HOME > 平賀マリカ 歌う生活 > 15「夢やぶれて」の背景を知って

平賀マリカ 歌う生活

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鹿児島の文化ホールのお仕事で、「今回のお客様は友の会の皆さんが多いので、ぜひとも何か、クラシックを1曲お願いできませんか?」と、ホールの方にリクエストされました。うううん、困ったなあ。悩んだ末、ある方が、「割り切って、ポップスとクラシックの境界線にあるジャンルで活躍しているシンガーに注目しては?例えば、サラ・ブライトマンとか、スーザン・ボイルとか」と。そういえば、「夢やぶれて」だったら舞台でのミュージカル「レ・ミゼラブル」で聴いたことがある。と思った私は、アルバムを聴き、確かにいい曲と確信。しかし、物理的にアレンジする時間もなく、そうこうしているうちに、本番の日がやってきてしまいました。実際は、やはり餅は餅屋、ということで、ジャズでも皆さんが親しみやすい、映画音楽や、ディズニーの曲を選曲しましたが、お客様達は大変楽しんで下さり、ロビーではCD売り場が賑わい、沢山の方とのサイン会は嬉しいものでした。暖かいお客様に感謝。しかし、気になるボーダレスな楽曲、「夢やぶれて」。この曲がどの場面で歌われ、どのような背景があるのかを今一度確認したくなり、早速映画を観に行きました。正義をテーマにしたヴィクトル・ユゴーのこの名作は、時代背景の悲惨さと革命に奮い立つ人々のエネルギーが相まって、感動的なミュージカル映画として蘇りました。ストーリーの中でのセリフは全て歌になっていますが、やはりこの曲のように、完璧に音楽として成り立っている歌は、それぞれの場面を強く印象付けます。アン・ハサウエイ扮する小さい子供を持つ若い母親が、子供に食べさせるパンも買えないほどの貧しさに耐えかねて、娼婦に身を落とす場面で、泣きながらこの曲を歌う場面は涙を誘いました。人生を夢見ていたのに私の夢はやぶれた、と歌う。なるほど、共感することもありますが、同じ女性として生まれてきて、こんなにも悲惨な人生もあるものか。生きていくことはいいことばかりではないけれど、私は今の時代に生まれてきてよかった。なんて、胸を撫で下ろしたり、このささやかな幸せを大事にしよう、とか、親に感謝しよう、とか。いつかこの曲を歌う日の為に、この曲の背景を知るための作業で、こんなにも心が揺れてしまいました。楽曲をカバーすることの意味は、このように曲の裏に隠れている背景、これを知ると、ぐっと曲に対しての思いや愛情がでてくるもの。とはっきりわかりました。時々、生徒や後輩のシンガーに「どうしたら、上手くなりますか?」と質問を受けることがあります。私が最近思うのは上手いシンガーは沢山いるけれど、感動させられるシンガーは少ないのでは。と思っています。それには、自分自身が何かに感動しないと。そして感受性高くないと、人々に感動を伝えられないのでは、と思うのです。だから、アドバイスとして「いつもアンテナを張って、いろんなことに感動して、泣いて、怒って、笑って、そうやって心を柔軟にしておけば、表現者として表現力も養えるのではないかしら」と答えます。もちろん、スキルも必要だとは思いますが、音楽とは、楽器はもちろんですが、特に歌は、人間の感情を最も表現しやすいアートだと思っています。私も感性を磨くために心を柔軟にして、アートや人間、旅、いろんなことにまだまだ触れたいと思っています。