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「妻夫木聡」スペシャルインタビュー
取材日:2019.04.02

ウディ・アレンの傑作映画『カイロの紫のバラ』からインスパイアされた
ケラリーノ・サンドロヴィッチ台本・演出の
『キネマと恋人』が三年ぶりに再演されます。
KERA版は昭和11年の架空の日本の港町「梟島」を舞台に設定。
つらい生活の中、映画鑑賞が生き甲斐の
ハルコ(緒川たまき)が観ているスクリーンの中から、
キャラクターの一人「間坂寅蔵」が現実世界へと飛び出してきて―。
寅蔵を演じた役者「高木高助」も交えて起こる騒動を描く
このビターなロマンティック・コメディで、
「高木」と「寅蔵」の二役を演じる妻夫木聡に抱負を聞きました。


作品の初演は2016年。三年ぶりの待望の再演となります。

同じキャスト、スタッフで再演ができるのは本当にうれしいですね。初演のときから、KERAさんも含め、役者もみんな、再演したいねと語り合っていて。初演のとき、僕はNODA・MAP以外の作品で舞台に立ったことがなかった状態だったので、その新鮮さというものもありましたし、とにかくみんな、仲が良かったんですよね。KERAさんがそういう土壌を作ってくださったということもあるんですけれども、みんな、同じ目線、立ち位置で、どうしていこうかということを話し合いながら作っていった舞台でした。だからこそすごく一体感があって、とてもいい現場だったんです。

初演の際、KERAさんの演出を初めて受けられて、いかがでしたか。

KERAさんは、観る舞台観る舞台、新しいことに挑戦されているイメージがありましたが、この作品では特に、もともと映画だったものを舞台にして、映画館で流れているという設定の映像と一緒に芝居をしたりするという、破天荒なことを思いつかれているんですよね。実際ご一緒してみて感じたのは、ただおもしろいというだけにしないのがKERAさんのすごいところだなと。演劇って、その本番が終わったら終わりなんですよね。基本、公演が終わったらもう二度と起こり得ないものであって、そういった、本番の舞台の中で生きていられる喜びというものを特に感じた作品でした。僕たち役者だけではなくて、観ているお客さんも夢の中にいるような、別世界に連れて行ってくれるような、そんな時間、空間を作ってくださる演劇だったなという印象があります。客席が非常に近い劇場でやっていたということもあり、お客さんもキャストや舞台装置の一部のように感じられる瞬間があって。あの魅力は、本番の舞台でしか味わえないものですよね。

原作である映画との違いをどのように感じていらっしゃいますか。

原作は原作でせつない部分があったんですけれど、舞台の方はより哀愁といったものが余韻として残る作品なのかなと思います。“それでも生きていく”という感じが、僕はすごく好きで。登場人物みんなに哀愁があって、その先の人生までも観てみたくなるような、登場人物みんなを愛せるような群像劇になっているように思います。映画の中のキャラクターが現実に出てきてしまうというファンタジックな状況があるので、登場人物の気持ちになりやすい作品ということもあるのかもしれませんね。僕は、舞台でも映像でも、お客さんの中で物語が未来永劫続いていったらいいなと思っていて。…あの人はこの先こうなって行くのかな…なんて、思っていただけるだけで幸せですよね。



再演にあたって、改めて二役をどう演じたいですか。

初演の際は、稽古が始まったとき、台本が10ページくらいしかなかったんですよね(笑)。稽古をやりながら台本ができていったので、どんな人物になるか、稽古をしながらつかんでいった感じで。今回は台本がすでにあるので、初演の演技をなぞらないようにして、より人間を掘り下げて演じたいですね。役柄の背景がお客さんにじわっと伝わるようにしたいなと思っています。初演のときは、二役とも、昭和という時代に、ちょっとした幸せに喜びを感じて一日一日を一生懸命に生きていた純粋さみたいなものを感じて演じていました。高木は一見嫌な奴なんですけれども、芝居を純粋に愛している人間だし、そんな彼だからこそ寅蔵という分身を生み出せているんですよね。

妻夫木さんにとって、自分が演じた役とはどのような存在ですか。

これまで演じてきた役は、すべて、自分の子供のようなものかな。愛し方がそれぞれに違う、子供のような存在ですね。

そのとき演じている役を日常に引きずったりは?

しょっちゅうありますね。一番ひどかったのは映画『悪人』のときですかね。どう笑っていいかもわからなくなるくらいでしたから。それ以来、役との距離を気にするようにして、今では、前よりはうまくつきあえるようになっていると思いますけれども。役に引っ張られてナーバスになっているときもたくさんありますし、マネージャーにいっぱい迷惑をかけていると思います(笑)。


演じた役のイメージに振り回されることは?

演じた役のイメージで見られてしまうのは、ある意味しかたのないことですよね。『悪人』を撮影しているとき、金髪にして、役を引きずって過ごしていたんですが、それでも、直前に出演していた大河ドラマ『天地人』の役柄から「(直江)兼続さん」と町でおばあちゃんに呼ばれたことがあって、そのときはちょっとびっくりしました。基本、役者って、見ている方にとって、演じた役の印象で残ってしまうことが多いと思うんです。そのイメージを裏切ることがいいことなのか悪いことなのかわからないですけれども、僕自身はあまりそういうイメージは意識しないようにしています。

今回、東京公演を皮切りに、ツアー公演も行われます。

再演するなら旅公演も絶対にセットでと思っていたので、今回、名古屋も含めさまざまな都市で公演できることが本当にうれしいです。日本の架空の港町で語られる架空の方言が出てくる作品で、地方色が一つの特色となっているので、初演のときの旅公演でも感じたことなんですが、どこに行っても愛される作品だと思っています。

◎Interview&Text/藤本真由(舞台評論家)
◎Photo/安田慎一



7/12 FRIDAY〜15 MONDAY・HOLIDAY
世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#009
舞台「キネマと恋人」

チケット発売中
◎台本・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ
◎出演/妻夫木聡、緒川たまき、ともさかりえほか
■会場/名古屋市芸術創造センター
■開演/7月12日(金)18:30
7月13日(土)・14日(日)13:00、18:00
7月15日(月・祝)13:00
■料金(税込)/全席指定 ¥8,500
■お問合せ/中京テレビ事業 TEL.052-588-4477(平日10:00〜17:00)
※未就学児入場不可
◎共催/名古屋市文化振興事業団(名古屋市芸術創造センター)