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「マキノノゾミ」Web 限定インタビュー
取材日:2016.08.08


スタッフとキャストが可児市に滞在して制作。
近代古典を現代に蘇らせるala Collectionシリーズの第9弾は、
谷崎潤一郎「お国と五平」と小山内薫「息子」の二本立て。
ala Collectionシリーズの演出に携わるのは今回二度目となるマキノノゾミに、
この二つの傑作戯曲について、今回の制作について伺いました。

マキノさんの演劇作品の特徴として、人生の機微を丁寧に描くということあると思いますが。

人情劇ですね。僕は割と前衛とか不条理とかが苦手で(笑)。もともと大学で演劇を始めた頃がつかこうへいさんの全盛期で、70年代の終わりから82年に解散するまで、最もつかさんの人気が高かった頃の影響を多く受けていますね。だから、新しいものに対する特別な執着はなく、むしろ古いものでも良いものは積極的に手がけてみたい。今回の作品もこんな機会でもないと巡り合わないでしょうから、貴重なチャンスだと思います。


今回は「お国と五平」・「息子」という2本立て。しかも同じ役者が主演する2つの芝居を観るということですが、その部分の難しさは何かありますか?

特に心配はしていません。むしろお芝居の妙、醍醐味を味わってもらえるんじゃないでしょうか?「お国と五平」・「息子」と、どちらを先に上演するかはまだ決めていないんですが、観るお客様が一つ目の役の印象に引っ張られるということもないと思います。二つの役のイメージがかけ離れていますし、佐藤B作さんの演技のアプローチも全く違いますから。もちろん顔は変えられませんけど(笑)。同じ役者なのに似ても似つかない2つの役を味わう、これは楽しいですよ。あとは、ダブルヴィル(2本立て)のお芝居というのは、短編なればこそ出来るんですよ。そしてどちらも全く違う味わいの作品であること。決して軽くないストーリーですが、特に「お国と五平」には思わず笑ってしまうような場面もありますし、あまり構えずに軽い心持ちで観てもらっていいと思います。


今回注目したいのは、その主演の佐藤B作さんです。俳優としての魅力をどう感じられますか?

僕は学生の頃から、B作さんが主宰する東京ボードヴィルショーを観ていました。その頃から大好きでしたね。なんであんなくだらないことを思いつくんだろう!って感心していました。でもB作さんご自身にも、そこに至る経緯があったようです。若い頃に当時有名な劇団に裏方で在籍されていたことがあって、ある時佐藤さんの故郷である福島で公演があり友人や親戚がチケットを買って観に来てくれたらしいんですね。でも内容があまりにもシリアスで難しくて、最後には「明日は革命だっ!」なんてスライドが出て終わるお芝居だったんですって。それで観に来てくれた人たちもチンプンカンプンな感じで唖然としてしまったらしく、B作さんも悪いことしたなってその時思ったらしいんです。そんなことから、観に来てくれた方には楽しんで帰っていただかなきゃと思われて、東京ボードヴィルショーを立ち上げられたそうなんです。だからB作さんの根本には、お客さんにはとことん楽しんでもらいたいというお気持ちがあるんです。それはギャグをやるということではなく、見物そのものを楽しんでもらうということなんだと思います。B作さんはエンターテイナーなんですよ。今回の役は笑える役でもないわけですが、お客さんには芝居を楽しんで帰ってもらいたいというサービス精神を全力で発揮されると思います。


「お国と五平」について。谷崎潤一郎の作品とのご縁は今までにありますか?

全く初めてなんですよ。やろうと思ったこともなかったです(笑)。今回の「お国と五平」は、非常にエロティックな芝居なんです。でもそれが直接的に描かれているのではなく、秘めたエロティシズムというべきものかもしれません。死とエロスというのは隣り合わせだと思うんですが、今回の芝居の核心はそこにあると言ってもいいです。B作さんの演じる池田友之丞は非常に女々しい人間なんですが、結果的に恋をしたまま死んでいくんですよ。それに対してお国と五平の二人は、冒頭から主従関係という制約がありながら恋を進めていく。制約がある秘めた恋は、また燃えるんでしょう。しかし友之丞が死に際に放つ言葉によって、五平の恋は冷めてしまう。二人の間には愛情や労りの気持ちは残るかもしれないですが、二度と恋愛感情は芽生えない。本当に面白い話だなあと思いますよ。友之丞は現代でいうとストーカーなんです。でも恋愛というのは少なからずそういった要素を含んでいるわけで、ある意味防ぎようがないことでもある。そういった意味では現代にも十分起こり得る、非常に普遍的な物語です。ですからこの舞台を観て、皆さんの中にある友之丞を解消してもらって、また健全な日常生活を送って頂ければいいんじゃないでしょうか(笑)。恋というのはそもそも感情的におかしな状態であり、皆さん誰もがそういう状態になりうる訳です。そしてその状態はとても充実感のある時間な訳です。そういった感情を発散したり治めたりするのが、演劇であり文学の役割でもあるんです。でもそう考えると友之丞は満たされたまま死んでいったとも言えますね。


「息子」について。大阪に行った息子が落ちぶれて帰ってくる、父と子の再会の物語です。

原案はイギリスのハロルド・チャピンの「父を訪ねて」という戯曲で、それを小山内薫さんが設定を江戸時代に置き換えたものです。チャピンの戯曲では、明らかに父子は再会する時はお互いが親子だということに気づかないと読みとれるんです。そして途中からお互いが親子だと気づいてくるような流れなんです。でも小山内さんの翻案したものというのは、父子はどう考えても再会した当初から気づいているように僕には読めるんです。そもそも9年振りくらいなら、いくら会っていないとはいえ親子なら気付くだろうと。だから小山内さんは意図的にそのように表現したのではないかと思うんです。演出家としては「この二入は気づいている」という状況をどう表現するか、ここが難しいところだと思います。また演じる方も難しい。「気づいている」と頭に焼き付けた上で演じていくと、腹を決めなきゃいけないですし。でもお客さんは、あまりそんなことを知らなくていいわけで。物語を知らずに観に来て頂いて、途中から「この二人は親子なんだな」って思ってもらえればいいんです。非常に味わい深いショートショートです。


マキノさんはala Collectionシリーズでの演出は「高き彼物」以来、2回目となります。可児市に滞在しても制作活動はいかがですか?

大変充実した時間を過ごしています。やはり東京で制作をするとなると自宅から通うわけですし、日常の雑事も色々とあるわけです。そういったしがらみや時間的ロスから解放されるということは、何かを作る人間にとって絶好のシチュエーションだと思うんです。少なくとも私はそう思いました。時間が細切れになって集中が切れるということがないですし、精神衛生上もいいことだと思います。ただ、いろんなことを断ち切って来る必要もありますし、家族からは非難轟々というか(笑)。何言ってんだ仕事なんだからっ、てことで済ませますが。とにかく楽しく芝居を作っていますから、観にいらっしゃる方も期待して頂いていいと思いますよ。




9/3 SATURDAY 〜 8 THURSDAY
ala Collection シリーズvol.9
日本近代古典傑作選
「お国と五平」「息子」

チケット発売中
■会場/可児市文化創造センターala 小劇場
■開演/9月3日(土)、4日(日)14:00[アフタートークあり]
9月5日(月)18:00[アフタートークあり]
9月7日(水)、8日(木)14:00 
■料金(税込)/全席指定 ¥4,000 18才以下¥2,000 
■お問合せ/可児市文化創造センター インフォメーション TEL.0574-60-3050
※未就学児入場不可