだあるので、『渋谷系スタンダード計画』はこれからも続いていきそうです。

取材・文:阿部慎一郎


11/2 FRIDAY
野宮真貴「野宮真貴、渋谷系を歌う -2018-」
ご予約受付中
■会場/名古屋ブルーノート
■開演/[1st]18:30 [2nd]21:15
■ミュージックチャージ(税込)/¥8,500
■お問い合せ/名古屋ブルーノートTEL.052-961-6311(平日11:00~20:00)

◎最新アルバム 10/31WED ON SALE
「野宮真貴 渋谷系ソングブック」
¥3,500(tax in)UICZ-4432/3
元祖渋谷系の女王、野宮真貴による
“野宮真貴、渋谷系 を歌う。”シリーズから
究極ベスト盤が新録&ニュー・ミックスで登場!

 

◎7インチ・アナログ盤 11/3SAT ON SALE “2018年「レコードの日」アイテム”
小西康陽編曲/プロデュース(両面共)
「東京は夜の七時 c/wハッピー・サッド」

野宮真貴と小林少年
¥2,160(tax in)UPKY-9017

 

◎電子書籍
「おしゃれかるた」
野宮真貴
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