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宮崎県都城市を拠点に30年近くにわたり活動している、劇団こふく劇場。2015年の初演時に大絶賛された作品「ただいま」をたずさえ、三重県文化会館に登場します。待望の再演を前に、主宰で劇作家・演出家の永山智行が、自身の死生観や作風について、作品づくりへのこだわりぶり、演劇ファンへの思いなど、たっぷり語ってくれました。

劇団こふく劇場は結成以来、都城市を拠点にしていますが、永山さんは東京で演劇活動をなさっていたこともあるんですね。

1986年に大学進学と同時に上京しました。当時は、いろんな芝居を観ましたね。鴻上尚史さんの第三舞台、野田秀樹さんの夢の遊眠社が小劇場ブームを巻き起こしていましたし、アングラ系の劇団も元気でしたから。ただ私はひねくれてて、そのブームに乗るのが嫌だなと思う部分もあって。だから、井上ひさしさんのこまつ座とか佐藤B作さんの東京ヴォードビルショー、善人会議(のちの扉座)、など、オーソドックスな芝居を作っている劇団の芝居に、より惹かれていきました。ちょうどバブルが始まって、みんながちょっと浮かれている時代でしたから逆に…。


永山さんは大学の演劇部で活動していらしたのですか?

通っていた東京学芸大学には、演劇部以外にも自主的に公演を打つグループがたくさんあって、そっちで活動していました。学生がグループに分かれて芝居を作る「演劇鑑賞」という授業を通して、学科を超えて仲間になったりするんですよ。で、授業が終わっても「じゃあ、またやろうぜ」みたいな打ち上げのノリで、自主的に芝居を上演するのがすごく盛んでした。みんなが集まって「今度これやろう」とか「テントを立てて芝居をやろうぜ」とか…。そういうグループを渡り歩いていた感じです。そんな形で、4年間ずっといろんな作品に役者で出たり、演出をしたりしていました。

劇作もその頃始められたのですか?

夏休みとかになると、みんな実家に帰っていなくなっちゃって暇なんですよ。それで何か書いてみようかなと思って書き始めました。でも、それは大学で上演したことはないです。というか、誰にも見せたことがない(笑)。自分で書いたものを上演するようになったのは劇団を作ってからですね。

大学卒業後、すぐ地元の都城に戻られて、劇団こふく劇場を立ち上げられたのですか?

4年生になってもずっと芝居ばっかりで就職活動もしていなかったので、卒業と同時に無職になっちゃったんです。親は怒りますよね、大学まで出したのに就職もしないんだから。「とにかく一度帰ってこい」と言われて、帰りたくないなと思いつつ、鈍行列車で旅をしながら10日ぐらいかけて帰りました。各地で途中下車して、公園や市民球場のベンチで寝たりしながら(笑)。で、都城に帰ってみると、芝居を観る機会が全然ないんですよ。東京にはそういう環境がいくらでもあるのに、こっちには芝居のしの字もない。それは大学の時にも、行ったり来たりしながらずっと考えていました。じゃあ、一回やってみようと思って、高校時代の演劇部の先輩や後輩に声をかけて芝居を始めました。最初は続けるつもりは全くなかったんですよ。隙を見てまた東京に行こうと思っていたので。ただ、公演を打つために劇団名も必要だったので劇団という形にして、メンバーを集めて、上演する…ということを始めて、結果的に28年ぐらい続いちゃったという感じです。

立ち上げ時には、劇団での作品づくりにどんなビジョンを描いていたのですか?

こんなものを作りたいとかいうことよりも、とにかく上演をすること自体が目的だったので、作品の指向性などはあまりなかったですね。もう手当たり次第というか、思いついたものをとにかくやってみようみたいな感じで。

目に見えない存在を通して人の生活や人生を見つめるような作風になっていったきっかけはあったのでしょうか。

一番大きいのは、20年ほど前に父親が亡くなったことですね。ちょうど私が30歳ぐらいで、子どもが育っていったり、自分の生活のことを考えるようになってきた頃に亡くなってしまって。それをきっかけに、自分の暮らしとか人生とか、家族とか…そんなものへの思いが作品の中に自然に入ってきたのかなと思います。親がそばにいて、水道をひねれば水が出たりとか…生まれてからそれまで当たり前だったものが、父親が亡くなったことで当たり前じゃないものだと気づいたんですね。そこから、ものの見方が変わった感じもします。死の側から生を受けるという視点は、父がくれたものですね。向こうからこっちがどう見えるかという。それは、人間が人間である証拠だと思うんです。もういないはずの死者を「いる」と言える。そういう概念を持っていることは、人間が人間であることの一番大きな理由なのかなと思います。

今回、再演される「ただいま」にも、主人公だけに見えるニーナさんという“あちら側”の登場人物がいますね。

そうです。死者の霊なのかどうか、そこは明確に設定していませんが。3年前の初演時には、三重でも津あけぼの座という小劇場で上演しました。この時、三重は熱かったんですよ。カーテンコールが3回もあったのは、全国6ヵ所、全19ステージの中で三重だけでしたね。
役者が戸惑ったぐらいですから。「え?もう一回行くの?」みたいな感じで(笑)。

観客の皆さんは、どんな感想を持ったのでしょうか?

皆さんそれぞれ、想像を膨らませたりしながらとても深く見てくださっているように感じました。単純に「よかったよ」というだけでなく「こんな風に感じた」「こう解釈した」と、お客さん一人ひとりがすごく熱く語ってくださって。今回上演させていただく三重県文化会館もそうですが、劇場が観客を育てているという空気を感じました。「ただいま」は、普通の人の普通の暮らしを描いて、その中にあるドラマを見つけるということを大事にしている作品です。誰だって、誰かの子どもとして生まれてそれぞれの家族の中で育ち、仕事をしたり学校に通ったりする中で、いろんな関係性を築いたり、その中で大事な人を失うような経験をしたりしていると思います。そうした誰にでもある出来事をできるだけ丁寧に描きました。そういう意味では、どんな立場の人にも観ていただきたいと思います。

歌もたくさん出てくるそうですね。

“歌うホームドラマ”です。音楽は、うちの作品の大事な要素のひとつ。私自身、音楽が大好きですし、メンバーの中にはシンガーソングライターもいます。だから音楽は、なるべく生演奏で入れるようにしています。音楽って、論理を飛び越えて感情をシュッと引き出してくれるんですよね。そういう音楽の力を借りています。また、もっと大きくとらえると、セリフや足音、仕草も全部音楽だと思って作品づくりをしているんです。俳優が語るテンポや音の高さも全部決めて、動きもある種のリズムの中で起こるように…そこはかなりこだわって作っています。論理を超えて、言葉にならないものまで届くといいなと思いながら。だから全体を通すとひとつの交響曲として見てもらえると思います。音楽を聴くときに意味とか考えないでしょ?そんな風に、この作品に流れるリズムやメロディに身を委ねていただければ嬉しいですね。


9/15 SATURDAY 9/16 SUNDAY
Mゲキ!!!!!セレクション
劇団こふく劇場第15回公演「ただいま」

チケット発売中

◎作・演出/ 永山智行
◎出演/ あべゆう、かみもと千春、濵砂崇浩、大迫紗佑里(以上、劇団こふく劇場)
中村 幸(劇団ヒロシ軍)
■会場/ 三重県文化会館 小ホール
■開演/ 9月15日(土)14:00 ※アフタートークあり ゲスト:本坊由華子(世界劇団)
9月16日(日)13:00
■料金(税込)/ 整理番号付自由席 一般 前売¥2,500 当日¥3,000 25歳以下¥1,000
やさい割(前売のみ)¥2,000 ペア割(前売のみ)¥4,000
■お問合せ/ 三重県文化会館 TEL.059-233-1122
※未就学児入場不可