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「川平慈英」Web 限定インタビュー
取材日:2016.08.12


スポーツキャスター、ナレーター、俳優など多方面で才能を発揮する川平慈英。
近年はミュージカル俳優としても大作、話題作に次々に出演しています。
そんな彼がプロデュースする演劇作品「守ってあげたい」の四日市公演が間近。
盟友だった今井雅之が脚本を手掛け23年前に初演されたこの作品を、
自らの手で新たによみがえらせます。

「守ってあげたい」は、昨年亡くなった今井雅之さんが書かれた作品だそうですね。

下積み時代に書きためていた作品のひとつで、23年前、彼が自身の劇団エルカンパニーを立ち上げたときに旗揚げ公演として上演されました。僕、吉田敦、矢田政伸は初演時にも出演しています。雅之とはデビューが一緒なんですよ。学生時代、奈良橋陽子さん演出のミュージカル「フェイム」のオーディションに受かって出演が決まったとき、アシスタントディレクターをしていたのが今井雅之。すぐに意気投合しましたね。

今回、川平さんのプロデュースで再演されることになった経緯を教えてください。

雅之が亡くなった二日後ぐらいだったかな?一緒に作ってきた芝居を観たくなっちゃって…。自宅で大好きな芋焼酎をグイグイ飲みながらDVDを観て「これやったな。これもやってたな、若いなぁ」なんて感慨に浸ってたんですが、何本目かに「守ってあげたい」を観たら、なんか猛烈に面白くて。ちょっとエンジンがかかっちゃって、「これはやるしかないな」と。それで、まず共演した仲間やスタッフに電話したらみんな乗ってくれて、プロジェクトが動き出したんですよ。この芝居を再演するというのは、その夜のうちに自分の中ではもう決定していました。


物語の舞台は死後の世界。「守護霊裁判所」で判事を務める6人兄弟を中心に展開されるストーリーです。今井さんが亡くなった直後の感傷もありながら、作品自体の面白さを改めて発見したのですね。

もうホント、バカなんじゃないのっていうぐらい痛快なんですよ。だいたい雅之の作品は、前半でふざけて泳がせて泳がせて、最後に胸をえぐられるような展開に持っていくものが多いんですよ。「守ってあげたい」は1時間ほどの短い作品で、まだ荒削りだったんです。だから料理しがいがあるなと思って。そうしたら、旧知の中で雅之とも親交のあった飯田譲治が上演台本を書きたいと言ってくれて、これはもう願ったりかなったりということで。ダンスやラップなども取り入れて、エンターテインメントレベルを相当バージョンアップさせました。僕が主宰する劇団「東京演者兄弟会」は、いつも冒頭にダンスを入れるんですよ。そのスタイルは崩したくないと思って。また、僕のミュージカル仲間である松岡充君がこの舞台のために法廷劇で繰り広げられるラップの曲を書いてくれまして。それと、仲良しのサンタラという男女ユニットのオリジナル曲が最後に出てきます。ちょっとミュージカルシーンもあるんですよ。そこは申し訳ないんですけど、僕のミュージカル・ブラッドがかなり騒いでますね(笑)。


川平さんは主演時と同じく、主人公である6人兄弟の三男ヒトシを演じられます。

ある男が自分の娘の守護霊になれるかどうかという裁判を兄弟で担当します。長男が裁判長で、長女と僕が毒づき役。おバカキャラの末っ子たちを責め立てたり、非常にやんちゃでアクが強くて勝手に生きているような役柄です。優しい議長のお兄さんとバカな妹・弟たちが喧嘩したり離ればなれになりながら、兄弟愛や家族愛、自己犠牲などを知っていくんです。どんな人も心の琴線に触れる瞬間を何度も感じられる作品です。今回、改めて取り組んでみて「今井は面白いものを書くな」とすごく強く感じました。彼はどこか死後の世界や神や仏というものに興味があったんでしょうね。代表作でもある「The Winds Of God」も輪廻転生の話ですし。そういうブレない探究心を、改めてリスペクトします。面白いですよ、死後の世界をこうした法廷劇に仕立ててコメディにして見せるというのは。よく出来ていると思います。

今作はご自身の劇団「東京演者兄弟会」の公演です。2013年に劇団を立ち上げられたのは、どんな思いがあってのことだったのでしょうか?

テレビの仕事やミュージカルの大きな作品など、いろいろなジャンルからオファーをいただくようになりましたが、ストレートプレイをやっていないなと思って。僕はデビュー作で奈良橋さんから役者道というものを教えてもらいましたから、そこに原点回帰というか、もう一度演技でしのぎを削る場所が欲しいと思ったんです。そして、それは自分で作るしかないなと思って。小さな劇団を作って、役者としてのビルドアップをちゃんとやらなきゃなと思ったのが動機です。初演の「オアシス」、2回目の「笑いの神様へ」に次いで、今作が3回目の公演です。


改めて演劇に密に取り組むことになり、ご自身の役者としての演技や考え方に変化はありましたか?

芝居って難しいけれど面白いなと、改めて思いました。ミュージカルというのはどちらかというと、チームプレーというか、スポーツに近いんですよね。テクニカルな技の披露のし合いというか…。例えばピュリエットを3回できるかとか、A♭が出るのか、ファルセットが出るのかという、どちらかというと技の追究。演技というのは不確実、答えがないんですよね。だからこそ難しいし怖いんですけど、そこが面白い。達成感を持った瞬間にすぐに迷宮に入ってしまうような掴みどころのないものです。それがすごく扱いにくいし、だからこそ面白いと改めて思いました。だから、僕が得意とする歌や踊り、エネルギッシュなムードメイキングとかタップとか、そういうものを全部剥ぎ取られた状況で、最終的に芝居でどれだけ人の心をつかめるかということにもう一度チャレンジしたいなと。もちろん、ずっとチャレンジし続けることですけどね。サッカーのナビゲーターの仕事も、ライフワークとしてもちろん大事にしています。ただ「職人」になりたいジャンルというと、やっぱり俳優なんですね。そこで極みをめざしたい。




9/4 SUNDAY
東京演者兄弟会「守ってあげたい」
チケット発売中
■会場/四日市市文化会館第二ホール
■開演/18:00
■料金(税込)/全席指定 ¥4,800 
■お問合せ/四日市市文化会館 TEL.059-354-4501
※未就学児入場不可