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「市村正親」スペシャルインタビュー取材日:2025.04.23
戦後から昭和の日本を、笑いの力で照らし続けた榎本健一。
「エノケン」の愛称で親しまれた喜劇役者の人生を、
舞台役者として53年目を迎えた市村正親が演じる。
喜劇とは、笑いとは、苦悩とは、人生とは。
作・又吉直樹、演出・シライケイタが生み出すエノケンを
どんなふうに演じていくのか、その思いを聞いてみた。
エノケンを演じるという話を聞いたとき、どんなお気持ちでしたか?
僕のなかのエノケンは、子供のころに聞いたコマーシャルの歌声と、エノケンが出演していたドタバタ喜劇映画『雲の上団五郎一座』。そういうものは子供のころから知ってはいたんです。でも自分はミュージカルやシェイクスピアをやってきたので、エノケンのような超喜劇はやったことがないんですよ。初めて、日本人が誰でも知っている現代の有名人をやることになったので、とてもやり甲斐のある役と出会ったなと思いましたね。
又吉直樹さんの作品を演じることになりますが、どんな印象ですか?
又吉さんの書いている人間は、太い血管ではなく毛細血管を流れている血液のような人物だと感じています。昔『ミクロの決死圏』という映画がありましたが、あんな風に人間の体に入っていくような。だから、エノケンという人の血液のなかに、どこまで僕が入っていけるかな?という感覚です。1+1は2じゃないものを出してくる又吉さんが、喜劇王エノケンを取り巻く人間ドラマを、市村と言う役者にあてて、どんな風に描いてくるのかがとても楽しみです。
同じ舞台に立つ人間と言う立場から、エノケンとの共通点はどこでしょうか。
僕は実際にお会いしたことがないんですが、本を読んだ限りでは、一日中芝居のことを考えていたんだろうなと思いますね。僕も西村晃さんの付き人をやっていた時、三國連太郎さんや小沢昭一さん、北村和夫さん、みんなで集まれば一日中芝居の話をしていたんです。今、僕も舞台の公演中なんですが、しょっちゅう台本を開いたり、あそこはこういうこともできるな、と台本を手放さない。そういう意味でのパッションは、エノケンと似ているかなと思います。
歴史上の人物ではなく、身近な舞台人を演じるのは初めてということですね。
そうですね、でもある意味、エノケンは昭和の歴史上の人物。僕はもともと他人の激しい人生を2、3時間の舞台の上で生きることが好きでこの業界に入ってきたわけだけども、今回榎本健一という激しい人生をどう生きるかを考えると今から楽しみです、生きるすさまじさみたいなものを出せたらいいなと思います。
同じ喜劇王でいうと、アメリカにはチャーリー・チャップリンがいますが…。
僕、チャップリンとエノケンにはどちらも昔から興味があって。で、チャップリンの笑いとエノケンの笑いって違いはありますが、チャップリンの初期の映画を観るとエノケン的な要素がいっぱいあるんですよね。今回、僕は、喜劇役者のエノケンのおかしさや声色をまねるのではなく、榎本健一という人間を生きたいなと思っています。
エノケンは足を失うという悲劇も。人間の生き方が問われる激しい人生です。
足を切断せざるを得ない状態になったエノケンの気持ちを考えると、舞台俳優としての僕からは、どんなことが自分の中に生まれてくるんだろうと思いますね。そういうところも含めて、すべてを味わった人なんだなと感じているんです。だから、挑戦し甲斐がある。僕、もう76歳でしょ?実際に山に登る足腰ではないけれど、舞台の山なら登りたいし、まだまだ登らなくてはならない山はあります。久々に大きな山だなという気がしているし、この年齢になっているからこそ、榎本健一という人の生き方がわかるんじゃないかな。
市村さんの人生にも辛い出来事があったと思います。どう乗り越えてきましたか?
それはね、もう我慢しかないですよ(笑)。痛いのを我慢してる。ケガをしても舞台を降りるわけにはいかないから。それに、ブルーな気分の時こそ人の本質が出るっていうかね。健康すぎて調子がいいから芝居がいいかというと意外と面白くないんですよ。トゥーマッチになっちゃうの。そしてそれはお客さんにばれちゃうんですよ。僕の舞台は笑いが起こるシーンが多いんですが、エノケンの自伝を読むと「喜劇とは、笑わせようと思っちゃだめだ。一生懸命生きていることが傍から見ているとおかしい」とあった。台本というものは、役者が役を生きていれば、ちゃんと笑いが取れるようにできているんですよ。人生を膨らませようという思いはいいんです。でも、役者が調子に乗って俺の技量で笑わせてやるなんて思うから…(笑)。
なるほど。では、舞台人として一番大事にしていることはなんですか?
やっぱり、生きるってことだよね、役を生きるということ。昔は見せよう見せようとしてきたこともあったけどそれには限界があるんですよ。黒沢映画に出てくる役者さんの芝居をみると、やっぱり生きているでしょ?役者は「役を生きる」という事なんです。
◎Interview&Text/田村のりこ
◎Photo/高橋俊詞
11/1 SATURDAY 〜9 SUNDAY
音楽劇「エノケン」
■会場/COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
■開演/11月1日(土)・3日(月・祝)・5日(水)・6日(木)・7日(金)・9日(日)13:00
11月2日(日)・8日(土)12:00、17:00
※11月4日(火)は休演日
■料金(税込)/全席指定¥12,800
■お問合せ/キョードーインフォメーション
TEL.0570-200-888(12:00~17:00 土・日・祝休業)
