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『松本和将の世界音楽遺産 シリーズ第6回 フランツ・リスト編』が、全国6都市で開催される。松本が得意とするリストを取り上げたという本シリーズの幕開けとなる名古屋・しらかわホールでの公演を前に、このリサイタルに向けた思いを聞いた。

シリーズ「世界音楽遺産」について教えてください。

2016年に始めたシリーズで、今回が第6回になります。シリーズは、毎回決まった国や作曲家の音楽を取上げて演奏するというコンセプトで開催しています。今回のリストは、ハンガリー人ですが、若い頃からフランスで育ち、その後はドイツで活動し、ローマにも住んだというコスモポリタンなので、ハンガリー編ではなく、フランツ・リスト編ということにしました。

なぜリストを選ばれたのですか?

ここ1、2年くらいリストを弾いていると、今まで見えなかった世界が見えてきて、久しぶりにリストを演奏してみたいと思いました。ピアニストにとってリストは、非常に大きな存在であり、楽器の魅力を存分に引き出してくれる作曲家です。

新しく見えたリストの世界とは?

リストの音楽は、時に華々しさや勢いで弾かれてしまうと思うんです。表面的とまでは言いませんが、そこに散りばめられてるテクニック通りに弾けば、曲として成り立つよう巧く作られているからです。だから指が赴くままに弾いているピアニストの演奏が多く、自分も若い頃は、そうやって演奏していたと思います。けれど今考えると、この場面はそうではないのではないかとか、ここでゆっくり演奏するのはおかしいのではないかということが、いろいろ見えてきました。それで、もう1度楽譜を読んで構成し直したら、新しい世界が見えてきたのです。

今回のプログラムでは、具体的にどのようなところですか?

ピアノ・ソナタですね。この曲は、長い単一楽章の作品です。これまでは、色々な場面が続く短編集のような作品だと思っていたのですが、実は同じメロディーが使われていたり、違う場面になると思っていたところが、前の物語の続きだったことが新しく見えてきました。今では1つの場所の1つのシーンだけで物語が進んでいくような長編映画のように思え、最後まで1つの緊張感で演奏できるような気がしています。

「リストの感覚があまりにも分かりすぎて怖い」と仰っていますが、具体的にはどのような部分ですか?

そんな風に思ったのは、10年あるいはもう少し前のことです。リストの音楽は、どこまで掘り下げても仮面なんじゃないかという感覚がありました。ただ、どこからどこまでが仮面で、どこからが素顔なのかよくわからない。もしかしたら、全部仮面かもしれないし、全部素顔なのかもしれない。おそらくそれはリスト自身もわからなかったのではないかと思うのですが、そのようなリストの感覚が、私には凄くわかる気がしていました。リストは、あまり充実した年の取り方をしてないと思います。世間的には大成功して、彼を慕う人が山ほどいて、幸せな人生だったはずなのに、晩年は魂が抜けて絞り粕みたいになった曲がたくさんあります。なんでこんな風になったのかという事も含めて、実は仮面なんじゃないかと感じたわけです。

プログラムの中で特に思い入れがある曲は?

ソナタもそうですが、《オーベルマンの谷》です。この曲は、ホロヴィッツが1966年のカーネギー・ホールのライブで弾いている録音があるのですが、その演奏が本当に素晴らしくて、特に美しい一部分があって、ああ、こんな音出せたらなあと、そこばかりリピートして聞いていました。この曲を弾くとリストが敬虔なクリスチャンだったことがわかります。例えば、バッハ作品の受難の場面のような、神の前で懺悔をしているような趣を感じさせるのです。リストの作品は、1つの曲の中に聖と俗の部分や悪魔の誘惑のようなキャラクターが混在していて、それが見事にドラマになっている。例えばピアノ・ソナタの最後は、浄化されて天に登っていく感じですが、本当は悪魔が隠れていて、最後は悪魔が勝つ話だと思っています。《オーベルマンの谷》とは逆ですね。ただ《オーベルマンの谷》の最後で、最初の嘆きのテーマが出てくる意味は、まだわからずにいます。

最後に、名古屋公演に向けメッセージをお願いします。

実は、今回のコンサート・シリーズ開催のきっかけになったのは、名古屋公演会場のしらかわホールなんです。今年の1月にヴァイオリンの前橋汀子さんと、しらかわホールで演奏をする機会があり、その時、このホールでリサイタルをしないと一生後悔すると思って今回の公演を打ち立てました。しらかわホールは、とにかく響きがいい。どんな音も受け止めてくれるホールだと思います。ぜひいろいろな方に聞いていただいて、リストの世界、ピアノの音色、このホールの音色、そういうものをたくさん受け取っていただきたいなと思ってます。




10/10 MONDAY・HOLIDAY【チケット発売中】
松本和将の世界音楽遺産 シリーズ第6回
フランツ・リスト編 ー悪魔の調べー

■会場/三井住友海上しらかわホール
■開演/13:30
■料金(税込)/全席指定 一般¥4,500 学生¥2,500
■お問合せ/クラシック名古屋 TEL.052-678-5310