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「深井順子×糸井幸之介」Web 限定インタビュー
取材日:2015.03.08


妙なミュージカル「妙—ジカル」を標榜。
ありふれた日常を細やかに切り取り圧倒的な熱量の歌とダンスで表現する
注目の劇団「FUKAIPRODUCE羽衣」が、三重に初上陸します。
プロデューサーの深井順子と作・演出・楽曲の作詞作曲も手がける糸井幸之介に、
その演劇人生、作品づくりへの思いについて聞きました。

おふたりは高校の同級生だそうですね。

糸井:演劇部で知り合ってかれこれ20年以上。

深井:彼が演劇部の部長で、私がヒラ。別役実とかの戯曲をやっていた、渋い老舗の演劇部だったんです。先輩の中にはケラさん(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)もいらして。高校演劇の名門で、ケラさんの時代は一番強かったぐらい。私は演劇がやりたかったから、そういう学校を探して入ったんです。

糸井:僕は全然そんな風に考えていなくて、中学の頃に帰宅部みたいになっちゃってたから、仕切り直して青春を頑張るために部活に入ろうと思ったんですけど、運動は無理だろうと…。それでなんとなく演劇部に入ったのが始まりです。

糸井さんはその頃から作品を書いていらっしゃったのですか?

糸井:当時は、「高校生の書くものなんて…」みたいな雰囲気だったんですよ。顧問の先生が厳しくて。呼吸まで全て決まっているんです。

深井:息継ぎする箇所まで決まっているの。私は全然合わなかった(笑)。だから糸井君は全然書いていなくて。俳優として主役をやったりしてたよね。

糸井:だから、卒業して自由になったら書いてみたいなとは思っていました。

卒業後は同じ大学に進まれて。

糸井:日芸(日本大学藝術学部)の演劇学科に。深井さんは高校3年生のときから唐組に入ってましたね。

深井:3月ぐらいにね、最後の最後に。糸井君が「唐十郎って知ってる?一緒に観に行こう」って誘ってくれたのがきっかけ。中野にまだテントを立ててやっていたんです。近かったから自転車に乗って行って、そしたら私がすごくハマっちゃって。そのお芝居を9回も観たんです、制服姿で。それで「絶対ここに入ろう」と思って。



それほど衝撃を受けたのですね。

深井:それまで私が高校でやっていた演劇は、息継ぎの箇所まで指定されて、私がやりたいことと何か違う、と思って苦しかったんです。それで唐組に入って、同時に糸井君と日芸で劇団を組みました。

糸井:羽衣の前身になる劇団を立ち上げたんです。大学の仲間たちだったので、人が去っていく時期もあったりして…それでも粘りながら10回ぐらい公演して、お金が回らなくなって主宰業務に嫌気が差して「辞める」と言ったら、深井さんが「私が主宰でやってみる」と。

深井:糸井君が作・演出・主宰もやっていたんです。解散したのも「私がやってられない」みたいな感じになったから。でも、糸井君の言葉とかが自分の中からなくなっちゃうのがつまらなくて、やっぱりやりたいと。最初は女の人だけに出演してもらってたんです。今は男女比が半々で、恋愛というかそういうものを描いていますけど。

糸井:羽衣の第一回公演は、まだ劇団という感じではなかった。深井さんのプロデュース公演という感じで。俳優が固定化して劇団らしくなったのは、ここ3年ぐらいですよね。

現在「FUKAIPRODUCE」と銘打っていらっしゃいますが、作家や演出家でなく女優がプロデューサーとして立っているケースは珍しいですね。

糸井:基本的に厳しく注文されることもなく、好きに作品を作らせてもらっています。でも、全体のムードを生み出したり、お金の責任負ったりのするのは深井さんですね。

深井:好きな人とやりたいという感じで始めたんですよ。好きな人を集めていたらこういう形になって。糸井君もその方がのびのびと作・演出をするようになったし、変な文句を言わなくなりました。

糸井:自分で劇団を主宰していたときは、若かったということもありますが、運営とか資金繰りとかそういうのが本当に嫌だった。今は、制作もしっかりやってくれて、作ることだけにこんなに専念させていただいていいのかと思います。

深井:でも、もし糸井君が主宰のままだったら、多分また解散してたね(笑)。


「妙ージカル」というスタイルは、どのようなプロセスを経て確立されたのですか?

糸井:前身の劇団のときから徐々に歌が増え出していました。もともと音楽が好きでロックを聴いたりしていましたが、バンドを組むには到らなかった。でも演劇の仲間がいたので、せっかくだから好きなことをやろうと思って歌とかを入れ出したのが最初ですね。段々それが増えてきて。羽衣はもう10年になりますが、羽衣になってからは最初から妙―ジカルでしたね。

深井:でも、最初に「妙ージカル」って名前つけたっけ?

糸井:それは前の劇団のときからあったよ。

深井:忘れてます(笑)。でも糸井君の詞は本当に詩人のようだし、聞けば聞くほど迫る言葉の力がある。残りますよね。それは凄いなと思って。



作曲もなさっていますよね。

糸井:拙いながらギターを弾いて、あとは鼻歌で作るみたいな感じです。

深井:以前、池袋で「サロメvsヨカナーン」を上演したとき、主題歌を作るって稽古場で言い出したと思ったら、サロメの本をペラペラっとめくって裏で「ふーん」て作って「こんな感じで」みたいな。凄いと思いました。糸井君はもすぐ38歳だけど、その先のことも書けるから凄いなと思います。うちの母親も「なんでこの子は私の気持ちが書けるのかしら」って。

糸井:でもお芝居を作るってそういうことですよね。

深井:私は自分が経験していないことは出来ない。それは下手っていうことなんだけど。

糸井:そんなことないよ。「浴槽船」なんかもよかったよ。

深井:「浴槽船」は東北の震災があった年に糸井君が作って、お風呂は気持ちいいよっていう単純なメッセージなんですけど、そこに祈りみたいなのを込めて作りました。それも私にとっては経験していることなんですよね。だからあんなに明るいけど、お風呂が空を飛んでって…みたいな、夢もあるし切なくもあり。

糸井さんの作品は、基本的に楽しくありながら随所に切なさやいろいろな感情が織り交ぜてあるところが素敵だと思います。

糸井:30代後半になってやっと、楽しくしておくことの重要性を知りました。

深井:何年か前まで笑いの話なんてしなかったのに、最近「どこで笑えますか」っていう話をするよね。「これどこに笑いが入れられる?」って。私たちは多摩美術大学で教えているんですけど、学生たちに「ここで絶対1個は笑いを入れてください」みたいなことを言うんですよ。糸井君ってそんな人だったのかなって。私には「笑うとかそんなことを目的にしなくていいんだ」って言っていたのに、今や笑いが大事だみたいな。

糸井:本当に笑いの専門の方のようにロジックで笑わせることはできませんが、ちょっと笑うムードづくりみたいなのが重要だと思って。

深井:確かにお笑いのプロの方たちとは全然違うけど、劇場の雰囲気という意味では笑いやすいものではあるよね。最近やってて思った。なんでそうなったの?

糸井:やっぱり赤字公演の恐ろしさに気づき始めたんです、僕。(笑)

深井:確かに本当に雰囲気は変わったのかもしれない。でも今のほうがやっていても楽しい。三重での上演は初めてだから、どうなるんだろうね。また一風変わっているしね、今回のお芝居。以前から三重県文化会館は演劇に力を入れているらしいと聞いていて行ってみたいと思っていたけど、三重だけでやるとはね。しかも2日。みんなびっくりしてますよ。

糸井:これもちょっと経緯が変わっていまして。僕がENBUゼミナールという演劇の学校の卒業公演のために書き上げた台本がもとになっています。そのENBUの若者たちの力を借りて作った作品を、今度三重に持っていこうと。登場人物が8人で、ちょうど劇団の俳優も8人いるから。

「ABCDEFGH」というタイトル。ひとりずつA~Hのアルファベットを演じていくのですか?

糸井:男の人が女の人と出会って別れるまでの話なんですけど、それと人類の歴史が混ざっているような感じです。

そもそも、どのような意図があって「妙ージカル」という形態での作品づくりを始められたのでしょう?

糸井:目的があってこの手法を選んだというよりは、偶然の積み重なりでこうなったという感じです。ロックが好きで、でも周りにはミュージシャンじゃなくて演劇をやる人がいて…という偶然の積み重なりから始まって。もちろんその中で、歌を歌うからこそ感動的になる瞬間みたいなものには気づいていきましたし、それがただ単に歌を歌うだけじゃなくて、演劇の形で…うまく言えませんが、どっちがいいとかどっちじゃなきゃだめということではなく、歌も演劇も両方ごちゃごちゃになっている今の感じが非常にしっくりくるし、自然に作れるんです。

ミュージカルのようにプロの歌い手が歌うのではなく、俳優が勢いとか感情を歌で出している。そこでは、メロディや歌詞が非常に大事になりますね。

深井:枡野浩一さんという歌人の方がいるんですけど、その方にも2回ぐらい出ていただいたことがあります。役者じゃないんですけど、舞台に立つと誰よりも素敵だったりするんですよね。言葉に嘘がなかったり、踊れないけどその必要がないというか…。枡野さんが言うには、私たちの劇団には何かわからないけど愛があるそうです。「自分は愛に包まれてお芝居をやっていました」と言ってくれて。私も糸井君の作品をやっていると、何かとても温かい大事なものに包まれている気がするんですよね。お芝居をしているという感じがあまりしなくなるときがあります。みんなで大切なものを持ちながら何かしているという感じ。とても幸せなことだと思います。


5/5 TUESDAY・HOLIDAY
5/6 WEDNESDAY・HOLIDAY

Mゲキ!!!!!セレクション
FUKAIPRODUCE羽衣「ABCDEFGH」

チケット発売中
■会場/三重県文化会館 小ホール
■開演/各日15:00
■料金/全席自由 一般前売¥2,000 25歳以下¥1,000
■お問合せ/三重県文化会館 TEL.059-233-1122
※未就学児入場不可