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「藤山扇治郎」Web 限定インタビュー
取材日:2017.04.14


稀代の喜劇役者・藤山寛美の血を受け継ぐ藤山扇治郎が
松竹新喜劇屈指の名作「親バカ子バカ」の息子役に初挑戦する。
藤山寛美の名を日本中に知らしめた代名詞的キャラクターだけに
入団4年目、30歳を迎えた扇治郎にとっては飛躍のチャンスだ。
奇しくも公演日の5月21日は、亡き寛美の命日。
感慨ひとしおと思いきや、当人は明るく軽妙で、気負いもナシ!?
これは、現代にふさわしい“阿呆役”が新たに誕生する予感―

お爺様の当たり役、命日の公演と、プレッシャーが大きそうですけれど、率直な心境は?

プレッシャーはあまり感じていないんですよ。それより嬉しさの方が大きい。去年は祖父の27回忌でしたが、亡くなった時に僕は3歳だったので、喜劇役者・藤山寛美を覚えていないんです。だから架空の人物のイメージで(笑)、神様みたいな存在。いずれ生で観たことがある人もいなくなってしまうとしたら、僕は敢えて祖父の生きざまを何とかして、なぞりたいですね。

「新・親バカ子バカ」はどんな作品ですか。

この時代にちょうどいい作品じゃないかと思います。昭和34年初演で、最後の上演は昭和49年なんですが、今では少なくなってしまったタイプの芝居なので…。近所づきあいや人情の薄れた現代に、思いやりや感謝など人との関わりを最確認できるはずです。


元の台本とは違い、新作だそうですが、そのポイントは?

薬品会社の社長親子を描いている点は同じなんですが、以前はキャラクターを強調する要素が強かったので、今回は全体の群像を重視した芝居に変わっています。僕が演じる社長の息子も阿呆という見せ方では現代に馴染みにくいため、ちょっとヌケた変わり者の“戦隊オタク”という役柄になっています。オタクの扇一は、家を飛び出してホームレスの人と生活をすることになるんですが、そこで外の人との交流や支え合いの心を体験するんです。一方で、あらためて親の愛情にも気づくという…。楽しんでいただきつつも社会性があり、懐かしんでもらえると同時に新鮮さもある。こういう作品もあるんだなと思っていただけたら嬉しいですね。


新世代の「親バカ子バカ」ですね。

この阿呆役は一生やらないと思っていたんですけどね。祖父も演じていながら迷いがあり、チャレンジだったようなんです。“アホ”と表現していますが、それで傷つく方がいるかもしれないので…。祖父の演じた阿呆役は、愛嬌があって天真爛漫でピュアだったから多くの方に認めていただけた。でも、現代ではいろいろと制約があり難しい時代です。今回のリメイクは、僕が背伸びをせず等身大で演じられるように、お客様に共感してもらえるようにされました。

父親役の渋谷天外さんは看板役者ですが、扇治郎さんにとってどんな方ですか。

お父様である先代(二代目)も祖父と共演なさっていて、心強い存在であるとともに、劇団の代表者なので、いわば勤め先の社長でもあるんですよ(笑)。僕らに任せるところは任せてくださるし、大らかで懐の深い方です。


今回そんな先輩の胸を借りて、ドンとぶつかっていくという…。

ぶつかっていくってまだまだ力不足ですし、それに芝居で“ぶつかり合う”という感覚は違うと思っているんですよ。僕は観客には楽しんでいただいて、「また観に来たい」と思ってもらえるのが理想。そのためには共感が大事になってきます。切磋琢磨はもちろん必要ですけど、かつては藤山寛美をお目当てに来ていただいていましたが現在は、先輩のお力も借りながらアンサンブルの良さ、チームワークをお見せしたいですね。笑いがあって、ホロリとするところもあって、考えさせられるところもある。日常やリアリティを大切にすることでも感銘を生み、共感していただけると思います。

本作との出会いは、役者生活に影響がありますか。

僕は、わざわざ劇場にお越しいただいて、舞台を観ていただけるお客様との“ご縁”を大事にしていきたいんです。ご縁というものは、何物にも代えがたいですからね。祖父との縁、劇団との縁、この取材にしたってご縁ですよね? そういったことと最近強く感じます。

ご縁と言えば、落語の月亭方正さん、日本舞踊の西川鯉之亟さん、西川鯉娘さんも出演なさいますね。

僕も方正さんの出演を聞いた時は驚きました。お忙しいのに芝居にも参加してくださるなんて、名古屋だけの特典ですよ!西川流のおふたりは2年前の名古屋公演に続いてご登場いただきます。名古屋と言えば、西川流ですからね。

名古屋に何か特別な想いはありますか。

祖父が大変お世話になったことは知られていますが、実は曽祖父・藤山秋美のお骨があるのも名古屋なんですよ。曽祖父は名古屋で亡くなって、中村観音(白王寺)に納骨されたそうです。不思議なご縁ですよね。名古屋は芝居を好きな方が多く、目が肥えていらっしゃるので、演者にとっては緊張感があります。反応は控えめでも、どんな作品なのかをしっかり観てくださる印象。京都のお客様とちょっと似ているかもしれません。

最後を飾る「お染風邪久松留守」についても教えてください。

本当に難しいこと抜きで笑えます。ある大工が、働かずしてお金を得ようする話(笑)。題名にある“お染風邪”は当時のコレラのことで、歌舞伎「野崎村」でおなじみのお染久松がシャレで掛かってくる筋書きに…、あまり言うとネタバレになるので、あとは劇場でぜひ!!




5/21 SUNDAY
松竹新喜劇 爆笑公演
〈一〉「新・親バカ子バカ」
〈二〉御目見得口上
〈三〉落語一題
〈四〉御祝儀舞踊
〈五〉「お染風邪久松留守」

チケット発売中
■会場/中日劇場
■開演/14:00
■料金(税込)/A¥6,000 B¥4,000
■お問合せ/中日劇場 TEL.052-263-7171