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この夏、「果てとチーク」が三重に初登場。透明化された断絶を軽妙な会話劇でポップに浮かび上がらせる升味加耀の劇作が冴える、注目の演劇ユニットです。「きみはともだち」再演を前に関連作の上映会・トークイベント参加のため三重を訪れた升味に、作家としての思い、作品の見どころを聞きました。

「果てとチーク」は2016年、留学先のベルリンで旗揚げされたそうですね。

大学3年生のときに1年間、交換留学でベルリンにいて、本当に小さなひとり芝居を上演したのが旗揚げになりました。「果てとチーク」という屋号を使ったのは、渡独直前の2015年に大学の演劇サークルで上演した「害悪」という作品が最初です。ベルリンの大学では“演劇学”学科に籍を置いていたのですが、現地の言葉のスピードについていけず、生活面でも言葉に困って引きこもりがちになってしまいました。当時、唯一の行き先は劇場や美術館。学生証があれば無料や格安で入れたので、しょっちゅう出かけていた時期もありました。

そうした環境は、後の創作活動に影響しましたか?

そうですね。日本にいると、自分がアジア人であることを意識する機会は少ないですが、ヨーロッパではそれを痛烈に感じました。言葉がうまく話せないことで大人として対等に扱ってもらえなかったり、差別的な扱いを受けたり。一方で、差別してくる人たち自身もまた、ドイツ社会の中で差別されているという複雑な入れ子構造への気づきもありました。そうした経験は、私がそれまで日本で持っていた「特権」を知るきっかけにもなりましたし、現在進行形で自分が搾取の構造の中にいること、あるいは加担していることを、知識としてではなく痛みとして理解することにつながりました。「こういう痛みを私が表現するなら演劇だよな」と思って、自分の団体を持つことを決意したんです。

今日のトークイベントで「劇作を通じて自身の怒りを自覚した」とおっしゃっていましたが、書くことで何が明確になりましたか?

「自分は怒っている」という漠然とした感覚を分解して、何に対して、なぜ怒っているのか、何が嫌だったのかが明確になりました。マイノリティである人々を構造的に抑圧し、人間扱いしないことに対しての怒りです。人種やジェンダーアイデンティティなど、本人が変えられない部分で差別し、アンフェアな扱いをすること。誰かを「存在しないもの」として扱う社会の目線に対して怒りを感じることが多いですね。


「きみはともだち」東京公演舞台写真(2026) 撮影:上野哲太郎


「果てとチーク」の作品では、そうした社会課題が日常の会話の中から自然と浮かび上がってきますね。

作品テーマを社会課題に絞り込んでいるわけではないんです。ただ、“個人的なことは政治的なこと”だと思っています。日常的な会話、例えばクラスメイトや友人同士のやり取りの中から、「これって、なぜ最近こうなっているんだろう?」という違和感が社会的な問題へとつながっていく。そんな提示ができればと考えています。演劇は、生身の人間が同じ空間と時間を共有する、非常にプリミティブでパワーのある媒体です。映像とは違い、観客は「どこを見るか」「どの言葉を聴くか」を自分で選択することになります。そして、その選択には観客自身の背景が反映されることもある。それも含めて、演劇はコミュニケーションのアートです。観劇中、ちょっと思考が外に向くこともあるじゃないですか。100%ずっと集中していなくても、何か引っかかったセリフについて考える瞬間があっても全然いい。そうやって自分の感覚とか生活につなげてもらえたらいいなと思っています。

この夏、再演する「きみはともだち」は、2023年に初演された「はやくぜんぶおわってしまえ」の後日譚ともいえる作品。前作ではジェンダーや性自認への向き合い方による「断絶」を、今作ではそれを越えて再び「つながろう」とする友人同士の葛藤を描いています。二作の間に、どんな意識の変化があったのでしょうか。

「はやくぜんぶおわってしまえ」の上演後、共感したという感想が多く寄せられたことが気になっていました。共感で連帯できることもありますが、私が本当に描きたかったのは「わかり合えないよね。だけど、どうする?」ということだったからです。そこで「きみはともだち」では、「わかる、わかる」じゃわからない、断絶の先を描こうと考えました。トランスヘイトなどが激化し、自分が自分であることを人に伝えることの怖さを、より感じるようになった時期でもあったので。「対岸にいるあなた」に対して、私たちがこの社会で普通に生きていくためには一緒に考えるしかないんだ、ということを知ってほしいという思いで書いた作品です。

登場人物の変容も印象的です。ノンバイナリーである野澤の理解者だった友人・園は、高校生の頃と異なる一面を見せますね。

高校時代の園は正義感の塊で、抑圧する側に直情的に物申すことができました。しかし、その後の10年で社会に揉まれ、たくさん悔しい思いをしたり、流されたりしてきたと思うんです。自分が生きるのに精一杯で、かつてのようには他者のことを考えられなくなるのは、よく理解できます。そうした変容も、今の社会を生きる実感として描く必要があると考えました。


「きみはともだち」東京公演舞台写真(2026) 撮影:上野哲太郎


7月の三重公演は、「果てとチーク」初の地方での上演です。

普段の上演とは異なる層の方々にリーチできる貴重な機会だと感じています。クィアの人々を「遠くの誰か」ではなく「隣にいるかもしれない存在」として、自分の生活に引き寄せて考えてもらえたら嬉しいです。初演時には「東京だから通じる作品だ」というご感想もありましたが、私はそうではないと思っています。三重の皆さんからどのようなフィードバックをいただけるか、とても楽しみです。

エンターテインメントとしての見どころを教えてください。

シリアスにとらえず、ワンシチュエーションのコメディだと思って気楽に観ていただきたいです。私はずっと、テンポのいいポップで笑える会話劇を作っているつもりなんです。観客に集中し続けてもらうには、エンターテインメントとしての面白さが不可欠ですから。気負わずに劇場に来て、まずは楽しんでいただければ。そして、笑ったり泣いたりしている間にふと何かに気付いたり、劇場の外に出た後も考え続けてもらえるような、そんな体験を届けたいと思っています。

◎Interview & Text /稲葉敦子



7/11 SATURDAY 7/12 SUNDAY
Mゲキセレクション 果てとチーク「きみはともだち」
チケット発売中
◎作・演出/升味加耀
◎出演/川村瑞樹、升味加耀、松森モヘー(中野坂上デーモンズ)、横手慎太郎(シンクロ少女)
■会場/三重県文化会館 小ホール
■開演/7月11日(土)14:00(アフタートークあり)、
    7月12日(日)13:00(アフターイベントあり※詳細は公演WEBをご覧ください)
■料金(税込)/整理番号付き自由席 一般 ¥3,500 22歳以下 ¥2,000
■お問合せ/三重県文化会館チケットカウンター TEL. 059-233-1122
※未就学児入場不可