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「村上慎太郎」Web 限定インタビュー
取材日:2016.11.11


三重県文化会館による新進劇団の支援企画「Mゲキ→ネクスト」に
京都の「夕暮れ社 弱男ユニット」が参加。東海地区に初登場を果たす。
代表の村上慎太郎は、京都造形芸術大学在学中すでに演劇ユニットを結成。
また、卒業制作で執筆した戯曲は特別奨励賞を受け、早くから脚光を浴びた。
その記念すべき作品「僕たちは、世界を変えることはできない」が
全国に先駆けて三重で世界初演を迎える。
2006年の発表後、実は未上演のまま10年が過ぎていた本作。
なぜ、いま上演することになったのか。村上に話を聞いてみた。

執筆・発表から10年経って上演が決まった経緯から聞かせてください。

この戯曲は僕の個人制作として書いたもので、大きい劇場でやりたいという希望がありました。それで当初から、10年後をメドにやろうと考えていたんです。そうしていたら今回、Mゲキ参加団体の公募を知り、「ココだな」と思いまして。タイミングもちょうど10年ですし、選ばれて本当に良かったです。

書いた時の着想点は、どういうところにあったのでしょうか。

戦争物を書いたらいつでも上演できるという意見を耳にして、衝撃を受けたんです。戦争物には、はやりすたりがないと。執筆時の2006年は、北朝鮮からテポドンという弾道ミサイルが飛んでくると話題にもなっていた。ただ、僕自身は「明日にも戦争が起きる」と言わんばかりに煽るテレビ報道などはあまり信じていなかったんですけどね。そんなおり、京都造形大の学長が「戦争は芸術で止められる」と発言して、それに学生が反論したり奮起する事態になり、「僕だったら何ができるか?」と考え始めたんです。演劇という“時間芸術”の中で戦争を止めてみる。それを観た人は、どう反応をするだろうかと…。

それでは、冷静に、理性的に執筆したということ…?

いえいえ、衝動的なところはありましたよ。学長が言いたかったのは「理想論を持て」ということだと解釈しているんですけど、それは演劇の時間の中で通用するんじゃないかと思って書きました。

劇の内容を具体的にうかがってもいいですか。

戦争絵画を描きたい女の子が、戦地に赴きたいという衝動に駆られ、彼氏をフって本当に行ってしまう物語です。そして残された彼は、その国に行って彼女を守ることが自分にできることだと考え、軍隊へと入る展開に…。侵略されている架空の独立国家のイメージで、そこには知識人はいなくて、芸術家が淘汰されている。そんな国のバカげた戦争に対して、女の子も絵を描く意味を見失い、葛藤していくんです。

執筆当時と今、心境の変化はないのでしょうか。

2006年と同じような感覚はあるし、その前にも感じていたことだという想いもある。そして今は、その感覚が鈍ってきていることへの苛立ちがあります。今回、戯曲を大幅に書き直したりはしませんが、今までやってきたことも取り入れながら、演出のアプローチを変えていくことになると思います。

今までの作風は?

これまでの僕たちの舞台は、いわば青春群像劇なんです。ただし、観客が客席に移動することから始まったり、時には客席を破壊したり、土嚢袋を投げたり、80分間転がりながら会話劇をやったり…。内容的に普通の芝居と言えば普通の芝居なんですけど、演劇を少し違う角度から観てもらうこともおこなって、全体の様子が心象風景のように見えてくることを狙ってきました。身体への負荷とか、抵抗する身体というものに強く惹かれるんですけど、ずっと異常なことをしていると、観客も30分ぐらいで慣れてくるから面白いですよね。トリッキーなことをやっていても普通の演劇に見えたらいいなと思っていますし、その時の観客の想像力の膨らみ方が演劇の面白さじゃないかと。

今度の舞台では、弱男ユニットのこれまでとこれから、両面を観ることができそうですね。ところで、劇団名の由来って教えていただけますか。

ガガガSPの曲に「弱男」っていうのがあって、タイトルだけだと、弱々しいネガティブな曲かなあと思って聴いてみたら、凄く強い歌詞に驚かされて。題名と内容のイメージの違いがかっこいいなと思ったんです。それで僕たちも、中身で勝負したい、中身を見てもらえる劇団になりたい、中身の強さを示していきたいと考え、あやかりました。そこに会社っぽく聞こえるよう、頭に夕暮れ社と付けたんです(笑)。個人的に、昇る朝日より沈む夕陽の方がキレイだと感じるし、夕暮れの世界を真っ赤に染める美しさって一瞬で、それが演劇の一瞬にも似てるなあと。

ステキな表現ですね。村上さんたちには今後ますます注目が集まると思いますが…。

実績面で言ったら、まだまだ。だから、まだ行けると思うし、野望もありますよ。いろんなところで紹介してもらえる機会も増えましたので、注目してもらえるよう頑張っていきたいなあと思っております。

きっと期待ゆえです。三重では滞在制作もなさいますし、さらなる飛躍が望まれます。

2週間の滞在中、24時間みんなでいられる体験は初めてなので楽しみです。普段の小さい劇場との差に慣れる時間もとれるので、大きい空間でも丁寧に拾っていく演劇にしますよ。

◎Interview&Text/小島祐未子


12/17 SATURDAY・12/18 SUNDAY
夕暮れ社 弱男ユニット
「僕たちは、世界を変えることはできない」

チケット発売中
■会場/三重県文化会館小ホール
■開演/12月17日(土)18:00、12月18日(日)15:00
■料金(税込)/整理番号付自由席
一般前売¥1,500 学生前売¥1,000
一般当日¥2,000 学生当日¥1,500
■お問合せ/三重県文化会館チケットカウンター TEL059-233-1122