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「森山未來」スペシャルインタビュー
取材日:2020.09.16

ダンスや演劇など、カテゴライズに縛られない
表現者として活躍中の森山未來が、
新感覚の朗読パフォーマンスの全国ツアーでフェニーチェ堺に初登場。
2つのテキストをめぐって声と身体表現で、
コロナ禍の時代に「本当に見ること」について問いかける。

《「見えない/見える」ことについての考察》は、2017年に東京藝術大学(アーツ・アンド・サイエンス・ラボ4F)球形ホールで初演された朗読パフォーマンスを、初の全国ツアーとして再演するものですね。

本作はノーベル文学賞作家ジョゼフ・サラマーゴの『白の闇』から主に着想を得たリーディング・パフォーマンス。この小説はパンデミックのように、ある日突然、世界中のすべての人が盲目になってしまい、そこからどのように新しい社会を作っていくのかを描いたフィクションです。そこにメタテキストとしてモーリス・ブランショの書いた『白日の狂気』を絡めます。こちらは、すべてが見えすぎることによってかえって見えなくなることを比喩的に語った抽象的な内容。つまりこれら現実としての“盲目”と内面的な“盲目性”の二つを一緒にしたら面白いのではないかというのがそもそもの発想でした。現在の、海外からアーティストが呼べず、舞台で共演者との密を避けなければいけない状況から、最小のパフォーマンスで自分にできることはないだろうかと考えた時に、本作の再演を思い立ったのです。


人々がそれまでの日常を奪われ、閉ざされた状況にある『白の闇』の世界は、コロナ禍にある今の私たちの状況とシンクロしますね。

ただ自分はこの状況に決して絶望はしていません。舞台にかかわらず、人々の表現したい欲求、表現に触れたいという欲求は以前と変わらないのではないかと、ここ数カ月感じてきました。サラマーゴも “見えない”ことで不自由になる一方で、できなかったことが可能になり、見えてなかったものが“見える”ようになって、新しい行動様式や生活様式が生まれると書いているように、また新たな日常が続いていくのではないかと思うのです。ストレスもあるけれど、それはいつの時代にもあったから、結局は乗り越えるしかない。


『白の闇』でも特徴的な、語りの“地の文”と会話の間に「 」などの記号がなく、段落も極端に少ないサラマーゴ独特のスタイル(文体)は、今回のリーディングにも反映されているのですか?

反映できたかどうかはわかりませんが、最初に演出家の赤堀雅秋さんに相談しながら構成を練っていったら、いかにも赤堀さんらしい、ト書きをほぼ使うことなく会話だけで物語を時系列で繋げていくかんじでまとまりました。医者とその妻(最後まで失明しない唯一の人物)ら大人たちから子どもたちまで、様々なキャラクターが登場しますが、初演の会場となった「球形ホール」の(目のような)空間からインスパイアされ、網膜の中にいて自分たちの置かれた状況を台詞だけで確かめていくみたいなイメージで話が展開します。

『白日の狂気』のテキストは難解ですが、“強い光”が大きなメタファーになっているので、ステージには光が溢れるのではないでしょうか…

そのあたりは、照明担当の藤本隆行さんの仕事にどうぞご期待下さい(笑)。


2つのテキストは前半と後半で分けて用いるとかではなく、互いに絡み合いながら進行して行くのですね。

そうですね。ひとつだけタネ明かしをすると、舞台は3つの声で進行します。目の前の実体から語りかける声と、アンプリファイ(増幅)されスピーカーから流れる声、そして頭の中に鳴り響く様をイメージしたイヤホンから聞こえる声。今のところ『白日の狂気』のテキストは主に3つめの声で語られることを想定しています。それらのシステムを駆使して、ステージで起こっているパフォーマンスと耳に入る言葉の描写にズレが生じていく感覚の面白さを楽しんでいただけたらと思います。

『白の闇』は2008年に《ブラインドネス》のタイトルでフェルナンド・メイレレス監督によって映画化(主演のジュリアン・ムーアが医者の妻を演じている…)もされていますね。映画では“雨”のシーンが重要な意味を持っていました。

確かに“あの”瞬間は官能的で物語のハイライトのひとつですね…お楽しみに(笑)。

テキストを事前に読んで観劇に臨むべきでしょうか?

読んでない方も楽しめるように、特に『白の闇』がお話として完結するように作ってあります。『白日の狂気』はテキストを事前に読んでも曖昧で解釈が難しそうですね。それに今回の舞台で僕の方から客席に対して「見えない/見える」ことに対して答えを出しているわけではありません。これはあくまでも「考察」ですから、観客の皆さんそれぞれが考えるのがいい。観終わった後で自分に問いかけ、他の人と大いに議論に花を咲かせていただきたい。

フェニーチェ堺には初登場になりますね。

兵庫県出身ですが堺にはまだ行ったことがありません。皆さんとお会いできる日が待ち遠しいです!

◎Interview&Text/東端哲也
◎Photo/中野建太



10/30FRIDAY〜11/1SUNDAY
「見えない/見えることについての考察」
◎演出・振付・出演/森山未來
■会場/フェニーチェ堺 大スタジオ
■開演/10月30日(金)16:00、19:30
10月31日(土)・11月1日(日)14:00、18:00
■料金(税込)/自由席 10月30日(金)¥6,000
10月31日(土)・11月1日(日)¥6,500
■お問合せ/フェニーチェ堺 TEL.072-223-1000
*未就学児入場不可