HOME > 平賀マリカ 歌う生活 > 10「アーティスト必見の『アーティスト』」

平賀マリカ 歌う生活

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先日、アートに詳しい友人が、「そういえば今年のアカデミー賞をとった“TheArtist”ね、すごく良かった。見た?」実は、これまで何度もアカデミー賞受賞作品を観に行き、その度に落胆していました。どうしてこの作品が?と思うこともしばしば。洋画ファンの私としては、そろそろいいものに出会いたい、と思っていました。とにかく、アートにちょっと口うるさい人が興奮して話すので、さすがに気になりだし、口コミを信じて映画館に行ってみることにしました。噂には、サイレントの白黒映画であり、フランス映画で、ハリウッドの映画界がテーマであると聞いていました。まず、冒頭に「1927」という数字が画面いっぱいに出てきます。この年、まさにアメリカの東海岸のニューヨークでは、デューク・エリントン・オーケストラが、コットンクラブというダンスホールと専属契約をして、華やかに演奏活動を開始した年です。西海岸のハリウッドの映画界ではサイレントからトーキーに進化を遂げる、そんな時期だったのですね。エリントン・オーケストラと共演したばかりの私としては、ちょっと嬉しい時代設定にまず心躍ります。監督のミシェル・アザナヴィシウスの粋な演出により、フランス映画の映像美のセンスが光ります。主演のジャン・デュジャルダンとベレニス・ベジョの好演、そして脇役の愛犬アギーがぐっと脇を固めます。サイレントからトーキーになったがためにスターからどん底の人生を経験するその苦しみは、同じアーティストとして他人事ではない、という現実を見せ付けられ、映画とは思えない状況設定に、胸が締め付けられました。しかし、最後は、ミュージカル俳優として復活を遂げるのです。まさしくハリウッドならではのハッピーエンド。端々に見えるアートも素晴らしいけれど、涙や笑いを誘い、ヒューマニズム溢れるエンディングでもう一度見たい、と思う作品でした。このバランス感、素晴らしかったです。全編の音楽はオリジナルも含め、その時代を感じさせるジャズですから、ベニー・グッドマンの人気曲にそっくり、とか、エリントンのメロディに似ているな、とか端々に感じ、楽しく見ることができました。音楽監督のルドウィック・ブールスもその時代の音楽に相当こだわったな、と感じます。衣装もレトロな雰囲気が素敵でした。フランス映画の結末が暗い、とか、最近のハリウッド映画は3DやCGを駆使したものが多くちょっとストーリーが弱いとか感じていましたから、こんな映画が見たかった。フランス映画とハリウッド映画のいいところ取りはビジネスとしても大成功で、アカデミー候補としてもノーマークだったそうで、アカデミー賞受賞に久々の快哉を叫びました。アートとエンタティメントをどのように融合すべきか、これはいつも私達の課題です。アートを重視すると、オーディエンスに理解されず、また、エンタテイメント性を重視すれば、作品が軽くなる。この映画では、監督のアーティストとしてのこだわりが見る人を魅了する。この辺、この映画で勉強しなければいけませんね。まさに、アーティスト必見、「The Artist」!