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「大竹しのぶ」スペシャルインタビュー
取材日:2022.09.20


「誰が選んでくれたのでもない、自分で選んで歩き出した道ですもの…。」
の名台詞と共に故杉村春子が947回にわたり、
生涯を捧げて演じ続けた不朽の名作『女の一生』。
大竹しのぶが、2020年、新演出で演じた初演は多くの観客の心を打った。
そしてこの秋、京都南座という大舞台での再演が決定。
故杉村春子の数々の当り役を演じてきた大竹しのぶにとって
この戯曲を演じるということ、
そして盟友でもある俳優、段田安則による演出について語ってもらった。 


大竹さんにとっては意外にもはじめての京都南座への出演ということですが…。

京都に来ることがあると、あぁここが南座なのねっていつも思いながら見上げていました。歌舞伎の観客として何度も来ました。そして今作で、その伝統ある舞台に立てるのは本当にうれしいです。本来なら二年前に実現するはずだったんですが、コロナ禍によって延期が続き、ようやくこの秋に実現することが出来るのもあって二重の嬉しさです。今から京都の町でなにをしようかとわくわくしているところです。

数多くの劇場を経験されている大竹さんにとっても特別な場所ということですか?

代々の歌舞伎役者の方たちにとっても特別な存在で、皆さんから愛している劇場ですから、それはもう特別です。“劇場の塵にも先人の魂が宿っている”と坂東玉三郎さんが仰っていましたが、まさにそういう重みを感じます。私にとって特別な劇場で、この作品を演じることが出来るのが本当に嬉しいですね。


この『女の一生』を947回にわたって演じ続けた故杉村春子さんへの思い出をお聞かせください。

杉村さんの晩年に、あるドラマでご一緒しました。もう入院の直前で、立っているのもつらいという状態でいらしたんですが、本番となると背筋がピンとして、しっかり演技される凄みのある役者さんでした。もう体調がお悪いのに、どうしてもお話をしたくて、ずっと杉村さんの側に居ました。「あなたはいいわねぇ、自由な時代に生まれて。わたしの時代には憲兵が客席に立っていて途中で公演を中止させられたりしたのよ」という言葉が印象的です。そう、この『女の一生』の初演が昭和20年ですから、そういう時代に幕が開いたんだなと感慨深かったですね。それでもこの作品を演じようとした杉村さんの役者魂に壮絶な強さを感じました。

そんな杉村さんの当たり役といわれた今作の主人公、布引けいを演じるにあたって、どんなことを思われたのですか?

杉村さんと同じようには演じられないですし、真似はしまいとは思います。杉村春子の布引けいは唯一無二のもの。だから私は、私なりの布引けいをどうやって創っていくかなんだと思っています。とにかく一生懸命にやるしかない。

70年もの間、観客を魅了してきた『女の一生』という演目は、どんなところが魅力的だと思われますか?

そもそも、圧倒的に森本薫さんの戯曲が魅力的だからだと思います。だから杉村さんも役者として魅了された。ほんとうに素敵なセリフがいっぱい散りばめられているんです。だから観客にも鮮明に心に残るんだと思います。良い戯曲だからこそ、役者としては何回やっても納得がいかない。そんな杉村さんの気持ちは、同じ女優として私にもわかるんです。10代から50代の人間の一生を、ひとりの女優が演じ切るというところにも、すごくやり甲斐を感じていますしね。



大竹さんの脇を固める俳優陣も名優揃いですが、現場はどんな雰囲気でしょうか?

キャストのみんなは、昔からよく知っている人たちばかりなので、芝居に関して言いたいことが言い合えて、とても楽しい雰囲気の現場です。

段田安則さんの演出は、役者にとってどんな印象でしょうか?

段田さんは、本当に演劇がお好きで、私にとって役者同士でいろんな話ができる数少ない仲間です。今作でも意見をいろいろ言わせてもらって、それを真摯に聞いてくださって、お互いに信頼し合った中から演出が決まっていきます。段田さんご自身も演じる方なので、演技に関してはとても細かいです。それと、彼がこの戯曲に惚れ込んでいるのがよくわかるんです。稽古が終わると、いつも『いい脚本だなぁ』って帰っていきますからね(笑)。

1945年の初演という日本の社会が戦争という特殊な時代があったわけですが、今、この時代に今作を演じることの意義をどうお考えですか?

この作品の良さは、観る方の年代によって変わってくるとは思います。ここを観て欲しいというのは私にはありません。人生において一所懸命に生きるという、人間にとって普遍的なテーマは一貫していますから、そこはどの年代の方にも感じていただきたいし、演じる側として伝えるべきことだと思います。登場人物たちが必死に生き抜く姿を見て欲しいです。役者たちが40年という歳月を必死に演じているところをぜひ観て欲しい。誰もが経験する人生の機微を本当に細かく描いている戯曲なので、そこは、どなたにも共感しいただける部分が多いんじゃないでしょうか。見どころはたくさんありますから、ぜひ南座にお運びください。

◎Interview&Text/石原 卓
◎Photo/安田慎一



10/27 THURSDAY〜11/8 TUESDAY
「女の一生」
◎作/森本薫、補綴/戌井市郎 ◎演出/段田安則
◎出演/大竹しのぶ、高橋克実、銀粉蝶、西尾まり、森田涼花
大和田美帆、林翔太、段田安則、風間杜夫 
◎制作/松竹
■開演/10月27日(木)・28日(金)・30日(日)・
11月1日(火)・4日(金)・6日(日)・8日(火)11:00
10月29日(土)・31日(月)・11月3日(木・祝)・5日(土)・7日(月)11:00、16:00
※11月2日(水)は休演日
■会場/南座 
■料金(税込)/全席指定 一等席¥13,000 二等席¥7,000 三等席¥4,000 特別席¥14,000 
■お問合せ/チケットホン松竹 TEL.0570-000-489