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「仲村トオル」スペシャルインタビュー
取材日:2022.06.21

『住所まちがい』は、ミラノ・ピッコロ座の座付作家
ルイージ・ルナーリが1990年に発表した戯曲で、
同じ場所で偶然遭遇し、不思議な一夜を共にする男性3人と、
物語の鍵を握る謎の女性が登場する奇妙な会話劇です。
これまでに世界20ヵ国以上で翻訳上演されており、今回が本邦初演となります。
演出は、今年4月に東京・世田谷パブリックシアター芸術監督に就任した白井晃。
自分の生存すら不確かな極限状況で右往左往する社長役を演じるのは、
これまで数々の舞台でその存在感を示してきた仲村トオルです。
自身のキャリアでは数少ない海外戯曲作品への挑戦、
そして久しぶりの白井演出作品への出演にあたり、今の心境を聞きました。
東海エリアでは、愛知県豊橋市の穂の国とよはし芸術劇場 PLATにて上演されます。

2004年の初舞台以降、白井さんの演出作品へは『偶然の音楽』(2005、08年)、『子どもとおとなのための◎読み聞かせお話の森』(2010、12、13、15年)、『オセロ』(2013年)とご出演されてきました。

『偶然の音楽』の初演は僕にとって舞台出演3作目で、ちょうど舞台の楽しさにハマり始めたタイミングでした。最初から戯曲がある作品ではなく、原作小説から舞台を立ち上げていったので稽古期間が比較的長く、本番中はほぼ出ずっぱり、と新たな経験が多い中で、非常にプレッシャーもありましたし、着ていた衣装も重たくて暑くて大変だったのですが(笑)、千穐楽を迎えたときにはそうした苦労を乗り越えたからこその達成感や解放感がありました。白井さんの演出は、「そこにドアありましたっけ、僕?」と思うようなところをガチャ、と開けて「こちらからも出られるよ」と自分の中の新しい部分を教えていただける感じがあるので、今回はどんなドアに気づけるのか楽しみです。



『偶然の音楽』は原作が海外小説、『オセロ』はシェイクスピア、今作はイタリア戯曲です。これまで海外戯曲へのご出演は数が少ないですが、今作に出演しようと思われたのは白井さんが演出されるからということも大きいのでしょうか。

それは間違いなくそうです。本を読んでみて、これまで挑戦した『偶然の音楽』や『オセロ』以上に、国籍や人種といったものを超越した、もっと広い世界の話になるのではないかと感じたので、白井さんであれば普遍的な人間の話として立ち上げてくださるだろうと思いました。外国人の役というのは最初はどうしても「日本で生まれ育った自分に、生まれた国や文化の違う人の役ができるのか」と悩んでしまうのですが、初めて外国人の役を演じた『偶然の音楽』初演の時に、時代がいつか、国がどこか、とういうことを超えたひとりの「人間」であるように白井さんが導いてくださって、道がない草原の中の歩き方を教えていただいたような感覚でした。

白井さんの演出は非常に粘り強く、本番が始まってからも微調整が入ることがあるとうかがいました。

『偶然の音楽』初演の千秋楽の頃だったと思いますが、白井さんが主宰されていた劇団「遊ご本人がいらっしゃらないところでは言っていました(笑)。でも僕自身、本番が始まってからも回を重ねるたびに気づくことや「ここはこうした方がいいんじゃないか」と思うことがよくあるので、きっと白井さんは、本番を観て何か気づいてしまったら見て見ぬふりをしてやり過ごすことができないのだと思います。


お稽古が始まって、本読みをしてみた感想を教えてください。

やはり文字でただただ台本を読んでいたときよりも、音で聞いたときにこれは面白いものになりそうだな、と強く感じました。それと同時に、これが面白いものになる道のりはきっと長くて平坦ではないんだろうな、とも感じました。共演者の皆さんは既に完成度が高くて、(渡辺)いっけいさんの演じる役は、左右の振れ幅が大きい上にステップが早いという感じで、途中で冗長な話を延々とするシーンがあるのですが、それがものすごく面白く聞こえるし、(田中)哲司さんの演じる役は説得力が非常にあって、僕は演じる役としては納得してはいけない場面でも、思わず「おっしゃる通りですね」という感情になってしまうことが多々ありました。

不条理な状況下に追い込まれた社長・大尉・教授という男性3人による会話劇は、喜劇でありながらも、人間の実存や神の存在など非常に深いテーマも語られ、含蓄のあるストーリーです。

確かに状況は不条理なのかもしれませんが、演じる側としては現実に生きている自分自身と近いといいますか、彼らの話している内容にはすごくうなずけるものがあるな、と感じているので、観客の皆さんにも共感してもらえるところが多いのではないかなと思っています。

英語タイトルは「Threeontheseesaw」。3人のバランスが非常に重要な作品であることがうかがえます。ルナーリさんは仲村さんが演じる社長の役について、3人の中で特に中心的な役割を担うとコメントされています。

僕の役は、早とちりというか先走って「きっとこうなんですよ!」と状況を察して、あとの2人を牽引するような役割もあるのかな、と思います。与えられたセリフの文字量や内容の複雑さで言うと、多分教授役の哲司さんがお気の毒レベルで一番重いものを持たされているんじゃないでしょうか(笑)。

お稽古を経て、今作がどのように舞台上に立ち上がるのか楽しみです。

現時点では、僕の感覚的にはもうちょっとのんびりやってもいいんじゃないかな、と思うようなペースで稽古が進んでいるんですよ。でも、一度出来上がったかのように見えるものを壊して組み直したり、出来上がっていると思われているところをさらに磨いたり、という作業にも時間を使うことになっていくんでしょうね。今はまだ「楽しい」という心境には届いていませんが、劇場に入るまでには楽しくなれるよう、稽古場では覚悟して苦しもうと思います。

◎Interview&Text/久田絢子
◎Photo/安田慎一



10/13 THURSDAY・14 FRIDAY
「住所まちがい」
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
■開演/10月13日(木)13:00[終演後トークあり]、19:00
10月14日(金)13:00
■料金(税込)/全席指定 S¥9,000 Sペア¥16,000
A¥7,000 B¥5,000 ほか
■お問合せ/プラットチケットセンターTEL.0532-39-3090(10:00〜19:00 休館日除く)
※未就学児入場不可