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「水野美紀」 スペシャルインタビュー
取材日:2011.06.01


映像の世界だけにとどまらず、近年はさまざまな舞台に精力的に立ち、
演劇の楽しさをいきいきと体現している女優・水野美紀。
自ら演劇ユニットを主宰するなど、作り手としてもその手腕を発揮しています。
そんな彼女が純粋に演じる立場になって挑む新作舞台は、あの「ゲゲゲの女房」。
テレビドラマでブレイクした話題作を“舞台女優・水野美紀”は、
どう作り上げていくのでしょうか。

「ゲゲゲの女房」が初の舞台化。
水木しげるの妻役に水野美紀が挑む。

昨年、大ブレイクした「ゲゲゲの女房」が初めて舞台化され、水野さんが主演を務められます。まず原作を読まれて、どんなことを思われましたか?

今の社会は、ともすればひとりでも生きていけると思ってしまいがちだし、実際、そういう生き方を選択している人が多いと思います。でも、水木夫妻の歩んできた道を通して、夫婦で支え合い助け合って生きていく、という覚悟から生まれる強さのようなものを実感しましたね。例えば私が結婚したとして、夫婦の関係や生活がつらくなったら別のところに逃げ道を求めちゃうと思うんですよ。だけど、そこを諦めない力というのが、奥さんである布枝さんの一番すごいところだと思います。現実から決して逃げることなく、夫の才能をちゃんと信じて付いて行く。そうやって信じてくれている人がそばにいるから、水木さんも頑張れたんだと思いますしね。だから、水木さんが売れっ子の漫画家になったのも、ただラッキーだったということでは決してなく、ふたりで乗り越えてきた歴史があるから叶ったことだと思うんです。私たちは、漫画家として成功している「水木しげる」という人しか知らなくて、その奥さんというと「不自由なく暮らしてるんだろうな」と思っちゃいますけど…。それにこのご夫婦は、よその家と自分の家を比べて考えないんですよね。どんなにつらい状況でも、とても前向きに毎日を過ごしていく。そんなところも素敵だなと思います。それに、大変なときって後から考えるといい思い出になったりしますよね。いろいろ感情を揺さぶられながら生きているから、大変だけど充実しているというか…。だから、原作を読んで、本当の豊かさとは何かということも考えさせられましたね。

今、もう一度考えたい、家族の関係。
大切な人との真摯な向き合い方。


周りの人に支えられながら、困難を乗り越えてきたところもありますよね。大きな震災を経験した今の日本では、人と人との絆やつながりの大切さを多くの人が再認識していると思います。それは、今回の作品の大きなテーマにもなると思いますが、どのような形で観客に伝えたいと思われますか?

こちらから「こういうことを伝えよう」というのはおこがましいことで、観た人がいろいろなことを感じてくださると思うのですが…。夫婦でもやっぱり他人同士だし、本当に100%すべてを見せ合って向き合うのって、しんどいですよね。だけど、いろんな苦しいときもそこから逃げずに、しっかり向き合って、ときにぶつかって支え合って助け合って…という深いつながりと濃い人間関係から生まれる強さのようなものを感じ取ってもらえたら、と思います。今、そういうものって避けようと思えば避けられるし、面と向かって話さなくても例えばメールで済ませられたり、人との距離感を自分が心地よい程度に保ちやすくなっていますよね。でも、やっぱり夫婦ってそうはいかなくて、毎日ひとつ屋根の下で暮らして、お互い本当に向き合うというのはきれいごとばかりではなくて、覚悟がいることだと思うんです。震災が起こって、ボランティアで現地にも行きました。そこで思ったのは、人間は自分のために何かをするよりも、人のために行動する方が何倍も力が出るし、頑張れるんだということ。だから、夫婦がお互いのために頑張って支え合えたら、その力って何十倍にもなるんじゃないかと思います。この作品では、そんな思いを基本にして布子(劇中の役名)という人物を演じ、水木夫妻の関係を描いていけたらいいなと思っています。


布子という人物を、水野さんはこの舞台でどんな女性に仕立て上げようと思われていますか?

今回のように時代設定がリアルタイムではない場合、作品の時代背景や当時の価値観などを綿密に調べて、役柄の人物像を肉付けしていきます。この作品の時代の中で、布子さんは同じ時代に生きていたほかの奥さんたちと比べてどんな存在だったのか…。そんなところも丁寧に探って演じたいですね。そしてやっぱり、芯に強さを秘めていながらしなやかに生きていく女房像を体現できたらと思っています。

舞台ならではの見どころは、どんなところでしょうか?

舞台の上で、夫婦の現実世界とイマジネーションの世界がクロスする、妖怪たちが同居するシーンがたくさん出てきます。妖怪たちがどんな風に舞台に登場して、どんな風にストーリーに絡んでくるのか。そういうところも楽しみにしていただけたらと思います。私と妖怪が会話をするようなシーンもあるかもしれません。ぜひ、劇場で確かめてください(笑)。

劇団主宰者という、もうひとつの顔。

近年は、ご自身で演劇ユニット「プロペラ犬」を旗揚げされるなど、舞台を中心とした活動を精力的になさっています。水野さんが感じていらっしゃる舞台の魅力についてお聞かせください。

作品を作る上で、稽古に1ヵ月も費やしたり、とても贅沢に時間をかけてものづくりができる場だなと思うんですよね。稽古して練って練って、役者やスタッフがコミュニケーションを取りながら作り上げたものを、初めてお客さんの前で演じる。そうやって時間や手間、人の知恵や工夫をたっぷり使う贅沢さと、ライヴであるという緊張感が魅力ですね。すごく怖い場でもあるけれど、大変な分、終わったときの達成感も大きくて、得られるものも大きい。その日、その場に観に来てくださったお客さんと空間を共有し、そのときの物語が出来上がるというか…。作品に対して、制作に携わる人みんなが共通の目標とビジョンを持って向かっていく感じが好きなんです。表現の幅も自由だし、いろいろな可能性があるところがやっぱり魅力ですね。すごく純粋な表現の場であると思います。


演劇ユニットの主宰者ということで、作る側としての楽しみや展望のようなものはありますか?

自分が持っているユニットの場合は、いちから企画を立ち上げて、何もないところから作るところが楽しいです。どんなストーリーをやろうかとか、どんな役者さんに来てもらって一緒にやろうかとか、どんな演出家の方にお願いしようかとか…。そのパッケージを作っていくのがすごく楽しいんです。舞台の場合は1年以上前から劇場を押さえたり、準備もすごく長い時間をかけてやらなくちゃいけないので、自分のユニットの公演のことをいつも何かしら考えてる状態なんです。でも、自分が一番好きなものだし、自由な表現ができる場なので、ずっと続けていくことに意義があると思ってやっています。今は、ものを作るということへの興味がどんどん強くなっているんです。文章を書くとか、舞台を作るとか、脚本を書くとか。もちろん演じるのも楽しいですが、ゆくゆくは自分で脚本を書いてそれを舞台にするということをやっていきたいですね。

作り手という立場を経験したからこそ見えてきた、
演じるという仕事の重さ。

そうしたプロデュース活動の経験は、今回のように純粋に演じる立場で舞台に立たれる際にどんな風に影響していますか?

自分のユニットで公演をするときには、こちらから役者さんにお願いして来ていただいている立場なんですよね、私は。そうやってプロデュースするということを経験して、今まで役者としてだけ舞台に参加していたときには見えなかったスタッフさんの動きとか仕事がいろいろ分かってきました。そうしたら、自分が役者として呼んでもらえる公演での役割が、とても明確になったんです。自分の役割は、演じること。そういうシンプルではっきりした場になると、役者であるということにすごく責任を感じるようになりました。その役割をしっかり果たさなくちゃいけないという責任感をより強く持って、演じられるようになったと思います。

水野さんにとって、演じることの楽しさとは?

自分じゃない人物の生活を疑似体験できることですね。今回の布子という女性の役づくりでも、作品の時代背景などに興味を持っていろいろ資料を取り寄せて調べましたが、そうやって新しい知識が増えていくのも楽しいし。今回は舞台が日本なのでいろいろなことも掴みやすいですが、たまにロシア人の役なんかもあって、もう資料も膨大なことになっていくんですよ(笑)。

今回、東海エリアでは春日井市、四日市市、岐阜市公演があります。四日市市出身の水野さんにとっては凱旋公演とも言えると思いますが、意気込みをお聞かせください。

初めてなんですよ、四日市で舞台に立つのは。だからすごく楽しみだし、嬉しいです。たくさんの人に観ていただけたらと思っています。四日市に帰るのは久しぶりなのですが、絶対に食べたいものがあって…。とんてきです(笑)。「来来憲」のとんてきを食べに行きたいんです。子どもの頃、父に連れていってもらうのがすごく嬉しかったんですよ。お肉はもちろんですが、ソースが絡んだキャベツが美味しくて(笑)。東京にはないんですよね。思い出の味です。公演の合間に食べに行けたらいいですね。舞台の話じゃなくなっちゃいました(笑)。