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自身のバンド「m_unit」を率い、昨年リリースの3rdアルバム「ダンサー・イン・ノーホエア」でもその活動の充実振りを見せつけた挾間美帆。今年はニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100」にも選ばれるなど一段と評価を上げています。そしてこの10月からは、デンマークラジオ・ビッグバンド(DRBB)の首席指揮者にも就任。これは日本人女性音楽家としては初めての快挙です。そんな彼女が、これまでの音楽体験から人のつながり、そして10/17(木)の名古屋ブルーノート公演への意気込みを語ってもらいました。

挾間さんのバンドである“m_unit”には弦楽器が入っていますね。弦楽器を起用している理由は?

サクソフォン、トランペット、トロンボーンといったホーンセクションと、リズムセクションであるピアノ、ギター、ベース、ドラムから編成されるのがビッグバンドの編成なんですが、m_unitの特徴は、そこにヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが加わることです。私は幼い頃からクラシック音楽を聴いて育ってきたので、頭の中で鳴る音楽がオーケストラの音色なんですよ。だから、それを再現しようと思ったら、弦楽器が必要だったんです。


弦楽器の入ったビッグバンドの編成は珍しいのですか?

今のジャズシーンで、ビッグバンドを含む「ラージアンサンブル」と呼ばれるような大編成のジャズバンドで弦楽器を入れているのは、メトロポール・オーケストラ・ビッグバンド(オランダ)くらいだと思います。弦楽器の入ったジャズの編成となると、おそらくガーシュウィンやバーンスタインまで遡ります。グレン・ミラー、カウント・ベイシーなどのスウィングジャズのビッグバンドには弦楽器は加わりませんでした。スウィングジャズはダンスホール・ミュージックですから、音のインパクトが欲しかったんだと思います。そこからダンスミュージックではなくて、アート寄りのビッグバンド・ジャズがなかなか派生できなかったんです。

挾間さんは元々はクラシック音楽を勉強されていたのですね?

そうですね。私は子供の頃からクラシックを中心に勉強してきたのですが、国立音楽大学に入学した時にひとつ転機がありました。国立音大にNEWTIDE JAZZ ORCHESTRAというサークルがあるのですが、その新入生歓迎演奏会がとっても良くって、吸い込まれるように入部しました。私はクラシックの作曲科を専攻していたので、弾けるのはクラシックのピアノだけ。最初は見様見真似でジャズを弾いていました。でもその頃は今私がやっているような音楽を目指していたわけではなく、漠然と作曲家になろうと思っていたんです。だから映画のサウンドトラックや大河ドラマの音楽を手掛けてみたいなとも思っていました。

在学中には山下洋輔さんとの交流も生まれましたね。

国立音大の3年生の頃ですね。山下さんはご自身のピアノコンチェルトのオーケストレーションを、私の作曲科の先生に依頼していたのですが、ある時先生がそれを、私にやらせてみたらどうかと山下さんに紹介なさったんです。コンチェルトはだいたい3つの楽章から構成されているんですが、第2楽章までは山下さんから楽譜が届いたので大丈夫だったんですが、第3楽章はゴニョゴニョって書いたメモみたいなものが届いたんです(笑)。ストーリーやイメージが書いてあったのですが、私はそれを楽譜にしました。山下さんは私との会話の中で、「脳内旅行」という言葉をよく使われます。自分たちが脳の中で何を考えているのか、どうしてこういうスケッチに至ったのか、そしてそれをどのように具現化するか。それをコンチェルトのオーケストレーションで実践させて頂いたのだと思っています。そしてそのコンチェルトのコンサートで指揮をして頂いたのが佐渡裕さんで。その時に山下さんと佐渡さんに「君は裏方としてではなくて、アーティストとして作曲家や編曲家を目指してみたらどうか」と背中を押してくださったんです。当時ちょうどマリア・シュナイダーという、自身のオーケストラを持つジャズ作曲家が話題になっていた頃で、私の憧れでもありました。そこで「ジャズ作曲家」という職業を意識するようになりました。

そして大学院でニューヨークへ。マンハッタン音楽院(MSM)を選んだ理由は?

大学のサークルで演奏している時に、その演奏曲がとても気に入ったんです。調べたら、その曲の作者がまだ生きているということが分かってびっくりして。クラシックの作曲家は亡くなっていて当たり前じゃないですか?会えないんですよ。でも「ジャズだと会えることもあるんだ」と思った瞬間、それってすごいなって思ったんです。それでその作曲家が教鞭を執っている学校を探したらMSMに辿り着いたのです。

その作曲家はどなたですか?

ジム・マクニーリーです。彼はビッグバンドのサド・ジョーンズ / メル・ルイス・ジャズ・オーケストラ(通称:サドメル)の流れを受け継ぐ、ヴァンガード・ジャズ・オーケストラ(ニューヨークのジャズクラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードを本拠地とするビッグバンド)のコンポーザー兼アレンジャーをしばらく務めていた作曲家。私は彼の下で勉強したくて、マンハッタン音楽院(MSM)に入学しました。この10月からは、以前ジムが首席指揮者を務めていたデンマークラジオ・ビッグバンド(DRBB)の首席指揮者を務めることにもなりました。


マリア・シュナイダーとの交流はあるのですか?

マリアは大学で教鞭を取っていないので、MSMで開かれたマスタークラスに参加して、その時に挨拶したくらいだったんです。その後、日本のジャズの雑誌の企画でマリアさんのご自宅に伺って対談させて頂いて。リリースしたばかりの私の1stアルバムを聴いて喜んでくださって、そこから交流が始まりました。

山下さん、佐渡さん、ジム・マクニーリー、マリア・シュナイダーと、10年余りの間に素晴らしい音楽家の皆さんと非常に濃密な時間を過ごされたんですね。

運の良さには自信があります(笑)。ラッキーな部分もありますが、その時々で転機になったり成長のタイミングを迎えたりしていますから、とても感謝しています。

挾間さんの作品は、主旋律が中心になるようなポピュラーミュージックのような構造ではなくて、音が複雑に重なり合っていたりと、奥行きを感じさせます。

もともとピアノを習っていたからかもしれません。歌を歌ったりサックスを吹いたりする場合は単音ですが、ピアノは一度に10の音を出すことができますよね。先ほども言いましたが、私の頭の中にはオーケストラの音が鳴っていますから、元々サウンドが散らかっているのだと思います。それを取捨選択したり整理するという作業が常に伴ってきます。あとは、左利きなのでベースラインが際立ってくるのもあります。

では、作曲のモチーフになるのはどんな事柄ですか?

思い出や経験によるとことが大きいです。あとは、例えば数字とか形とか規則性のあるものを題材にして制約を作って、その中で作曲を進めるというようなこともあります。作曲当時96歳だった(現在は97歳)私の祖父が「巡回数」という言葉をウィキペディアを印刷して教えてくれて(笑)。142857×1=142857、142857×2=285714、142857×3=428571と、くるくる数字が回って、7をかけたら999999になる。今回のアルバムの「The Cyclic Number」は、この数を使ってラインやリズムを構成して作った曲なんです。それより96歳のおじいちゃんがウィキペディアを使いこなしている方がびっくりですけどね(笑)。あと、m_unitに関しては、それぞれのプレイヤーに対してあて書きすることが多いですね。

10/17(木)の名古屋ブルーノートでの公演は、そのご自身のバンド“m_unit”での演奏ですね。

私は委嘱されて作品を作ることもありますが、それに対してm_unitは私のホームグラウンドなんです。だからこのグループは、今私が最も演奏したい音楽を創造する場所。13人のこの編成ならではの音楽を皆さんに楽しんで頂ければと思います。


10/17 THURSDAY
挾間美帆 m_unit
ご予約受付中
■会場/名古屋ブルーノート
■開演/[1st]18:00 [2nd]20:45
■ミュージックチャージ(税込)/¥7,400
■お問い合せ/名古屋ブルーノートTEL.052-961-6311(平日11:00~20:00)