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「佐藤隆太」スペシャルインタビュー
取材日:2025.07.11


脚本をピンク地底人3号、
演出を栗山民也が務める舞台『明日を落としても』は、
阪神・淡路大震災から30年となる2025年と発災当時の1995年を巡る、
老舗旅館を舞台にした神戸の「あの時」の物語。
主演の佐藤隆太は、
「今、舞台に参加したいという思いが一層強くなっている」と明かす。


演じられる老舗旅館の社長・桐野雄介という人物は、どんなキャラクターでしょうか。

1995年当時の雄介は、何かに熱中することもなく、どこかふわふわとした25歳。そんな彼が、牧島輝くん演じる17歳の神崎ひかると出会い、ボクシングを通して真正面から向き合うことで、少しずつ前に進む力を取り戻していきます。物語では震災から30年後、55歳になった雄介も描かれます。25歳と55歳の彼をどう表現するのか、僕も今から楽しみにしているところです。

この物語のどういったところに惹かれましたか?

一人の人間が抱える痛みや傷に人生をかけて向き合っていく姿に心を打たれました。観客の皆様にも、ご自分の人生と照らし合わせて共感してもらえるではないかなと思います。静かに進む会話劇の中に、じんわりと心に染み入るような温かさがあり、素敵な作品だなと感じています。何より、栗山民也さんとまたご一緒できることがとても嬉しいです。

7年前、2018年に舞台「アンナ・クリスティ」で初めて栗山さんの演出を受けられました。そのご経験は、演劇や芝居に対して何か変化をもたらしましたか?

言葉にするのは難しいのですが…、役ではありますが、その人間の根底からセリフを放つ感覚をより大事にしたいというか、その役が放つエネルギー、生命力、そういったものをさらけ出して舞台に立つことを教わったように思います。栗山さんはそんなことを教えたつもりはないとおっしゃるかもしれませんが、僕は「アンナ・クリスティ」で演じたマット・バーク(篠原涼子演じるアンナ・クリスティに一目惚れする人物)というキャラクターや稽古場での時間から、そういったことを改めて強く思ったことを覚えています。

佐藤さんは映像作品も多く出演されていますが、舞台で演じることについて特別に意識されていることはありますか?

あまり意識はしないようにしています。ひとつの役を生きる、という点では基本的に舞台でも映像でもやるべきことは同じだと思っていて。あとはそれを見ていただいた演出家に委ねる部分が大きいです。そんな風にあえてシンプルに考えているというか。舞台という場所、お芝居をしている時間がとにかく好きです。映像作品も大好きですが、完成した作品を届けるという点では、どうしても一方通行になってしまいますよね。舞台は“生”のやり取りで、同じ芝居でも日々変化がある。それはその時に会場に集まってくださったお客様から発せられるエネルギーにも影響を受けていて、みんなで本番を作り上げているからで。双方通行のような感覚ですよね。そのライブ感がたまらなく好きなんです。自分が舞台上で演じる時も、観客として観に行く時も、すごく贅沢で豊かな時間だなと感じます。コロナ禍を経験して、なおさらそのありがたみを強く感じるようになりました。今はより一層、舞台に立ちたいという思いが強くなっています。


幕が下りると同時にその役も消えていくという儚さも、哀愁があるといいますか、何とも言えない寂しさを感じます。

□おっしゃる通りで、毎作品、大千穐楽のたびに「このセリフを言うのも今日が最後なんだな」と舞台上で意識しちゃうんですよね。こんなことを言うのは恥ずかしいですが、セリフを言った瞬間に、ファ〜って目の前で消えていく感覚があるんです。だから大千穐楽では「今まで何回も言ってきたけど、これが最後だから噛み締めて言おう」と好きなセリフに対して思うのですが、力みすぎちゃって噛む、みたいな(苦笑)。きれいに消えず、ぐしゃぐしゃってなって消えてゆく…そんな悔しい思いをすることもありますが、それも含めて舞台は本当に面白いです。

まさにライブですね。

あと、毎回、同じことをやりますが、その中で新しいものを見つけることも楽しみの一つです。

というのは?

本番の舞台上で、僕たちのエネルギーになるような新しいものを拾っていくというか…。まあいいや、照れくさいからこの話はやめよう(笑)。

そのお話、ぜひ聞きたいですね(笑)。

……舞台にパッと新しい花が咲くような感じです。稽古場やそれまでの本番で咲かなかったその花を見つけて摘み取ることで、また新鮮な気持ちで芝居を続けられるというか。どんなに細やかなことであっても、その日起こった良い変化を見逃さず、反応することで、勢いが増してゆく感覚。これも日々変化がある舞台だからこそですよね。

兵庫県立芸術文化センターには2024年の舞台「『GOOD』-善き人-」で初めて出演されましたが、ホールの印象はいかがでしたか?

ほんとに素敵な劇場です。音の響きもすごく良くて、客席との距離感もちょうどいい。包み込まれるような雰囲気があって、自然と気持ちも乗ってくるんですよね。舞台に立った瞬間「ひとつになれる」と感じられる劇場は、本当にワクワクします。

◎Interview&Text/岩本和子
◎Photo/来間孝司



10/11 SATURDAY~16 THURSDAY
兵庫県立芸術文化センター開館20周年記念公演
「明日を落としても」

■会場/兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■開演/10月11日(土)16:00
10月12日(日)~16日(木)13:00 ※14日(火)休演
■料金(税込)/全席指定 一般¥8,500 U-25¥2,500
■お問合せ/芸術文化センターチケットオフィス TEL.0798-68-0255
(10:00~17:00 月曜休、祝日の場合は翌日)