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「竜星 涼」スペシャルインタビュー
取材日:2020.08.25

連続テレビ小説「ひよっこ」、
「アンナチュラル」、「テセウスの船」など話題のドラマをはじめ、
映画や舞台で多彩な役柄を演じ分ける実力派、竜星涼。
デビュー10周年を迎える今年は、出演作が目白押しです。
中でも新たな挑戦といえる作品が、
9月4日公開の映画「リスタートはただいまのあとで」。
古川雄輝とのダブル主演で、男性同士のピュアなラブストーリーを綴ります。
役へのアプローチやコロナ禍以前の地方ロケの様子、
少しずつ動き出したエンターテインメントシーンの真ん中で今、
俳優として感じていることなど、
インタビューを通して見えてきた最新の竜星涼を届けます。


映画公開に先がけ、観客を前にした舞台挨拶がおこなわれました。参加なさっていかがでしたか?

こうした状況の中、多くの方が映画館に足を運んでくださったのは本当にありがたかったです。もちろん皆さんマスクをなさっていて目元しかわからなかったけど、嬉しそうな表情で。僕たちのような仕事をしている者にとって、劇場に来てくれる人たちの熱いまなざしや拍手が大きな力になるんだと改めて実感しました。

この作品に最初に触れたときは、どんなことをお感じになりましたか?

原作のコミックも読ませていただいて、とても素敵なラブストーリーだなと思いました。枠組としてはBLというジャンルに入ると思いますが、そうした枠を越えて、人が人を好きになる過程をとても丁寧に描きながら、家族愛や若者の成長物語も盛り込まれていて。そういう人間ドラマをしっかり作っていこうという意志を脚本からも感じて、「参加したい!」という気持ちになりました。


近年、多様な性をモチーフにした作品が世界中で増えています。こうした流れを俳優としてどう捉えていらっしゃいますか?

僕もいろいろな作品を観ます。とても美しかったり、より繊細なテーマを扱っていたり、芸術性が高いものだったり。中でも多いのは、さまざまな壁によって生まれる登場人物たちの葛藤を描くものでしょうか。今回の作品は、そこに至る以前の、人を好きになるということを描いたものですが、性別を越えて人間同士が惹かれ合い助け合いながら成長していくことが当たり前の世の中になっていくといいですよね。日本でもこうした作品が増えていることは、世界とつながる一歩なのかなと思っています。

竜星さんが演じた大和は、一見、明るく人懐こいけれど実は複雑なバックボーンを持つ青年です。難しい役だったのではないでしょうか?

そうですね。どんな役でも、それまでの自分の経験にないことを想像して作り上げていきますが、今回はより難しかったかもしれません。彼が歩んできた道をイマジネーションで分析し自分なりに作り込んでいくという作業に、より時間をかけたんです。撮影に入る前にそれをきっちりやっておくことが、大和という人物の質や深みにつながると思いました。

具体的にはどんな作業をなさるのですか?

人物のプロフィールみたいなものを想定して、いろいろなことを簡潔に書き出していきます。そこに具体的なことを肉付けしながら、細かい部分をさらに掘り下げていくという感じですかね。その作業は楽しいけれど難しいことでもあります。それに、監督が考えている方向性と一致するかどうかもわからない。今回は現場で本当に自由にやらせてもらったので、僕が用意していったものと監督が考えていらっしゃったものが一致していたんじゃないかなと思っています。


相手役の古川雄輝さんとの共演はいかがでしたか?

同性同士のラブストーリーだからこそ、ふたりの心の変化やそれぞれが抱く小さな葛藤みたいなものを、繊細に丁寧に演じたかったんです。僕と古川さんは、性格もまったく違うタイプなので、最初はちぐはぐな光臣と大和の関係性も自然に描けたんじゃないかと思います。

キスシーンなども過剰な演出がなく、ナチュラルな雰囲気が素敵でした。

古川さんはきっと、自分の中にカメラを持っているんだと思います。自分を俯瞰して客観的に見て、ベストなアングルを頭の中で描きながら演じているんじゃないかと。それに、監督とよく話し合ってました。クールな印象ですけど、すごく情熱的な方だと思いました。

長野県でのロケ中は、地元の方とも交流なさったそうですね。

僕、ひとりであちこち行くんですよ。特に地方での撮影中は。今年の1月に2週間ほど長野に滞在していたのですが、撮影が終わるとその日に食事する店を探して歩いていました。たまたま入った店の大将と仲良くなって、また別のお店を紹介してもらったり。で、いつの間にかおじちゃんたちに囲まれながら一緒に飲んでるという。大和は田舎育ちで地域に根づいている人物だから、まずは地元の雰囲気を知らなきゃ、という理由をつけていました(笑)。泊まっていたのが温泉街だったので、おいしい店がたくさんあったんですよ。何代も続いている割烹料理屋とか焼き鳥屋とか。いろいろ食べましたけど、やっぱり馬刺しがおいしかったですね。信州の馬刺しは脂身が少なくて身が引き締まっていて、僕は好きなんです。お店の方も地元のお客さんもみんな優しくて、頼んでないのにいろんなものがどんどん出てきて(笑)。撮影が終わって帰るときは寂しくて、最後に1軒ずつお店を回って挨拶しました。「また来るね」って。人とつながることの温かさを実感した現場でしたね。

映画では、田舎町の風景や長野の自然の美しさも印象的でした。

撮影していたのは寒い時期だったので、空気がすごく澄んで、空の色もとても美しかったんです。出来上がった映像を見て、そういうものがスクリーンを通して香り出てくるように感じました。映画館だからこそ楽しめる映像だと思います。旅をした気分になったり、時がゆっくり進むような体験をしてもらえる映画になったんじゃないかなと思います。そして、僕史上一番かわいらしい竜星涼がいると思うので(笑)、ぜひ楽しみに観てください。

◎Interview&Text/稲葉敦子 ◎Photo/安田慎一



センチュリーシネマほか、全国公開中
「リスタートはただいまのあとで」

◎出演/古川雄輝、竜星涼、村川絵梨、佐野岳、中島ひろ子、螢雪次郎、甲本雅裕
◎監督/井上竜太 ◎脚本/佐藤久美子
◎原作/ココミ著書「リスタートはただいまのあとで」(プランタン出版刊)