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「吉田鋼太郎」スペシャルインタビュー
取材日:2020.12.23

1970年に英国で発表された『スルース~探偵~』。
ブロードウェイ版はトニー賞を受賞し、2度の映画化も大いに話題となりました。
その傑作ミステリーが、2021年に上演されます。
登場するのは、著名な推理作家と、その妻の浮気相手だという男のみ。
演じるのは吉田鋼太郎と柿澤勇人です。
演出も手がける吉田はこの濃密な心理サスペンス劇を
どう仕上げようとしているのでしょう。
作品への思いを語る言葉と表情に、芝居への情熱がほとばしっていました。

稽古も後半に差し掛かっているところだそうですが、今どんな手応えを感じておられますか。

二人芝居は初めてなんですが、ずっと二人だけで、場面が変わることもないので、本当に集中できるんです。演出家としては雑念がなくなる。だから、二人芝居って大変だろうなと思っていたんですけども、むしろ楽しさと充実感のほうが勝っているなと感じていますね。ただ、演出として客観的に見ていることのほうが多くて、俳優としてちゃんと役を深めていくのはこれからです。


では、演出の部分をお聞きすると、この芝居の肝はどこで、何を大事に作っていこうとされているのでしょう。

これはすごく良くできた芝居なんですよ。二人の登場人物が互いに騙し騙され、それに観客も騙され、最後にはちょっと驚くようなドラマチックな結末が待っている。だから、本に書かれた通りに演じていけばそれだけですばらしい芝居になると思うんです。でも、それだけ良く書かれた芝居だからこそ、登場人物の細かい心理、二人の間に流れる緊張感、そういったものをじっくり細かく汲み取って、最大限にドラマチックになるように表現していかなきゃいけない。そこが今稽古で一番大変なところですね。


ご自身が演じられるアンドリューと柿澤勇人さんが演じられるマイロ、それぞれにどういうところがポイントになっていきますか。

マイロは非常に繊細で、人間の愛や心を大事にする好青年。対するアンドリューは推理小説家で、生身の人間よりもフィクションの世界を愛している、ある意味精神がぶっ飛んじゃっている人。だから彼の奥さんはマイロのほうにいってしまったんだと思うんですけど、そんな求めているものがまったく違う二人の対決が見どころになると思いますね。愛の男が勝つのかフィクションの男が勝つのか。また柿澤くんは、マイロと同じく愛にあふれたナイーブな青年なので、随所にその魅力が出ていますし。同時に彼はものすごいマグマを秘めた人でもあるので、1幕でアンドリューにやられっぱなしだったマイロが復讐に走る2幕では、すさまじい狂犬っぷりも(笑)、見られると思います。


上演が発表された際に、「今なぜその芝居を選ぶのかはとりあえず置いておいてただやりたい」というようなコメントを出しておられました。確かに観客も、この二人の対決にただただのめり込んでいけそうな作品です。

そう思います。決してハッピーエンドではなく、幸せな気持ちになるような芝居ではないけれども、観終わったときに、「面白かった!」「こんな世界もあるんだ!」と思ってもらえる芝居になると思うんです。芝居をやるとき必ず、「今なぜ」という問いが頭をよぎりますが、いい芝居なら、それは関係ないような気がするんですよ。大変な状況になっている今だからこそなおさら、ただ芝居をやりたい、いい芝居を、と思いますね。

鋼太郎さんにとってのいい芝居とは?

難しい質問ですけど、一生懸命さが伝わってくる芝居がいいですね。俳優さんに限らずその後ろにいるスタッフさんも、とにかく一生懸命やっているのが僕は好きです。

戯曲の段階で面白いと思う条件はありますか。

たとえばシェイクスピアでも、読んで面白いと思ったことは一度もない、と言っても過言ではないんです。いつも役者が演じているのを観て初めて、あーこういうことだったのかと思うんですね。今回の作品もそうです。そのダイナミックさはやってみてわかるというか。しかも二人ともセリフが膨大なので、セリフの意味やお互いの心の流れをしっかり確認するために3週間くらい本読みをやったんですけど。何が正解かを探すのに時間がかかった分、二人が会う冒頭部分からワクワクしながら観ていただけると思います。やっている僕らでさえ面白いんですから(笑)。


『おっさんずラブ』や大河ドラマ『麒麟がくる』など映像でのご活躍も言うまでもありませんが、こうして立ち続けておられる舞台の魅力を改めて教えてください。

役者って基本的に、自分を、自分のやることを人に見てほしいという欲求の塊の人たちだと思うんです。その欲求が一番満たされるのがやはり舞台なんですよね。目の前にお客さんがいて反応してくれるわけですから。それに、映像ではカメラが自分に寄ってくれますけど、舞台では自分でお客さんに寄っていかないと見てもらえない。ほかの力を借りずに自分の身体だけで演じなきゃいけない。それは大変なことだけれども、それができたとき、俳優としての一番の快感につながるんじゃないかと思いますね。

今回は鋼太郎さんにとっても久しぶりの舞台となります。このコロナ禍の中で上演することについての思いをぜひお聞かせください。

芝居をやれるのが当然ではなくなってしまった今現在、芝居を届けたい気持ちはより強くなっています。お客様のほうも、またいつ観られなくなるかわからないから目に焼き付けておこうと思って観に来られるのではないかと。その見せたい観たいという気持ちを以前より大事にして、本当に心を込めて大切に作っていきたいということを切に思っています。僕自身は名古屋にお邪魔するのが久しぶりですし。名古屋のお客様にお会いするのを楽しみにしています。

◎Interview&Text/大内弓子
◎Photo/安田慎一



2/19FRIDAY~21SUNDAY
Sky presents「スルース ~探偵~」
■会場/ウィンクあいち大ホール
■開演/2月19日(金)19:00 2月20日(土)・21日(日)13:00
■料金(税込)/全席指定 ¥9,800
■お問合せ/中京テレビ事業 TEL.052-586-4477
※未就学児入場不可