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怪談家として30年以上、活動を続ける稲川淳二。全国を訪ねて丁寧に拾い集めた怪談の“断片”を紡ぎ、オリジナルストーリーに仕立てて話す「怪談ナイト」は、長年のファンから熱烈な支持を得ています。今年のライブは「事件」!ツアーファイナルとなる稲沢公演を前に、怖いだけじゃない怪談の魅力、楽しみ方を教えてもらいました。

怪談家としての原点は、お母様にあるそうですね。

私が子どもの頃は、身近に怪談があったんですよね。今のように娯楽がありませんから、夏といえば怪談でした。うちの母親が、またうまいんですよ、話が。下町なもんだから。本所七不思議の話だとか、回向院まで連れてってくれて四十七士の話をしたりね。で、その話が面白かったんです。昔は、話し上手な人が多かったですよね。当時のおっかさんは、みんな買い物カゴ持って立ち話して、これがなかなか終わらない。子ども時代のそんな雰囲気が、私の背景にはあります。今、怪談をするときに口でもって「ギーッ」とか「カッコカッコッカ」ってやりますけど、そういうのは母親から習ったようなもんですね。

稲川さんの怪談には、名人の落語を聞いているような心地よさがあります。

何気なく喋ってるように見えて、怪談をまとめるのに、すごく時間をかけるんですよ。たったひと言、「が」にするか「は」にするかだけでもって、3週間ぐらいかけたりします。だいたい話っていうのは、きれいに話そうとすると、つまらなくなりますよね。私は、各地に足を運んで怪談の断片を集める「心霊探訪」をして話をまとめていくんですが、お年寄りに話を聞いたりすると、皆さん、きれいに話そうなんて思ってやしません。でも聞いてると、すーっと引き込まれていくんです。「うまい話」と「いい話」って違うんですよね。一度、小学校3年生の男の子が手紙をくれましてね。「お父さんから聞いたとっても怖い話があるから、よかったら怪談ナイトで使ってください」って。読んだらそれ、私の話なんですよ。お父さんは毎回、私のライブに来てくださっていて、会場で聴いた怪談をその通りに息子さんに伝えてるんです。「私がいなくなっても話はちゃんとつながっていくな、生きていくな」と思ったらうれしかったですね。以前、月亭八方さんに「弟子を取ったら?」と言われましたが、その必要はないんですよ。誰かが私の話を語ってくれるから。

ホラーとは異なる怪談の魅力とは、どんなものでしょうか?

怪談の怖さっていうのは、じわ〜っと、ひんやりと迫ってきますよね。そして、切なさや人への思い、優しさがあったりする。よく手紙をいただきますよ。「怪談を聞いて、泣いて帰りました。ありがとうございました」って。時には自分で涙ぐんじゃうこともあります。いろんな話を調べる中で現場に行って「そうか、ここだったんだな」と思ったりすると、何かをふーっと背負ったような気がしますよ。怪談と自分の人生がひとつになってるんですね。



「稲川淳二の怪談ナイト」が始まったのは1993年。30年の間に世の中は大きく変わりましたが、観客の反応などに変化はありますか?

私は、お客様がたとえ1,000人いても、一対一の気持ちで話しているんですよ。みんなに囲まれて、じいさんが話しているようなイメージ。ですからステージにセットを組むんです。今年は、ボート小屋や桟橋がある湖畔のような世界観。そこに皆さんが遊びに来て、じいさんの話を聴きながら時間が過ぎていく感じですね。全作書き下ろしの怪談をいくつかと、心霊写真解説。ライブ全体がひとつの大きなストーリーと思っていただけるような構成を心がけています。それを皆さんが共有してくださるんです。ホラーのようにドキドキする体験だけを求めるんじゃなくて、物語の世界を感じてくださる。30年の間にお客様のセンスが磨かれて、怪談の聴き方がすごく上手になってきたという感じはしますね。

今年のツアーも完走間近、11月19日(日曜日)の稲沢公演がファイナルとなります。

今年は、実際に起こった、ある事件の話がメインなんですよ。今まで、したことなかったんです。事件にまつわる話特有の乾いた怖さって、嫌なんですよね。ただ、その事件との接点がありまして。今にして思えば、私が高校生のときに事件の兆候のようなものがあったり、その後、芸能界に入ってからもちょっとした関わりがあったり…。いろいろなつながりをたどって、話としてまとめました。これは面白いですよ、評判いいです。今年のツアーは、初日からお客様の盛り上がりがすごくて、どの会場も完全に一体化していました。「ひとりで入ったけど、みんなと一緒に怖がったり笑ったりしてるうちに孤独じゃなくなって、帰りには親戚ができたような気持ちになりました」と、おっしゃる人もいて。嬉しいですよね。孤独な人、寂しい人は、ぜひ来てほしいですよ。温かい気持ちで帰っていただけると思いますよ、きっと。

◎Interview & Text /稲葉敦子



11/19 SUNDAY
MYSTERY NIGHT TOUR 2023
稲川淳二の怪談ナイト

チケット発売中
■会場/名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール
■怪宴(開演)/16:00
■料金(税込)/全席指定 前売¥6,600 当日¥7,000
■お問合せ/名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)TEL.0587-24-5111