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ジャンルを超えた作品づくりで芸術の可能性を探り続ける、野村萬斎。近年は、能・狂言、日本舞踊、フラメンコの融合でバレエ音楽に挑んでいます。昨年12月におこなわれた堺市での再演も記憶に新しい中、今年は全国ツアーを実施。大千秋楽の名古屋公演では、どんな新しい表現に遭遇できるでしょうか。
今年は「恋は魔術師」の作曲家、マヌエル・デ・ファリャ生誕150周年ですね。
ファリャという作曲家は非常に魅力的です。生まれ育ったアンダルシアという土地は中東やアフリカなどのさまざまな文化が融合した場所であるらしく、彼の音楽性も非常に多様で、面白い響きがたくさんあります。それを、雑食性の強い民族である我々日本人の手で、能・狂言から日本舞踊、そしてフラメンコを混ぜ合わせることで唯一無二の表現として立ち上げようというのが、この企画です。「恋は魔術師」はバレエ音楽ですが、実はバレエとして上演される機会は意外と少ない。2024年の初演を経て、昨年12月の堺市での再演はフラメンコの要素を取り入れました。今回は、そこからさらに同調性を高め、練り上げたいと考えています。
舞う際に、邦楽との違いに戸惑われたことなどはありますか?
カウントとの向き合い方ですね。能・狂言は、音の中でたゆたうように演じます。1から4という拍の間に、決まった動作が終わっていればいいという感覚です。しかし、ファリャの音楽は変拍子が多く、非常に複雑です。単に音に身を任せるだけでは、字余りや字足らずのようなズレが生じてしまう。そこで、フラメンコの工藤朋子さんや、歌舞伎舞踊とフラメンコの融合を実践されている中村壱太郎さんの知恵を借りました。指先の表現ひとつから、スペインの人はこのリズムをどう捉えるのかを肉体的なアプローチで学ぶことで、私たちも拍の取り方を整理できたんですね。そうやって緒をうまく見つけながら表現を磨いていけるという点でも、コラボの意味は大きいと思います。非常にいい勉強をさせていただいています。
萬斎さんとクラシック音楽の融合というと「ボレロ」の印象も強いです。
「ボレロ」は、日本の古い音楽のように同じ旋律を繰り返して、どちらかというと縦ノリなんですね。縦ノリは気持ちいいでしょ?「ボレロ」という作品は、芸能の根本である「気持ちよさ」に回帰していたものなのではないかと思います。モーリス・ベジャール振付の「ボレロ」も、ダンサーが踊る赤いテーブルの脚をよく見ると鳥居の形になっていたり、バレエでは普通あり得ないような下に圧を与えるポンピングなど、日本の、それも「三番叟」の影響を受けていると感じます。それなら、こちらも「三番叟」で「ボレロ」をやってみようと。ただ、今やお互い数百年を超えて普遍的な世界観を描いているという共通点もありますし、クラシック音楽と日本の古典芸能が近くなっているという仮説も立てられるかもしれません。
能・狂言、日本舞踊、フラメンコのコラボレーションでめざすのは、どんなことでしょうか?
コラボレーションにおいて最も避けたいのは、お互いが安全な場所に留まることです。既存の型を異なるジャンルの音楽に合わせるだけで終わってしまったり…。それは一種の「逃げ」でもあると思います。ですから私たちは「新しい型」を生み出すことにこだわりました。例えば、フラメンコの動きをそのままコピーするのではなく、一度自分の出自である能・狂言や日本舞踊の中に落とし込む。そうすることで、見たことのない新しい振り付けでありながら、身体表現として無理がなく、作品として整ったものに仕上げられたのではないでしょうか。
3つのジャンルが融合した全く新しい型の舞踊・音楽劇に、私たちは遭遇するわけですね。
そう思っていただきたいですね。世阿弥の言葉「秘すれば花」には、既視感のあるものではなく「見たことがないものこそが花」という精神が込められていると思います。 クラシック音楽の重厚な土台の上で、新しい調和が生まれる瞬間をぜひ目撃していただきたい。
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との相性はいかがですか?
OEKとはもう5年ほどの付き合いになります。最初は、私たちが足拍子を踏むだけで、みんなびっくりしていました(笑)。こちらも匙加減がわからず、いきなり「バン!」と踏んでいたので。でも回を重ねるごとに、音楽の邪魔をせず盛り上げる一番いい踏み方がわかってきたし、オーケストラの皆さんもそれを受けて演奏してくださるので、いい関係だと思います。彼らは単なる演奏者ではなく、能・狂言での「囃子方」に近い存在です。オーケストラピットに押し込めるのではなく、舞台上で対等な関係として存在し、互いに気をひとつにして作品を囃し立てるというか…。この関係性が徐々に結実し、今回はさらにバージョンアップしたものになっていると思いますよ。
萬斎さんがクロスオーバーな作品づくりに挑み続けるのは、なぜですか?
日本の古典芸能やクラシック音楽には、いろいろな知恵が集積されています。大上段な言い方になりますが、一種の人類の叡智です。それをお互いが共有することで、新たなもの、面白いものを作っていければ、ジャンルを超えてお客さまの文化的意識も高まるはずです。いくら歴史や伝統があるといっても、面白くなければ観ていただけませんから。クロスオーバーは、他ジャンルのお客さまにも認めてもらうための力試しでもあります。何より今は、クロスしないと情報網にかからないという現実もありますよね。スマホを開けば自分の好きな情報しか流れてきませんから。一度検索すると、そのジャンルの情報が次々に上がってきますが、能・狂言にアクセスしない人にはいつまでも届きません。だからクロスオーバーさせることで、知ってもらうチャンスを増やしたい。「萬斎を見に来た」でも「歌舞伎が好き」「フラメンコが好き」でも、何でもいいんです。
名古屋公演が、ツアーの締めくくりです。
今回のツアーの最高の極みを、最終地である名古屋でお見せしたいですね。これをステップとして、次の公演や、いずれは海外公演にもつなげていきたいと考えています。プレトークでは、マエストロの松井慶太さんと、音楽的・演劇的な見地から作品を解き明かします。プログラムのひとつ、ラインベルガーの「オルガン協奏曲第2番」では、愛知県芸術劇場コンサートホールのパイプオルガンも堪能できますし、シューマンの「蝶々」と日本舞踊のコラボもあります。一度にいろんなものが観られる公演です。これを機に、今までバレエに興味を持っていた人が能・狂言を観ようかとか、日本舞踊も面白い、というようにクロスしてくると、やっぱり意味があるのではないかと思います。
◎Interview & Text /稲葉敦子
3/24 TUESDAY
野村萬斎 with オーケストラ・アンサンブル金沢
ファリャ「恋は魔術師」
【プログラム】
ラインベルガー:オルガン協奏曲第2番、シューマン:蝶々(オーケストラ版・舞…日本舞踊)、ファリャ:バレエ音楽「恋は魔術師」
◎演出・出演/野村萬斎
◎指揮/松井慶太
◎振付/中村壱太郎、花柳源九郎
◎出演/花柳ツル、工藤朋子(舞踊)、鈴木悠希(メゾソプラノ)、大木麻理(オルガン)ほか
チケット発売中
■会場/愛知県芸術劇場コンサートホール
■開演/19:00
■料金(税込)/全席指定 S ¥7,000 A ¥6,000 B ¥4,000
■お問合せ/石川県音楽文化振興事業団 TEL. 076-232-0171
※未就学児入場不可











