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「三浦一馬」Web 限定インタビュー
取材日:2015.05.13


日本のバンドネオン界の若きスター、三浦一馬。
バンドネオン奏者として初めて出光音楽賞を受賞するなど、
広く音楽界で評価されています。
そんな彼が新たに挑むのが、ガーシュウィンとピアソラという
二大音楽家の楽曲をクインテットで披露するコンサート。
名古屋公演を目前に控え、意気込みを語りました。

2014年度の出光音楽賞、おめでとうございます。

ありがとうございます。とても嬉しいです。

基本的にクラシックの賞ですよね。

クラシック音楽の演奏家や学術研究に取り組む30歳以下のアーティストに贈られる賞で、若手の登竜門と言われています。原則としてクラシック音楽を対象にしているそうですが、過去にもジャズピアノや和楽器などいろいろな音楽家が受賞されています。今回も、ジャンルに関わらずこれまでの活動を評価していただいたのではないかと思っています。僕はタンゴの演奏家として紹介してもらうことが多いのですが、タンゴというよりもバンドネオン奏者のつもりでいます。自分自身も、ジャンルをあえて限定するつもりはないんですよ。

4月にリリースされたニューアルバムでは、ガーシュウィンの楽曲に取り組んでいらっしゃいます。選曲も多岐に渡っていますね。ガーシュウィンというとミュージカルナンバーに偏りがちだと思いますが。

ガーシュウィンと一口に言っても、今回はさまざまなジャンルを手がけています。スタンダードジャズ、クラシック、ミュージカル。この三つを大きな柱と考えて、この中からまんべんなくセレクトしたいと思ったんです。おっしゃる通り、ガーシュウィンというとどうしてもミュージカルに偏りがちになってしまいますが、全ての楽曲を合わせてガーシュウィンの魅力だと考えています。中でも好きな曲、スタンダードな曲、あまり知られていないけれどいい曲などいろいろありますから、それを念頭に置いてセレクトしました。バンドネオンでガーシュウィンを演奏するというのは、たぶん前代未聞のことですから、バンドネオンをどう生かすかということも併せて、かなり練って考えましたね。


バンドネオンで演奏するにあたり、編曲にはどのような工夫をなさいましたか?

ガーシュウィンの楽曲の特色は管弦楽の響き。その音を凝縮させて、たった5人の今回の編成で表現出来ないだろうかと。いろいろなジャンルの作品に対応できるようにと、編成を考えました。まず一番大きなシンフォニーで考えると弦楽器は当然必要ですし、加えて管楽器、打楽器、という構成が基本になります。そこでバンドネオンの立ち位置というのは管楽器に当たるんじゃないかなとひらめいた訳です。バンドネオンというのはリード楽器ですから。リードというのは薄い板を振動させます。ですから、その原理が正に管楽器なんです。バンドネオンは金属製のリードが150枚ぐらい入っている楽器ですが、少し金属的なシャープな響きや少しこもった音も出ます。だから、それこそアルト・サックスやクラリネットのように少し低音域のこもった音も、いろいろな使い分けが出来るだろうと。それで管楽器と弦楽器が揃って、そこに今回パーカッションも入れました。オーケストラでいうとスネアや大太鼓、ティンパニ、そういったものをパーカッションに担当してもらいます。そこにピアノが入ると、オーケストラでは一番大きな編成です。例えばビッグバンドの楽曲なら、バンドネオンで最大8個ぐらい音が出ますから、それぞれ1個ずつある金管楽器の音をまとめて弾いてみたり。ポギーとベスの「ベス、お前は俺のものだ」という曲は、男性と女性、ポギーとベスの歌の掛け合いが非常に魅力的ですから、それを女性の音域をヴァイオリン、男性の音域はバンドネオンで掛け合うように歌ったり。そんな演奏が自由自在に出来るのが今回の編成だと思います。

普段よく演奏なさっているタンゴとジャズではリズム感がまったく異なると思います。演奏での苦労などはありますか?

ピアソラだ、ガーシュインだという以前に、いかにオリジナルの雰囲気で弾いていくかということは、どんな曲を演奏するにしても一番大切なことです。僕もやはりタンゴやピアソラから始めていますから、ピアソラ独特の間合いや歌い回し、弾き崩しなどは、幼い頃から染み付いているところがあります。今回、ガーシュウィンを弾くにあたっては、自分の一番根底に流れているものを打ち破るとまではいかないけれど、ある程度考え直す必要があって、徹底的に音源を聴き込みました。ガーシュウィン本人の演奏はもちろんですし、ほかのいろいろなプレイヤーの演奏も。そこでなんとなくアメリカ音楽の、特に1920年代ぐらいのビート感はかなり研究したつもりです。

今回のバンドメンバーはクラシック畑の方と、パーカッションの石川智さん。これまでに石川さんとご一緒されたことは?

今回初めてです。というのも、タンゴという音楽はあれほど強靭なリズムを感じるんですが、実は打楽器というものを使わない文化なんですね。楽器を叩いたり、演奏者自身が自らビートを生み出すというジャンルなので、実は打楽器奏者の方との共演ってほとんどないんです。ガーシュウィンの音楽にはリズム隊は欠かせないので、今回初めてご一緒しました。

この編成で実際に演奏してみた感触はいかがでしたか?

こんなにも世界観が広がるものなのかと。かなり乱暴な言い方かもしれませんが、ただ何かを叩いている音なのに、これほど柔らかでふくよかな世界が広がる。それは僕にとってかなり衝撃的なことでした。でも考えてみたら、オーケストラでも打楽器は非常に大きい役割を担っていますよね。決めのところのシンバルとか、重厚な響きの中のティンパニとか、効果は大きいですから。それを考えたら当たり前かと。でも、本当に楽しいですね。楽器がひとつ増えると。

三浦さんご自身の演奏にも変化はありましたか?

ありました。それは自分自身がノッてくるということです。パーカッションがいない場合は、バンドネオンの左手やピアノがある種リズムを生み出しているところがあります。でもパーカッションが入ると、全体のリズムはもちろんのこと音の厚みも増して、とてもいいサウンドに仕上がってくる。自分自身がそれに入り込んで喜びいっぱいで弾く感じになるので、演奏も変わってきますね。

コンサートでは、そういうものが会場全体にも伝わるでしょうね。お客さんの反応というのは、三浦さんに影響を与えますか?

かなり大きいです。本番中に、いろいろな心情の変化というのはもちろんあるんです。凄くテンポの速い曲だとか、あるいはゆったりした曲だとか、曲調によって自分の心情は変わります。そして、お客様の反応もダイレクトに伝わってくるものです。ステージにいると意外と関係ないんじゃないかと思われることが多いんですが、そんなことない。凄くダイレクトに伝わってきますよ。お客様が温かく迎えてくださるときは、こちらも本当に気持ちよく弾くことが出来ます。また、大きなリサイタルで耳の肥えたお客様が多くいらっしゃるときはその空気がすぐにわかりますから、こちらもかしこまりますよね。


名古屋でも何度か公演されていますが、名古屋の観客の印象は?

いつも思いますが、ラテンの方と近いです。終わってみたらいつも「名古屋ってよかったよね」と思うことが多くて、それはやっぱりお客様の温かさ、あるいは熱い雰囲気のおかげというがとても大きいです。

6月のコンサートでは、二部構成でガーシュウィンとピアソラの楽曲を披露されます。どのような意気込みで臨まれますか?

ふたりとも、本当に敬愛する僕にとっての二大巨匠です。でも、プレッシャーというのはそれほど感じていなくて、それよりも楽しみだなという気持ちの方が大きいですね。何しろ僕自身、ピアソラをクインテッドで演奏する機会が実はなかなかないんです。しかも今回はガーシュウィンとピアソラ、僕が今まで突き詰めてきたようなものも含めて、一夜にしてふたつのステージを楽しんでいただくという試みですから、僕自身が本当に楽しみにしています。


ガーシュウィンはアメリカ、ピアソラはアルゼンチン。それぞれの国を象徴するような音楽家ですね。

そこはふたりの共通点だと思っています。ふたりともアメリカ、アルゼンチンという移民国家で独自の音楽を切り開いて、ニューヨークとブエノスアイレスという都市を舞台に、そこに生きる人の生き様をそのまま描いてみせたという感じがしますね。どちらも自分のホームである音楽、ジャズやタンゴというものがありつつ、そこにいろいろなものをミックスさせて彼らにしかできない音楽を作ったという共通点が、密接に関わるところがあるんですよね。不思議な類似だと思います。

コンサートのプログラムはどのようなものになりますか?

一部も二部も、1曲目から最後までひとつのストーリー性を持たせるように選曲して並べています。ピアソラの方では僕が今まで弾いてきた曲を前半に持ってきて、後半には今回の編成で初めて弾く曲をいくつか予定しています。いつか弾いてみたいと思いながら、クインテッドで出演出来る機会もあまりなく叶わなかったのですが、やるならここだなと。ピアソラのステージもガーシュウィンのステージも、本当にふたりの醍醐味を味わっていただけるステージになるように頑張りたいと思います。

名古屋公演の1週間後に誕生日を迎えられます。年をひとつ重ねることでの心境の変化はありますか?

24歳から25歳になるから何だということはありませんが、少年のときから「小さい子が変わった楽器をやってる」と思われながらずっとやってきたので、「25歳」という年齢を客観的に捉えると、もう「若手」という年齢でもないかなとは思います。キャリアを重ねるごとに、演奏や仕事に責任みたいなものを感じてくるようになりますし。実を言うと、昔より緊張するようになってきているかもしれません。やっぱりプロとして、全身全霊をかけて毎回弾いていかなきゃいけないなという責任感みたいなものが増してきているような気がしますね。




6/2 TUESDAY
三浦一馬クインテット 《ガーシュウィン&ピアソラ》
チケット発売中
■会場/ウインクあいち
■開演/19:00
■料金/全席指定 ¥5,800(税込)
■お問合せ/中京テレビ事業 TEL.052-957-3333(平日10:00~17:00)
※未就学児入場不可