HOME > Web 限定インタビュー > 「かつしかトリオ」インタビュー

日本を代表するフュージョンバンド、カシオペアの元メンバー櫻井哲夫、神保彰、向谷実による、かつしかトリオ。2021年の結成以来、往年のファンから若い世代まで、多くの音楽ファンを魅了しています。現在、サードアルバム「“Organic”feat.LA Strings」を携えた全国ツアーがスタートしたばかり。11月の名古屋公演を前に、ナチュラルな音作りにこだわった海外レコーディング秘話、このトリオだからできる音楽活動について、たっぷり語ってくれました。

ニューアルバムを聴いて驚きました。

向谷:そう受け取っていただけたのは、ありがたいですね。この1〜2年、通常のエレクトリックを中心としたコンサートとは別に、アコースティックのクラブギグをやっていたんです。そこで、次にアルバムを作るならオーガニックな感じでストリングスを入れたレコーディングができたら…という思いが生まれて。

神保:向谷さんは、昔からシンセサイザーで弾いていたストリングスのパートを「スコアを書いて生でやりたい」と言ってましたよね。

伝説的なレコーディングエンジニア、ドン・マレーを迎えたロサンゼルスでのレコーディングも話題です。

神保:僕は昔からドン・マレーさんに憧れていて、ずっと一緒に仕事がしたいと思っていたんです。長年の思いが、すべてうまく結実しました。先日、オーディオ専門誌の取材を受けたのですが、そのライターの方が、ここ10年で聴いた作品の中で最高音質だと言ってくださったんですよ。

向谷:出だしのドラムの音を聴いた瞬間に「ああ、この音なんだよな」と思ったよね。


L.Aでのレコーディング風景

ドン・マレーの起用で狙ったのは、どんなことですか?

向谷:ずばりオーガニック、無添加です。最近の音楽は、商品の作り込みとして、いろいろエフェクトをかけたり、細かいバランスをとったり、コンプレッサーをかけて押さえ込んだり逆に突っ込んだり…という一定の傾向があります。今回は、僕たちが経験してきたナチュラルな良い音楽へのこだわりを、今のデジタルの時代でも反映できたと思います。専門的な話になってしまいますが、録った音の波形がトップと下の間にものすごくきれいに収まっているんです。つまり、強弱をきっちりと追えているんですね。上に行って歪んでないし、下もきれいに保たれているということ。オーディオの専門家によると、今回の録音は「驚きの波形」だそうです。それがドン・マレーのレコーディングテクニックであり、バーニー・グランドマンのマスタリング技術。どちらも巨匠ですからね。アナログのカッティングの時代から音楽を作ってきた人たちにお願いしたことで、“Organic”の狙いを達成できたと思っています。

櫻井:加工していない分、スーパーナチュラルな音質、音量を実現できましたよね。3人のドラム、ピアノ、ベースも、楽器本来の音をすごく美しくまとめてもらいました。

加工しないサウンドづくりは、具体的にどのように進められたのですか?

神保:レコーディングは、ドンさん推薦のスタジオで。しかも「この部屋」とピンポイントで指定してくれて。

櫻井:余計な加工をしなくて済むスタジオを選んでくださったんですよね。

神保:その空間と、そこにある機材と、長年使われてきたピアノやドラム、そしてロサンゼルスのあの気候。そういうものすべてが、日本とは違う音を生んだと思います。

向谷:マイクの立て方がポイントかなと思ったけど。ピアノも、ドンのマイキングで録られた音をモニターした瞬間、めちゃめちゃいい音だった。多分、ほぼリバーブかけてなくて、残響だけだよね。

櫻井:それ見てたけど、ピアノの下の絨毯と周りの環境をちょっとずらすだけでまとめている感じだった。

向谷:スタジオ鳴りだけでね。だから勉強になりましたよ。ドン・マレーさんが長年築き上げたスーパーナチュラルな音は、大きくきれいに録ることで生まれるんだな、と。

櫻井:ドラムとピアノのマイクにそれぞれの音がちょっとずつかぶってても気にしない、みたいな。だから、スタジオライブをやっている感じなんですね。

見た目と違世界的なシティポップブームが続いていますが、海外の音楽ファンの間では日本のフュージョンも盛り上がっていますね。った謙虚さがすごいです。

神保:80年代のJフュージョンが再評価されていて、高中正義さんやカシオペアもアナログ盤のセールスがすごくいいそうですね。

櫻井:アメリカで昔のカシオペアのアルバムがチャート1位になったり、ヨーロッパでもすごく評価が高くなっていて、若い人がいっぱい聴いてくれているみたい。ロサンゼルスでレコーディング中、ドジャーズ戦を見に行ったら、僕らを日本人だと気づいた前の席の人が、「これ知ってるか?」と、高中さんのCDを見せてきて。高中さんが大成功させたロサンゼルスのコンサートに行ったんですって。「もちろん知ってるよ」と答えたら、「なんでだ?」って聞くから「僕らミュージシャンだ」「え?」「カシオペアだよ」「えっ??」って。

バンドとして、個々のミュージシャンとして、さまざまな経験を経て、かつしかトリオという強靱な編成を組まれた今、どんな心境で音楽をなさっているのでしょうか?

向谷:人間同士が集まって何かすれば当然、考え方や方向性の違いが出てきます。音楽の場合、それが魅力になってバンドを支えることもあるし、問題になってメンバーが別れてしまうこともある。そういう経験を経て、今のこの3人はセルフプロデュースというスタイルをとっていることが強みだと思います。特定のリーダーを立てたり、誰かが中心に曲を書いたりせず、すべて共同で考えて共作するという。出版や原盤という音楽の外側に関することや、コンサートツアーの制作についても、そうです。長年、バンドや音楽活動を経験していろんな課題に直面してきましたが、この年齢になったら、もう本当に明るく楽しく、心地よくやりたいから。かつしかトリオはそこを徹底して、楽曲もパフォーマンスも、いろいろな権利もすべて3人のものであることを守り続けたいと思っています。あとは健康ですね。一人抜けたら、このトリオは成り立たないから。

櫻井:この歳になると、健康じゃないと何もできなくなりますから。特にバンド活動は体力が要るので。コンサートツアーなんて、ものすごいエネルギーを使いますしね。

今回のツアーの構想などをお聞かせください。

2024年11月26日のライブより


向谷:ニューアルバム中心になりますが、過去2作のアルバムも、アレンジや演奏の内容を変えて皆さんに楽しんでいただける要素は十分あります。現時点で、かつしかトリオとしての新曲が25曲あるわけで、けっこう贅沢なバンドになりました。総合芸術としてもかなり凝ったライブをやろうと考えています。

櫻井:この2年間ホールツアーをさせていただいていますが、昨年から映像のグレードが一段と上がりました。僕らの音楽とのコラボで、すごく印象が変わるバンドになったと思います。音源を聴くだけとは違う、大ホールのかつしかトリオの魅力をお届けできると思っています。

神保:ライブは観客の皆さんとのエネルギーの交換の場ですよね。リアルがどんどん失われている今の時代、すごく貴重な時間と空間だと思います。


2024年11月26日のライブより


櫻井:インストバンドですけど、お客さんに歌ってもらったり、曲に合わせて振り付けしたり…。

向谷:神保さん、そういうの考えるの得意だよね。でも、それをお客さんにお願いする役は、いっつも僕なんだよ(笑)。

神保:今回もいろいろ考えていますよ、実は。

◎Interview/福村明弘 ◎Text/稲葉敦子



11/4 TUESDDAY
音楽館 40th Anniversary Presents
かつしかトリオ LIVE TOUR 2025 Organic 愛知公演

チケット発売中
■会場/Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
■開演/19:00
■料金(税込)/全席指定 ¥8,500
■お問合せ/サンデーフォークプロモーション TEL. 052-320-9100
※未就学児入場不可


NOW ON SALE!
かつしかトリオ 3rd ALBUM
「"Organic" feat. LA Strings」
¥3,300(tax in)
YCCS-10124