HOME > SPECIAL INTERVIEW > 「岸田繁」インタビュー

「岸田繁」スペシャルインタビュー
取材日:2018.10.18

ロックバンド、くるりのフロントマンをつとめる岸田繁。
その音楽は様々な変遷を辿り、その度に新しい音楽性をまといながら、
聴く人々に刺激を与えてきました。
そんな岸田が指揮者の広上淳一と京都市交響楽団とのタッグで
「交響曲第一番」を生み出したのが2016年12月。
それは50分を超える本物のシンフォニーだった。
1曲を完成させることでさえ至難の技であるとされる交響曲、
岸田は再び新たな世界観で次なる「交響曲第二番」を生み出しました。
岸田繁のそのバイタリティや、
音楽性を司る経験や考え方を彼らしいユーモアを交えた言葉で語ってもらった。
岸田交響曲の名古屋公演は今回が初めてとなる。

岸田さんはミュージシャンの中でも、様々なジャンルの音楽を聴いていらっしゃる。そしてご自身のバンド「くるり」でも、その吸収された音楽がご自身の楽曲に反映されています。

最近、本当に音楽を聴かなくなったんですよね(笑)。色々理由はあるんですけど。特に楽曲の制作期間にはリファレンス目的以外では聴かないようにしているんです。ただ、普段何を聴くかっていうことは僕にとってすごく重要ですね。デジタルで聴くときは、普段から無作為に文脈は関係なく好きなのを選んで、プロ野球みたいにドラフト6位ぐらいまで決めとくんですよ。で、何かの気分の時に「こんな音楽が今聴きたい!」っていうのを、そこから文脈を辿ってリストを作って聴いたら、めちゃくちゃいいんですよ。ただその文脈というのが、僕の場合は何か全然違うところとつながってしまうことが多いっていうんですかね。例えば、シューマンを聴きたいなあと思ったときに、めっちゃラッツ&スターを聴きたいと思ったりとかするんですよ。何か似てるって思ったりとか。


音楽と音楽とが何かで結ばれている、とても広がりを感じさせる聴き方ですね。岸田さんはそうやって音楽とも音楽に関わる人とも広がりを作っていらっしゃったんですね。クラシック界でも岸田さんに刺激を与えた人物はいらっしゃいますか?

以前、くるりのレコーディングの時、ウィーン交響楽団のフリップ・フィリップというパーカッショニストと仕事をしたんです。管弦のスコアを書いていると言うのでお願いしました。そこで彼が書いてきたスコアに僕はすごく感化されてしまったんです。彼は今でも僕の師匠のような存在で、彼の譜面を見て、何でこうなってるんだろうとか研究もしましたし、彼の真似をしてそういう編曲を始めてから、「これはどうや?」「いや、でもこれはこうでどうだ!」みたいなやり取りは頻繁にやっています。この交響曲のお話を頂いた時もすごく喜んでくれたんです。クラシック音楽っていうのはこういうもんだろうと自分が思ってたのと、全然違う角度からいろいろ教わって、インスピレーションもたくさん頂きました。

音楽性の相性も良かったんですね。

ウィーン交響楽団はミュージシャンの課外活動が非常に多く、彼もビブラフォンを使った即興ジャズみたいなセッションとか色々やっていて、そこに彼の書いた弦のスコアが入ってたりしました。モダンなものにも造詣が深いし、かたや東欧のミュージシャンとも沢山音楽をやっていたり。それこそほんまに譜面も読めない人とか、エスニックな音階にも興味があって実験したりもされてました。


音楽の相性もさることながら、音楽家としてのスタンスも岸田さんと共通する部分を感じますね。ジャンルに対する壁のないことや、受け入れるキャパシティとか。

交響曲を書きましたって言うと、すごくアカデミックな感じがしたり誤解をされてしまうことが多いと思うんですけど、僕はロックをやるときでも、交響曲を書くときでも、ひとつの音楽活動として取り組むことに変わりはないんです。ただ交響曲というかクラシックの楽曲を書くことは、ずっとやりたかったことですね。なんでロックミュージシャンがクラシックをやりたいのかってよく訊かれるんですけど、幼い頃から今までの音楽体験が繋がっていて、それを今形にしているということもあると思います。僕は子どもの頃ゲーマーだったので、『ドラゴンクエスト』のすぎやまこういち先生が作った音楽の影響をめちゃくちゃ受けてます。ドラクエの音楽がすごいのは、三和音しか出せないのにバロックっぽいものからワーグナー風まで様々なオーケストラアレンジをやってのけ、さらに無調音楽みたいな小学生が聴いても分からないようなものまで、ゲームに夢中になって刷り込みのように聴かされて自然と得たのかもしれない。今考えるとあの世界っていうのは、例えば名古屋だと、初めてパルコとかに入った感じですかね。分からんけどかっこええのがいっぱいあるみたいな、何かそういう入り口だったのかもしれないですね。



そんな岸田さんが作った二つ目の交響曲。第一番での経験もあります。今岸田さんが思う交響曲のイメージとはどんなものでしょうか?

ジャンルを問わずメロディがいいなあと思う音楽っていうのは、ふとした瞬間にふと現れて、いつもよりもフローティングしていたり、ちょっと日が差していたり、音符で言うと跳躍をしている。そのメロディに対して、内声やベースラインがどの様に動いているかとか、そこをどう丁寧に作っていくかで旋律のフレーズ、メロディっていうモチーフが生きてくるんです。オーケストラ音楽というのは、そのメロディにどんな服を着せてあげるか、どういう光を当ててあげるかとか、どういうメイクをしてあげるかとか、じゃあ写真撮ったとき、額縁はどうするかとか、そういうことまでしっかりできる材料が揃っているんです。「もうかわいい子をこんなにきれいにしてあげて」っていう。で、そういう意味では、自分が日々生きてる中で出てきた自分らしいメロディを、オーケストラで彩ってあげるっていうのはすごく楽しいというか、うれしいですね。

◎Interview&text/福村明弘
◎Photo/安田慎一



12/4TUESDAY
京響プレミアム
「岸田繁 交響曲第二番 初演」

チケット発売中
◎作曲/岸田繁
◎指揮/広上淳一
◎管弦楽/京都市交響楽団
■会場/愛知県芸術劇場コンサートホール
■開演/19:00
■料金(税込)/全席指定 ¥6,500
■お問合せ/クラシック名古屋 TEL.052-678-5310
※未就学児入場不可