HOME > Web 限定インタビュー > 「鼓童 見留知弘」インタビュー

新潟県佐渡を拠点に、国際的に活躍する太鼓芸能集団・鼓童。世界50ヶ国以上での公演、坂東玉三郎を芸術監督に迎えて取り組んだ新たなクリエイション、石川さゆり、初音ミクら多彩なアーティストとのコラボなど、さまざまな取り組みで独自の舞台表現を追求しています。そんな彼らが今、力を入れているのが鼓童の原点である古典的な演目を中心とした公演「道」。30年間、ソロ活動、また演出家、リーダーなどとしてチームをリードし続けてきた見留知弘に、鼓童の「型」と表現について聞きました。


今回は、鼓童の古典ともいえる演目を中心にした公演です。演奏する上で大事になさるのは、どんなことですか?

例えば「三宅」は、太鼓3台でシンプルに打ち込んでいく曲ですから、やっぱり地打ちのニュアンスを大事にします。地打ちというのはベースですね。一定のリズムを乱さずに打ち続けるという。その技術を改めて突き詰めるため、泥臭い稽古をずっと繰り返して土台を上げるようにしています。

泥臭い稽古とは?

本当にひたすら太鼓を打ち続けます。やっぱり太鼓って体力がないとできないものなんです。本番1回もてばいいというものではなく、それが何回もできる体力をつけなければならない。そのため、ひたすら繰り返す稽古をします。その際、筋トレはあまりやらないんです。体は太鼓で作っていく。一番効率がいいのは、実際に太鼓を叩く筋肉を鍛えることですから。いわゆる“見せ筋”を作るのではなく、体を絞っていくことで、もともとある筋肉が出てくるという感じです。だから我々は、細マッチョですね(笑)。

「屋台囃子」では、体を斜めにして腹筋を使って太鼓を叩く姿が印象的です。あの型はどのようにして生まれたのですか?

もともとは埼玉県秩父市の秩父夜祭で、山車の中で叩かれている太鼓なんです。鼓童の舞台は3つの要素で成り立っています。ひとつは、日本に元来ある伝統的な民俗芸能を地元の方々に教えていただいて舞台に上げること、そして、私たちの活動に共鳴してくださった作曲家の方々に書いていただくオリジナル曲の演奏、もうひとつが、自分たちで曲を作って独自の表現を生み出すこと。「屋台囃子」は、秩父の伝統的な祭の太鼓をベースにしています。もともと、座って演奏されているんですよ。

伝統的な民俗芸能を取り入れながら、鼓童の型を自分たちで作っていったのですね。

「三宅」という曲も、三宅島の芸能をもとにしています。大事にしているのはリスペクトですよね。ただ、そのままお祭りを舞台に上げるわけにはいきませんから、地元の方に教えていただいて、ちゃんと許可を得て舞台用にアレンジします。皆さんが大事にされている部分を私たちも大切にしながら、自分たちの表現として昇華させていくわけです。

自分たちの表現としてこだわるのは、どんなことでしょうか?

音ですね。一発一発、大事に打っていくというところに一番こだわります。先ほどお話しした地打ちのニュアンスを揃えるとか。太鼓も最終的には言葉なんです。「ドン」とか「カ」とか、太鼓の言葉がちゃんと音として鳴らないと伝わりません。だから、滑舌を大事にします。私たちの舞台は、何千人規模の大きなホールでも基本的にすべて生音です。だから、太鼓の音を一粒ずつ叩いて客席に届けるようにしています。太鼓は誰が叩いても音が出るものですが、いい音というのはやっぱり深みが違います。太鼓のど真ん中を打たないと、胴自体が鳴ってくれないんです。太鼓は裏の革と表の革で出来ていて、両方が振動することによって胴の中に響きが起こるんです。片面だけでは、太鼓本来の“胴鳴り”といういい音は出ません。



近年は、芸術監督を務められた坂東玉三郎さんと共に作られた舞台も大きな話題になりました。玉三郎さんから学んだことはありますか?

「守破離」という言葉を教えていただきました。私たちが大事にしてきたものを守るのはもちろん、それを壊して離れることも必要だと。最初は島根の神楽や秋田のなまはげなど郷土の芸能を入れつつ、最終的にはドラムやティンパニを用いるところまで振り切ったんです。そして、その後に「幽玄」という超古典的な演目で共演させていただいて。そうした、自分たちでは絶対できないような経験をさせていただいたのは宝です。また、技術的な面でも大きな学びがありました。例えば音のタッチの細かさ。太鼓の表現では、先ほどお話しした「ドン」とか「カ」が多いのですが、玉三郎さんは「ザゾン」というような表現をなさるんです。そのニュアンスをとにかく出そうと自分たちで一生懸命努力して。本当にいろんなタッチを勉強しましたし、それがあったから、従来の型とは異なる違う視線で演目や演奏を捉えられるようになりました。そして、その感性を持ったまま「道」のステージに立っています。

ツアー前半が終わり、いよいよ後半戦。9月には愛知県芸術劇場に登場されます。

「道」という公演を名古屋で開催するのは初めてです。久しぶりに名古屋のお客さまに見ていただけますし、皆さんの期待度も高いと思います。見どころは、創成期のベテランから若いメンバーまで三世代の出演者が登場するところ。古典的な演目も、打ち手が新しくなることで、新しいものとして見ていただけるのではないでしょうか。ツアー前半とはキャストが少し変わります。後半のメンバーも、前半で追求したことを受け継ぎながら稽古を深めていますから、さらに熟成されたものになると思います。最終的にはプレイヤーの個性が必ず出てきますから、公演を重ねるごとに変化していくはずです。太鼓には打ち手の生き様が表れると思うんです。何もまとわず褌一丁で演奏しますから、本当にその人が出てしまう。そこでは、真っ白になってただひたすら一生懸命打つしかない。一発にかけて打つという思いが、お客様の心を打つことにつながると思います。だから、やっぱり生で見ていただきたい。劇場で、全身を通して聴いていただきたいですね。


9/20 FRIDAY
鼓童ワン・アース・ツアー2019「道」
チケット発売中
■会場/愛知県芸術劇場 大ホール
■開演/18:30
■料金(税込)/[一般] S¥6,800 A¥5,500 [学生] S¥5,800 A¥4,500
■お問合せ/中京テレビ事業 TEL.052-588-4477(平日10:00〜17:00)
※未就学児入場不可