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「行定勲」スペシャルインタビュー
取材日:2015.07.01

2001年の「GO」で一躍脚光を浴び、
社会現象にまでなった「世界の中心で、愛をさけぶ」、
第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞した「パレード」ほか
多くのヒット作、傑作を発表してきた映画監督・行定勲。
2016年に向けて「ピンクとグレー」の公開も控えるなか、
演劇のフィールドでも熱い視線を集めています。2007年に初めて舞台を演出。
以来すでに国内外の6作を手掛けてきた行定が、
今度は清水邦夫の名作「タンゴ・冬の終わりに」を演出します。
約30年前に書かれた同作は、巨匠・蜷川幸雄の演出でも広く知られ、
映画館を舞台にしていることからも、行定にとって意義深い挑戦になるはずです。
作品の構想を語る、真摯な言葉の数々に早くも心をつかまれてしまいました。

映画と演劇の両方が詰まっている戯曲なので、行定さんが演出するにはぴったりだと思うのですが、ご自身ではどうお感じですか?

蜷川さんの再演版も観ていますし、すごく好きな作品でした。こういうラブストーリーは、今の世の中には生まれないだろうなとも思ったりして。映画人としては映画館という場所から劇空間が立ち上がってくるという点でもひかれますよね。ただ、その映画館は閉館を目前にしてるので、「さらば、映画」と言うべき作品。なぜ映画人がやらなかったんだろう、こういう映画を作りたかったとも思いましたけど、デジタル撮影時代には合わない趣向だから、むしろ映画には無理だと感じます。そういった意味で、今の僕の心境に近い、映画人である自分の代弁をしてくれる作品でもありますね。


俳優を引退して実家の寂れた映画館に隠棲する主人公・清村盛(きよむら・せい)、妻ぎん、盛を追ってきた若い女優・水尾、水尾の夫・連。この男女4人の複雑な相互関係や苦悩が軸になる物語です。しかも盛は、どこかでカムバックの声を期待している様子があり、やがて正気を失っていくという…。

そもそも盛の狂い方は、本当なのか嘘なのか。彼は面倒くさくもありチャーミングでもある人で、狂騒的。それは2015年には見当たらない空気なので、どう存在させるかが問題です。一方で、映画館という小屋自体が主役なんじゃないかとも思えるんです。そこは彼にとってステージでもあり、観客の映画を観て沸く歓声が地縛霊のように存在しているんです。盛にはまた、ミシマ(三島由紀夫)的な匂いも感じるんですよね。1970年に市ヶ谷駐屯地で行ったミシマの演説は、ヘリコプターの音にかき消されて、言ってることがほとんど伝わっていないですけど、それが例えば、盛の引退宣言と重なるんです。


「タンゴ~」は、「孔雀」ほか三島の著作も引用文献とされているので、イメージの連鎖が面白いですね。

70年から80年にかけての空気が描かせた物語だから、そんな風に想うは必然だと思います。今の若者たちが知らない異様な空気を描くことが大事だとも思っていますが、理解できないと言わせたくないです。耽美的な清水邦男の言葉を届けることが一番大切だと思っています。

そんな盛に配された三上博史さんはハマリ役の予感がします。他にも、ぎんを演じる神野三鈴さん、水尾の倉科カナさん、連のユースケ・サンタマリアさん、出演する方々みなさん、実力者であり魅力的です。

映画でも80%はキャストで決まると思っているので、かなりいいキャストが実現しました。蜷川版の呪縛から解き放たれたいと思っていたからなるべく前作から離れたキャスティングにしたかった。「タンゴ~」は清水さんのホンの中でも愛憎とか虚栄心が人物に反映されていてわかりやすい。だから、現在の自分たちが直面しない設定であっても伝わると思います。だから、蜷川版や当時の時代の空気に寄り添おうとはせずに、新しい文脈で表現すればいいんじゃないかと考えています。


喜劇的だったりメロドラマ的な側面もあり、上演の仕方によって印象の変わる手強い作品だけに、シンプルに真っ直ぐ戯曲の言葉と向き合うということですね。

「タンゴ~」は、ミシマの事件や安保闘争の終焉から10年ぐらいしか経っていない80年代といういちばん中途半端な時代に書かれている作品です。かつての空気を引きずりながら、時代の総括をしきれていないというか…。そこをふまえた上でそこに描かれた愛憎劇が現代の観客の実感するところに落ちないといけないわけですが、今はと言えば、日本人は何事にも無関心。その切なさややるせなさは微塵もない。「タンゴ~」は、ある時代を作った衝撃の戯曲なので、いっそ現代的に壊してしまって自分も狂ってしまえばと思うんですけれど、清水さんを実直に信奉している僕にはできない。映画で言えば、もはやクロサワ(黒澤明)やナルセ(成瀬巳喜男)をリメイクする気持ちですよ。かなりハードルの高いところに挑戦しているから、海の藻くずにされるかも…。でも今は、海の藻くずもかっこいいと思えるんです。「タンゴ~」を通じて何回も想像したのは、墜落した飛行機の救助に向かうレスキュー隊のことなんですよね。「きっと誰も助かりはしない」と思いながら現場に着いて、もしも赤ん坊の産声が聞こえてきたら、事態は一変しますよね?その瞬間に絶望が奇跡に変わる。そういうことを望んでいる作品なんじゃないかと。今や僕らは木っ端微塵になった世の中にいると思うけれど、それでも「何人かでも生存者がいたら…」という想いで「タンゴ~」の劇世界を立ち上げたいんです。



10/16 FRIDAY
10/17 SATURDAY

「タンゴ・冬の終わりに」
チケット発売中
■会場/東海市芸術劇場大ホール(名鉄「太田川」駅直結の新劇場)
■開演/10月16日(金)19:00 10月17日(土)13:00
■料金(税込)/S¥9,500 A¥7,500
■お問合せ/メ~テレ事業部 TEL.052-331-9966
※未就学児入場不可