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「大野和士」スペシャルインタビュー
取材日:2016.12.06

これまでにも欧州の様々な名門オーケストラ/歌劇場で
指揮者や芸術監督として活躍し、
現在はフランス国立リヨン歌劇場首席指揮者や
バルセロナ響音楽監督などを務めている 。
国内でも昨年から新国立劇場のオペラ部門芸術参与に就任し、
来年9月からは同芸術監督に内定していますが、音楽監督として就任2年目である
東京都交響楽団(以下、都響)との関係もより深まってきました。
3月にはその都響を率いて、愛知県芸術劇場コンサートホールで
オール・ブラームス・プログラムの特別公演が実現します。

いきなりぶしつけですが、マエストロは名古屋がお好きとか?

ドラゴンズ・ファンですから、それはもう(笑)。それに若い頃は、名古屋のいろいろな学生オーケストラに招待されて指揮を務め、演奏の後で一緒にお酒を飲んだり、同じ世代で親交を深めました。その中には後に欧州でばったり会ったりして、今でもつきあいが続いている方もいます。なので、昔から縁がありますね。今ではホテルの部屋から目をつぶって歩いても「いば昇」にひつまぶしを食べに行けますよ(笑)。これまでに何度も、コンサートや来日オペラ公演で訪れていて、いつも熱心に集中して聴いて下さる聴衆の皆さんに感謝しています。

50年以上の歴史がある都響で音楽監督に就いて2年目、2016年度のシーズン・プログラムももう終盤にさしかかってきました。

今年度も都響にとって大切なレパートリーであるマーラーを中心にとりあげて、特に今季は、交響曲について都響と関係の深い様々な指揮者に「振り分けてもらう」よう企画しました。これまでのように同じ指揮者に全交響曲を通して振ってもらうのを聴くのとはまた違う魅力を楽しんでもらえたら、と。一方で、シェーンベルクやベルク、ブリテン、スクリャービンなど、マーラー周辺の作曲家の作品にもこだわりました。マーラーという作曲家は指揮者として古典であるモーツァルトの優れた解釈者であると同時に、現代の音楽にも繋がる来たるべき時代の人でもあった、いわば音楽史上のキーパーソンですから。


それぞれのプログラムでは、例えばマーラーの交響曲第4番とベルクのアルテンベルク歌曲集など、組み合わせが興味深いです。

そうですね。ベルクは10代の頃、マーラーの指揮する第4番を聴いて感動して、楽屋を訊ねていって指揮棒をもらうんですが、アルテンベルク歌曲集の初演でシェーンベルクはその指揮棒を使って振ったといわれています。そこからマーラーとベルク、シェーンベルクの関係性がリアルに見えてくるのが面白い。


今回の名古屋特別公演も、若きブラームスの激情がほとばしるピアノ協奏曲第1番と円熟を極めた最後の交響曲第4番という組み合わせの妙ですね。

ブラームスは最初からピアノ協奏曲を書こうとしたわけではなく、紆余曲折を経て交響曲を作ろうとして、結局行き詰まって挫折してしまい、その結果としてこの協奏曲第1番はそれまでに例をみない程にオーケストレーションが充実しています。また最初の楽章では暗く悲劇的な幕開けだけれども、最後の楽章で光明を掴んで華麗に幕を閉じるという、古典派交響曲の王道スタイルを持っているのも特徴。それに対して、晩年に書かれた交響曲第4番はホ短調で始まりホ短調で終わることからも、人生の黄昏を迎えた彼の心境が色濃く反映されている。その対比だけでも面白いのですが、加えて交響曲第4番には後のマーラーや新ウィーン学派の作品を予告するような斬新さがあり、特にその作曲技法にはシェーンベルクが体系化する十二音技法に通じるものがある。つまりここでのブラームスは、人間としては終わりに近づきつつ、作曲の歴史においては新しい時代の始まりを象徴していたのです。


ピアノ協奏曲では、世界的な音楽祭の常連でもあるロシア出身の俊英ピアニスト、ニコライ・ルガンスキーさんの演奏にも注目です。

ニコライとは彼が22~23歳の頃、自分が33~34歳の時に初めてフランクフルトで同じステージに上がってから、それ以降も何度も共演を重ねているのですが、会う度に深みを増している印象です。ブラームスのピアノ曲を演奏するのにふさわしい、ダイナミックさと内面の繊細さとを併せ持った理想のピアニストではないでしょうか。私自身もまた一緒にやれるのが凄く楽しみです。

音楽監督としては共演者選びもまた責務ですね。

巨匠と呼ばれる演奏家も魅力的ですが、できるだけ、今の時代の才能ある若い世代と積極的に一緒にやりたい。話題の人をタイムリーに日本に呼んで、コンサートホールで披露するのも交響楽団に課せられた大切な役割のひとつだと考えています。その期待に応えたいと思っています。

マエストロの就任から2年で都響は変わりましたか?

まだ始まったばかりですので、その答えを出すには早すぎる(笑)。先ずは、私が来てからのプログラミングの変化にもやっと慣れてきた頃だと思います。このコラボレーションの本当の成果はこれからですのでどうかご期待下さい。もちろん、変わって欲しくない部分もあります。都響が本来持っている強みは、欧州の歴史的建造物…例えば荘厳なゴシック教会の揺るぎなさにも例えられるしっかりとした土台、つまり弦楽器セクションの充実ぶりと、そこにステンドグラスのように華やかな装飾を施すことができる管楽器の存在感、そういったオーケストラの基本構造にあると思いますので、そこはしっかりと守って行きたいですね。

最後に年の初めの定番の質問を。今年はどんな年にしたいですか?

急がず、騒がず、そして一歩ずつ。ひとつひとつの公演に命を燃やして、聴衆に届けることができたら無上の歓びです。

◎Interview&Text/東端哲也



3/19 SUNDAY
東京都交響楽団 名古屋特別公演
チケット発売中
◎指揮/大野和士
◎ピアノ/ニコライ・ルガンスキー
◎曲目/ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調op.15、交響曲第4番ホ短調op.98
■会場/愛知県芸術劇場 コンサートホール
■開演/14:00
■料金(税込)/プラチナ¥7,500 S¥6,000 A¥4,500 B¥3,000
■お問合せ/クラシック名古屋 TEL.052-678-5310
※未就学児入場不可